第四章 二人がいなくなった
シュウが朝、目覚めると、となりに寝ているはずのユウジがいない。
「あれ? 朝早くからどこに出かけたんだろう」
そして隣の部屋にいるはずのミズキとナホコの様子をうかがう。部屋にはミズキ一人しかいない。
ミズキに訊くと「ナホコさんもいなくなったのよ」と言う。
「どうしたんだろう」とシュウが心配そうに言う。「宿の人に訊いてみよう」
「すみません、ユウジとナホコが出かえるところを見ませんでしたか」
宿の主人は、「いいえ、今朝からは見ていません。夜中ですと、とくに見張りの者もいませんですし、わかりません」と応えた。
ミズキが「指輪の力を使えば、ナホコさんの居場所がわかるかもしれないわ」と言う。
「ちょっと待ってね」と言ってミズキは「魔力感知」の魔法を唱える。「やっぱりそうだわ。この指輪には魔力がかかっている。これでナホコさんの居場所がつきとめられるわ」
「ほんとうかい? ではさっそくやってみよう」
シュウは宿の人から地図を借りてくる。
「地図の上に指輪を置いてみて」とミズキが指示する。
「ええっと、いまぼくたちがいるのは宿屋だから、ここだな」とシュウが指輪をはずして地図の宿屋を示している位置に置く。
「村長の娘さんからもらった魔法の指輪には、離れたときに探索できるよう、魔力がかかっているのよ。指輪の宝石が光ったほうにもうひとつの指輪があるっていうこと」とミズキが説明する。
そしてゆっくりと宿屋の位置から指輪を回すようにして動かしていく。ある方向に置いたとき、指輪がかすかに光る。
「あっ! 指輪の宝石が光ったぞ」とシュウが言う。
「そう、指輪の宝石が光った方向にナホコさんがいるのよ」とミズキが説明する。
シュウはそろりそろりと指輪を動かしていく。そして光る方向に指輪をずらしていく。
宿屋から南東に四キロほど離れた地点で、指輪がもっとも輝く。
「まちがいないわ。ナホコさんはここにいるのよ」
「よし、この地図を持って、ナホコのところへ行こう」シュウはナホコの部屋に残されていたボディー・スーツを持って出かける。
小一時間たって、指輪がもっとも光る地点に到着した。
そまつな小屋がある。
「きっとあの中だな」とシュウが言い、用心しながら小屋に入っていく。鍵はかかっていなかった。
すると、さるぐつわをされ、縄でしばられたナホコがいるのを見つける。
そしてそこにユウジがいっしょにいる。
「ナホコ、だいじょうぶか」とシュウが声をかける。
ナホコは首を縦に振る。
「ナホコをこんなところへ連れてきたのはおまえか」とシュウはユウジに向かって言う。
「そうだ、どうしてここがわかったんだ」とユウジが驚く。
「魔法の指輪の力を使ったんだ」とシュウが言う。「ユウジ、おまえ何が目的でナホコを誘拐したんだ」
「その指輪が欲しくてね。でも、はずそうとしてもはずれないんだ。はずすためには、二人を殺すしかないと思ってね」ユウジは冷酷な笑みを浮かべる。
深夜、ナホコが起きたときに、ユウジは用意していた麻酔薬をガーゼに含ませてナホコの口をふさぎ、ぐったりとなったところを荷車に乗せてこの小屋まで運んできたのだった。
ナホコはパジャマ姿のままだった。
「おまえ、最初から指輪が目的でぼくたちの仲間になろうとしたのか」とシュウが尋ねる。
「そのとおりだ」とユウジは笑みを浮かべたまま応える。「おまえたち兄妹を殺してしまえば、指輪が手に入るからね」「それに」とユウジは付け加えた。「ミズキのことを好きなおまえを殺せば、恋のライバルを消すことができるというわけだ。ミズキはおれのものだ」
「人間はモノじゃないんだ。人の所有物にはならない」とシュウが言う。
「そうよ、そんなことして私が喜ぶとでも思っているの」とミズキが訊く。
「うるさい、おまえらは邪魔者なんだ」
ユウジはナホコの首にナイフをつきつける。
ミズキが小声で呪文を唱え始める。「拘束」
呪文が発動し、ユウジの体が動かなくなる。
「なっ、なにをしたんだ」
「悪いけど、『拘束』の呪文をつかわせてもらったわ」とミズキが応える。
ナホコは無事救出される。
シュウはナホコのさるぐつわをはずし、縄をほどいてやる。
「けがはないか」とシュウはナホコに尋ねる。
「ええ、お兄ちゃん、かすり傷だけよ。助けに来てくれてありがとう」とナホコは安心したように言う。
「さ、向こうのほうでこのボディー・スーツに着替えなさい」とシュウがナホコにスーツを渡す。
「素直に謝るのなら、命だけは助けてやる」とシュウがユウジに向かって言う。
「くそっ、失敗したか」とユウジは悔しがる。「本当に命は奪わないんだな」
「ああ、本当だ」
そして、ミズキが持っていた布きれをユウジの頭にはちまきのように結ぶ。
その間も「拘束」の呪文の効果で、ユウジは身動きひとつできなかった。
はちまきを結んだあと、ミズキは「拘束解除」の呪文でユウジを動けるようにする。
「今度悪いことをしようとしたら、このはちまきがしまり、全身に苦痛がはしるわ。はずそうとしてもむだよ。魔力が付与されているから」とミズキが言う。
ユウジはされるがままになっていた。そしてがっくりと首をうなだれる。
「悪かった……」とユウジがつぶやく。
「これにこりて、二度と悪いことをしないようにな」シュウはきつく言い渡す。
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