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80.トーナメント戦⑥

 転送の光が止むと俺は舞台に立っていた。空を見上げる。舞台を囲うように造られた壮大な観客席からは、数多の歓声が響き渡ってくる。


 その中心に自分がいるのかと思うと、何とも言えない高揚感と武者震いが沸く。

 前方に対峙するはグレゴリー。彼もまた、腕を組みながら此方を見つめてきていた。


『さぁさぁさぁ、シノノメ選手とグレゴリー選手の登場です! 第一試合勝者シノノメ選手は強力な武器を用い、そして第二試合勝者グレゴリー選手は多種多様の召喚を駆使し勝利した猛者たちです! この試合どちらが勝者となるのでしょうか!! 皆さんもドキドキしますよねー!』


 ワアアアアアア!!!


 観客席が大いに盛り上がる。どうやらこの試合、相当期待されているように感じた。


「悪いなシノノメ。お前はここで負ける。俺が使役する古代種には勝てまいて」


 マントを風に靡かせながら不敵に笑っていた。


「まぁ、そういうなよ。やってみないとわからいだろ? それに、うちの可愛いゴンザレスの為だ。出し惜しみ無しでやってやるよ」


『ま、マスター。ありがとうございます』


「く、くはははは! 面白いッ!! その自信、粉々にしてやろう!」


 グレゴリーがマントを翻した。それを試合開始の合図だと察したのかウサミが水晶を握り直し――。


『第五試合! 開始ですっ!!!』


 ウサミの声が会場に響き渡った――。




 グレゴリーが素早く懐から何かを取り出す。それはボロボロで黒い歪な棒のようなものだった。グレゴリーはそれを前面へと突き出すと起動言語トリガーを唱える。


「とくとその目に焼き付けるがいい!! ――古代種召喚エンシェント・サモン・ヴェルニィエーガー!!!」 


 グレゴリーを中心に紫色の魔法陣が展開。魔法陣から黒い帯のようなものが立ち上り、グレゴリーが突き出している黒い棒へと集約していく。


 それは徐々に大きな球型からさらに形を変え――。


 ――巨大な黒い狼が出現した。 


 全長二十メートルは越えその眼は青黒く、体からは黒い霧のオーラが立ち昇っている。


「フハハハハハ! こいつが俺の唯一無二の力! 『魔獣・ヴェルニィエーガー』だぁぁぁ!!」


『な、なんとー!! グレゴリー選手いきなり奥の手を出してきたー!! なんて禍々しいオーラなんでしょう!! このおじさんの言っていたことは本当だったー!!』


 会場全てのスクリーンにはグレゴリーが召喚した魔獣種が映し出され誰もが皆、その禍々しい姿に畏怖を覚える。だがしかし、伝説上の生き物を初めて見て観客席はさらにその興奮は最高潮まで上がっていく。


「あのオヤジ、すげぇな!!」


「ああ、絶滅した魔獣をこの目で見れるなんて!」


 その観客席の中で更に驚いていた者がいた。王国騎士9番隊長のソフィ=ジークハートである。


「うそ……! あれって、黒霧狼じゃないの!!?」


「ソフィ。あれを知っているのか?」


 隣にいたアリゲルが聞き返す。


「あんたね、あれ程アレに目を通しなさいって言ったじゃない」


「そうだったか? 悪い、覚えてない」


「ったく、しょうがないわね。あの魔獣は『黒霧狼・ヴェルニィエーガー』。文献の内容だと全身を覆う黒い霧は魔法を無効化するみたい。恐らく、隊長クラス数人で連携を組まないと倒せないレベルよ……」


「そうか。ならば、シノノメの力をさらに観察できる試合だな。あの男の力は未知数だ。是非ともあの男の底を見たい」


「「そうか」って……。はぁ、あんた興味ないことだと無関心だからなぁ。ジーク兄さんもきっと目を通してないでしょうね」


 以前、王国に伝説の生き物の死骸回収の依頼があった。その際、王国内で一悶着ありソフィはある程度古代種に対しての知識を深めたのだ。


(おそらく、あの黒い棒が召喚の触媒に違いない。しかし、人の手で絶滅している古代種を召喚できるなんてね……。

 まさか、あのはグレゴリーが? いや、確か召喚された魔物は死んだ場合、元の場所へと還る。だとしたら、あの死骸は矛盾が起きるか……)


 ソフィは一人思案した後、スクリーンへと視線を戻す。


(絶対的な力を持つ古代種に対して彼はどう立ち回るのかしら。あの一撃を見せた隆起爆発はここでは使えないわよ。さぁ、どうでるのシノノメ)


 任務の一環として東雲の実力を確認するだけが、底知れぬ東雲の力にソフィもアリゲルと同様に個人的な興味が出てきていたのだった。



 ◇



 魔獣・ヴェルニィエーガーの姿を目にしても、当の東雲徹は落ち着いていた。それもその筈。彼が召喚するは48ある竜種が一つ。

 絶対的な力を誇る『竜剣』の元となる存在だ。グレゴリーの古代種召喚を見届けた後、東雲は自身に刻印された左腕を掲げる。


「さぁ、次は俺の番だな」


「ふん。触媒無しだと? シノノメ、ただの召喚でそれらしい魔物を見せかけで古代種だとか言うんじゃないだろうな? 言っておくが、俺は全ての古代種を知っている。嘘はつくなよ? だとしたら拍子抜けだからな」


「まぁそんなに慌てんなよ」


 グレゴリーは不敵な笑みを浮かべながら東雲の一挙一動を見ている。その背後には魔獣・ヴェルニィエーガーが佇む。


『ひゃわ? どうやら二人の会話から察するに、シノノメ選手も召喚するそうです! これは召喚対決と言った方がいいのでしょうか!? ですが、グレゴリー選手の古代種以上の魔物をウサミは知りませんッ!! これはシノノメ選手詰んだかー!?』


 当事者たち以外、誰もがシノノメが武器を取り出すと思っていた。だが今回は違う。主を馬鹿にされ、怒ったゴンザレスが吹っ掛けた喧嘩だ。


 故に、東雲は相手と同じ土俵で勝負を挑む。元素の宝玉で得た力を今ここに――。


「――召喚・・


 左手の指に刻まれた刻印が淡く輝き、東雲の周りを静かに風が回り始めた。


召喚サモン起動言語トリガーだとっ!? 馬鹿めッ! その起動言語トリガーでは理に反している。しかも触媒も無しときた! やはりハッタリかシノノメ!」

 

 グレゴリーは高らかに笑う。この勝負、俺の勝ちだと。そうグレゴリーは確信していた。だが――。


「――ディメンション・ゲート」


 東雲が起動言語トリガーを唱えると、幾つもの帯状の刻印が東雲の周りに発生し、左手に収束・一筋の光となって空へと撃ち放たれると異変が起きた。


 巨大な魔法陣が空に浮かび上がり、紫電を帯びた魔法陣から地に響くほどの唸り声が轟いてきた。誰もが固唾を飲んで空を見上げている。グレゴリーとは違った召喚の凄さに当てられていたのだ。


 東雲は微動だにせず、これから現れる召喚物を静かに待っていた。左手に装着しているスマホウォッチから通信が入る。


『マスター! 来ますっ!! この反応は……』 


 魔法陣に亀裂が入り――。


『――暴竜・ファルベオルクですッ!!!』


 ゴンザレスがその名を叫んだ瞬間、次元の間から最凶の竜が出現。


 暴竜はそのまま東雲の後ろへと落下。その着地の衝撃で地面が隆起すると共に、暴竜の咆哮が会場全体に轟いた――。




 空に展開していた魔法陣から現れたのは巨大な漆黒の竜。その大きさはヴェルニィエーガーよりも大きい。赤い瞳は獲物を捕らえ、全身から漆黒のオーラが発せられていた。


「馬鹿なッ!! ま、魔竜・ファルベオルクだと!? しかも魔竜種の中で上位クラスじゃないか! 一体どうなってやがる!」


 グレゴリーは発狂に近い怒鳴り声を上げた。会場の誰もが皆、東雲の召喚した竜に度肝を抜かれる。グレゴリーが召喚した魔獣もそうだが、それ以上に東雲が召喚した上位種に対して。


 ――竜種。全ての種族の中で頂点に立つ存在。更に3つのカテゴリーに細分化され、『魔竜種』『幻竜種』『神竜種』に分かれる。東雲が召喚した『ファルベオルク』は魔竜種に属し、その凶暴さ故に『暴竜』と呼ばれていた。


「まさか持っている『竜剣』の元が出てくるとはな。これも何かの縁ってやつか?」


『ふふ。ですね』


 ゴンザレスが微笑みながら答える。


『ですが、その強さは折り紙付きです。グレゴリーさんが召喚した『黒霧狼・ヴェルニィエーガー』は魔獣種の中で最速の速度を誇りますが、『暴竜・ファルベオルク』の能力の前では無意味です』


「能力? まぁ、ゴンザレスのお墨付きがあるなら、一発かましていこうか。なぁ、暴竜ッ!!」

 

 東雲が叫ぶと暴竜が主人の叫びに呼応し、咆哮を上げながら黒霧狼へと突進していく。


「くそっ! い、行け! ヴェルニィエーガー!!! 魔竜と言えどもお前の速度には追い付けるはずがないッ!!」


 グレゴリーが命令を下すと、黒霧狼が地を蹴り暴竜へと走り出す。その速度は残像が見える程だった。

 暴竜の大きく開かれたアギトが獲物と噛砕かんと迫るが、黒霧狼は残像を残しその攻撃を躱す。背後に周り鋭い爪を突き立てようと黒霧狼が飛び掛かる。


 だが、その攻撃が暴竜へと届くことは無かった。

 

 暴竜が纏う漆黒のオーラが地に放たれ、オーラの領域に侵入した黒霧狼が地面へと叩きつけられる。


「な、なんだと!? どうしたヴェルニィエーガー!」


『おおっとぉ、グレゴリー選手が召喚した魔獣が突如として地面に伏しているー! 一体何が起きたのでしょうかー!』


 黒霧狼は見えない力によって地に押さえつけられ身動きが取れないでいた。攻撃をよけられた暴竜は獲物の動きを封じるために己の能力を解放したのだった。

 

 暴竜が扱う能力は『重力』――。暴竜が発する漆黒のオーラは重力を発生させる力があった。魔法属性でない為、如何に魔法無効化の能力がある黒霧狼でさえ防ぐことはできない。

 故に地へと広がるオーラに踏み込んだ黒霧狼は暴竜が解放した力によってその動きを封じられていた。


『ふふん。如何に最速のヴェルニィエーガーと言えどもファルベオルクの重力場の前では足元にも及びませんね』


「あれがファルベオルクの力なのか……」


『マスターが扱う竜剣『暴竜』の『グラビティ・アルファ』は、圧縮された重力を斬撃に変え放出するスキルなんです』


 竜の力を目のあたりにし、東雲は改めて竜剣のペナルティも頷けると思った。

 暴竜が発生させた重力の力が更に強まり、地に伏している黒霧狼の骨が軋み始める。


「くそッ! 無効化できないのか! ――いや、まだだ!! まだ終わらんぞ!! 『黒霧』化しろ!! ヴェルニィエーガーァァ!!」


 グレゴリーが叫んだ瞬間、黒霧狼の体は霧となり暴竜の重力場から姿を消した。


『なんとーーー! ヴェルニィエーガーが霧になったーーー!』


 黒い霧と化したヴェルニィエーガーは重力場の外へと押し出され、暴竜の遥か上空へと集まる。収束した霧は実体となり黒霧狼の姿が現れた。だがそこは暴竜の重力圏内。

 重力場に引っ張られ黒霧狼は地面へと落下ていく。しかし、黒霧狼はただ落下するだけでは無く、鋭い爪を伸ばし暴竜へと垂直落下。それは重力を利用した渾身の一撃だった。


「ふはははは! いいぞヴェルニィエーガー! そのままそいつを串刺しにしろぉぉ!!」


 迫りくるヴェルニィエーガー。だが暴竜は上空へと咢を開き、全身を纏っていた漆黒のオーラを前面へと収束させていく――。


 東雲は何度も・・・身に宿した事のある・・・・・・・・・を感じとる。


 それは全てを無に帰す必殺の一撃――。


 暴竜が圧縮していくオーラから紫電が巻き起こっていく。全てが収束した瞬間、――東雲は叫んだ。 


「撃てぇ!!!」 


 東雲の叫びに、暴竜の『グラビティ・アルファ』がヴェルニィエーガーへと撃ち放たれる。発射の衝撃で舞台が陥没。

 暴竜から放たれた漆黒の光は遥か上空に浮かぶ雲を霧散させ、黒霧狼を呑み込みその姿を跡形もなく消滅させていった―ー。



 ◇



 会場に静寂が訪れる。


 誰もが空を見上げていた。体長20メートル以上はあった魔獣を跡形もなく消し去った光景を目のあたりにし、誰もが言葉を失っていたのだ。


 『黒霧狼・ヴェルニィエーガー』を召喚したグレゴリーは、その場に尻もちを付き戦意を喪失していた。最強の切り札である古代種召喚。召喚士として頂点を極めたという自尊心。研究に掛けた長い年月、全ての財産を投げ売って手に入れた『黒霧狼・ヴェルニィエーガー』の化石――。


 それら全てが『 E 』ランクの冒険者によって打ち砕かれたのだ。


 目の前には終ぞ召喚できなかった竜種――。『暴竜・ファルベオルク』。それを触媒無しにやってのけた東雲にグレゴリーは完全に負けを認めた。


「参った。俺の負けだ。くっ、くくく、ははっ。こんなん見せられちゃ自身無くすぜ。シノノメ、お前の勝ちだ」


 完敗――。負けを認めたグレゴリーの顔は何処か晴れやかな表情をしていた。


『しょ、勝者!! シノノメ選手!! シノノメ選手の勝利です!!』


 ウサミの声が会場へと響き渡ると、一拍遅れて観客席から盛大な歓声が溢れてきた。


 東雲が右手を掲げると、それに合わせるかのように暴竜の咆哮が上がるのだった――。 



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