77.トーナメント戦③
『オリアクスの魔槍』の一撃によって勝敗が決まり安堵の息をつく。まさかスキル同士の衝突の爆風を利用して、上空に飛翔しているとは思わなかった。
スクリーンには勝利した俺の顔がアップで映し出されている。だが直ぐに次の試合の選手たちの顔へと切り替わる。
『マスター、お疲れ様です』
「ああ。前回同様、今回も勝ったよ」
魔法陣によって転送されていくギリコを見つめながら思う。
この世界はLvによって優越が決まる。故にパラメーターが相手よりも上なら、ごり押しで相手を上回ることができる。
だが、上がっているのは俺だけじゃない。ギリコもまた然りなのだ。パラメーター以外にもスキルの組み合わせによっては逆転勝利の可能性もありうる。特に瀕死回避スキルが気になった。
「なぁ、ゴンザレス」
『はい、なんですか? マスター』
「瀕死回避スキルって、全ての攻撃に耐えられるものなのか?」
もし、そうだとしたらかなり強力なスキルだ。カウンター目的で使われていたらと思うとゾッとした。
『いえ、そんなことはないですよ? あれは使用者のLv、総合パラメーターによって耐えられる許容範囲が決まります。ですので、万能スキルって訳ではないです』
「そうなの?」
『です。もし竜剣を使用していたら瀕死回避スキルは紙防御ですね。ぺらっぺらです。ギリコ紙屑です』
なるほど。どうやら危惧する程でもないらしい。というかさりげなく毒吐いてるなゴンザレス。
ゴンザレスと話していると、ウサミが次の試合の選手の名を呼んでいる所だった。
足元に魔法陣が浮かび上がり白い光に包まれる。視界が晴れると円柱の上に設置されていた座席に座っていた。周りには他の選手たちがいる。
舞台の方へと目を向けると、グレゴリーとエドガーが向かい合っていた。
きっと、俺の転送と同時にあの二人も転送されたのだろう。視線だけを動かし他の選手たちの様子を伺う。皆、堂々としている。
ふと、ジークと目が合った。一瞬、困ったような表情を浮かべたように見えたが、直ぐに目をそらされてしまった。
もしかしたら自己紹介の件があった手前、向こうは気まずいのかもしれない。
この世界の常識は理解しているつもりだし、普通に接してくれるのであれば構わないんだがな。
先程の件を思い出しながら舞台の方へと顔を向けた。
『それでは! 皆さんの熱が冷めないうちに行っきますよ~? グレゴリー選手 VS エドガー選手、試合開始でーす!!!』
◇
開始合図と同時にグレゴリーとエドガーが後方へと同時に距離を取ると、互いの周辺に魔法陣が展開していく。
二人とも遠距離型の戦闘スタイル。相手との距離を取るのは必然。先に仕掛けたのはエドガーの方だった。無数の火炎球が現れる。
「魔法――チェーン・ファイアーボール!」
「無駄無駄ァ!! 召喚――ミラージュバタフライ!!』
グレゴリーの周りに大量の小さな蝶が出現し、羽ばたく蝶に火球が直撃。 が、鏡面のような羽によって火球が次々とエドガーへと弾き返していく。
「おっと! やはりでしたか。魔法――ウインド・ロード」
エドガーの前面足もとに魔法陣が展開し、その上を飛来した火炎球が斜め上へと方向を変え上空へと飛んで行った。
使った魔法は方向性を持った風魔法で、反射までとはいかないが魔法や弓矢などの遠距離攻撃の軌道を逸らすことができる。
何事もなかったかのように涼やかな表情を浮かべ、エドガーは杖を構え直す。
「ミラージュバタフライ、元素魔法を跳ね返す魔物ですか。もしやと思っていましたが、小手調べして正解でしたね」
「ふん、やるじゃねぇーか。ああ、そうとも。こいつはアベル地域に生息する魔物さ。魔法使いにとっちゃ厄介な奴だろ?」
「ええ、ですが全ての魔法を反射できるわけではない。その魔物は、土系統に弱い!! 3重魔法――ウィンド・ロード、エクスプロ―ジョン、ロックブラスタ―!』
「んなこたぁ分かってんだよッ!! 召喚――ロック・クリスタルゴーレム! 」
エドガーの前面に色違いの魔法陣が3つ並ぶように展開。一つは数多の1センチメートル程の大きさの石を生成・射出。2つの魔法陣を通り抜けた瞬間速度が上がった。
風・爆炎魔法を用いることで速度を増大させた応用魔法だ。よって速度が上がれば威力も増大する。如何に魔法を反射するミラージュバタフライと言えど、物理的な攻撃魔法である土魔法は反射できない。
激しい発射音が響き渡る。それは東雲の世界で言うガトリング銃に近い物だった。だが発射されたと同時、直線状に巨大な質量を持った魔物が上空から落ちてきた。
上空には巨大な魔法陣。降ってきたのは20メートルを超える全身水晶のゴーレムだった。体の所々には鈍く光る金属破片も混ざっている。着地時に片膝を地面に付き、主を守る様にその体を盾にする。
『エドガー選手、物凄い魔法です! 3つの魔法を融合とかかなり高度な技術ではないでしょうか! だが、それを防ぐ魔物を使役するグレゴリー選手も負けてはいないー! これはどちらが勝つかまったくわかりません!!』
どちらが勝つか、観客たちは固唾を飲んで勝利の行方を見つめていた。
◇
「あのエドガーって人、凄いな……」
エドガーが映っているスクリーンを見ながら感嘆の息が漏れる。その魔法はどう見ても俺の世界にある重火器の威力だ。
(そうですね。何より凄いのが、それぞれの魔法を適所で調整していることでしょうか)
ゴンザレスが小声で話しかけてきた。周りの選手たちはその声に気づいていない。
怪しまれないよう手を口元に運び、頬杖するような感じに口元を隠した。
(調整? どういうことだ?)
(先程エドガーさんが唱えたエクスプロージョンは大爆発を起こす魔法です。普通に使えばロックブラスターやウィンド・ロードは相殺されてしまいます。
そうならないよう、細かな調整が施されているのです。ロックブラスターで生成された石を飛ばした後、指向性の爆発を加えることで速度増加、更にウィンド・ロードで石に回転を与えることで貫通・威力強化をさせています)
ゴンザレスの話を聞いて驚いてしまう。それほど精密に魔法を制御できるエドガーは只者ではないのだろう。
(だけど、そんな凄い魔法を防いでいる魔物も相当強いんじゃないか?)
(ええ、ゴーレムの中で高硬度を誇る魔物を召喚・使役するグレゴリーさんも手ごわい相手ですね)
激しい攻防が繰り広げられているスクリーンへと視線を戻す。
果たしてどちらが勝つのか。恐らく、俺の次の相手はこの二人のどちらかになるだろう。
◇
応用魔法を防がれエドガーは内心焦りを覚えていた。3重魔法は消費魔力が大きい。しかも発動中の今も魔力が減っているのだ。
魔力が枯渇するのは時間の問題だった。
(このままだとまずいですね。早くミラージュバタフライを仕留めなければ――)
射出し続けるエドガーの魔法によってゴーレムの体が削れていくが、その強固な体を貫けずにいた。
「召喚――ジェノサイドウルフ!!」
ロック・クリスタルゴーレムの後ろから光が漏れたと同時に、無数の刃を生やした狼が2匹飛び出してきた。
舞台の左右端からエドガーへと駆けていく。
「まったく、これだから召喚士はやりずらいですね! 魔法――アイス・フィールド!!」
3重魔法を解除し迫りくる魔物目掛けて魔法を唱えると、エドガー周辺の温度が急激に下がり地面が凍っていく。近くまで迫っていた一匹のジェノサイドウルフは瞬時に氷漬けになった。
もう一匹はエドガーへと飛び上がり、その喉元へ食らいつこうとしていたが新たに発動された火炎魔法によってその身を焦がされた。
直ぐさま態勢を戻そうとした瞬間、体に影が覆う。
「しまっ――、ぐはっ!!」
気づいた頃には時すでに遅し。その体は巨大な腕によって握りしめられてしまった。
「はっはっはー! 捕まえたぞエドガー!」
ゴーレムへの攻撃が止まった瞬間、グレゴリーはエドガーを捕まえるよう指示をだしていたのだ。
『これはー! エドガー選手、ゴーレムに捕まってしまったー! 物凄い攻防でしたが、召喚に長けたグレゴリー選手が一枚上手だったー! こ、この後どうなっちゃうのでしょうか』
ゴーレムによってエドガーが握りつぶられてしまうのではないかと、ウサミはハラハラドキドキしている。観客たちも静かにその行方を見守る。
グレゴリーは不敵な笑みを浮かべながらエドガーへと近づいていく。
「ふん、死闘だったら握り潰すところだがな。おい、エドガー。まだ続けるか?」
「いや、止めておきますよ。降参です、降参。無様な負け方はしたくありませんからね」
握りつぶされて負けるよりは、自ら降参したほうがいい。エドガーは苦笑しながらそう言った。
「はっはっは。そうかそうか。この空間内では死なないとは言え、そりゃそうだろうな。おい、ウサギのねーちゃん。エドガーは嗚呼言ってるんだが?」
ウサミはキョトンとした後、声を荒げた。
『しょ、勝者――、グレゴリー選手!!』
ワァアアアアアアアア!
観客席が大いに盛り上がる。数分間の戦闘とは言え、第1試合同様、濃い内容の戦闘に興奮冷め止まないでいた。
『いやー、あのまま握りつぶしちゃうのかとハラハラしちゃいましたー』
「ふふん、俺は紳士だからな。まぁ? もし古代種召喚した場合は――」
足元に転送用の魔法陣が展開しグレゴリーは転送された。
『はい! グレゴリー選手ありがとうございました!』
ウサミは容赦なく空気をぶった斬る。
ああ、悲しいかな。選手たちがいる場所へ転送されたグレゴリーは無言で座席の上で体育座りしていた。その姿は凄く寂しそうである。
そんなグレゴリーを差し置いて、スクリーンには第3試合の対戦選手の名が表示されたのだった。




