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13.懸念

 ハンターギルドはベスパの街の中央にあった。様々な武器武具を装備した冒険者達が出入りしていてとても活気がある。

 建物は茶色いレンガで建てられていてその屋根の上には鐘楼の塔があり、その存在感を示していた。


 装備も新調し、気分は上々。このクローム装備の腰ベルトには小物を入れる革のケースがあり、そこにスマートフォンをしまっている。

 俺の魂と連動しているスマートフォンを破壊されれば、そこで俺の命も尽きるのだから戦闘の際には気をつけなければならない。


 深呼吸をし、気合を入れる。


「ガハハハハ、シノ。随分と緊張しているではないか。リラックスしろリラックス」


「何言ってるのマッド。ビギナーなんて最初は緊張し心躍らせるものよ。私も最初はそうだったもの」


「ほう、神経の図太いリリィでも――――」


 言わずもがな、一言多いマッドをミーナのアイアンクローが襲う。

 そんなやりとりを無視し、俺は扉が開け放たれた入口へ向かい中へと入っていく。


 中に入ると大理石で出来た広いロビーに沢山の冒険者達が溢れかえっていた。

 特に人が多いのはいくつもある受付のあるカウンターの前と、洋紙が貼られている掲示板の周りだった。

 掲示板に貼られてる洋紙を剥ぎ取り、受付カウンターで受諾をしているためだろう。


「ふふ、シノッチ。冒険者登録はあっちのカウンターよ」


「ありがとう、ボナ」


「どういたしまして」


 ボナはウインクをし、投げキッスをしてきた。

 うっぷ……。ボナンザさん、本当やめてもらいたいです。その投げキッス。


「さてと、シノ。街の案内はこんなもんでいいかの?」


「はい、色々とお世話になりました。これからは自分1人で頑張ってみようと思います」


「そうか。ではワシらも本業に戻ろうかの」 


「シノさん、リリィちゃんの怪我を治していただきありがとうございますね」


 ミーナが深々と頭を下げる。


「ま、あんたも死なない程度に頑張りなさいよ」


 リリィが照れた様に顔を赤くし、口を「への字」にしてそっぽを向いていた。


「じゃーねん」


 ボナンザは何も言わずにまた投げキッスをしてきた。 


「シノ。まだワシらはこの街に滞在しているから、また会うこともあろうの」


 マッドが太い右腕を上げる。


「はい。また会いましょう」


 マッド達と別れ、俺は冒険者登録ができるカウンターへと向かっていった。



 ◇



「ようこそベスパのハンターギルドへ。こちらは冒険者登録の受付となっております」


 受付カウンターまで行くと童顔で胸がたわわな可愛い受付女性がいた。

 あまりの可愛さに一瞬キョドってしまう。


 落ち着け俺、毎回毎回女性に気後れしてたらダメだろう。というか、この世界の女性って平均的に顔やスタイルがいいよな。

 嬉しいことなんだけどさ。はぁー、お近づきになりたい。


『マスター何を――――』


(はい! ゴンザレスさん何でもありません!) 


 最後まで言わせるとめんどくさいことになりそうなので、途中でゴンザレスの言葉を遮る。


『むー……』


 今までにないゴンザレスの反応に一瞬戸惑う。


「あの、どうかなさいましたか?」


 受付嬢に声を掛けられ正気に戻る。


「あ、いえ。すみません、ボーッとしてしまって。冒険者登録をしたいのですが」


「はい、承ります。ではこちらの登録証に必要事項を記入し、規約を確認した後、署名をお願い致します」


 受付嬢に差し出された洋紙にはビッシリと文字が書かれていた。


 うん、読めない。


(ゴンザレス、これ読めるか?)


『はい。読み上げますか? マスター』


 ああ、頼む。


『ギルド規約第一条、当ギルドは―――』


(ちょっ、ゴンちゃんストップストップ!)


『はい、なんでしょうか?』


(ごめん、そのまま難しい文章で読まれても理解できないから、もっと簡単に説明してもらってもいいでしょうか)


『わかりました』


 うう、自分の理解力の乏しさが恨めしい。


『えーとですね、このギルド組織はクエストを受注・発注する場所であり、発注は6つにランク分けられ難易度の低いものから


 「E」(Lv1~10)


 「D」(Lv11~20)


 「C」(Lv21~30)

 

 「B」(Lv31~40)


 「A」(Lv41~50)


 「S」(Lv51~99)


 と分けられるそうです。

 

 ランクを上げるには現ランクを10回以上成功し、尚且つ次のランクの満たすLvに上がっていることが条件であり、また、ランクを上げると2つ下の下位ランクは受注できなくなるそうです。

 クエストを5回失敗すると賠償金とランク下げ又は除名となるとのこと。クエストは主に2種に分かれていて「討伐」と「採取」に分かれます。


 討伐はその魔物の指定部位を、採取は依頼主に指定されたものを回収して提出すれば依頼達成みたいです。それとクエスト受注の最中での死亡、冒険者同士のいざこざは一切関与しないと書いてあります』


 ほほー、なるほどなるほど。


 ランクを上げるには現ランクを10回以上成功して、尚且つ次のランクの最低Lvまで上げないといけないのか。



 …………。



(え、ダメじゃん俺。だって、Lv上がらないんだよ!?)


『仕方がないかと……』


(あ、何その人を哀れむような声は。やめてくれ、悲しくなってくる)


『大丈夫です。マスターには私がついていますので安心してください』


 いや、ゴンザレスさんそういう意味で言った訳ではないんだけど。まぁいいや。とりあえず記載欄を埋めよう。


 ゴンザレス、記載する部分はなんて書いてあるんだ?


『氏名、年齢、それと規約に同意するサイン欄ですね』


 ふむ、どうやってこちらの文字で書こうか。言葉ならサポートAI機能の中の言語疎通でなんとかなっているが、読み書きはな。


『お任せくださいマスター。視覚領域に文字を投影しますのでそれをなぞって書いて頂ければ解決です』

 

 ゴンザレスは嬉々として答える。


(おお! 流石だなゴンちゃん! よし、早速投影してくれ)


『はい、かしこまりました』


 すると、俺の視界に映る洋紙の上にうっすらとした文字が浮かび上がる。それに添って俺は文字をなぞり記入する。


「よし、できた」


 登録証を受付嬢に手渡す。


「はい、確かに確認致しました。では次にこちらのクリスタルペンダントに血を一滴垂らしてください」


「これは?」


「こちらのクリスタルペンダントはハンターギルド登録者の証となります。血を垂らすことによって、このクリスタルに登録者の「氏名」「年齢」「ランク」「Lv」が表示されるようになります。

 

 またハンターギルドの協力組合に登録されているお店でこちらの証を提示することによって、値引きされることもありますのでどうぞ有効にご利用なさってください」


「その組合に加入しているお店の区別はどうやってするんです?」


「ギルドの紋章、こちらになりますね。この紋章が入口に飾られているお店が目印になります」


 そこにはドラゴンの絵が描かれていた。


「わかりました」


「ではこちらの針をお使いください」


 受付嬢に渡された細い針で左手の人差し指を刺し、血を滲ませてからクリスタルペンダントへと一滴垂らした。するとペンダントはうっすらと輝いた後に文字が浮き出てきた。


 なんかあれだな、よく観光地のお土産屋さんにあるクリスタルの中に観光名所をレーザーで掘ったアレに似ている。

 なんていうものだっけ、あれって。んー、思い出せない。ま、いっか。


「はい、登録が完了となりました。お疲れ様です」


 ふと考え事を止め、受付嬢を見るとこれで終わりだというように、深々と頭を下げていた。


 長いしてもしょうがないので俺はその場から離れる。


 これで俺もハンターギルドの冒険者の仲間入りか。このままクエストを受けてみたいがその前にやらなければならないことがある。

 そう、今後の戦闘での『ソウルガチャ』のアイテムの使用のことで、ゴンザレスと打ち合わせをしなければならない。


 まずは、今日の宿屋を決めてからだな。

 そのままギルドの出入り口へと向かい歩き出していく。




 ◇




 外に出ると既に日は傾きかけていた。


「やべ、早く宿屋を決めないとな。と言っても、宿屋のマーク知らないんだった俺……」


 しょうがない。街の人に聞くか。目の前を通り過ぎようとする男性に声を掛けようとすると、ゴンザレスに呼び止められる。


『マスター。エリア情報を視覚領域に展開できますが如何なさいましょう』


 そういえばゴンザレスそんな機能あったんだよな。忘れてた……。

 となると、午前中にマッド達に付き合ってもらう必要はなかったか。いやいや、折角好意で案内してくれたわけだし、少なくとも俺にとっては皆と縁ができたと思えばいいことか。


 しかし、さっきまで賑やかでうるさかったのに一人になると寂しい気分になるなんてな。あー、らしくないな俺。

 そんなネガティブな思考を追い払うように頬を叩く。


「よし、ゴンザレス。案内を頼む」


『かしこまりました』


 ゴンザレスに案内され、宿屋の入口の前に立つ。

 入口の上を見上げると豚の彫像が舌を「てへぺろ♪」と出しながらナイフとフォークを持っている。


『ここがギルド組合に加入している「豚の満腹亭」です』


「そうか、なんか名前からして胸焼けしそうな名前の宿屋だな」


『ちなみに今朝泊まっていた宿屋は「妖精のバージンロード亭」になります。そちらも組合に加入していますが、戻りますか?』


「よし、ここに決めよう」


 扉を開け中へと入っていくと、中の作りは今朝泊まっていた宿屋と似たような作りだった。

 カウンターにいる男性の店主に暫く止まりたいことを伝える。


「個室で1泊するなら120ルピー。共同大部屋なら80ルピーだがどうする?」


「個室で2週間分お願いします。それとこの宿のシステムを教えて欲しいのですが」


「2週間分だと1680ルピーだ。それとうちの宿のシステムだが、他の宿屋と対して変わらんよ」


「あ、すみません。一人で宿屋に泊まるのが初めてなもので」


「なんだ、あんたビギナーかい? しょうがないな、食事は2回。夕食は日が落ちて鐘楼が鳴るまでの「月夜の時間帯」と、朝食は「朝霧の時間帯」日が昇り鐘楼が鳴り始めてからだ。

 昼は夜の仕込みの準備のために昼食は出さない。要するに外で食べてこいってことだ。そうそう、風呂は共同風呂で夕食と同じ時間帯までだからな。わかったか?」


「ええ、わかりました」


「んじゃ、これがあんたの部屋の鍵になる。2階の205号室だ」


 鍵を受け取り、2階へと上がり205号室と書かれた部屋に向かう。

 部屋の中に入ると、4畳半程の広さにベットと木箱が1つ。そして小さな窓の近くの壁に机の変わりのだろうか、小さな板のようなものが固定されその上にランプが1つ。


 俺はそのままベットの上に横たわった。


 窓から差し込む夕日が徐々に弱くなり、部屋の中が真っ暗になる。すると鐘の鳴る音が聞こえてきた。ハンターギルドの鐘楼の鐘の音なのだろうか。

 そんなことを考えつつ、部屋の明かりを灯すため『アイテム収納』から『クリスタルランプ:タイプ橙色』を取り出す。


「クイックオープン、『クリスタルランプ:タイプ橙色』」


 真っ暗になった部屋の中を一瞬照らしてから、アイテムが具現化される。


 この部屋に設置されているランプを使ってもいいのだが、折角だし自前のアイテムを使うことにする。だって、『恋人との甘いひと時の雰囲気作りに最適である』とか説明文書いてあったけど、なんか使わないと悔しい。


 なので意地となってでも使う。決して寂しいというわけではない。うん。

 そんな俺の思いとは裏腹にクリスタルランプからは優しい燐光を放ちながら淡く光りだす。


 しかし和むなこれ。マジで女の子と2人っきりだったらいい雰囲気になると思う。

 っと、いかんいかん。感傷に浸っている場合じゃない。


 一人部屋だし、周りを気にせず俺は声を出してゴンザレスに呼びかける。


「ゴンザレス、『ソウルガチャ』スキルと『暴竜・ファルベオルク』の事で話がしたい」


『―――ソウルの使用制限についてですね』


「ああ、そうだ。俺の思考を読めるんだから言いたいことはわかっていたか」


『はい。前回のノアル村での戦闘で、マスターは危うく竜化の一歩手前でした。『暴竜・ファルベオルク』を切り札として使うのなら、ソウルの安全マージンを取った方がよろしいかと思います』


 そうなのだ。前回、怒りに任せて使用した際、残りのソウル数が256だったのだ。これは俺も肝を冷やした。これを切り札として安全に使うならどうすればいいか。


 今ゴンザレスが言ったようにファルベオルク専用にソウルを確保するしかない。

 現在所持しているソウル数は16409だ。


「なぁ、ゴンザレス。いま所持しているソウルの一部をファルベオルク専用にしか使えないようにとかできないか?」


 俺は自分でも自覚しているが、ガチャ中毒者ジャンキーだ。自分に言い聞かせてもついつい回してしまう癖がある。だから、俺の癖で使われないようにソウルに「ロック」ができないか考えていたのだ。


『それは可能です』


「おお、できるのか。よし、そうしたら後はどれくらいの量をファルベオルク専用としてロックを掛けるかだな」


 腕に巻きつけているスマホウォッチを起動し、『アイテム収納』に収まっている『暴竜・ファルベオルク』のアイコンをタップし、説明文を確認する。


-------------------------


 アイテム名:暴竜・ファルベオルク

 ランク  :『 UR 』

 説明   :


 48種の伝説の竜のうちが一つ、


 『暴竜・ファルベオルク』の牙から造られた大剣。


 48種の竜から其々一本づつ造られた48ある竜剣の中で、


 最凶の部類に入ると言われている。


 竜剣と血の契約を交わすことにより、膨大な力を得る。



 『血の契約』


 装備している間だけ下記のステータスが一時的に上がる。


 1秒ごとにソウル10消費される。


 また、所持ソウルが無くなると使用者のソウルを喰らい、


 使用者を竜化させる。自我がなくなり元には戻らない。


 


 体力 :+2000


 筋力 :+2000


 防御力:+2000


 素早さ:+2000


 魔力 :+2000



 『固有スキル』


 ドラゴン・インストール:暴竜


 説明:


 暴竜の力を使用できる。


 その姿は暴君が如く。


 ソウルを2000消費することにより、更に180秒間下記のステータスが上がる。

 

 体力 :+1000


 筋力 :+1000


 防御力:+1000


 素早さ:+1000


 魔力 :+1000


 180秒間の間、スキル『グラビティ・アルファ』を撃てる。


 ただし、1度撃ったら解除される。



------------------------- 


 ファルベオルクを握れば1秒ごとにソウル10の消費。そして『固有スキル』を使えば更にソウル2000の消費……か。


 1分間使って600。さて、どれくらいストックしようか。


「なぁ、ゴンザレス。相手がLv99だった場合、どれくらいあればいいかな」


『前にも申した通り、ステータスの上がり幅は個々によって違うので一概には言えません。しかし、大抵の敵は3分間の時間があれば十分に殲滅出来るかと』


「なんか、ウル○ラ○ンみたいだな、それ……」


『そうですね……『固有スキル』を一回使用した場合も含め、6分程の安全マージンも考えると必要ソウル数は5600。そして使い切っても竜化しないよう、最終ボーダーラインの分も確保した方がいいと思われます』


「ならロックするソウル数は6000にしようか。キリがいいし。5600分はファルベオルク専用に。そして残りの400は解除の時間分として」


『はい、そのようにしたほうがよろしいかと。では早速ロックしますか?』


「ああ、頼む」


 すると、腰ベルトについているケースの隙間から光りが漏れる。中のスマートフォンが光っているためだろう。そして徐々に光は収まっていく。


『マスター、ロック完了いたしました』


「ん」


 腕に巻きつけているスマホウォッチでソウル数を確認してみると、そこには所持ソウル数16409と書かれていた数値が10409まで減りその隣にカッコで閉じられ6000と書かれたソウル数が表示されていた。


「ご苦労さん、ゴンザレス。それと、ファルベオルクを使用した際、1分置きに残り時間を知らせてくれ、ファルベオルク使うほどの緊急事態だと一々時間を気にしていたら精神的に負担になるからな。なるべく戦闘に集中したい」


 一回使用ごとに決められた消費なら自分でのペースで消費計算できるが、常時消費型だと気が焦って戦闘に集中できないからだ。


『かしこまりました。マスター』


「ん~~~~、さてと打ち合わせも済んだことだし、そろそろ食事と風呂にでも行ってくるかな」


 ベットから立ち上がり、1階へと降りていくのだった。




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