07.それは最凶 ★
ノアル村の就寝時間は早い。現在の時刻は夜の9時。日本にいた頃なら大半の人達はまだ起きているだろう。
だがこの日は違った。
そんな夜も更ける村で、俺は5人の村の男たちと一緒に森に近い家の屋根の上で見張りをしていた。
他の見張りに出ない者たちは各々の家で家族を守っているはずだ。
今更逃げ場所なんてないので、各家ごとに戸締りをしっかりとしている。気休め程度だろうが。
男たちの手には、それぞれ農具が握られている。戦闘になった場合戦うために。
「シノ、本当に各家の屋根で見張りを分散させなくていいのか?」
「ええ、さっきも言いましたけど、俺には索敵機能があるんです」
そうなのだ、ゴンザレスの索敵機能は半径5キロメートルある。なので十分にノアル村全体をカバーできるわけだ。
それにバラバラでいられるといざ戦闘になった時、俺の攻撃で巻き込んでしまってはまずいしな。
右手で握っている『プロミネンスの杖』を見る。
群れで一箇所に纏まってくれれば1回の使用で済むと思うんだが、そうそう上手くはいかないだろう。
いざという時はアレを使うしかない。
先程、最後に回した『レインボー』ランクで手に入れたアイテムを思い出す。
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アイテム名:暴竜・ファルベオルク
ランク :『 UR 』
説明 :
48種の伝説の竜のうちが一つ、
『暴竜・ファルベオルク』の牙から造られた大剣。
48種の竜から其々一本づつ造られた48ある竜剣の中で、
最凶の部類に入ると言われている。
竜剣と血の契約を交わすことにより、膨大な力を得る。
『血の契約』
装備している間だけ下記のステータスが一時的に上がる。
1秒ごとにソウル10消費される。
また、所持ソウルが無くなると使用者のソウルを喰らい、
使用者を竜化させる。自我がなくなり元には戻らない。
体力 :+2000
筋力 :+2000
防御力:+2000
素早さ:+2000
魔力 :+2000
『固有スキル』
ドラゴン・インストール:暴竜
説明:
暴竜の力を使用できる。
その姿は暴君が如く。
ソウルを2000消費することにより、更に180秒間下記のステータスが上がる。
体力 :+1000
筋力 :+1000
防御力:+1000
素早さ:+1000
魔力 :+1000
180秒間の間、スキル『グラビティ・アルファ』を撃てる。
ただし、1度撃ったら解除される。
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しっかし、とんでもない伝説武器を引き当てちまったなー。
『おめでとうございます。マスターは豪運の持ち主かと思います』
(ははは……、一生分の運を使い果たした気分だけどね……)
そう、最後に回した『レインボー』ランクで伝説武器が出てきたのだ。
まさか夢では? と思い、先程おもいっきり頬を抓ったが夢ではなかった。
ゴンザレスに『これが夢なら、この世界そのものが夢になると思うのですが』と突っ込まれた。
まさかAI相手にツッコミを入れられるとは思わなかった。どんどんゴンザレスが成長しているような気がする。
よし、最後にもう一度所持ソウル数を確認しよう。
(ゴンザレス、スマホウォッチに所持ソウル数を表示してくれ)
『所持ソウル数を画面に表示します。残り5106です』
5106か…。
『プロミネンスの杖』だけだったら、使用回数17までか。数が多少増えてもいけるな。……問題ないよな?
緊張で自問自答してしまう。
それと『ファルベオルク』を使うとなると、装備している間はステータスが大幅に追加されるが、その分1秒ごとにソウルが10消費される。
大変素晴らしい強さなのだが、非常に燃費の悪さが酷い。60秒使うとソウル600消費する。しかも所持ソウル数が無くなると、竜化して自我がなくなるとか怖い説明文が書かれていた。
だが、デメリットも多いがこれは切り札になる。いざという時に使えばいい。そうなるとソウルを見越して貯めておかないといけないが。
……ああ、当分ソウルガチャを引けなくなるな。まぁ、しょうがないか。コツコツ貯めよう。
ちなみに、『血の契約』は既に済ましてある。契約時から『アイテム収納』にしまうまで10秒持っていたため、その時にソウル100を消費してしまったが。ああ、勿体無い……。
しかし、こんなのが後47本も存在するのか……。これ、集めれば世界征服できんじゃない?
『してみますか? 世界征服。マスターならできるかと』
(いやいやいや、冗談で言ったんですから真面目に答えないでくださいよゴンザレスさん)
ゴンザレスとアホな会話をしつつ、村の先にある畑の方へと見る。幸い今日は満月でうっすらと地表を照らしていた。
ただ、この世界の満月は地球の満月とは大きさが違っている。数倍程でかいのだ。
引力とかどうなるんだ? 満ち潮とか……。まぁ、今の俺には関係ないか。
「しかし、寒いですね。昼間は結構暖かかったのに、夜にもなると結構冷える」
「シノ、俺のマントを貸そうか?」
「あ、いえ、大丈夫です」
元の世界では4月だったため、ボタンシャツにジャケットを羽織る程度で済んでいた。
こちらの世界も同じような気候・気温だったため問題ないと思っていたが、やはり夜にもなるとこの程度の服装ではきつかった。
寒さを我慢して更に3時間経った頃、ゴンザレスが警告を放つ。
『マスター、西の森の方角から8匹の生体反応がこちらに向かってきています』
とうとう来たか。数は8匹……。やはり村長の報告より多少多かったか。だが、問題はないはずだ。十分に『プロミネンスの杖』の使用できる回数のほうが上だ。
「皆さん、俺の索敵能力に魔物が8匹こちらに向かってきているのを確認しました」
途端に男たちの動揺の声が広がる。
「落ち着いてください。まずは先程打ち合わせした通り、この村の畑まで来るのを待ちます。
一箇所に纏まっていればいいのですが、きっとそれはないでしょう。バラバラに動いて畑の果実を漁ると思います。
この杖の火炎魔法で攻撃しますが発動まで若干の時間が掛かりますので、すみませんがダルクさん―――」
「ああ、その間は俺が囮になる。任せておけ」
この『プロミネンスの杖』は強力だが、発動まで多少の時間が掛かる。不意打ちで最初の一発は気づかれずにいけるが、問題はその後だ。
魔物に気づかれた後『プロミネンス・フレア』を撃つにも、魔物の攻撃が早かった場合そこで終わりだ。なので苦肉の策として、誰かに囮になってもらい時間稼ぎをしなければならない。
そう説明した上で、ダルクが率先して出たのだ。ほかの人たちは家に侵入されないよう防衛してもらうことになった。できるかどうかは別としてだが。
しかし、本当にダルクさんは責任感強い人だな。
『マスター、レッドグリズリーが畑に侵入するのを確認しました』
「来たか……」
俺の一言に男たちは森に近い畑の方へと視線を動かす。
薄らぼんやりと月明かりに照らされて動く影が8つ。その姿は熊、レッドグリズリーだ。しかし、その大きさは想定してたより大きかった。
3メートル以上あるんじゃないか、あれ。で、でかい……。
やはり魔物は畑に侵入するとバラバラに行動し始める。そのうちの1匹がこちらに近づいてきた。
「では、いきます」
俺は立ち上がり、屋根の上から『プロミネンスの杖』をこちらに近づいてくる1匹に照準を合わせる。
そして起動言語を唱える。
「プロミネンス・フレア!」
先端の赤い宝石が輝きその周りを赤い燐光が集まり、一つの魔法陣へと描いていく。
魔法陣が描かれると、その中央から幅が1メートル程の蛇の様な形をした炎のうねりが起き、一匹のレッドグリズリーへと発射される。蛇の様な炎はレッドグリズリーに巻き付いたあと火柱を上げ燃やしていった。
レッドグリズリーは断末魔をあげ絶命する。その死体の上には青白く光る球体、ソウルが出現していた。
仲間の断末魔を聞き、残りのレッドグリズリーがこちらの方へと視線を向ける。
そして仲間を殺された怒りからだろう、咆哮を上げてこちらに向かってきた。
「続けて明かりいきます! クイックオープン、エナジーボール」
具現化された野球ボールくらいの大きさの白い石を握り締め、村の上空へと投げる。
「弾けて混ざれっ!!!」
起動言語と同時に弾け、もの凄い光量を放っていく。
突然の閃光にレッドグリズリーたちは、目を眩ませ動きが止まる。ダルクたちには予め説明していたので皆目を瞑っていた。
レッドグリズリーが怯んだ隙を見逃さず、続けて杖を標準させて起動言語を唱える。
「プロミネンス・フレアッ!」
もう1匹も『プロミネンス・フレア』によって絶命していく。
残りは6匹。『エナジーボール』によって周りは昼間のように明るくなり、魔物の姿を視認しやすくなった。逆も然りだが。
そのうちの1匹が目が慣れてきたのだろう、もの凄い勢いでこちらに突進してくる。
「ちぃ! 早い!」
杖を照準を合わせる。
「おらおら熊公! こっちだ!」
ダルクが屋根から飛び降り、突進してくるレッドグリズリーの注意を引きつけ、右側の方へと誘導する。
すかさず俺は起動言語を唱えた。
「プロミネンス・フレアッ!」
赤い燐光が集まり一つの魔法陣へと描き終わると、ダルクを追いかけるレッドグリズリーの後ろから蛇のような炎が巻き付き、火柱を上げ絶命させていく。
(ゴンザレス! 残りのソウルはいくつだ!?)
『残りソウル数は4206です』
よし、この調子ならいける!
気を緩めた時、事態は一変した。視界が回復したであろう残りの5匹のうち3匹がダルクの方へと突進していった。
3方向から狙われているため、『プロミネンス・フレア』で1匹は倒せても、残りの2匹は間に合わない。
やばい! 間に合わない!
咄嗟に屋根から飛び降り、杖を放り投げ駆け出しながら叫んだ。
「クイックオープン、暴竜・ファルベオルクッ!!!!」
前へ掲げた右手の空間が弾け、2メートルをも超える禍々しい漆黒の大剣が顕現した。
『ファルベオルク』を掴んだ瞬間、体中の力が漲る感覚が広がる。
無我夢中でその一歩を踏み出した瞬間、ダルクを襲いかかろうとする1匹へと物凄い勢いで飛んだ。
1匹を袈裟斬りすると、常温のバターを切るような感覚に驚く。驚いてるのも束の間、2匹目が襲いかかってくるのが視界に入ったため、体をひねり下段から切り伏せる。
そして3匹目を振り上げた大剣でそのまま振り下ろし、一刀両断した。
「はぁっ……はぁっ……!」
ギリギリだった。危うくダルクさんを死なせるところだった。
しかし、『暴竜・ファルベオルク』の能力のお陰で間に合った。流石、伝説の武器の能力である。
「助かったぜシノ! 残りはあと2匹だ、いけるか?」
ダルクが駆け寄ってきて、残りのレッドグリズリーへと睨む。
「ええ、もちろん。こいつの性能を試したいので下がっていてください」
「お、おう。頼んだぜシノ、死ぬなよ!」
ダルクは急いでこの場から離れていく。対して迎え撃つ2匹の獣――レッドグリズリーが咆哮を挙げながら物凄い勢いで此方に向かってきている。
3メートルも超える体格はある意味、大型トラックが突っ込んできているような錯覚を覚えた。
正直に言うと怖い。だが――。
――この竜剣を握っているとそんな恐怖さえ打ち消してくれる。
「ドラゴン・インストール:暴龍ッ!!」
ありったけの声で起動言語を唱える。
すると足元に紫色に光る魔法陣が展開していく。
魔法陣の周りに黒い稲妻のような閃光が走り、さらに輝きを増す。
魔法陣を通して体の中にドス黒い力の本流が流れ込んできて、破壊衝動となって俺の精神を飲み込もうとしていく。
「ガ、ガアアァァァアアァァァァァァ!!!」
凄まじい力を感じ取ったのだろう、残りの2匹のレッドグリズリーは此方に向かってくるのを止め、その場から逃げ出していく。
逃がしはしない――――。
力の本流がさらに大剣へと流れ込み、その刀身を変化させた。
それは禍々しいほどの黒い光を放ち、生きる全ての生物を否定するが如く。
上段に大剣を構え、そして一つのスキル名を呟く。
「グラビティ・アルファァァァ!」
チャージされた力を解放するかのようにレッドグリズリーへと大剣を振り下ろした。
黒い光りが斬撃となって前面に展開しレッドグリズリー諸共飲み込み、その先の山岳まで両断したのだった。




