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 扉をノックする音が聞こえ、部屋に入ってきたカインは満面の笑みで俺に抱きついてきた。

 カインの言葉を聞くこともなく、結果が分かってしまった。


「アルー! 僕、魔力あったんだ! 騎士になれるんだ!」


「おめでとうカイン!」


「うん。有難うアル。それに風の属性持ちだって!」


「本当か? 凄いじゃないか! どんな魔法が使えるんだ?」


「気が早いよアル。魔法は学校に行ってからだよ」


「あー、良いなぁカイン。魔法使えるなんてカッコ良すぎる」


「やっぱりアル君も魔法に憧れてるんだ?」


 セリカは俺とカインの話を聞き、聞いてきた。


「そりゃあそうだよ。魔法って、何もない所から炎を出したしたり、風を起こせるんでしょ? セリカさんが見せれくれたらなぁ……一回見てみたいなぁ……」


 俺は物欲しそうにセリカをチラチラと見る。


「ごめんねアル君。屋敷内で魔法は使うのは私でも駄目なの……」


 申し訳なそうな顔をするセリカ。

 いいんです。

 その分他で補ってますから。

 むしろそっちの方が魔法です。

 夢と希望がいっぱい詰まってますから。


「うん。無理言っちゃって、ごめんなさい」


「まんま、まんま」


 ルナが俺の足に抱きつき、ご飯をおねだりして来る。


「お兄ちゃんはご飯じゃないぞ」


 離乳食になってから、ルナのご飯を食べさせるのは俺の役目になっているのだ。

 俺が母にお願いして、ご飯のお世話の役割を譲って貰ったのだ。(妹の餌付けだろ)

 久々の何処からのツッコミである。

 お前は悪魔に完全敗北し、消滅したと思ってたよ。


 ルナが初めて俺に向けて喋った言葉は「まんま」である。

 その日からルナにとっての俺の名前は「まんま」だ。

 俺はまんまからの脱却を計るため、『にぃにぃって呼ばれたい作戦』を決行しているが、ルナのまんま砲に厳しい戦いを強いられている。

 まんま強すぎる……。

 カインだけには負けるつもりはない。

 初にぃにぃは俺が戴く!


「ルナはアルにベッタリだね」


「本当ねぇ。ちゃんといいお兄ちゃんしてるのね」


 カインとセリカが微笑ましそうに見ている。


「ルナったらこの前ご飯と一緒にアルの指も食べちゃったのよ。そしたらアルがヒィッって驚いて、椅子から転げ落ちちゃったの。もう笑っちゃて。」


「母さんその話はやめてよ」


「アルが慌てるとこ見たかったなぁ」


「アル君はルナちゃんにとって完全にご飯なのね」


 みんなで笑い合いながら、カインの結果を祝った。


 その日からカインとセリカが部屋に来ることはなくなった。





 カインが部屋に来なくなってから、もう1年以上経った。


 カインが部屋に来れなくなった理由は母から聞いた。

 カインが属性持ちと判明したため、カインとセリカは本邸で暮らすことになり、ダグラス伯爵家の後継者候補として生活するらしい。

 カインがもう来ないと聞いたときは、久しぶりの喪失感に苛まれたが、カインの夢がここら始まるんだと考えると素直に応援できた。


 扉がバンッと開かれた。


「アルー、来たわよー。今日は何して遊びましょうか? この前の影鬼? それとも隠れん坊?」


 最近の俺の頭痛の種が来た。


「姉様、こんな奴のことよりも、部屋でいつものロブをやりましょうよ」


 ロブとはこの世界のチェスの様な物であり貴族の嗜みとさせている。


「嫌よもう飽きたわ。それにアルがいないとつまんないじゃない」


 他人の部屋に急に入り、言い争う二人の子供。

 この二人は母に嫌味を吐いたロベレルカの子供で姉の名前が「リネイラ」歳は9歳で母と同じ綺麗な紫色をしている。

 将来美人になるだろうがどうでもいい話だ。

 弟の名前は「ルーファス」歳は6歳で髪は赤みの強い茶色でいつも顰めっ面をしており、俺よりも半年産まれが早い。

 二人とも魔力は持っていない。


 この二人は最近、毎日の様に俺の部屋に来て、俺を外へ連れ出すのだ。

 上の言葉だけ見ると、引きこもりのニートを部屋から連れ出すいい友人みたいだが、実際は違う。

 リネイラはとにかく我儘で俺を振り回しまくり、ルーファスは姉にベッタリなので俺に敵意剥き出しだ。

 恐ろしい姉弟である。


 彼女たちが、この部屋にやってくるようになった原因は、セリカが本邸へ移ったことだろう。

 メイドのイヴが言うには、セリカが別邸にいる間は、ロベレルカが母に嫌がらせをし辛かったようなのだ。

 セリカは四大妖精族の一つであるエルフであり、四大妖精族と普人族の関係は対等とされているが、個の力では属性を持つ、四大妖精族が圧倒しているのだ。

 普人族は数で圧倒しているが、まともにエルフ族とことを構えれば、大国であるオースレン王国も負けるであろうと言われている。

 そのエルフ族からの友好の証である婚姻だ。

 魔力を持たない、侯爵令嬢であるロベレルカは、立場も力も負けている。

 そんなセリカがいたから、抑止力となっていたのだということらしい。


 ロベレルカの子供たちが、俺に近づいてくる理由は分からないが、ただの嫌がらせだけだとは俺は思っていない。

 メイドのノンやイヴが言うには、ロベレルカは陰湿で、人を嵌めたり落とし込めたりするのが好きらしい。

 それで何人もの使用人が辞めさせられたらしい。

 この話は絶対に内緒ですよ、と言って教えてくれた。

 まだ6歳にもなってない子供に、よくそんなヤバイい話してくれたなと思うが、それだけ信用されてるのかなぁと思う。

 普段の行動が子供っぽくないしな。


 そんな事もあり、リネイラの誘いを断れずに遊ぶ羽目になっている。

 多分俺が断ったり、何かやらかしたら母にしわ寄せが来るのだろう。

 遊んでるのに、集中しっぱなし。

 それらが頭痛の原因である。



「今日は鬼ごっこにしよう」


 立ち上がって、リネイラたちに近づく。


「そうね。かくれんぼにしましょう」


 もう決まってるなら聞くなよ。

 聞いた意味ないだろ。

 つっこみたいが、心の中で留めておく。


「まぁ良いよ」


「ロブ……」


「じゃあいつもの範囲でね。鬼はルーファスあんたがやりなさい。ちゃんと100秒数えるのよ」


 リネイラはそう言うと俺の手を取り、引っ張っていった。


「一緒に隠れるのよアル」


「分かったよ」


 ちょっと不貞腐れ気味に答える。

 何でいっつも一緒に隠れなきゃいけないんだよ。

 普通、別別に隠れるだろ。

 内心で突っ込みながら、腕を引っ張られるままについていく。


「今日はここにしましょう」


 何も入ってない樽の蓋を、開けてリネイラは言った。


「でもここはルーファスには見つけられないんじゃないかなぁ」


 前回も隠れん坊一発目にルーファスは鬼をやらされ、そのまま二人を見つけられずに拗ねて一人部屋に帰ってしまったのだ。

 そのせいでルーファスからのヘイトは溜まりっぱなしだ。

 いつか後ろから刺されそうだ。


「狭くて丁度良さそうねほらアル、先入って」


 ほんと話通じねぇ。

 俺は渋々リネイラに抱えられて、樽の中に入る。

 続けて、リネイラも入ってくる。


「近い! 顔近いから」


 顔同士が触れそうなほどの距離だ。

 リネイラもまだ子供とはいえ、この距離は流石に恥ずかしい。


「子供なのに照れてるんじゃないわよ。蓋閉めるわ」


 リネイラがそう言うと俺の視界は真っ暗になった。

 暗闇とともに静けさも訪れる。

 聞こえるのはリネイラの鼻息だけだ。

 すると部屋の扉が開く音がした。


「姉様ー! どこですかー! 」


 ………。


 ………。


 ………。


「いないなぁ。にしてもアルフォンスのやつ絶対に許さない」


 ルーファスの呟く声が聞こえた後、扉が閉まる音がした。

 隠れん坊で「どこですかー」って聞いて、答えるやつ居ないだろ。

 なんで聞いただけで、調べずに帰って行くんだよ。

 それにアル許さないってなんだよ。

 俺はお前の姉ちゃんの被害者だっての。

 そう思いながらルーファスが扉を閉める音を聞いた。


「ふふっ。今の危なかったわね」


「そうだね」


「これでゆっくり喋れるわね」


 いや喋りたくはないんですけど……とは言えず沈黙する。


「アル、貴方は私の奴隷になりなさい」


「え? 嫌ですけど」


 意味のわからない言葉に反射的に言葉が出る。


「貴方が決めることじゃないの。今度の儀式で魔力がないと分かれば、貴方がどう言ってもいつかは奴隷になる運命なの。それなら他の知らない誰かより、私の奴隷になる方が良いでしょ」


 成る程。

 リネイアの話は別に、突拍子な発言ではないようだ。

 奴隷とその主人との間にできた子供は、主人がその身分を決めることが出来る。

 つまり自分の子供を奴隷として育てるのか、平民として育てるのかは主人が決め、子供本人にも決める権利はない。

 そうなると俺の身分は父親にかかってくるが、一度も見たこともない父親が俺を奴隷にしても驚かないだろう。

 もし魔力があれば自分の子供を騎士にすることができ、奴隷にするよりもより大きな利益を得れると父親は考えるだろう。

 ただ俺には魔力があることが分かっていて、その心配はないのでこう答えた。


「魔力がなかったらお願いします」


「本当ね、アル! もう変更はできないわよ。これで今日から貴方は私の奴隷ね」


「まだなってないから」


 リネイラの言葉に焦りながらつっこむ。


「どうせ魔力なんて無いんだから、今からでも一緒じゃない」


「一緒じゃない!」


 あーもう! 失敗した。ホントにこの子、人の話聞かないからなぁ。

 って人の体弄るのやめろよ。


「体触るの止めろよ」


「私の奴隷をどうしたって私の勝手でしょ。命令よ動かないで」


「奴隷じゃないって言ってるだろ。頭匂うの止めろって」


 俺の体はがっちり腕でホールドされて動けなくなった。

 どれくらい時間が経っただろうか、暗い暗闇の中で身動きが取れず、早くルナと遊びたいなとか考えていたらいつの間にか寝てしまっていたようだ。

 そして、俺の体の拘束が緩んでることに気づく。

 ん?

 こいつ寝てるな。

 俺の頭に乗ってるリネイラの顔をどかし、蓋をあける。


「おい起きろって」


 リネイラの体を揺すり起こす。


「う……ぅん……」


「じゃあ僕は部屋に戻るから、バイバイ」


 寝ぼけているリネイラが、完全に起きる前に樽から抜け出し、逃げるように部屋へ帰った。

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