40.ビックマム
遠くの方から鐘の音が聞こえてくる。
「……ん……んん」
人が動く気配を感じ、重たい瞼を右手で擦りながらそちらの方へを向くとそこにはリリィの寝顔があった。
何事かと思い、一瞬で眠気が吹き飛んでしまう。
ななななんでリリィが俺と同じベットに!? ……って、そういえば真夜中に襲われないようにベットをくっつけて寝たんだっけか……。
バクバクと鼓動している心臓を落ち着かせるために深呼吸。少し落ち着いたので今何時か時間を確認しようと、スマホウォッチを付けている左腕をあげようとしたが動かない。
あれ?
反対の方へ振り向くとゴンザレスが俺の左腕にしっかりと抱きついていた。
腕には柔らかな感触があり、それを認識した瞬間また心臓が大きく跳ね上がる。
そ、そういえば昨日の夜寝ぼけて抱きついてきたゴンザレスを引き剥がそうとして、俺も寝ちゃったのか。
「すー……すー……」
リリィも普段起きるのが早いのに今日に至っては随分とゆっくり寝ている。恐らく寝付けなくて朝方やっと寝たという感じだろうか。
とにかく2人を起こさないと。
左腕に抱きついているゴンザレスを引き剥がすため、ゴンザレスの左腕を持ち上げると彼女はコロンと仰向けに転がる。
その反動で大きな胸がたゆんっと揺れ、ついついその胸に目がいってしまい唾を飲み込む。薄いシャツを寝巻きにしているため、その2つの山の形がはっきりと強調していた。
窓から差し込む朝日がゴンザレスを照らす。
「……これはなんというか目のやり場に困る……。煩悩滅殺、煩悩滅殺」
目を閉じ更に深呼吸。
よし!
「朝だぞー! 2人とも起きろー!」
ベットから降り、両手を強く叩いて2人を起こす。
「……ふぁ~ふ。……おはようございますマスター……。んー、眠いです」
「……あれ? もう朝!? やだ、私ったら寝坊しちゃった!?」
寝坊も何も十分今も早い時間だと思うんだが。規則正しい生活を心がけるところは流石というべきか。
「起きたか。それじゃ俺はちょっと顔を洗いに部屋の外に出ているから、2人とも着替えを済ませておいてくれ」
そう言い放ち、逃げるようにして部屋の外へと出て廊下の壁に背をつける。
「……はぁ、健全な男としてはこんな状態が続いたら結構きついな。やっぱり俺たちを監視していた奴をなんとかしないとダメか。じゃないと俺が発狂しそうだ……」
先ほどのゴンザレスの姿を思い出す。
「いかんいかん! 何を考えているんだ俺は! うー……冷たい水を頭から被ればこの煩悩も霧散するだろ……」
トボトボと歩きながら浴場の方へと向かって行った。
◇
宿を出た後、ゴンザレスの案内で真っ先に冒険者ギルドへと向かった。武闘大会の参加申し込みとクエスト受諾するために。
アムールの冒険者ギルドはベスパと違って男のギルド職員が多い。女性の職員もいるのだが、殆どが男の職員が受付している。
しかも皆イケメンだ。
「はぇー、随分と色男な職員がいっぱいねー。もしここにボナがいたら鼻血流しながら大喜びしそうだわ」
ギルドの建物に入ってからリリィはキョロキョロと辺りを見回している。
「確かに。ベスパとは逆な気がするんが」
「そりゃ、あたしが美男子好きだからだよ」
知らない声に振り返ると、そこには恰幅のいい中年女性が立っていた。身なりは気品高く身分の高い人物だと思わされる。
「えーと……」
「ああ、悪い悪い。あたしの名はボニア。ここのギルド長をしている。皆からはビックマムと呼ばれているけどね。あんたたち見ない顔だね?」
「ベスパの街から来ました。この街のギルドクエストを受けたいんですが」
「そうかい、そうかい! ようこそ、アムールギルドへ! 腕のいい冒険者は歓迎するよ」
ワハハと豪快に笑い肩をバンバン叩くボニアギルド長。
「クエスト掲示板はあそこにあるから、しっかりと稼いでいきな! 死ぬんじゃないぞ若いの」
ボニアは笑いながらズンズンと豪快に歩きカウンターの奥の部屋へと消えていった。あまりの豪快さに開いた口がふさがらない。
す、すげぇな……。ここのギルド長も癖がありすぎるだろ……。
「ふふ、あの豪快さを見ているとマッドを思い出すわ」
「あー……、何処となく似ているな。あの人もドワーフの血を引いてたりして」
不意に袖を引っ張られる。
「マスター、マスター。掲示板でクエスト確認しなくてよろしいのですか?」
ゴンザレスはいつもと変わらない口調で掲示板の確認を勧めてくる。今の光景を見ても動じないとは流石というべきか。
「そうだな、その前に武闘大会の受付をしたいから、あのカウンターで説明を聞こうか」
人が並んでいないカウンターへと向うと、こちらに気づいた受付の男性は爽やかな笑顔を向けてくる。
「ようこそ、アムールギルドへ。クエスト受諾ですか?」
「いえ、マーメイド祭で開かれる武闘大会に参加したいのですが、まだ受け付けていますか?」
「武闘大会の参加希望ですね。少々お待ちください」
受付の男はカウンター奥の部屋へと消え、暫くしたら洋紙を持って戻ってきた。
「お待たせしました。募集はまだしておりますが、無条件で参加できるわけではなく参加資格がございますのでご注意ください」
「参加資格あるんですか……」
「はい、ご説明させていただきますとまず、参加資格は男性であること。これは大会の趣旨がマーメイド族お姫様の婿探しの大会だからです。そして2つ目、大会にエントリーするにはまず実力を示して頂ければなりません」
「実力?」
「はい、一定以上の強さを持つものでないと話にならないからです。Lvで言えば最低35以上ですね。ただし、これはあくまで目安です。実力試験ではこちらで用意したゴーレムと戦ってもらいます。例えばLv20代の参加希望の方が倒した場合でも参加資格が与えられます」
「要するにLvが低くてもそのゴーレムを倒せば参加できるってことね。ちなみにそのゴーレムのLvはどれくらいなの?」
え? リリィそれ聞いちゃう? 流石に教えてくれないだろ。
「Lv40程です。冒険者ランクで言うと『 A 』ランク相当ですね」
教えてくれちゃったよ。
「はぁ!? そんなのLv20代じゃ無理じゃない!」
「ですから、様々な武器、アイテムを駆使して倒してもいいわけです。難局を切り抜ける頭脳や機転も強さの内に入るわけですから」
受付の男はニッコリと笑う。
なるほど……。
「以上の条件をクリアして参加できるわけですが、この大会の凄いところはなんと、リングの上では出場者は絶対に死なないということです」
は? 何言ってるんだこの人……。頭大丈夫か?
リリィ達もポカーンと口を開けてるよ。
「領主様もとい主催者側である『ウラヌス商会』の空間魔法によって創成された特殊な舞台は、その中であればどのような攻撃も肉体に損傷を与えないらしいのです。
ただし、代わりにダメージは精神力を削り取るらしく最終的には気絶するとのことですが」
「はぁー……、それは凄い魔法ですね……。それなら死者を出さなくて済みそうですけど」
「ええ、そもそも武闘大会なんて今までなかったのですよ。マーメイドにとってこのお祭りは、人間に紛れて子供を授かる為の儀式と古くからの伝承として伝えられています。
人間になって紛れ込むわけですから見分けがつきませんよね。ですから伝承だったんです。それが今回、領主様はマーメイドの長から「姫の婿として強い男を探してほしい」と頼まれたそうです。
この街はマーメイドの恩恵を受けて繁栄していますからね。最初は王国側は死傷者を出すような武闘大会を認めなかったようで、領主様が頑張ったらしいのです。ここだけの話、利益になる話だと食いつきますからね。採算が取れると見越しての先行投資なのでしょう」
人間、お金が絡むと凄い努力するんだな……。なんか人の闇の部分を垣間見た気がするよ……。
「そして最後になりますが、エントリー期間の間はキャンセルを受け付けています。ですが期日を超えた場合でのキャンセルはできません。又、大会当日に欠場いたしますとウラヌス商会とギルド側から違約金とペナルティが与えられますのでご注意ください」
ペナルティがあるのか。出来ればペナルティを起こすようなことはしたくない。
「以上を踏まえて参加希望しますか?」
「ええ、お願いします」
「では実力測定を行う場所まで案内致しますのでこちらへどうぞ」
受付の男に案内されギルドを出た。
◇
試験場はアムールの街から馬車で数分のところに位置する「ソウレイの丘」と呼ばれる小高い丘にある。この丘はアムール街と周辺の海を一望できる絶景スポットだという。
なんでそんな所で試験をするのか聞いてみたら、周りに被害を出さずに試験できる場所が其処しかないからとのこと。
景色見たい人達にとってはいい迷惑だろうなぁ……。
「あそこが試験場になります」
受付の男が指差す先にはゴーレムの姿が見えた。その場所では既に他の参加希望者がゴーレムと戦っていて激しい戦闘を繰り広げていた。ゴーレムは体長10メートルを超えていて体格の割に動きが早い。かなりの強さなようだ。
男の方はスキンヘッドに筋肉隆々の体型で両手には大きな斧、バトルアックスを構えている。
あれ? なんか見覚えのある人が……。
「これで終わりだァ! 木偶人形ぉぉ! ――スキル!」
男は叫びながらゴーレムに突進していく。
ゴーレムは懐に飛び込んでくる男に渾身の一撃を与えようと大きく腕を振り下ろし――。
「レイジングバーストォォォォォ!!」
男にゴーレムの一撃が当たると思いきや、突如男から発生した竜巻によってバラバラにされ吹き飛んでいった。
「俺の勝利だぁぁぁ! うぉおおおお!」
男は仁王立ちし声高らかに勝利の雄叫びを上げ、自分の力を鼓舞しているように見える。
「あの男、ギリコですねマスター。彼も武闘大会に参加するのでしょうか」
「まさかこの街に来ていたなんてな。うーんもしかして、ベスパに居づらくなったとか」
ギリコはベスパのギルド受付嬢ルディの恋人だった男だ。男グセの悪いルディが俺に色気を使い、それをギリコが偶然目撃し決闘する羽目になった経緯がある。
少し気まずいけど、知らない仲でもないし挨拶しておくか。
いまだに雄叫びを上げているギリコに近づく。
「どうもー」
「――ぉおおおおおぉぉッ!? て、てめぇは!! なんでお前がここにいる!?」
俺に気づいたギリコが素っ頓狂な声を上げ後ずさる。
「武闘大会に参加するためにここにいるんだけど、ギリコも大会に出場するんだね。いやー、見覚えがある姿だったんでまさかとは思ったけど、ビックリだよ」
「お前も大会に出るのか……。そうか、くく、ふは、ふはははは! こいつは面白い! 坊主、あの時は負けたが大会では負けんぞ。あの時の俺とは違うことを見せてやる。大会当日まで首を洗って待っていろ!」
ギリコはそう言い、試験官から何かを受け取りそのまま街へと向かって歩いて行った。
「言うだけ言って行っちゃったわね。でもまぁ、シノはギリコに1度勝ってるし、相手の力量も見てるから楽勝じゃない?」
「リリィ、楽観的な考えは良くないです。あの口ぶりからして何かあるのでしょう。油断はできません」
「まぁ、気をつけるよ。さてと、俺も実力試験を受けないと。えーと、お願いします」
受付のギルド職員に声をかけ、いつでも試験を受けれることを伝える。
「では、試験を始める前に説明をさせていただきます。地面に白線が引かれている正方形のエリアで戦闘を行っていただきます。時間は無制限ですが白線を超えたら負けとなりますのでご注意ください。
また勝利条件はゴーレムを戦闘不能にすれば合格となります」
なるほど、シンプルな勝利条件でなにより。折角だし、新しい装備で挑んでみるかな。性能も把握しときたいし。
「おっし、んじゃ頑張りますか。――――クイックオープン、『炎剣・イグニア』」
右手を突き出し起動言語を唱えると、刀身が真紅に染まった片手剣が具現化する。その刀身の周りが熱によって大気が揺ぐ。
「おお、先ほどのギリコ様の武器も素晴らしい武器でしたが、シノノメ様も素晴らしい武器をお持ちですね! さぞかし冒険者ランクも高いのでございましょう!」
『炎剣・イグニア』を見てギルド職員は簡単の声を漏らす。
まぁ、こんな凄い剣を見せられたら誰でも高Lvの冒険者と勘違いしそうだが。
白線が描かれたエリアに入る。
「マスター! ファイトですー! 頑張ってくださいー!」
「シノー! いっちょやったれー!」
ゴンザレスたちは大きな声で声援をおくってくれている。
うーむ、声援してくれるのは嬉しいんだがちょっと恥ずかしい。
離れた先には試験官が立っており、何やら呪文を唱えると全面の地面に魔法陣が展開しゴーレムが出現した。
「ではこれより実力試験を開始する。始めっ!」
試験管が直ぐ様エリアから出ると同時にゴーレムが動き出した。
こちらに向かってくるゴーレムに対して俺もゴーレムに向けて駆け出す。
ゴーレムが拳を振り上げる動作を確認した瞬間、直ぐさま空中へと飛び回避行動をとる。空中から見下ろすと、俺がいた場所にはゴーレムの拳が地面に減り込んでいた。
一撃でも食らったらやばいなこれ……。さっさと片付けたほうが――――。
ゴーレムが俺を捕まえようと空中に右手を伸ばしてきた。
「うわっと! あっぶねぇ! 腕伸びるのかよ、あのゴーレム!!」
咄嗟に『エアレイド』で空気の壁を蹴り逃れるが、さらにゴーレムの左腕が迫ってきていた。
「マスター! 危ない!」
「――クイックオープン、『疾風』」
両腕に白いガントレットが装着された状態で具現化される。
潰れアンパンになってたまるかよ!
「――スキル『疾風』!」
両拳を打ち付けながら起動言語を唱えた瞬間、俺の周りに激しい竜巻が巻き起こりゴーレムの左腕を弾いた。腕を弾かれた衝撃でゴーレムはそのまま後ろへと倒れこむ。
追撃してこないのを確認し、ゴーレムから距離をとり地面に着地する。スキルの竜巻はまだ持続している。
『疾風』のスキルは防御型持続性スキルで発動後30秒は使用者の周りに竜巻が発生する。このまま突っ込んでゴーレムを戦闘不能にしようかと考えたがやめた。
何故なら残りのスキル持続秒数がわからなかった為だ。今まではゴンザレスのサポートで残り秒数を把握できたが、擬人化して意思疎通ができなくなった為に残り秒数を知らせるサポートはない。
迂闊だった。索敵機能のマッピングを視覚領域に表示できるから大丈夫だろうと安心しきっていた。実際に戦闘になってから気づくとは情けない。あとでゴンザレスと今後の打ち合わせをしなくては。
さて、なら今この状況をどうするか。『炎剣・イグニア』の切れ味を確かめてみたかったが、遠距離で一気にカタをつけるしかあるまい。スキル使用制限は1日に3回しかないが。
剣を上段に構える。竜巻越しで見えるゴーレムは上体を起こし始めたところだ。
まだ、まだだ。スキルが消えた瞬間に――――。
竜巻が徐々に弱り始め、そして消えた。
――――撃ち込む!!!
「スキル『炎剣爆豪』!!」
一気に『炎剣・イグニア』を振り下ろすと、灼熱の炎の斬撃がゴーレム目掛けて飛んで爆発し、粉々に吹き飛んだ。
爆発音が収まる頃に、上空から小さな小石がパラパラと降ってくる。
試験官の方を見ると笑顔で拍手をしながら俺の方へやってきて、小さなクリスタルを渡してきた。
「おめでとう、これは大会参加資格者の証だ。これで君は大会にエントリーできる。さ、おいきなさい」
「ありがとうございます」
ゴンザレス達のところに戻ると、笑顔で出迎えてくれた。
「お疲れシノ。ゴーレムに捕まりそうになった時はヒヤヒヤしたけど、勝てて良かったわ」
「いやホント、俺も焦ったよ。ゴンザレス、宿に戻ったら大事な話があるんだが――」
「え!? だ、大事な話ですか? はっ! まさか昨日の夜、マスターにしたことがバレたとか……あわわわわ」
ゴンザレスが急にテンパり始めた。
「いや、今後の戦闘サポートについての話なんだが……」
「え……。そ、そうですか。ホッ……。分かりました、では宿に戻ったら早速打ち合わせをしましょう」
ゴンザレス、お前は昨日の夜俺に一体何をしたんだ……。凄く気になるぞ。
「あのー、皆様そろそろ馬車に乗っていただけないでしょうか? ギルドに戻りますので」
ギルドの受付職員に施され、慌てて馬車に乗り込むとそのままアムールの街へと戻っていった。
◇
「えええええええええ!! シノノメ様はLv1なのですか!?」
時刻はお昼過ぎ。ギルドのロビーで受付の男の声が響き渡る。試験を終えてギルドに戻り、正式なエントリーを済ます為に冒険者の証であるクリスタル・ペンダントを提示してくれと言われて渡したら驚かれた。
無理もない。だってLvが上がらないから。しかし、毎度毎度この反応は疲れる。
そして受付の男の声を聞きつけて奥の部屋から恰幅の良い中年女性が現れた。
ボニアギルド長――。通称ビックマムだ。
「どうしたんだい、大きな声を上げて。周りに迷惑をかけるんじゃないよ」
「あ、ビックマム! すみません、じ、実は先程この方の大会出場の試験を行って帰ってきたのです。結果は合格でしたので正式にエントリ―する為、クリスタルペンダントをお預かりしたところ、この方のLvは1との表記が……」
「ほう……。坊や、もしかして名前はシノノメ・トオルかい?」
あれ? なんで俺の名前知ってるんだ?
「ギルド長、シノの事知っているの? もしかして昨日シノが街で盗人捕まえたから名前知っていたとか?」
「盗人の話は知らないが、あんたのことはギルド本部から連絡が来ているよ。つい先日聞いたばかりだけどね。
なんでもLv1で『 C 』ランクの魔物を倒したとかいうじゃないか。ジェリックからの報告が本当かどうか、本人が現れたら真意を確かめろってお達しが出てるのさ。それに本人だった場合にはギルド本部まで連れてくるようにとね」
「マスター、お尋ね者みたいな感じですね」
「マジか」
にしてもなんで今更……。ジェリックさんの話だとそんな与太話は信じないって感じだったのに、どういう風の吹き回しだ?
「マスターマスター、もしかしてラファーガルの件では……。 ジェリックが本部に報告したのはLv1で『 C 』ランクの魔物を倒したという件だけです。その後に時間差で本部に報告が上がったのではないでしょうか」
「あー……、ありえるな。ボニアギルド長、他に本部の方から俺について言ってませんでしたか?」
「親しみを込めてビックマムとお呼びシノ坊。まぁ、『 A 』ランクのクエストを受けさせてみろとか言ってたねぇ。ま、あたしも同行するのが条件だったけど」
シ、シノ坊って。なんか親しみやすい近所のおばちゃんみたいなノリだぞこの人。
「大会の参加資格を得たってことは『 A 』ランク相当のゴーレムを倒したってことだろ? 面白いじゃないか、その実力をあたしにも見せて欲しいねぇ。何、シノ坊をどうこうしようってわけじゃないよ?
あたしも元冒険者だ。面白い話には目がなくてね。興味本位ってやつだよ、ワハハハハ!」
「ビ、ビックマム!? またそういう悪い癖が! 真面目に仕事してくださいよ~!」
腹を突き出し豪快に笑うビックマムにギルド職員が涙目で嗜める。
あー、ここのギルド職員の人達ビックマムに対して苦労してるんだなー……。
「ビックマム、それは此処の『 A 』ランククエストを受けてもいいという事ですか? クエスト達成したら報酬は――」
「勿論出すよ。ま、あたしも元『 A 』ランクの冒険者だからシノ坊が死にそうになったら助けてやるよ。ただし、失敗したら報酬は無しだがね」
「シノ、この話に乗ってみたら? 別に私のLvやランクは気にしなくていいからね。私も追いつくつもりでいるから」
むむむ……。どうしようか。急に手のひらを返された様で変に勘ぐってしまう。でも、メリット・デメリットで考えればこの話に乗ったほうがいいか?
「ビックマム、もしこの話に乗ったら俺のギルドランク上がりますか? Lvが低くても」
「上がるんじゃないかい? その為に本部が確認しろと各ギルドにお達しを出してるんだからね。まぁ、受ける受けないはシノ坊の自由だよ」
「……分かりました。ランクが上がるのはこちらも都合がいい。お願いします」
「そうかい。じゃー、あそこの掲示板で好きな『 A 』ランククエストを選んできな。それと準備も必要になるだろうから出発は明日にしようか」
ビックマムは親指でクイッと掲示板を指差す。
よし、んじゃ早速。ってそうだ、掲示板でクエスト選ぶ前に一言わないと。
「ビックマム、彼女たちは俺のパーティーメンバーなんですけど、一緒に同行させても構わないですか?」
「構わないよ。ただし、怪我したりしても自己責任だからね」
「大丈夫です、マスターは私とリリィのことを絶対に守りきってくれますから」
「ふふ、そうね」
ゴンザレスは胸を張りながら腰に手を当て、リリィは笑っている。
「ははは、随分とこの嬢ちゃんに信頼されているんだねシノ坊。若いっていいねぇ! あたしも昔は――」
話が長くなりそうなのでさっさと掲示板に向かって行った。




