第二章 商人たちの護衛
「それでは同時代の『剣と魔法の世界』へ転送しましょう」とミズキが言う。
「『剣と魔法の世界』なんてほんとにあるの?」とナホコが訊く。
「この世界は地域によって進化に差があり、辺境地区ではいまだに『剣と魔法の世界』と呼ばれるところがあるのです」とミズキが解説する。
「ただし、『剣と魔法の世界』と言いますが、ゲームとは違いますよ。ほんとうに命を落とすこともあるのですから」ミズキはシュウを見つめ、ナホコを見つめて言った。
「ごめん、軽はずみなこと言っちゃって。でも、なぜか心の底から、自分が行かなければならないという気持ちが湧いてくるんだよね」とシュウが応えた。
「その覚悟ができているのなら、お連れしましょう」とミズキは言った。
「私の父がかつてその地域を旅したとき、手に入れたマジック・アイテムがあります。それを付けていきましょう」とミズキが言って、箱からペンダントを二つ取り出す。
「ナホコさんにはなぎなたの技があるから、シュウくんと私が魔力を使えるようにペンダントを付けますね。赤いペンダントは攻撃魔法、白いペンダントは回復魔法が使えるようになります」
シュウはミズキに赤いペンダントを付けてもらう。ミズキは自分に白いペンダントを付ける。
「それから向こうでの滞在のため、銀貨が必要ですね。これも父の机から拝借しておきましょう」とミズキが言う。
「本当に『剣と魔法の世界』にいけるのかな」とシュウが尋ねる。
ミズキは「あなたには天性の才能があるようです。その能力を使って、空間転移ができると思います」と応える。
「では私と手をつないでください」とミズキは二人に促す。
<空間転移モード発動。D-194地区へ移動>
「どうやら着いたようです」とミズキが言う。
<コンピュータ制御オートスリープ>
「この地区ではコンピュータ制御が一時的に遮断されます。文字通り、『剣と魔法』の力で戦わなくてはならないのです」と説明するミズキ。
「さあて、どこへ行ったらいいかな」とシュウがいう。
「宿屋なんてどう? いろんな地域の人がやってくるから、情報も得られると思うの」ナホコもすっかりこの世界になじんでいる。
通りがかりの人にシュウが尋ねる。
「すみません、この近くに宿屋はありますか」
「ええ、ありますよ。この道をまっすぐ、1キロメートルくらい行ったところの、左手に
宿屋があります」
「どうもありがとう」
三人は宿屋に到着した。
宿屋の掲示板に、「護衛求む」の張り紙がしてある。
商人たちの一行が、護衛を求めているようだ。
シュウは商人たちを探し出し、自分たちが護衛になると申し出る。
「ええと、シュウさんとおっしゃったかな。あなた方が私たちの護衛になってくれるのかな。私たちは旅をして商売をしているのだが、このところ同業者が盗賊に襲われたといううわさを聞いて、護衛を探しているのだけれど」
ナホコが「では腕前を披露します」と言ってなぎなたの演武をおこなう。
「やっ! えいっ!」
「おお、おみごと。そして残りのお二方は、魔法が使えるとみたが。そのペンダントは魔法の力が付与されているのではないかな」
「おっしゃるとおりです。ぼくたちは魔法で戦います」
商人が言う。「私たちは戦闘用のボディー・スーツも扱っているのだが、それをお礼の品にするというのはどうかな」
ナホコが応える。「私に試着させてみせてください」
「はい、これだ。宿屋の別室で着替えてくるといい」
もらったボディー・スーツは、胸元が大きく開いている。胸の谷間が、くっきりと見える。ナホコは赤くなった。
「お兄ちゃん、着てみたらこんなふうになったんだけど」
シュウもちらりと目をやって、やはり赤くなる。
「そのボディー・スーツは特殊繊維でできていて、防御力を高めてあります。他ではなかなか手に入りませんよ」と商人が自慢げに言う。
シュウが、「まあ、この人たちの言うことを信じよう。ナホコ、そのスーツ似合っているよ」と返す。
「じゃあこのスーツをいただくわ」とナホコは言った。
「そちらのお兄さんには魔法使い用のローブでよろしいですかな」と商人が言う。
「ええ、お願いします」とシュウは応えた。
「では昼食をとったら、さっそく出発としましょうか」と商人が言う。
一行は宿屋で簡単な昼食を済ませる。
「目的地はどこですか」とシュウが尋ねる。
「ここから西に十キロ離れた別の村です」と商人が応える。「途中、ひと気のない場所を通りますから、用心してください」
「わかりました」
一行が出発して、一時間ほどたった頃。
峠道の、ひとの気配がしないところを進んでいた。
すると左右の林から見慣れぬ男たちが現われた。
「荷物をここにおいていけ。さもなくば命をもらうぞ」
「来たわね。覚悟しなさい」ナホコがなぎなたを構える。
シュウの付けているペンダントが輝き出す。
「攻撃魔法ってどうやるんだろう?」
ミズキが応える。「心の中で『光りの矢』を強く念じて、そのエネルギーを相手にぶつけるのよ」
「よし、やってみよう。『光りの矢』!」シュウが唱えると、空中から光りの矢が飛び出し、盗賊たちを襲う。
「うわっ!」あわてふためき、クモの子を散らすように逃げだす者たちもいる。
ナホコが残っている者を相手に、なぎなたをふるう。相手の剣を払い、つづいて相手を突く。
ナホコの背後から、矢を打ってくる者がいる。「くっ!」ナホコがうずくまる。
ミズキは以前にも呪文を唱えたことがあるのだろう、回復呪文を唱え、ナホコのけがを治す。みるみるうちに傷口がふさがれていく。
そしてシュウたちは戦いつづける。
シュウが三度目の「光りの矢」を放とうと準備していると、
「降参します」と残っていた盗賊たちが両手を上げる。
「これを差し上げますので、どうぞお許しください」
「これはなんだ」とシュウが訊く。
「宝の地図です」と盗賊が応える。
「宝の地図だって?」
「はい、そこに神殿があり、宝が眠っているといううわさ話をきいたことがあります」
「もう二度と悪さをするなよ」
「はい、いたしません」
残った盗賊たちも逃げて行った。
商人は「ありがとうございました。おかげで命が助かりました」と礼を言う。
「なあーに、こんなのお茶の子さいさいですよ」とシュウ。
「ちょっと、調子に乗らないでよ」とナホコがシュウの腕をつねる。
「あいたた……ごめん、ごめん」シュウが謝る。
そしてシュウと商人たちは目的地に到着する。
「お疲れさまでした。どうもありがとうございました」と商人が言う。
「いえ、お力になれて光栄です」とシュウが応える。
「それでは、ぼくたちはこの『宝の地図』をたよりに、神殿に行ってみます」とシュウが言うと、「道中、お気をつけて」と商人が言ってくれる。
シュウがナホコとミズキに「さあ、神殿に行ってみよう」と促す。
「ここが神殿か……」建物は朽ち果てていたが、建築当時の華麗な雰囲気を残している。
「よし、入るぞ」シュウが神殿の入り口から中に入ると、突然姿を消した。
ナホコが「お兄ちゃん、どこへ行っちゃったの」と言って中に入ると、同じように姿が消えた。
「どうも転送システムが働いているようですね」とミズキはひとりごちて、一緒に神殿から姿を消す。
第三章につづく
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