20.ギルドとの交渉
「う……、ここは……」
目が覚めると天井が視界に入る。辺りを見回して見ると見知らぬ部屋のベットに寝ていた。そしてその隣にはモナが椅子に腰掛けてウトウトしている。
上半身を起こし、腰ベルトのケースにしまってあるスマートフォンを確認する。ちゃんとケースに収まっていることに安堵し、溜息を一つ。
「ん……」
ウトウトしていたモナが起き、こちらを見てきた。
「あ、シノノメ君! よかった~、急に倒れ込んで気絶したからビックリしちゃったよ」
「すみません、ご迷惑をおかけして。モナさんずっと見ていてくれてたんですか?」
「そうよ。ここはギルド職員の仮眠室なの。運んだのは他の職員なんだけど、看病してあげないと思って。それに前に貰ったクリスタルのランプのお礼も兼ねてね」
どれくらい気絶していたのか、腕に巻きつけているスマホウォッチで時刻を確かめる。現在の時刻は午後9時を回っていた。どうやら3時間程意識を失っていたようだ。
そうか、モナさんずっと俺の隣で看病していてくれてたのか。
モナの気遣いに嬉しく思う。
「あの、ありがとうございます。それと、西の方角に現れた巨大な霧はどうなりましたか?」
ベットから身を乗り出す。
「ちょ、ちょっと落ち着いてシノノメ君。 えっと一つずつ順を追って説明するね。、ギルド長ジェリック様が居ない今、副ギルド長であるアスター様が指揮をとっているの。
本当はギルドが直接動くことはないのだけど、異常事態だからね。ギルド側で偵察依頼を出したわ。自然現象なのか人為的なものなのか判らないから」
「偵察ですか」
「ええ、王国側もこの異常事態に動くと思うから、先にギルド側で情報収集するの。このベスパ街のギルドが近いから。既に一刻程前に30人の冒険者が依頼を受け馬車で出発したわ。
夜の移動はかなり危険なんだけど……、取り返しのつかない事態が起きてからでは遅いってことらしいわ」
既に1~2時間程前に出発したようだ。しまった……出遅れてしまった。しかし、30人もクエストを受けたのか。まぁ、あれだけ遠目でもわかるように巨大な霧だから、30人で偵察ってのも少ないほうなのかもしれないが。
「あの! 俺もそのクエストを受け―――」
「ダメよ」
即答で却下された。
「初めに言っておくけど、偵察クエストのランクは「C」~「S」までの冒険者。本当は高ランクの「A」以上の冒険者にお願いしたいところなんだけど、集まっていた冒険者たちの中にはいなかったの。人手が欲しかったから、一部ランク解除されたんだけど……」
「ぐっ……、お願いします。あの霧の方角にはノアル村が……、お世話になった人たちがいるんです。どうしても安否を確かめたいんです」
膝の上で握りこぶしを作り、モナに懇願し頭を下げる。
「……気持ちはわかるわ。でもごめんなさい。私にはそんな権限ないの」
すまなそうな顔をしてモナは首を振る。
部屋の中に静寂が訪れる。
どうする。走ってでも向かうべきか。しかし、距離がありすぎる。時間がかかるし何より体力が持つかどうか。
やはり、馬車で向かうしかない。なら、ギルドで依頼を受け馬車を出してもらうのが一番いいんだが……、何か説得する方法はないか。
「あ!」
『アイテム収納』の中に入っているアイテムを思い出す。
「ど、どうしたの!? 大声あげて」
「モナさん、今から俺の能力を使います」
「え? 能力?」
キョトンとするモナを尻目に、『アイテム収納』からアイテムを取り出す。
「クイックオープン、預言書【凶報の1ページ】」
空間がガラスのように弾け、A4サイズ程の洋紙が具現化され、それを手に取る。
「ほんと、何もない空間から物が出てくるなんて、何度見ても凄いわね……」
モナは関心している。
(ゴンザレス、この『預言書【凶報の1ページ】』を使用するにはどうすればいい?)
『未来を書き込めと念じるだけです、マスター』
そうか、わかった。意識を集中し念じる。
もし、霧のことに関して書き込まれたら、これを説得材料にして交渉するしかない。本当は何も出てこなければ一番いいのだが何故か嫌な予感がするのだ。
すると、何も書かれていなかった洋紙に文字が浮かび上がってくる。
「シノノメ君、これ何?」
「これは『預言書【凶報の1ページ】』といって、使用から7日以内に対象の身の回りに起こる事件が予言され、洋紙に書き込まれるアイテムです。この場合対象者は俺なんですけどね」
「何そのマジックアイテム!! 未来予知できるの!?」
「ええ、まぁ。ただ何もなければ書き込まれないですけど。……文字が浮かび上がってきてますね」
モナと話しているうち、洋紙に文字が完全に浮かび上がってたが日本語で書かれてはいなかった。
「なんて書いてあるか見せて」
モナが隣に座り、洋紙を覗き込んでくる。ちょ、ちょっとモナさん近い。
『マスター。解読機能を起動させます』
ちょっと不機嫌なゴンザレスが解読機能を起動し、洋紙に書き込まれた文字を読む。
「えっと、『深い深い霧の奥、哀れな30匹の子羊たちは迷い込む。自ら死地に向かっているとも知らずに……。目覚めた狩人は子羊たちを喰らいつくし、歓喜の叫びを上げるだろう。羊飼いは涙する、その中に大切な子羊たちがいたことに……』」
「ね、ねぇ、この深い霧と30匹の子羊たちって……まさか」
「巨大な霧の偵察に向かった30人の冒険者と一致しますね」
モナが青ざめる。
「どどどどどうしよう! 偵察にいった冒険者全員死んじゃうってこと!? た、大変だわ!」
「モナさん、落ち着いてください!」
「だってだって! みんな死んじゃうくらいの何かがあるってことよ!?」
モナは「あ~もう!」と頭を抱える。
洋紙には『目覚めた狩人』と書いてある。あの霧の奥には得体の知れない何かがいるのだろう。そして最後の一文が気にかかる。大切な子羊たちってなんだ? 冒険者で知り合いは……ま、まさか―――。
「モナさん、クエストを受けた冒険者の中にマッドドック、ボナンザ、ミーナ、リリィって言う名の冒険者がいたか分かりますか?」
「え? 流石に全ての冒険者の名前は分からないけど、受諾リストをみればわかるわ」
「そうですか。なら、後でリストを確認させてください。それと、この内容を副ギルド長に見せましょう」
「そ、そうね。何もしないよりはいいわ。ついて来てシノノメ君」
モナの後を追い、部屋を出て行く。
◇
3階にある副ギルド長アスターの執務室前に着く。緊急事態の為か、夜の9時を過ぎていてもギルド職員たちはまだギルドの建物内にいるようだった。
モナは執務室の扉を2回ノックする。
「副ギルド長、お話があるのですが入ってもよろしいでしょうか」
「入りたまえ」
モナが扉を開け中に入る。その後をついていく。
部屋の中は質素だった。部屋の中央奥に机が一つだけあり、その席に頭の中央がハゲた中年男性がいた。
「ああ、モナ君か。話って何んだい。できれば手短にしてほしいなぁ。ああ、なんでこんな異常事態な時にジェリック君はいないんだ。私の判断は正しかっただろうか」
副ギルド長アスターは机に肘を付き、頭を抱え込んでいる。な、なんだこの人。ジェリックギルド長とは違ってえらい気弱な人だな。
「アスター様、実はあの霧のことでご報告したいことがあるのです」
「む! な、何か起きたのかね!」
ガタっと椅子から立ち上がるアスター。
「実は、こちらの冒険者が所持していた未来予知のマジックアイテムでこのような結果がでまして」
モナはアスターの前に『預言書【凶報の1ページ】』を置く。
「未来を予知するマジックアイテム? ……それと、君は誰だい? 冒険者と言ったが」
「彼は、ジェリック様がギルド本部へ出向くことになった渦中の人物です」
「東雲 透といいます」
「シノノメ? ああ! Lv1で「C」・「B」ランクの魔物を倒したっていう問題児君か!」
げ! やっぱり俺ギルド内では問題児扱いされていたのか。
『無茶苦茶な事してきましたもんね、マスター』
(耳が痛いこと言うなよ、ゴンザレス)
「ええ、あの問題児くんです。その問題児であるシノノメ様が、そのお手元にあるマジックアイテムで未来予知した結果、大変なことが予知されました」
アスターは目の前に置かれている洋紙を読み始める。
「……――――!! この30匹の子羊たちっていうのは、偵察クエストを受けた30人の冒険者ということかい?」
「ええ、そうです。アスター様。信じられないかもしれませんが、彼は私の目の前でそのマジックアイテムを使い、その内容を予言させました」
「モナ君のことだ、嘘はついてはいないのだろう。だが、この内容が本物だとしてどうする? 既に冒険者たちは出発しているぞ。それに……「C」「B」ランクの冒険者たちが全滅してしまう程だとしたら、「A」ランク以上の何かがいるということだ。
いまある現状ではどうにもならん。もう王都の王国騎士隊に頼るしかあるまい。あ~、ストレスで髪の毛がさらに抜けそうだ」
アスターは椅子に座り直し、机に肘をつけ溜息を一つ。
「あの、俺が後を追って皆を連れ戻してきます」
「君が?」
「ええ」
アスターはじっと目を見てくる。
「ちょ、ちょっと、シノノメ君! またそんなことを言って!」
「まぁ、モナ君待ちたまえ。シノノメ君、正直な話我々は君の強さを測りかねている。Lv1で「B」ランクの魔物を倒したというではないか。前代未聞でどう扱えばいいのか……我々も困っている。ジェリック君はそうではないようだったが」
「そうでしょうね、言いたいことは分かります。要するに、それだけの力が俺にあるのか知りたいわけですよね」
しょうがない。やはり認めてもらうにはそれなりの力を見せつけないと駄目だということか。丁度いい、戦闘の準備がてらやるか。
右手で腰に装備しているミスリルソードを引き、左手を前面に突き出す。
「シ、シノノメ君!?」
「モナ君、落ち着きたまえ」
アスターは真意を測る為か、モナを黙らせる。
「クイックオープン、ウルカの六芒星」
突き出された左手の先の空間が弾け、1メートル程の大きさの六芒星が描かれた魔法陣が出現する。
モナは驚きながら目の前の起ころうとする光景を見ている。アスターも表情は変えないが、目が見開いていた。
ミスリルソードを六芒星が描かれている魔法陣へと落とすと、中に吸い込まれていった。
「クイックオープン、封印の氷地獄」
突き出した右手先から一欠片の氷が具現化し、自由落下しながら魔法陣の中へと吸い込ませていく。余程の冷気なのか空気中の水分を凍らせ、自由落下していく軌跡にダイヤモンドダストを起こす。
2つのアイテムを吸い込んだ魔法陣が輝きだし、弾けるとともに一つのアイテムが具現化された。
白銀色の刃だったミスリルソードが、青い燐光を帯びている。それを手に取り、右斜めにひと振り。シャリィィィンと音と共に空気中の水分が氷り、ダイヤモンドダストが起きる。
よかった。合成は成功したみたいだ。氷属性を帯びたミスリルソードを確認した後、2人の方へと見ると口をアングリと開けながら驚いていた。
「え? え? え!? 今の何!? け、剣が冷気を帯びている……凄い」
「き、君は錬金術師なのかね……いや、まさか目の前でそんな簡単に錬金術を行うなんて……ありえない」
2人共各々に驚いている。
「俺がLv1で「B」ランクの魔物を倒した理由、これでお分かりになっていただけましたか? アスター副ギルド長」
「あ、ああ。まさかこれ程までの能力の持ち主とは……き、君、是非うちのギルドの職員にならないかね!?」
「アスター様!? 話の論点がズレています!」
「ああ、すまん! 余りの凄さに当てられてしまったようだ。申し訳ない。そ、そうか、君がどれほど凄いのかはわかった。だが君はLv1の「E」ランクだ。ギルド職員として、低ランクの者を行かせるわけにはいかない。私にも立場というものがあるのだ。しかし……」
アスターはひと呼吸の間を置く。
「君が勝手にギルドの馬車を使い現地に赴いていったというのなら話は別だがね」
アスターの一言に俺はニヤリと笑った。
「そうですか、正式にクエストを受けられないならお暇します。では」
部屋を出ていこうとすると、アスターが咳払いを一つした。
「あー、そういえばギルド職員に補助魔法が使える者がいたな。モナ君、第2陣の偵察用に馬車と御者の用意を。それと夜道を照らすライティング魔法を使える職員を待機させておくように」
アスターの配慮に感謝しつつ、部屋を出て行く。
「アスター様、本当によろしいのですか? 私知りませんからね」
「ん? なんのことかな?」
扉越しにアスターの惚けた声が聞こえてきた。




