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8 sideクラウディア付きのメイド-ノン-

 いつものように朝の炊事を終え、朝食をクラウディア様の元へ運ぶ。

 代わり映えのない毎日だが、最近は充実している。



 初めてこの屋敷に来たのは15の時だった。

 姉のイヴがすでにダグラス家のメイドとして勤めており、その伝手で私もメイドとして働けるようになった。

 イヴが言うには、ベンジャミン侯爵様は女性好きで美人なメイドの何人かに手を出しているらしい。

 子供を孕んだメイドもいたそうだが、その子供が魔力持ちでないと判ると、僅かな手切れ金を渡されて、追い出されてしまったそうだ。

 その話を聞き、私は恐ろしくなって、この話を断ろうかと真剣考えていた。


「ノンが心配してもそんな事起こらないよ。旦那様は本当に綺麗な人にしか手を出さないからね」


 私はその話を聞いてホッとするより、我が姉ながらもう少し気を使って欲しいと思った。


「メイドは30人くらい居るけど、お手付きになった人は私が聞く限り2人だけだし、2人ともとっても美人なのよ。私も含めて相手にされないわよ。それに、私もノンも別邸勤めで、本邸に行くことは無いはずよ」


「そっかー。心配すぎなのかな」


「そうよ。私たちのような平民の商家出身者が、辺境伯のメイドになれるチャンスなんてこれっきりよ」


「そうだよね、私、頑張る!」




 やる気満々で、いざダグラス邸の前に着いたのだが、その大きさに圧倒され気持ちが萎縮してしまった。


「こんな大きなところで働くのかぁ……。私、大丈夫かなぁ……」


 不安になっていた私だったが、イヴの姿が見え、不安は少し和らいだ。

 イヴに連れらて、大きな屋敷とは別の屋敷に連れらていった。


「ここが私たち、使用人が寝泊まりするところよ。で、あっちに見えるのが別邸で、旦那様の側室とその子供が暮らしてらっしゃるの」


 あそこが私が働く場所か……。


 それから姉の補助として、姉の仕事の真似をしながら仕事を覚えていった。




「今日からあなたには、クラウディア様付きのメイドになってもらいます。クラウディア様は奴隷ですが、旦那様の御寵愛を受けています。ですから、他の側室と同等の対応をして下さい。クラウディア様は子供を産まれたばかりです。気が立っているかもしれませんので、対応にはくれぐれも注意を払って下さい」


 メイド長にそう言い渡された私は、この屋敷に来た時と同じ様な不安感に襲われた。

 怒らしてしまったら私どうなるんだろう。

 他のメイドは皿を机に置く時に、大きな音を立ててしまっただけで首になってしまった。

 クラウディア様はお優しい方だと噂を聞いているので、他の側室の方よりもまだマシなのかもしれないが……。


 初めてクラウディア様を見た時、私は戦慄した。

 こんな美し人がこの世に存在するなんて……。

 お手つきになったと言われている、メイドを見た時にもその美しさに驚いたが、美意識に疎い私でも分かる格の違い。

 イヴが旦那様は女好き、と言うのが分かった気がする。

 こんな人がいるのに他の人にまで手を出すなんて……。

 そして、私が相手にもされないという意味がはっきりと分かった。


「今日からクラウディア様のお世話をさせてもらいましゅノンと言います。よ、よろしくお願いちましゅ」


「ふふ、宜しくね。緊張しなくてもいいからこっちに来てお話ししましょう」


 失敗したーと落ち込む私に、クラウディア様は微笑みながら優しくおしゃって下さった。

 その後クラウディア様とお話しできた。

 とても穏やかな人で優しかった。

 緊張して何回も噛んでしまったが、その度にニコリと微笑んで下さった。



 私がクラウディア様付きのメイドになってから一ヶ月経った。

 今日、初めてアルフォンス様の体に触れた。

 初めて見たときは、なんて綺麗な髪の色しているんだろうかと思った。

 綺麗な黄金色に輝いているのだ。

 近い髪の色は見たことあるが、ここまで輝いていなかったと思う。

 子供の内だけなのかな?


 その時はスヤスヤと眠っていて、とても可愛らしい寝姿だったのだが、最近では瞳の奥に理性の光があるように見え、こちらを観察しているようにジッと見つめてくる。

 昔見た従姉妹の赤ちゃんは、もっとふわふわとした視線だった気がする。

 考え過ぎなのだろうが、あの目で見られると少し怖い気がする。


 アルフォンス様はすごく成長が早いようだ。

 ハイハイも、立って歩くことも。

 アルフォンス様が、ちょっとした単語をもう喋っていると、他のメイドに伝えたら凄く驚いていた。

 アルフォンス様が褒められると、なぜか私も誇らしい気持ちになる。


 アルフォンス様は女性の胸がお好きなようで、私が抱っこしてあげると小さい手で胸を揉んでくる。

 必死な顔して揉んでる表情に、笑ってしまいそうになる。

 将来は旦那様に似て、女好きになるのかもしれない。

 今はアルフォンス様の視線を怖いなんて思いもしない。

 どうしてあの時そう思ったのかは自分でも謎だ。


 最近の使用人たちの世間話は、カイン様の儀式が話題の中心だ。


「イヴはどう思う?」


 先輩のメネアさんがイヴに聞いた。


「私には貴族のことは分からないけど、カイン様には魔力持ちになって欲しいと心から思ってるわ」


「でも、もし魔力持ちだったら本邸に行く可能性もあるのよ。ましてや属性持ちだったら確実よ。そうなったらもう会えなくなるかもしれないわよ」


「私はカイン様の成長をもっと見ていたいけど、それ以上にカイン様の夢がかなって欲しいわ」


 イヴは淡々と答える。


「私も、そういう風に言える方に仕えたかったなぁ」


「メネアさん、誰か聞いてたら……」


 イヴは焦りながら小声で話す。


「大丈夫よ。こんなことみんな言ってるんだから。あなたたちは真面目過ぎるのよ」


 メネアさんは飄々として答える。


「ノアは良いわよね〜。優しいクラウディア様に気に入られて。クラウディア様からメイド長に、メイドは変えないで欲しいって言われてるんだから」


 羨ましそうな顔でメネアさんは見てくる。


「運が良かっただけですよ」


 私は恐縮しながら答える。

 メイドの中にも配置場所によって当たり外れがあり、多分私は大当たりを引いたのだろう。

 一番評判の悪いロベレルカ様は、私が入ってからも何人もの使用人を辞めさせている。

 私も何回か実際に見かけたことがあるが、あの高い声で怒鳴られている使用人を、自分に置き換えてみてゾッとっしたのを覚えている。


「アルフォンス様ってノアが言うには天才で、カイン様より可愛いらしいけど、どうなの? イヴ」


「カイン様の方が可愛いに決まってます。確かに頭の良さはアルフォンス様の方がた、多少上だと思いますが」


 イヴは最初自信満々に、最後の方はしどろもどろになりながら答える。


「イヴ、多少は幾ら何でも無理あるよ……」


 私は思わずそう答えた。


「カ、カイン様は努力型だから、これからの伸びが半端ないんだから……」


「でもアルフォンス様は天才なのに努力も怠らないんだよ。それにアルフォンス様はカイン様より可愛いわ。イヴはアルフォンス様の笑った顔をちゃんと見たことないからそう思うのよ」


「こらこら喧嘩しない」


 ニヤニヤしながらメネアは私たちの言い争いを止める。

 私はメネアさんの声にハッとなった。


 駄目だ、駄目だ。

 アルフォンス様と、クラウディア様のことになると、すぐに頭に血が上ってしまう。


「ごめん、イヴ。二人とも可愛いよね」


「そうね。カイン様の方が、ちょっぴり上だけど。二人とも可愛いわ」


 イヴはいつももそこだけは譲らないので、話を流した。

 いつもの言い争いが終わり、窓からか見える満開に咲いた桜の樹を見てふと私は思う。

 この幸せな日常がいつまでも続けば良いな……。

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