4
さあ、今日も検証の続きだ。
魔力操作ができた翌日、魔力回復スピードを調べないと魔力増加量を調べられないことに気付いた。
それから魔力回復スピードを調べることに重点的にやった。
その結果分かったこと。
1魔力回復スピードは一定であるということ(寝てても動いていても一緒である)
2魔力枯渇現象から魔力が全快するまでの時間は恐らく、約11時間だろう。
3魔力で覆う場所を広げると魔力消費量が増す。
4魔力を薄くのばすイメージで覆うと魔力消費量が減る。ただし身体能力上昇の効果も下がる
5これが最も重要だが検証から一ヶ月近く経つが魔力量の上がりがしょぼい。
愛読書である「異世界行ったらもてすぎてつらたんです(仮)」の主人公は、転生した後一ヶ月で、5倍の魔力量になっていたはず。
そこまで行かなくてもせめて一ヶ月で元の魔力の倍、一年で12倍とか単純に考えていたがこの一ヶ月で上がった量は約3割ぐらいだと思う。
もしRPG的に最初の魔力量が10だとすると、3しか上がっていない。
これが総魔力の割合で一ヶ月に3割ずつ増えていくなら、大したものであるがそんな感じではなさそうだ。
後一ヶ月は検証が必要だが。
それと魔力総量に比例して、魔力回復の量が増えるのかはまだ分からないが、もし魔力総量が修行の成果や年齢を重ねる事に増えていくのならば、自ずと結果は分かると思っている。
先週、母が俺の誕生日を祝ってくれた。
その時にセリカとカインが部屋に来てくれた。
セリカはエルフさんのことでカインはその子供のことである。
セリカ達は喧嘩別れした後もちょくちょく部屋に来ていた。
部屋に来るとセリカはいっつも俺に構うのでカインは不機嫌になる。
そして俺の頬っぺたを抓るのである。
勿論俺は反撃に出る。
ハイハイとヨチヨチ歩きを駆使して、座っているカインの背後に回り、髪をおもいっきり引っ張ってやるのだ。
そうすると大抵泣き出して、その場はお開きになる。
最初は女の子と思っていたから遠慮していたが、男と判明した後は容赦なく攻撃している。
これは俺の魂の怒りでもある。
つい二週間前までは、幼馴染みがハーフエルフの可愛い女の子でイエーィとはしゃいでいたのに、実は男でだったでござるとか……このやり場のない怒りは全てカインの頭皮にぶつけている。
多少毛がなくなった所でイケメンはそれだけで勝ち組だ。
俺が毛を抜くことでいい塩梅になるだろう。
「うちのカインはダメダメね、まだ一歳のアル君に負けるなんて」
「始めの頃はアル君の方が泣いてたのにねぇ」
「ママ違うんだ。あいつ、卑怯なんだよ。髪の毛ばっかり狙って来るんだ」
「あーい、あうあうべー」
カインだけに見えるようにアッカンベーをしてやった。
カインはこっちを見て俺と同じようにーー
「アッカンベー」
「こらまたあんたって子は」
カインは頭をペチンと叩かれた。
フッ馬鹿め。
俺の罠にまんまとハマるなんてな。
「そうやってちょっかいばっかりかけるから髪の毛引っ張られるんでしょ」
「違うよママ、今アルが先にアッカンベーしてきたんだ」
カインは涙目になりながらセリカに訴える。
ちょっとした押し問答になっていてさすがに可哀想に感じたので、ハイハイでカインの所まで行き頭を撫でてやった。
頭を撫でる瞬間カインの体がビクッとなる。
髪の毛引っ張りすぎてトラウマになっていたりして、これからは気をつけよう。
「あらー、アル君の方がお兄ちゃんみたい」
「ふふっ、本当ね。ママ、アル君が優しい子になってくれた嬉しいわ」
「カインもお兄ちゃんなんだから弟には優しくね」
「ごめんなさいママ」
え? あれ? お兄ちゃんとか弟ってなんだ?
俺がセリカの子供ってこと?
いやでも、俺の耳カインみたいに尖ってないぞ。
ってことは父親が一緒ってことか?
もしかして一緒の家に住んでるのか?
俺は生まれてこのかた、この部屋を出たことがないのだ。
なのでその可能性も十分ありうる。
口に出して聞きたいところだが、俺はまだ簡単な単語しか喋れないことになっているので難しい。
カインがお兄ちゃんかー。
暴力的だし、すぐに泣いて頼りないないし、馬鹿だけど、もしそうならやっぱり嬉しいな。
俺は心の底からそう思った。
俺は誕生日以来、部屋の外から出ることを目標の中に追加し行動しているが、ことごとく母によって阻止されている。
なぜか母は俺を部屋の外から出したがらない。
「部屋のお外はねー、怖い人がいるから出ちゃダメなのよー」
母はいつもそう言って部屋から出ようとする俺を抱き上げて扉から遠ざける。
俺の部屋には常時、母の監視が付いているので脱出は今の所は難しい。
母は週に一回位夜に出て行き、朝に帰ってくるのだがその時を見計らって外に出ようとするが鍵がかかっていて出ることが出来ないのである。
母が週に一回帰ってこない理由は恐らく父の元に行っているのだと思う。
何とかして外に出たいのである。
まず、俺が置かれている状況を確認したい。
流石にこれだけ部屋から頑なに出そうとしないのは何かあると思うし、父親を未だに見たことないのもおかしい。
それにそろそろ本を読みたい。
特に魔法関係の本が。
たまに絵本なんかを読んでもらっているのだが、幼児向けで俺の知識欲を満たしてはくれないのだ。
勉強になったのはこの世界にはドラゴンが居ることが分かったくらいだろう。
国中を暴れ回ったドラゴンを、若い青年が仲間たちと共に聖剣で見事に退治するという話だ。
これは実話らしくて、隣の国の初代国王様の話らしい。
母はこの話が好きらしく、何回も聞かされている。
このまま順調に喋る単語を増やしていけば、1歳半くらいには気になることを質問したりできるだろう。
それまでは、外に出るのも魔法の本を探すのもお預けだな。
初めて魔力操作できた日からかれこれ10ヶ月ほど経った。
正直まだ10ヶ月しか経ってないのかというのが感想だ。
今では魔力を体全身に張り巡らせることができ、最初は右手だけに纏わすだけで5分も持たなかったのだが、今では全身に纏わしても5分近く持つ。
魔力コントロールも上手くなったので、薄く纏わすことで20分も維持することが出来る。
かなりの進歩だと思うが思っていた通り、総魔力の上昇は割合で増えていくわけではないようだ。
そりゃそうだよな。
一ヶ月で3割ずつ魔力が増えていったら最終的に一年で20倍超えちゃうもんな。
二年で400倍越えか。
チート羨ましい。
そういえば魔力操作している間に、魔力消費効率が上がったりとか、魔力の強さが上がったりするのかな?
そうなってくるといくら魔力が上がったか判断つかないぞ。
なんで俺そんなことも気付かなかったんだ。
やっぱり俺馬鹿だわ。
まぁ重要なのはいくら魔力が上がったとかじゃなくて、どれだけ魔法が使えるかだもんな。
最悪なのは身体能力強化の魔力消費量が下がっていて、実際の総魔力量は上がっていないってパターンだな。
今更修行の方法を変える当てもないし、このまま続けるか。
母が居ない夜には、黒歴史である魔法詠唱を口に出してやっているが反応はない。
この修行だけは誰にも見られてはいけない。
見られたら最後、俺の自尊心は粉々になるだろう。