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65.力あるもの②

 アムールの西地区街―ー。


 ヴィクセル達と目的の地区まで来ていた。歓楽街とあって賑やかだった。スマホウォッチで時間を確認すると『PM8:56』と表示されている。


 もう21時に差し掛かろうとしていた。今迄からの経験だともうこの世界の住人は就寝している時間だ。だがこの地区は違った。


 街頭が煌びやかに建物を照らし、その下を様々な人たちが賑やかに歩いている。酒を飲んで酔っ払っている者、男女が腕を組んで歩いている者、客引きをしている店員など様々だ。


 そんな賑わう大通りを俺たちは歩いている。


「うわー! 凄い! 凄い! すっごい賑やか! 私、夜でもこんな賑やかな場所は初めてだよ!」


「ですねリリィ! 美味しそうな食べ物もいっぱい売ってます!」


 隣を歩いているリリィ達が大はしゃぎしている。


 確かに賑やかだが、これはまた違った賑やかさだな。まさに夜の街って感じだ。


 元の世界のではよく友人に連れられて飲み屋に誘われていたっけ。あまりお酒は飲めない方だったが、この陽気な雰囲気は割と好きだった。


「ふむ、お嬢さんたちには馴染みのない場所だろうな。ここは人の欲を満たす場所。こういった場所では犯罪が起こりやすいから気を付けたまえ」


 確かにヴィクセルの言う通り気を引き締めていこう。


「あっ!」


「どうしたゴンザレス。奴らに動きがあったか?」


「ええ、どうやら建物を出たようです。ゆっくりとですが、南へ……。海岸の方へと向かっているみたいです。この方角は……どうやら闘技場のようです」


「闘技場?」


 リリィが聞き返す。


「ふむ、おそらくそれは武闘大会の闘技場のことだろう。マーメイド祭の為にウラヌス商会が立てた場所だ」


「闘技場か……。ヴィクセルさん、もしかして奴らは夜のうちに忍び込むつもりかもしれません」


 考える限り可能性としては大いにありえる。


 俺の発言を聞いてヴィクセルは顎に手を添え考え込んでいた。


「……うむ、おそらくシノノメ殿の考えている通り間違いないだろう。だが、あそこには我々の仲間が警備にあたっている。気づかれずに侵入するのは難しいはずだ」


「いえ、侵入に関してはそうとは限りません」


「ゴンザレス、どういうことだ?」


「はい、索敵機能によると彼らには人の認識を阻害する魔法効果が掛けられています。それと潜伏していた建物内に複数の魔物の反応があり、なぜか建物に逆式結界が張られています。恐らくですが、我々が潜伏先に踏み込んでくると察知して罠を仕掛けたのでしょう」


 騎士たちのどよめきの声が上がる。


「認識を阻害? そんな。それじゃ俺たちは奴らに気づけないじゃないか」


「いや、ゴンザレス殿の能力で把握できているということはまだ希望はある」


「そ、そうか。しかし、シノノメ殿も凄いがゴンザレス殿も凄いお方だな」


「えへへ」


 ゴンザレスがめちゃくちゃ照れていた。耳と尻尾がピョコピョコと動いている。


 可愛い。


 そんなゴンザレスの隣でヴィクセルは一人考えている。


「逆式結界……。そうか、ザリウスめ。我々を閉じ込めておく算段だったか。……ぬうぅ!? まずいっ! 何も知らぬ市民が建物に入れば魔物の餌食になってしまうではないか!」


 ヴィクセルの一言に騎士たちの表情が強張った。


「だ、団長殿! 急ぎましょう! 急いで入り口を我々で封鎖しなければ!」


「そうだ。しかし、大通りの人の多さでは直ぐには……」


「団長殿。ここは二手に分かれ――」


「ヴィクセルさん、ちょいと提案あるんですが」


 ヴィクセルがこちらへ向く。


「……提案?」


「はい。ザリウスに関してはご存知の通り、ゴンザレスが行動を完全に把握しています。奴らも直ぐには事を起こさないでしょう。ですので先に俺とヴィクセルさん、それとゴンザレスで酒場まで行きましょう」


 そう言うと俺はゴンザレスを抱きかかえ、ヴィクセルを肩に担ぎ上げる。


「失礼」


「ぬお!? シノノメ殿!」


「え、ちょ、マスター!?」


 リリィと騎士たちはポカーンとしている。


「悪いリリィ。先に行ってるから騎士の方々と酒場まで着てくれ」


「え?」


 腰を低く落とし脚に力を籠め一気に跳躍した。続けざまパッシブスキルの『エアレイド』で空気を蹴り上げ、目的地の酒場まで空中を駆けていく。


「ぬおおおおおおおおおおお!?」


「ひゃー!」


 夜の空に二人の叫び声が響いていった。


 




 ◇




 目的の建物上空に近づき、衝撃を緩和しながら二人に負荷がかからないように着地をする。肩からヴィクセルを下すと呆けた顔をしていた。


 ちょっと無茶し過ぎただろうか。しかも大通りにいる市民は突然空から現れた俺たちに驚いている。


「空を移動するなんて初めての経験だ……」


「マスター! いきなりでびっくりしたじゃないですか! もー!」


 ヴィクセルは驚いていたが初めての経験なのだろう。ゴンザレスに至っては激おこぷんぷん丸だ。ニャーバンクルもニャーニャー鳴いている。


「すまんすまん。でも、時間は短縮できたんで許してくれ」


「もう」


「二人ともすまんが先に目的を済まそう」


 ヴィクセルはそう言うと大通りにいる人々へ向く。


「皆さん! 私はアムールを守護している王国騎士10番隊隊長・・・・・・を務めるヴィクセル=ドーガです! この建物は騎士隊の権限により封鎖します。皆さんはここから速やかに離れてください!」


 え!? ヴィクセルさん王国騎士隊の隊長を務めている人なの!?


 守衛所で団長なんて呼ばれているからてっきり警備隊とかの団長かと思ってたぞ!


 そ、そういえばさっきの騎士達も他の兵士と違って装備しているものが豪華だったな……。う、うーん。ノアル村の村長が騎士隊の隊長はエリートだとかなんとか言っていたな。


 俺が驚いた顔をしていると、ヴィクセルがこちらに気づき笑う。


「ははは、シノノメ殿には言ってなかったな。これでも一応末席ながら騎士隊の隊長を務めている」


 ヴィクセルはそう言うと市民の方へと顔を向き直す。そして懸命にここから離れるように呼び掛ける。


 一時的に周りがざわついたが王国騎士隊の名が決め手なのだろう、大通りにいた市民がここから離れていく。ただし、離れているだけであって何事が起きているのかと興味津々で此方の様子を伺っていた。


 結果的に距離は空いたので問題はなさそうだった。


 建物を見上げる。2階建てのレンガ造りの建物で窓からは光が漏れている。


 外から見た感じでは普通に営業しているように思えた。


 だが実際はこの建物の中に魔物がいるのだ。


「ゴンザレス、ここに来るまでの間に外部から人が入ったか?」


「いえ、ありません」


「そうか。ゴンザレス、視覚領域に敵の位置を表示しろ。それとできる限りの情報を」


「はい、マスター。視覚領域に敵情報を表示いたします」


 視界にデジタル信号のようなノイズが走ったと思った瞬間、建物が透けて中にいる魔物の姿が見えた。


「ぶーーー!!」


 以前に討伐したサンドワームのように矢印で魔物との距離が出るのかと思ったら、いきなり姿が見えたので驚いてしまった。


「ど、どうしたのだシノノメ殿!?」


「マスター? 情報量が多すぎましたか?」


「あ、いや。なんでもないですはい」


 う、うーん。ゴンザレス、こんな機能を隠し持っていたのか。そういえば、『次元鏡』の説明にも書いてあったな。透視機能。


 ゴンザレスの機能の劣化版だって書いてあったから、ゴンザレスが透視機能を持っているのは当たり前か……。


 とりあえずヴィクセルにも情報を伝えるべくアイテム収納から『次元鏡』を取り出し、倍率を1倍にし、透視機能と書いてあるギアを回してから渡す。


「これで建物を覗いてください。建物の内部が分かります」


 『次元鏡』を覗いたヴィクセルは驚きの声をあげた。まぁ、無理もない。


 しかし、これ風呂場とか覗き放題だよなー。


 邪な考えが一瞬過ぎったが、首を振り邪念を振り払う。


「便利だなこれは。壁越しの敵の姿がわかるとは……。しかし、まずいな。あの魔物はアラクネではないか」


 めんどくさい魔物なのかな?


「マスターマスター。アラクネは女郎蜘蛛の魔物で、その蜘蛛の腹から出される糸は強力な粘着力を持っています。ですので狭い空間であれと戦うことは苦戦を強いられると思います」


 まぁ、見たまんまだな。


「そういうことだ。建物ごと魔法で吹き飛ばせれば問題なかろうが、流石に所有者の許可なしではな。だが問題はその所有者が生きているかどうかもわからんが」


 そりゃそうだと思いながら、『ソウルガチャ』で手に入れたアイテムで対処できるものはないかとスマホウォッチで確認する。


 ふむ。これを試してみるか。


「じゃー吹き飛ばさない方向で行きましょう。――クイックオープン、『アルケミストの試験官ベルト』」


 アイテム名を唱えると、腰の左右それぞれに試験官が装着されたベルトがクロスするように具現化する。


「ゴンザレス、この建物には結界が張ってあるって言ってたけど」


 腰ベルトに差してある試験官を抜いていくと次の試験官が補充されていく。


「え? あ、はい。通常の結界は外部からの侵入を拒むものですが、この建物に張られている結界は逆式結界といって、外部から侵入できても逆に内部から出られなくものです」


「という事は、中で何が起きようと外には被害なし?」


「です」


「おっけい!」


 両手の指の隙間に幾つも挟み込んだ『雷属性』の試験官を建物の空いている窓へと投げる。


 瞬間、結界内の建物全体に眩い紫電が起きた。閃光と共に物凄い爆音が鳴り響く。


 しまったー! やり過ぎた! てか、目がいてぇ!


 放電が収まる。


 目頭をこすりながらゴンザレスの透視機能で確認すると、建物内部にいるアラクネ達は真っ黒こげになっていた。その上には青く輝き揺らめくソウルが出現していた。


 『ソウルコネクト』と念じ、ソウルを回収する。


「ヴィクセルさん、終わりました」


 振り向くとヴィクセルは目頭を押さえていた。


 遠巻きに見ていた市民は腰を抜かしながら目を擦り、何が起きたかわからないといった表情をしている。


 ゴンザレスに至っては涼しい顔だ。


「君は唐突に物凄いことをするな。その力はマナ元素か。まったく、剣を扱う冒険者かと思えば属性のマナも扱うとは。まるで錬金術師アルケミストだな」


 ヴィクセルは『次元鏡』で建物を覗いた後に此方へ微笑みを向けてきた。


「まったく、君は大した男だな」


「当然です! 私のマスターは凄い人なのです!」


「にゃー」


 何故かゴンザレスが大きな胸を張り「えっへん!」と鼻息を吹き、ニャーバンクルもそれに倣って鳴き声をあげる。


「おーい! シノー! ゴンちゃんー!」


 声のした方へと向くと、遠巻きに見ていた市民の壁をかき分けてリリィ達が近寄ってきた。


「はぁ、はぁ。まったく、置いて行かないでよ、もう……はぁ、はぁ」


「ごめんごめん」


「だ、団長殿! 先ほど物凄い閃光と音がありましたが――」


「ああ、彼一人で終わらせたよ」


「「「おお!」」」


 騎士隊の面々が羨望の眼差しを向けてきた。


 うっ! 本当にどう対応すればいいのか困るんだが……。


「アッカス分隊はここでこの建物を封鎖、残りの者はシノノメ殿たちと共にザリウスの元へと向かうぞ」


「「「「はっ!!」」」


 口ごもる俺にヴィクセルがフォローを入れてくれた気がした。


「ふふ、シノ。どんどん功績上げていってるね」


 リリィが近寄ってきて耳元で囁いてきた。


「悪い気はしないんだが、なんだか落ち着かないぞ」


「なーに言ってるのよ。私はシノの実力が認められて行くのは凄く嬉しいよ? だからもっと自信持ちなさいよ。えいっえいっ♪」」


 指先で頬をツンツンと突かれる。


 うーん、こればっかり は性分だしなぁー。


「あ! リリィずるいですっ! 私もマスターのほっぺつんつんしたいです!」


 背の低いゴンザレスが俺の体を「んっしょ!」と言いながらよじ登り頬を突いてくる。


 おい。ゴンザレス止めれ。


「ははは。君たちは本当に仲がいいな」


 ヴィクセル達に笑われてしまう。


「シノノメ殿、ザリウスは手ごわい。君の力が必要だ。我々だけでは無傷ではいかないだろう。だから頼む、力を貸してくれ」


 真剣な眼差しでヴィクセルが頭を下げてきた。団長が頭を下げたことによって、後ろにいた騎士たちも頭を下げる。


「はい。できる限りのことはします」


 ザリウス達の位置情報はゴンザレスが把握している。


 いよいよ元凶の男へと近づいてきた。今日で片付けば明日の大会は無事に進むことだろう。


 ほんと、まさか拉致を計画している殺人集団と一戦交えるなんて思わないよな。


 だが、今夜で終わる。


 俺は拳を握った――。


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