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01.課金ガチャ回したらそこは……

2020.2.28

挿絵(By みてみん)

 深い深い森の中―――――。


 一人の少女が歩いている。その姿は真っ白いローブを身に着け、フードを顔深くまで被っている。時折フードの下から見える顔立ちは十代半ばだ。

 生い茂る木々によって日の光が遮られている薄暗い森の中を、女性一人が歩くには危険だと誰もが思うだろう。しかし、その少女の足取りは迷うことなく森の中心部へと向かっていた。


 数時間歩いた末、森の中心部へと辿り着くとそこには巨大な塔が立っていた。その塔は通常の石材で出来ておらず、深い深い青色の水晶で出来ている。遥か昔に造られたというが、いつ誰が建造したのかはわからない。


 この場に似つかわしくないその塔の名はイルミナ塔と呼ばれていた。


 少女が塔の入口の前に立つと、懐から同じ色をした拳大ほどの水晶を取り出し扉の前にかざす。すると水晶が光り出し文字が浮かび上がり、固く閉ざされた石の扉が低い音と共に開いていく。


 全てが水晶で出来ている故、中はそこまでは暗くはなく光りが差し込んでいた。 扉が開ききったのを確認すると中へと進んでいく。内部は大きな部屋になっていて中央に大きな螺旋階段があり、光は階段を照らしていた。


 塔の最上階にいる神官の元へと向かうべく、螺旋階段を上がっていく。最上階に到着すると、その先に一人の皺だらけの老人と小さな祭壇があった。


 女性と同じく白いマントにフードを深く被っていて、口元から上が見えない。そして女性はそのまま老人への元へと歩きだし、その前まで着くと膝まづき頭を垂れる。


「巫女よ、来たか」


「はい、ウェイバー様」


「……よい、表をあげよ」


 神官の許しが出たので顔を上げる。下から覗くかたちとなり、ウェイバー神官の顔をみた少女は息を呑む。何故ならその両目が糸で縫い付けられていて、直視できないほどに顔が歪んでいたからだった。

 閉じている筈のその両目に睨まれているかのような錯覚を覚え、少女は咄嗟に顔を下へと背けた。


「……巫女としての使命を果たす時がきた。至宝である『円環の宝玉』が求める次なる『導きの魂』を持つ者を―――。わかっているな?」


「はい。この肉体が滅びようとも、この私の全てに掛けて……必ず」


「頼んだぞ、巫女よ。『円環の宝玉』の力が弱まっている……。浄化しきれない負のエネルギーは、4つの『元素の宝玉』に影響を及ぼす」


 彼女は立ち上がり、『円環の宝玉』が祀られている祭壇の方へと向き直る。


 祭壇の中央に祀られている宝玉は、青く淡い光を放っていた。しかし、その光は弱々しく感じる。


 宝玉へと手を伸ばすと、体に青い燐光が広がり、少女の体を分解していく。


 意識は宝玉へと吸い込まれ、宝玉が求める魂を持つ者のところへと飛ばされていった――――。




 ◇




 4月の下旬にもなると満開であった桜の花びらも散り、新しい環境へと旅立った者はそろそろ慣れる頃合だろう。


 何とか大学を留年せずに2回生に上がれた俺は安堵し、いつものように日々を過ごしている。

 朝起きて、いつものように朝飯を食わずに服を着替え、身だしなみを整える。


「よし、こんなもんかな」


 教材が入ったショルダー型のカバンを背負い、夜のうちに充電をしたスマートフォンを片手にバス停へと向かう。

 家から大学までの通学時間はおよそ1時間。その移動時間は暇なので、スマートフォンのゲームアプリで時間を潰すのが殆どだ。もしお袋がこの場にいたら、通学中も参考書とか読んで勉強しろとか言われそうだが。


 バスの停留所で、バスが来るまでスマートフォンを弄りながら並んで待つ。

 最近ハマっているキャラクター対戦型のゲームアプリを起動する。


「お、ガチャが更新されている。このキャラクター可愛いなぁ。えーと……、初回11連ガチャを引くと一枚『UR』キャラクター確定か。でも『UR』でも可愛くないイラストもあるな。ちなみに値段は……げ、4000円……」


 運営のお金を搾取する気満々の意図が見え隠れしている。


「うーん……。高いけど、欲しい……」 


 バイトで稼いではいるのだが、一人生活している学生の身としてはこの値段ちょっと高い。半額ならやるのだが。どうしようか悩んでいると、俺の後ろにひと組のカップルが並んできた。


「ねーねー、マー君。ぎゅってして~」


「まったく、しょうがないな。ほら、おいで。あずにゃん」


「やん♪ マー君あったかーい♪」


 後ろのカップルがイチャイチャし始め、彼女が居ない身分としてはやるせない気分になってくる。

 このままだと気分が凹むので、気持ちを別の方向へと無理やり向ける。

 そう、『UR』1枚確定の11連ガチャを回し、後ろのカップルを忘れるためだ。


「別に羨ましくないし」

挿絵(By みてみん)


 ボソボソと独り言をいい、スマートフォンの画面に映る『課金ガチャ』のボタンをタップする。画面に『11連ガチャを回しますか? YES / NO 』の最終確認のボタンが出る。確定『UR』で欲しいキャラクターが出るよう祈りながら、『YES』のボタンを押す。


 スマートフォンの画面には可愛いイラストの女の子が拳銃を持ちながら、無数に浮かび回る丸いガチャポンを打ち抜いていった。


 そして眩い光りと共に画面が変わり、獲得したキャラクタアイコンがまず10個表示される。

 表示されたアイコンを慎重に一個ずつ確認していく。


「ほ、殆ど『R』キャラばっかだ……。しかも、あまり可愛くないし、ついてねー……」


 がっくりと肩を落とす。


「いや、まだだ、まだ最後の1枚……。既に確定している『UR』がある」


 10個の表示されたキャラクターアイコンの画面をタップし、次の画面へと進める。眩い光と共に表示された『UR』に困惑する。


「なんだ、これ……。キャラクターじゃないぞ……」


 とりあえず、画面をタップして内容を確認する。


 -------------------------


 アイテム名:異世界への扉(一方通行)

 ランク  :『UR』

 説明   :


 使用対象者の目の前に異世界へのゲートが開かれる。


 対象者がゲートをくぐると、対象者に固有スキルが付加される。


 ただし、一度ゲートを超えたら二度と元の世界には戻れない。


 -------------------------


 はて? 何だこれは……。


 4000円も課金して出てきたのは『R』ばっかで、しかも確定『UR』が『異世界への扉』?


 「訳がわからない……」


 呆然と画面を眺めていると、停留所にバスが到着した。バスの扉が開くと、先頭の人達が次々とバスに乗り込んでいく。俺も後続者に迷惑かけるといけないと思い、慌ててバスの入口へと歩く。


「はぁ~~、4000円無駄になったな……」

挿絵(By みてみん)


 溜息をつき、再度スマートフォンの画面を見る。

 取り敢えずこの『UR』アイテムは使うとどうなるのか、試してみたくて指でタップする。


 『異世界への扉(一方通行)を使用しますか? YES / NO 』と出てきたので、バスに乗り込む際に『YES』ボタンを押した。

 すると突然、目の前にキラキラと光る鏡のような靄が現れた。


「え……?」


 いきなりだったので変な声が出てしまった。


 しかもバスに乗り込む際だったので、そのまま足を止めることもままならずキラキラと光る鏡のような靄に突っ込む。



 ◇



 視界が真っ白になったかと思うと、徐々にクリアになっていき見知らぬ森の中にポツンと一人で立っていた。


「………え”?」


 突然の光景に思考が付いていかず困惑した。 


 何処だ……此処……。訳がわからない……。

 俺さっきまでバス停にいたよな? これは夢か? こういう時どうすればいいんだ!?


 混乱している頭を必死で回転させ、まず現状を確認しようと試みる。


 そ、そうだ! スマートフォンのゲームアプリを弄っていたらこんな事に! スマホは!?


 手に持っていたスマートフォンの画面を見ると、そこには文字のログが浮かんでいた。


 『URアイテムの使用対象者、転移完了。これより使用対象者に固有スキル『ソウルガチャ』を付加するため、スマートフォンの初期化・再起動を開始します』


 画面に表示された文字を読みきると同時に、スマートフォンの電源が落ちブラックアウトする。

 数秒立ってから、画面が真っ白になり電源が立ち上がっていく。

 起動が完了すると、その画面には今までのアイコンが無くなり見慣れない別のアイコンが表示されていた。

 そのアイコンは4つ。アイコンには同じ魂のような絵柄が描いてあり、それぞれ色が違うだけだった。


 おいおいおいおい、なんだよこれ……。何がどうなっているんだよ。


 これ押しても大丈夫なのか? さっきも『異世界の扉』なんていうアイテムを押して使用したら、いきなりこんな森の中にいるし。


 暫く考える。悩んでいてもここは知らない森の中。現状は既に思わしくない。


「ああ、もう、なるようになれ!」


 もうヤケっぱちで一つ目のアイコンを押す。

 またさっきのように何か目の前に現れるのかと思い、体をこわばらせていたが何も起きてはいなかった。

 安堵の溜息を吐き、スマートフォンの画面を見るとそこには『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『レインボー』の4つの文字が表示され、更に各項目の下に『11連ガチャ』の文字が出ていた。


 そしてその画面左上には、人魂のような小さなマークのアイコンに数値があり、10000と表示されている。

 反対の画面右上には『ヘルプ』アイコンがある。取り敢えずこの『ヘルプ』アイコンを押せば、何かわかるかも知れない。


 もう迷わず『ヘルプ』をタップすると、説明文が表示された。


-------------------------


 アプリ1:固有スキル『ソウルガチャ』

 説明 :


 4つのランクのガチャがあり、所持ソウル数に応じたランクガチャを回せる。


 ランクは『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『レインボー』でソウル使用数は左から『100個』 『300個』 『500個』 『1000個』である。


 ソウル使用数の多いガチャ程、ランクの高いアイテムが手に入る確率が上がる。また、そのランクでしか手に入らないアイテムもある。


 アイテムランクも5つあり、『N』 『R』 『HR』 『SR』 『UR』と別れる。


-------------------------



 なんだこれ……。固有スキル? ファンタジーじゃあるまいし。って、今こうして森の中にいる自体おかしいか。


 ……『ソウルガチャ』ねぇ。さっきまで操作していたゲームアプリの『課金ガチャ』みたいなものか? これ。


 他にも絵柄は同じだが、色違いのアプリが3つ……。押してみるか。


 害はなさそうな気がしたので、2つ目のアイコンを押す。



-------------------------


 アプリ2:『AI意思疎通』

 説明 :


 対象者の音声でアプリの起動が可能。


 また、音声でなくても考えるだけでもアプリの起動が可能。


 AIシステムの名前は『ゴンザレス』


-------------------------



 AIシステム……。ん? 音声で起動操作が可能ってのはわかるが、考えるだけでも起動ができるのだろうか?


 ……はは、まさか。しかし、AIシステムの名前が『ゴンザレス』って渋いな。


 もし起動したら、男の声なんだろう。


 続けて3つ目のアイコンを押す。



-------------------------


 アプリ3:『ソウル収集』

 説明 :


 対象者が倒した生物(無機物に生命が宿った物も対象)から出現する魂|ソウル を回収するアプリ。


 発動する際は『ソウル・コネクト』と音声入力するか、手動でアプリ起動する2通りである。


-------------------------



 魂|ソウル ……。そういえばアプリ1の『ソウルガチャ』画面左上にあった魂のマーク、これのことなのか?


 となると、倒した生き物の魂を収集して、それを元にソウルガチャを回すってわけか。


 ますます怪しくなってきたぞ。……残るはあと一つ。


 最後の4つ目のアプリを押す。


-------------------------


 アプリ4:『アイテム収納』

 説明 :


 『ソウルガチャ』で入手したアイテム、又は対象者が入手したアイテムを収納できるアプリ。


 『アイテム収納』に収納されているアイテムは時間経過がないため、経年劣化などが起きない。


 また、収納できる容量は対象者のスマホのメモリー数によって変わってくる。


 ただし、生きている生物は収納できない。死体は収納可。


-------------------------


 『ソウルガチャ』で手に入れたアイテムを収納するアプリか。


 しかも経年劣化しないなんて。まるっきりゲームみたいだ。


 これはもう夢に違いない。そう、まだ俺はきっとベットの上で寝ているんだ。


 夢なら痛みを感じないはずだと思い、右手で右足の太ももをおもいっきり抓った。


「いっ……つぅ~~……」


 おもいっきり痛かった。ってことは夢じゃない。

 更に訳がわからなくなり、頭が混乱する。

 気持ちを落ち着かせるべく、近くにある切り株に腰を落とした。


 時間で言うと数分程だろうか、深呼吸をしていたら幾分と落ち着いてきた。


「ふう……。まずは状況を整理し仮説を立ててみるか」


 先程、おもいっきり太ももを抓ったら痛かった。


 まず一つ目の結論、夢じゃない。


 となるとまず考えられる仮説は、3つ。


 1、地球上のどこかの国、又は日本のどこかにいる。


 2、地球とは別の場所、異世界にいる。


 3、先程遊んでいたゲームの世界に入り込んでしまった。


 こんなところだろうか。しかし、この3つの中だと、3番目の仮説は早くも違う気がしてきた。なぜなら、俺が遊んでいたゲームは美少女が近未来の街中でバトルするゲームだからだ。


 今まで遊んできたが、一度も『森』というステージは無かった。

 なので、ここがゲームの世界ではないというのがまず考えられる。


「1か、2だな……。ああ、どっちも嫌だ。なんでこうなったんだ」


 例え1だとしても、こんな知らない森の中じゃ、どうしようもない。状況的に見ても絶望的な状態だ。

 頭を抱え、どうすればいいか悩んでいると、ふと、スマートフォンの4つのアプリを思い出す。


「そうだ、取り敢えずこのアプリを起動させてみよう! 何かわかるかもしれない」


 藁にも縋る気持ちで、スマートフォンの画面をタップし、一つ目の『ソウルガチャ』を起動させてみる。


 画面には『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『レインボー』の項目が表示され、更に各項目の下に『11連ガチャ』の文字が表示される。

 現在の所持ソウル数は10000。何故最初から10000もソウルがあるのかはわからない。

 が、俺としては願ったり叶ったりだった。とりあえず、回せるのだから。


 4つのうちどれを回すか考える。ソウルはかなりあるので、どれでも選べる。だが、ガチャを今まで回してきた性というべきだろう。

 ついつい、『レインボー』という文字に目がいってしまう。

 どうしようか、いや、ダメだ。ソウルは生き物からしか入手できないと書いてあったではないか。ならばソウルは温存しておくべきだ。


 いやしかし、『ブロンズ』を押して屑アイテムだった場合ソウルを無駄にしてしまう。


 ああ、こんな訳のわからない状況なのに何楽しんでいるんだ俺は!!


 そこそこの課金者だった俺は、どうしても質の良いものが出やすいランクを選んでしまう癖があった。


 よし、もう間をとって『ゴールド』にしよう! 


 自分に言い聞かせ、『ゴールド』の項目の真上に人差し指を掲げる。

 ゴクリと、唾を呑む……。


 『ソウルガチャ』を起動したらどうなるか、吉と出るのか凶と出るのか。

 そして、『ゴールド』の項目を押す。


 『ソウル500個必要ですが、ガチャを回しますか? YES / NO 』


 最終確認の表示が画面に出てくる。

 人差し指で『YES』ボタンを……押した。


 すると画面が切り替わり、いつも遊んでいた美少女ゲームアプリの課金ガチャでお馴染み、可愛いイラストの女の子が拳銃を持ちながら、無数に浮かび回る丸いガチャポンの中から1個打ち抜く。

 眩い光りと共に画面が切り変わり、打ち抜いたガチャポンからアイテムが表示される。


 いつもの癖で良いものが出ますようにを祈ってしまう辺り、ガチャ重症者だなとつくづく実感する。


 そして表示されたアイテムを確認していく。


-------------------------


 アイテム名:プロミネンスの杖

 ランク  :『HR』

 説明 :


 使用対象者が『プロミネンス・フレア』と起動言語トリガーを唱えると、杖の先から火属性・上級魔法の『プロミネンス・フレア』が発動する。


 使用対象者がロックオンしたターゲットとその周辺範囲を焼き尽くす。


 ただし、1回使用するごとにソウルを300消費する。


-------------------------



 表示されたアイテムのデザインは極めてシンプル。そして説明文へと目を通す。

 

 上級魔法『プロミネンス・フレア』か。

 凄く強そうだけど、1回使用するごとにソウルを300消費する?


 半信半疑で画面上に出ているアイテムアイコンをタップしてみると、更に確認用文字がでてきた。


 『プロミネンスの杖を取り出しますか? それとも収納しますか? 取り出す / 収納する 』


 『取り出す』という文字に目を疑う。


 取り出せるのか? いやしかし、取り出せるわけない……よな。


 早る気持ちを抑え、画面に表示されている『取り出す』をタップする。

 すると目の前の空間に小さなガラスのような塊が出現したと思いきや、弾けて先端に赤い宝玉がついた杖が出現した。

 あまりの出来事に息を呑む。


「本当に取り出せたよ……。これ、現実なんだよな……」


 目の前に燐光を漂わせながら浮かぶ杖を握ると、確かに実体があった。

 そして杖を振り回してみる。どう見ても杖である。『プロミネンス・フレア』と唱えてみたいが、一回使うごとにソウル300消費すると書いてあったので思い止まる。


 まぁ、それにこんな木が生い茂った森の中で炎なんて出たら火事になってしまうか。

 座っている切り株の横に杖を置き、今度は2つ目のアプリを起動してみようと画面を見る。


 色違いの2つ目のアイコン、『AI意思疎通』アプリをタップし起動すると、確認画面に切り替わる。


 『サポートAIを起動しますか? YES / NO 』


 サポートって言うくらいだから、危険はなさそうだ。てか、ないよね? 


 自分に言い聞かせながら、『YES』の文字をタップすると突然頭の中に女性の様な声が響いてくる。


 『サポートAI:ゴンザレスが起動されました』


 いきなり声が聞こえてきたのでビックリして辺りを見渡すが誰もいない。

 改めて、女性の様な声は自分の脳内に直接聞こえているのだと気づいた。


 どうすればいいのか一瞬迷う。

 意を決して、脳内に響いてきた声の主に向かって話しかける。


「あー、えーと……、ゴ、ゴンザレス……俺の声聞こえる? 認識できているのなら返事をしてくれ」


『肯定。よく聞こえております。マイ・マスター』


 お、おー……。返事をしたぞ。しかも俺のことマスターって呼んだ。てことは、本当にサポートAIなんだな。


 そういえば、『AI意思疎通』の説明画面で音声でなくても反応するって書いてあったよな。


 ちょっと試してみるか。


 ゴンザレス、俺の思考の声わかるか? 分かるなら返事をしてくれ


『肯定。認識できております。マイ・マスター』


 す、凄い。どういった技術なんだ? さっきのソウルガチャもそうだし、残り2つのアプリも説明文を読む限りとんでもない技術だ。


 まさに人智を超えている。

 驚いていたら、ふと一つの違和感に気づきゴンザレスに話しかける。


「なぁ、ゴンザレス。ちょっと一つ質問いいかな?」


『肯定』


「なんで女の子の音声で名前がゴンザレスなんだ?」


 そうなのだ。さっきまでゴンザレスという名前からして『男』だと思い込んでいた。

 しかし、いざ起動してみたらゴンザレスの音声は『女』だった。

 その答えを知りたく、ゴンザレスに質問をする。


『申し訳ありませんが、その質問にはお答えできません』


「そ、そうか。いや、別にいいんだ。ただ、なんとなく気になった程度だけだから」


 ゴンザレスは答えてはくれなかった。が、驚いたことに、機械の様な音声だったかと思ったら人間味臭い声をしていたのだ。

 これには驚いて、ついゴンザレスに対して謝る。

 話題を変えよう。って、何AI相手に気を使っているんだ俺は。


「次の質問いいかな? ゴンザレスの機能を教えてくれ。どういったことができるのか」


『肯定。AI意思疎通アプリ:ゴンザレスはスマートフォン内にインストールされているアプリを、所有者の命令で起動・管理を代わりに行うサポートAIです』


 なるほど、俺のスマートフォンの操作を代わりにやってくれるというわけか。脳内でゴンザレスに命令をすればいいわけだ。


 これは凄く便利な機能だ。


『又、所有者の思考パターンを学習する機能があり、所有者に対して最適の人格形成が可能で……』


 へー、学習機能があるのか。使用者に合わせた最適な人格形成……、そしたらこんな堅苦しい会話じゃなくて、ゴンザレスと仲良く話ができる時がくるかもな。


 正直、嬉しい自分がいた。

 一人でこんな得体の知れない状況でいるのは不安である。しかし、AIと言えども会話できる相手がいるというのは、俺の気持ちを落ち着かせるには十分だった。

 そしてまだ、ゴンザレスの説明が続く。


『―――ソウルガチャから入手できる『URアイテム:擬人化のパンツ』を使用することにより、人への形態化も可能です』


 一瞬、思考が止まる。


 今なんて言った? 人への形態化が可能だって? 何を言っているんだ、このAIは。


 いや、しかしさっき『プロミネンスの杖』を具現化した所を見たわけだし、本当にあり得るのか?


 てか、なんでパンツ?


 などと考えていたら、ゴンザレスの一言で思考を中断された。


『マスター、現在地点から北西の方角に人とその他の生物の生体反応あり』


「なに!? ほ、本当か!」


 知らない森の中で、人が居るという嬉しさについ大声を出してしまった。 


 助けを求めようと、そこへ走り出そうとする。


『お待ちくださいマスター。どうやら動きから推測するに襲われている模様です』


 一瞬にして体が強張る。人が襲われているという一言で一気に不安が押し寄せてきた。


 どうする? このまま黙って見過ごすか? いや、しかし……。


「と、取り敢えず、様子だけ見に行こう……隠れて遠目で見ればいいことだし」


 何もしないままでは進展しない。自分にそう言い聞かせ、切り株の横に置いておいた『プロミネンスの杖』を持つ。


「ゴンザレス、道案内をお願いしたい。できれば、此方に気づかれないような場所から様子をみたいんだが」


『肯定。では視覚領域に案内表示を展開します』


 ゴンザレスが答えたと同時に、俺の視界に矢印のようなものが現れた。

 その矢印はゴンザレスが生体反応があるといっていた北西の方角を示しているようだった。


「これを辿っていけばいいのか?」


『肯定』


 俺は矢印の示している方角へと走り出していった。



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