第三章 連続放火事件
シュウ、ナホコ、ミズキの三人は、神殿に入ろうとした時、別の空間に転送されてしまう。
シュウがミズキに「いったいなにが起きたんだ」と尋ねる。
「あの神殿には宝などではなく、空間転送装置が設定されていたようね。私たちは、別の空間に転送されたみたい。でも時代は変わっていないわ」とミズキが応える。
あたりを見回すと、小規模な村のようだった。季節は夏のまま、時間は夜のようだ。
「とにかく今夜一晩泊まるところをみつけよう」とシュウが言う。
村の人に訊いて、宿屋に着く。
「お世話になります」
「これはこれは、旅のお方。わが村によくいらっしゃいました。私どもの村には、大きな川が流れていて、そこで獲れる魚が新鮮です。料理が美味しいですよ」と宿の人が説明してくれる。
「それは楽しみですね」とシュウが言う。夕食の魚料理に舌鼓をうち、
後は眠るだけとなった時間。
大声で「火事だー」と叫ぶ声が聞こえる。
外に出てみると、周りの家よりひときわ大きな一軒家が、火に包まれている。
火の粉が飛んでくる。
自衛消防団の人たちが懸命に消火活動をおこなっているが、火の回りが早い。
シュウが娘に声をかけられる。
「助けてください。家の中に父が取り残されているんです」
シュウはミズキに、「なにかいい方策はないか」と尋ねる。
ミズキは「私がシュウくんとナホコさん兄妹に『水の膜』の呪文をかけるから、そしたら火の中に入ってちょうだい。『水の膜』が体の周りにできて、火の中でも安全に行動できるわ」と応える。
「よし、さっそくやってくれ」とシュウが頼む。
「さあ、『水の膜』の呪文をかけたわ。これで助けに行って」とミズキが応える。
シュウとナホコは燃えさかる火の中へ飛び込んでいく。
「だいじょうぶですか」初老の男性が倒れている。意識を失っているようだ。
「よし、ナホコ、二人でかついでいくぞ」とシュウが言う。
「わかったわ」とナホコが応える。
なんとかして二人は男性を助け出す。
「ミズキ、この人を治癒呪文で治すことはできないか」とシュウが訊く。
「さっきの『水の膜』の呪文で精神力を使い果たしてしまったから、魔法で治すことはできないわ」とミズキは言う。
シュウに声をかけてきた娘が、「ありがとうございました。手当ては私たちのほうで
なんとかします。私は村長の娘なのです」
「村長の家だったのか。どうりでりっぱなものだった」とシュウ。
「それにしても、たいへんな目に遭いましたね」とナホコがなぐさめる。
「これは、お礼の品です。我が家に伝わるペアの魔法の指輪です。なんとか持ち出すことができました」と娘が言う。
「えっ? そんな大切なものをいただけるんですか」とシュウが訊く。
「はい、あなたがたは父の命を救ってくださった恩人です。あなたがたは旅のお方ですね。
これから旅をつづけるときに、きっと役に立つでしょう」
「ありがとう。では遠慮なくいただきます」
シュウは自分とナホコに指輪をひとつずつ分け与えた。指輪には宝石がはめられており、サイズは二人にぴったりだった。
そして宿屋に帰ると、一人の少年が声をかけてくる。
「旅の方ですよね」
「そうですけど」とシュウが応える。
「どうか、オレを旅の仲間に加えてもらえませんか。オレの名前はユウジ。この宿で働いています。十七歳です。いつか冒険に出られるよう、剣の稽古をしていたんです」
ユウジはちらちらとミズキのほうを眺めながら言う。
シュウはミズキに「どうしよう……」と相談する。
「まあ、冒険したいっていうのなら加えてあげれば」とミズキは応える。
「いいですよ」シュウはユウジに向かって言う。
ユウジは「よろしくお願いします」と律儀に一礼した。
その晩、シュウとユウジは同じ部屋に泊まった。
「シュウさん」
「ん?」
「ミズキさんは好きな人がいるんでしょうか」
「え? なんでいきなりそんなことを訊くの」
「実はオレ、ミズキさんに一目ぼれしてしまったんです」
シュウは「ぼくもミズキのこと好きだよ」と思わず口に出して、ああそうだったのか、とあらためて気づく。
「ミズキさんの気持ち、確かめたんですか」
「いや、確かめてはいないよ」
「じゃあ、まだ可能性ありってことですね」
シュウはふふっ、と笑う。
「とにかく、今夜はもう眠ろう」とシュウが言う。
「おやすみなさい」
そして翌日の夜のこと。
またもや火事が起こる。「火事だぞー」今度は二軒焼けている。
「取り残されている人がいるのか」シュウは村人に訊く。
「はい、一人だけいます」と村人が応える。
再びミズキの『水の膜』の呪文を使って、シュウたちが逃げ遅れた村人を助ける。
「ありがとうございました」と村人からお礼を言われる。
「しかし連続して火事が起こるなんておかしいな。これは放火ではないだろうか」とシュウは考える。
シュウはナホコとミズキに「どう思う?」と尋ねる。
ナホコは「そうかもしれないわね」と応える。ミズキも、うなずいている。
ミズキが「昨日もらった指輪を使えば、『魔力探知』の魔法が使えるわ。もし炎の呪文を唱える魔法使いがいたら、その人が犯人かもしれないわよ」と説明した。
シュウは「さっそくやってみるか」と『魔力感知』の呪文を唱える。
頭の中に地図のイメージが浮かび、宿屋から四キロの地点に魔法使いがいることを突き止める。
「よしっ、退治にいくぞ」
シュウたち一行は、魔法使いのアジトを急襲する。
ミズキの『麻痺』の呪文で相手を動けなくする。そこにシュウが呪文を唱え、『光りの矢』が炸裂する。
シュウが魔法使いを捕らえる。
「なぜ火事を起こした」
「家の中から金品を盗み、ばれないように火を放ったのだ……」と魔法使いは力なく応えた。「オレは盗賊団に金で雇われただけなんだ」
「二度とこんなことをしないと誓うか」
「誓います……」
「じゃあ、この『魔法の杖』はあずかっておく」
「すみません……」魔法使いはうなだれた。
シュウたちは村に戻り、仮住まいの村長のところへ行き、「もう火事は起こらないと思いますよ」と告げた。
村長は、「ほんとうにありがとうございます」と頭を下げた。
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