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39.寝顔~ゴンザレス視点~

深夜にイチャラブシーンを書こうとすると、斜め上な方向の展開に行きそうになり、自分でもわけがわからなくなる。

 私の髪を梳く手が止まり、マスターの寝息が聞こえてくる。


 薄目でマスターの寝顔を確認した後、ゆっくりと瞼を開ける。


 先程、髪を梳かれている時に意識が覚醒したのだが、寝たふりを続けていた。


 もう少し至福の時間を味わいたかった為だ。


 寝ているマスターの顔を覗くと、その可愛らしい寝顔に胸がキュンとする。


 ほんわかした気持ちと同時に切ない気持ちにもなり、リリィと浴場で会話していた時の内容を思い出す。


 

 ◇



「リリィ、一つお聞きしてもよろしいでしょうか」


「ん? ゴンちゃんどうしたの? おねーさんに答えられることだったらなんでも答えるよ」


 リリィは湯船につかりながら優しい眼差しを向けてくる。


 どうやらリリィは私のことを、年下の妹を扱うように接してくれている。


「実は、マスターのことを考えると胸のあたりがキュンと痛くなるのです。特にマスターが他の女性のことを見ていると余計に落ち着かなくなったり。あ、リリィは別ですからね」


「え……。ゴンちゃんそれって……」


 あの時もそうだった。マスターが『淫夢の宴』を手に入れてダラシない顔をしていた時、ムカムカとした怒りが沸き起こったのだ。


 この時、なぜ自分が『怒り』という感情を覚えたのかはわからなかった。


 ただ、後になって考えたらこれは以前マスターが言っていた『ヤキモチ』ではないかと。


 ヤキモチを抱くということはつまり――――私は本当にマスターのことが……。


 だから第三者の意見が聞きたかった。


「そっか……そっか。ゴンちゃんその気持ちはね、恋をしているから起こることなんだよ」


「恋……」


「そう。ゴンちゃん、シノのことを考えると切ない気持ちになるんでしょう? だったらそれは恋しているの。

 人を好きになるとね、その人に触れたいとか、一緒に居たいとか、独占したいとか、そういう気持ちを抱くものなの」


 私は黙ってリリィの言葉に耳を傾ける。


「だけど、本当に大切なのは……相手の幸せの為に大切にしたいって想う気持ちかな。そういう気持ちを抱いたらそれは好きだってことだよ。いや、むしろ愛?」


 リリィの言葉はあの時の夜、マスターが私に言った言葉と同じものだった。


 その時、私は自覚する。


 ああ、やはり自分はマスターのことが好きなんだと。


「でもそっか……。ゴンちゃんもシノのことが好きなんだね」


 リリィは苦笑している。


「も? リリィはもしかしてマスターの事が……」


「たはは……うん……シノの事が好き。って、ごめんね。ゴンちゃんの恋愛相談の話で私の気持ちまで吐露しちゃって……」


「いえ、そんな……」


「あいつ、自分が辛いくせに人の心配ばかりするじゃない? 今のご時世、こんな奴がいるんだって思ってたらいつの間にかシノのことが好きになっていたの」


 マスターは優しい。生まれてきた環境にもよるのだろうが、あそこまで人に優しく出来る人間はそうそういないだろう。


「その、リリィはマスターに告白はしないのですか?」


「私はあいつに恩返しをしたい。正直この気持ちを伝えたいけど、あいつは元の世界に戻るという目標があるから……。だから、この好きという気持ちは伝えられない……」


「リリィ……」


 この時、リリィの気持ちが痛いほどよくわかった。


 リリィは自分の気持ちを押し殺している。


 私もマスターが元の世界に戻れるよう願っている。もし、この気持ちを告白すればきっとマスターは困ってしまうだろう。


「リリィの気持ち凄くわかります! 私もマスターには元の世界に戻ってもらいたいです。その為に私は……私は……」


 目が熱くなり、頬を何かが流れる。


 これは涙……?


「ゴンちゃん…………無理しなくていいよ……」


 不意にリリィに抱きしめられる。


「……それにこれは私の意地の問題よ。ゴンちゃんは無理をしなくていいわ。あいつのことだから、告白すればきっと受け止めてもらえると思う。だから、私のことは気にしないで」


「いえ、リリィの気持ちは痛い程わかります。好きと言うだけが愛じゃない……。相手の幸せの為に身を引くことさえ……リリィは強いですね」


「ゴンちゃん……」


 私は涙を手で拭く。


「お互い、大変な人を好きになってしまいましたね」


「くすっ。そうだね」


 リリィは私から少し離れて、涙を拭いている。


「ねぇ、ゴンちゃん。シノは元の世界に戻れるのかな……」


「ええ、必ず――マスターを元の世界に戻してみせます。それが私の使命です」



 ◇


 

 月明かりの光りがマスターの顔を照らしている。


 マスターの顔を覗いていると、今更ながらに顔が近いことに気づく。なぜなら私がマスターの腕に抱きついて寝ているからだ。


 数センチ先にはマスターの唇があり、キスをしたい衝動に駆られる。

 

 好きな人とキスをできたらどれほど幸せだろうか。


 キスしたい……。だけど、これはフェアじゃない。リリィに申し訳ない。


 ぐるぐると頭の中で葛藤する。


 でも、これくらいならいいよね?


 私は人差し指をマスターの唇をそっとなぞり、自分の唇に当てる。


 いけないことをしているのはわかっている。


 でもたったこれだけのことで、頭の中がふにゃりとトロけるような感じになった。


 はう……。


 顔が徐々に熱くなるのを感じ、悶えてしまう。


「ん~……」


 はっ! いけないいけない。マスターが起きてしまう。お、落ち着くのよ私!


 ゆっくりと深呼吸をすると徐々に気持ちが落ち着いてきた。


 ふぅ。ダメですね私は……。



 静かに寝息をたてているマスターの寝顔を見つめる。



 マスター……私は役に立っていますか……?



 マスター……私はあなたの役にもっと立ちたいです。



 マスター…………私はあなたのことが……。



 心の中でマスターに問いかける。



 しかし、いつまで待っていてもマスターの声は聞こえてこなかった。



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