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02.初めての戦闘

 ゴンザレスの機能によって、視覚領域に表示されている矢印の方向へと走る。

体感時間にして数十分走ったような気がした。実際には十数秒程なのだろうが。


 途中、進むにつれて矢印が下の方へと方向を示す。なんで徐々に下へ向いているのか、直ぐに理解した。


 数メートル先は、傾斜になっている。徐々に走る速度を落とし、傾斜付近に生えている木の影に隠れてからその先を覗く。


 傾斜の下は一本の道になっており、そこを一人の男が何かから逃げるように走ってきている。

 遠く越しにだが、その体は切り傷が付けられたようにボロボロだった。腕から血を流している。


 そしてその男の後ろには、緑色をした小人が手に凶器を持ちながら追いかけてきていた。数は5匹。各々の手には剣、斧、ナイフ等を握っている。


 よくファンタジー漫画で見るゴブリンの様な姿だった。


 「おいおい、マジでゴブリンなんかいるのかよ。なんだよこの世界……。普通に人を襲ってるじゃないか」


 醜い顔立ち、そして遠くからでも聞こえる甲高い耳障りな叫び声が聞こえ気分が悪くなる。


 「#$&”、#%、#%、□$、∀÷、#$&”!」


 何を言っているかはわからないが、獲物を追い込む事を楽しんでいるようだった。

 逃げている男とゴブリンの距離は十数メートル程だろうか。追いつかれるのは時間の問題だろう。


 「ゴ、ゴンザレス、どうすればいい!? あの人殺されちまう!」

挿絵(By みてみん)


 『マスターが所持している『プロミネンスの杖』で十分に殲滅できます』


 ゴンザレスに言われて気づく。そう、先程ソウルガチャで手に入れた『プロミネンスの杖』。


 これを使えばあの5匹のゴブリンを倒せるかもしれない。それに男とゴブリンの距離がまだ開いている今なら、男には被害が及ばないだろう。

 しかし本当にうまくいくのか、頭の中でそんな疑念がグルグルと回る。躊躇している内に男が転んだ。

 やばい! と思った瞬間、体が勝手に動いていた。


 くそ! くそ! くそ! なんで! 


 傾斜を滑り降りながら、無我夢中で男の方へと向かう。

 そして男の庇うように、此方へ向かってきているゴブリン達の前に立ち塞がる。


 「▽÷! #$&’#”、#%、□$、#$&”!」


 醜い顔をさらに歪めながら向かってくるゴブリン達を目のあたりにし、手が震える。


 頼む! 魔法よ、発動してくれ!


 神にも祈る気持ちで、ゴブリン達に杖を向け起動言語トリガーを唱えた。


 「プロミネンス・フレアッ!!!」


 すると、先端の赤い宝石が輝きその周りを赤い燐光が集まり、一つの魔法陣を描いていく。

 瞬時に魔法陣が描かれると、その中央から幅が1メートル程の蛇の様な形をした炎のうねりが起きる。此方に向かってきているゴブリン達に発射し、蛇の様な炎はゴブリン達を飲み込んだあと火柱を上げ燃やしていった。


 炎が収まるとそこには、焼け焦げ炭化したゴブリン達の死体があり、その死体の上には青白く光る球体が出現していた。


 あまりの凄さに呆然とする。


 ……た、助かったのか。


 助かった安堵に足の力が抜け、その場にへたり込んでしまう。

 これで俺は確信した。ここは異世界だ。ゴブリンなんて生き物は地球にはいない。


 『おめでとうございます、マスター』


 「ああ、ありがとう。………あ、そういえばさっきの男の人は!?」


 ゴブリンに追いかけられていた男を思い出し、男の方へと向き直る。

 男は座り込んだまま呆然と、焼け焦げたゴブリンの死体と俺を見ていた。


 「……&”#$%’…」


 男が喋りかけてきたが、何を言っているかわからなかった。

 異世界だから言葉が通じないのは当たり前か。さて、どうしたものか……。


(ゴンザレス、この人が何言ってるかわかるか? 言葉が全然わからないのだが)


 『肯定。「……あんたはいったい…」と言っています』


 うーん、相手の話の内容が分かってもこちらの話が通じないと会話が成立しないしな……。


 一人で唸っていると、ゴンザレスの音声が響いてくる。


 『マスター、サポートAI機能の中に言語疎通の項目がありますが、起動しますか? 』 


(ん? なんだそれは?)


 『お互の言葉の意味を直接伝えることが可能な機能です』


(ほ、本当か! そんな便利な機能があるのか! よし、起動してくれゴンザレス)


 『肯定。言語疎通の機能を起動します』


 起動しても特に体にこれといった変化はなかった。とりあえず、助けた男に話しかけてみる。


 「えっと、大丈夫ですか?」


 「……あ、ああ、助けてくれたのか……?」


 どうやら言葉が通じたことに胸を撫で下ろす。


 「ええ、偶然この小人の化物に襲われているところを目撃したので」


 そこまで言った時、傷だらけの男は緊張していた顔を緩める。


 「……あんた、盗賊じゃなさそうだな……」


 「盗賊?」


 首をかしげると、男は慌てたように弁解する。


 「すまん! 物盗りかと思ってしまって。気を悪くさせたら謝る」


 なるほど。確かに突然現れた男が助けてくれたとしても、それが善人の可能性は無いと疑っていたわけか。


 「いえ、こんな森の中で道から外れた場所から人が出てくれば、盗賊と思われても仕方がないですよね」


 自分で言っていて冷や汗が出た。もし本当にこの近くに盗賊が潜んでいたら、俺が危険な目に遭うということだ。

 後、ゴブリンの様な化物に遭遇する危険性があったことにも。


 「ところであんた、なんで森の中から――、……ぐっ!……いつつ……」


 男は痛みからか右腕の傷口を押さえる。


 「だ、大丈夫ですか!? えっと、カバンの中に確かタオルが……あった!」


 ショルダーバッグの中からタオルを取り出すと、男の出血している右腕を止血するためにタオルをキツく巻き閉める。


 「……あんちゃん、すまんな。助けてもらった上に手当までしてくれて」


 「いえ、応急処置程度ですから」


 「話を戻すが、あんちゃんここで何してたんだ? 山菜取りか? 狩りにしちゃ……やけに軽装備すぎるしな」


 なんて答えればいいか。


 「あー……、説明してもいいんですけど、言っても多分、信じてもらえないかと……」


 返答に困り、苦笑する。


 「なんだ、あんちゃん。ワケありかい?」


 男が立ち上がろうとしたので、肩を貸す。


 「あの、ここから移動しませんか? 化物も出るようですし、安全な所に移動したほうが。近くに街とかあります?」


 「ああ、ここからだと俺の村が近い。俺は先程村から出てきたところなんだ。 この先にあるベスパ街に用があってな……。

 だが、馬もゴブリンに殺られてしまったし、この傷で向かうにはきついな。……仕方がない、村の皆には悪いが1度村に戻るか」


 どうやらこの男もワケありのようだ。


 「ええ、そうした方がいいと思いますよ。1度戻ってちゃんとした手当を受けたほうがいいです。村まで送りますよ」


 「あんちゃん、すまんな……」


 男に肩を貸し歩き出そうとすると、ゴンザレスの声が脳内に響いてきた。


 『マスター、ソウルの回収は如何なさいましょうか?』


 ん? ソウル? ……あ! そういえばゴブリンを倒したら青白く光る球体があったな。あれがソウルなのか?


 回収する前に、確認しておかなければならないことがあるな。


 「あの、一ついいですか?」


 「ん? なんだ?」


 「焼け焦げたゴブリンの死体の上に、青白く光る球体が見えますか?」


 男はゴブリンの死体を、目を細めて見る。


 「いや? そんなもの見えないが、どうかしたのか?」


 「いえ、特に意味はないです。気にしないでください」


 男は首を傾げていた。


 なるほど、結論から言うとどうやら俺以外ではソウルは見えていないようである。これは好都合だった。ソウルが見えていないのなら、回収するのに困らないからだ。


(ゴンザレス、俺の代わりに『ソウル収集』を起動してくれないか?)


 『肯定。『ソウル収集』を起動します』


 ゴンザレスが『ソウル収集』を起動させると、5つのソウルが上空に上がり、弧を描きながら俺の右ポケットにしまってあるスマートフォンへと吸い込まれていった。


 おお、なんか……かっこいいぞ! 決め台詞を言いたくなる。


 「どうした、あんちゃん?」


 男に声を掛けられ、我にかえる。


 「いえ、ちょっと考え事を……ははは……さ、村まで行きましょう。また化物が出てきたら俺がなんとかしてみせます」


 そう言いながら『プロミネンスの杖』をしっかりと握りしめ、辺りを警戒しつつ男と一緒に歩き出していく。


 男と村までの道の途中、色々と話をした。この男の名前はダルク。ここから西に行った所にノアルという村が有り、ダルクはそこの村の住人であるという。

 先日、魔物に農作物を荒らされ村に被害が出たために、東にあるベスパという町のハンターギルドに討伐依頼の申請をしに行く途中だったとか。


 馬でベスパ町へ向かう途中に先程いた森の中で魔物であるゴブリンに襲われ、俺に助けられたというのが経緯だった。

 草原の鋪装されていない道を歩きながら、思案する。


 やはり先程の醜い小人はゴブリンだったのか。それに、村を魔物に襲われたとか……この世界かなり危険だ。なんとかして、元の世界に帰らなければ。


 しかし、どうやって元の世界に戻るか……。

 

 「なぁ、シノノっあいたっ!! 舌噛んだ……」


 「言いづらいならシノでいいですよ。友人達にはそう呼ばれていましたし」


 「そ、そうか? ではシノと呼ばせてもらうよ」


 「ええ、構いませんよ。……ん? あの先に見えるいくつもの建物、あれがノアル村ですか?」

 

 「ああ、そうだ。村についたらまず村長に会わせよう。助けてもらったことを報告したい。……それと、ベスパに行けなかったことも含めてな」


 ダルクは落ち込んでいく。


 それ以降、お互いに会話もなく村まで進んでいった。


 

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