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本日三話目です。

「これで第3坑道の生き残りは全てか?」


 俺たち第3坑道の生き残りを横一列に並べて、監督官が問いただす。

 その数は俺を含めて僅かに6人だった。

 誰も言葉を発さない為、俺が答える。


「これで全てです」


 監督官は俺の方一瞥すると、体の向きを後ろに変えて歩き出す。


「付いて来い」


 俺たちは言われるがままに監督官の後ろを付いて歩く。

 一体俺たちは何をされるのか、皆言葉には出さないがその表情には戸惑いの色が見て取れる。

 俺はある程度理由を推測しているが、それでも少し不安だ。

 監督官が進む先には忌々しいマリウスの屋敷があるからだ。


 暫く歩くと監督官は予想通りマリウス邸の前で止まり、門番に挨拶する。

 すると門番が金属製の扉を開け、監督官は敷地の中に入っていく。

 屋敷は赤を基調とした石造りで出来ている。

 監督官はマリウスの屋敷の前で止まり、呼び鈴を鳴らす。

 そこから出てきたのは俺がマリウスの屋敷で飼われていた時、何度も見たことのあるメイドだった。

 メイドは監督官と少し話すとまた屋敷の中に戻って行った。


「これからA級冒険者の『琥珀色の風』がここに来る。お前たちは質問されればそれに答えろ。それ以外は口を閉じておけ」


 やっぱりそうだっ!

 予想通りの展開に俺の心臓はドクンッと跳ね上がる。

 このチャンスは絶対に逃せない。


 監督官の指示から少しの間をおいて、扉から次々と人が出てくる。

 合計5人の人間が出て来た所で扉はまた閉まった。


「こいつらが生き残りか」


「うわっ、くっせぇっ。おいらこんな奴らと一緒に歩くの嫌だぞ」


「ちったぁ我慢しろ。これも仕事だ」


 口々にお互い言葉を交わしながらこちらに近付いて来る。

 そして俺たちの前で止まると、品定めをするかの様な目でこちらを見てくる。

 俺はここで座して結果を待つつもりはない。

 意を決して口を開く。


「俺を連れて行って下さい。この中では誰よりも第3坑道について詳しいです」


 精一杯頭を下げて願い出る。

 突然の俺の行動に監督官は慌てて俺を取り押さえようとする。


「ちょっと待て」


 俺の肩を掴んだ監督官の腕を、更に筋肉質の太い腕が捕まえる。

 プラチナ色の短髪をした熊のような体格をした強面の男だ。

 背中にかけている剣の長さは2メールを超えているのかもしれない。

 とても常人では両手であっても取り扱えない程の重量に思える。

『グレートソード』そんな単語が俺の頭をよぎる。

 そんな大男に腕を掴まれた監督官は、直ぐさま俺の肩から手を離す。


「小僧、何故お前たちを第3坑道の中に連れて行くと思った?」


 強面の顔が俺を見下ろすようにして向けられる。

 その顔を見れば普通の子供は腰が砕けてその場で泣き出すだろう。

 だが俺はこの男に感謝した。

 俺にとって最高の場を提供してくれたからだ。


「この国一番の冒険者が軍隊蟻を退治しにくるということは、私たち奴隷の中でも噂になっておりました。この国一番の冒険者となればその経験、知識もまたこの国一番ということになるでしょう。そんな冒険者が中の様子が分からない炭鉱の中を、地図も無しに進むとは考えられません」


 俺の言葉に耳を傾ける冒険者たちに、一呼吸置いてまた話し始める。


「ただ、第3坑道には地図というものが存在しません。恐らく他の坑道も同じでしょうが。ならばもっとも坑道に詳しい者に道案内させるのが一番合理的です。そう推測して、今から坑道の道案内役を選ぶのだと考えました」


 俺の答えに感心したのか、冒険者の1人から口笛が鳴る。

 熊のような大男も俺の答えに納得したのか、後ろを振り返り仲間と視線を交わす。

 すると次は赤とも黄色とも言えない、琥珀色の髪というのが一番しっくりくる男が問いかける。


「どうして道案内を買って出た? 死の危険を冒してまで案内するメリットが何処にある?」


 メリット? メリットならあるさ。

 俺の価値をこいつらに知らしめさせることが出来る。


「俺は奴隷になる前は剣の修行をしていました。騎士に勝ったこともあります。俺はここで……こんな場所で、一生を終わらせるつもりはありません。必ず皆さんのお役に立てる、それを見せる為の場が坑道の案内なのです。これが俺にとってのメリットです」


「……お前は、俺たちに奴隷を買えと言っているのか?」


「それは……俺が決めれるようなことではありませんが、俺はただ自分の価値を見て貰いたいのですっ! 例えその結果がどうなろうとも」


 この瞬間がチャンスを掴むのか手放すのかの別れ道だ。

 琥珀色の髪をした男の目を一点に見詰め、気迫を込めて訴えかけた。

 男は小さな溜息を吐くと観念したかの様に口を開く。


「嫌々来るような奴よりも、お前みたいな命知らずの方がまだマシか……。お前ら、こいつでいいか?」


 琥珀色の髪の男は一人一人の意見を伺うように、仲間たちの顔を順に見ていく。


「ああ、こいつは頭が回るみたいだしな」


「この小僧で俺もいい」


「こいつの臭いはまだ他の奴に比べてマシだ。こいつでいいよ」


「…………」


 一人目の男は腰に片手剣をぶら下げ、背中には丸い大盾を背負っている。

 図体は熊男ほど大きくないがそれでも2m近くある。


 二人目はグレートソードの熊男だ。


 そして三人目は……。


 この世界はやはり残酷だ。

 俺はこれまでの経験から何度もそれを理解させられてきた。

 それでも希望はあると思ってきた。

 神はこの世界にいるんだと信じてきた。

 だがこの瞬間確信した。


 神はいない……と。


 どうして初めて出会ったケモミミが……犬耳が……こんなむさ苦しい男でないといけないんだ?

 慈悲はないのか?

 世界は終わったのか?

 俺の思考は何度も湧き上がる疑問と理不尽に、高速で対応策を探し出す。

 そして直ぐに答えは導き出される。


 見なかったことにしよう。


 なんとか正解を導き出して四人目に視線を向けるが、灰色のローブを深く被っていて顔はよく見えない。

 身長は俺よりちょっと高いくらいなので子供か女性かもしれない。


「有難うございます。俺の名前はアルです。宜しくお願いします」


 俺は挨拶をして深々と頭を下げる。


「礼は必要ない。ただ案内をしてもらうだけだからな」


 琥珀色の髪の男は、お前を買うつもりはないと暗に釘を刺してくる。

 今はまだしょうがない。

 だが今回の会話で俺の価値を、多少なりとも見せられたはずだ。


「小僧、剣の修行をしてたとか言ってたな?」


 熊男はそう言うと、監督官が差していた剣を抜いて俺に放り投げてきた。


 危ねぇえじゃないかっ。

 そんな無造作に放り投げられたら怪我するって。


 何とか飛んできた剣の柄を掴み取る。

 剣を握った時、懐かしい感覚に襲われる。


「振ってみろ」


 あぁ……この感覚、久しぶりだな。

 じわじわとその感覚が強くなる。

 この剣、俺が振ってた剣よりかなり軽い。

 これなら魔力強化なしでも簡単に振れそうだ。

 でも、今は俺が持てる最高の一撃を出す時だ。


 先ず俺は魔力を全身に流し込む。

 この3年間、俺は穴を掘っていただけじゃない。

 リネイラが死んだ時に使った魔力操作を、何度も練習し続けてきた。

 操作スピードは3年前とは比較にならない程上達した。

 最初はこの魔力操作行うと体を動かすことは出来なかった。

 それだけ集中しなければならないからだ。

 けど今なら、剣を一振りすることは出来るはず。


 この場にいる全ての者の視線が俺に集まる。

 そして俺は目を閉じ、がむしゃらに剣を振るっていた時の自分をもう一度思い出す。

 あの時の剣の感覚を。

 あの時、剣を振るっていた理由を。

 3年前のアルフォンスの想いと、今の俺の想いを剣に乗せて…………振り下ろす!!


 ーーズバッッッッ


 空気が真っ二つに割れる音が全身を伝わり鼓膜を振動させる。

 空間、全てが真っ二つに割れたのではないかと思うほどだ。

 閉じていた目を開けると、大地を切り裂くように亀裂が地面を走っている。


 ーーパチッ ーーパチッ


 何か体から変な音が聞こえるが、それは直ぐに止んでしまった。

 目の前の光景が衝撃的過ぎてそちらに気をとられる。


「え……と、あの、これ何があったんですか?」


 周囲にこの原因を尋ねるが、皆言葉を失っている。

 監督官は尻餅をつき、口を開けて呆然としていた。

 奴隷たちも似たようなものだ。

 大盾の男は口をパクパクさせているが、言葉が一言も聞こえてこない。


「あの……ぉ…」


 俺だけがこの状況を理解していないことに段々と不安になってくる。


「おまぁ、お前一体何しやがったんだっ!?」


 犬っぽい人が、興奮を抑えきれないといった感じで聞いてくる。


「え……と、これは俺が?」


 目の前に広がった亀裂を指差して逆に聞き返す。


「あたりめぇだろうがっ! お前が剣を振ったんだろっ!」


 俺が振った剣でこれが?

 …………。

 もしかしてこの剣、伝説の魔剣か何かか?


 手に持った剣をマジマジと見つめるが、俺には普通の剣との違いが分からない。

 だが、確かに今までの剣と比べて凄く軽かった。

 それに、凄く手に馴染む感覚もあった。

 俺の中で一つ一つピースが埋まっていき、答えが浮かび上がっていく。


「これが……伝説の魔剣……」


 これから先、一生お目にかかれないであろう代物に思わず息を飲む。


「ちょっとその剣、見してみろ」


「あっ」


 琥珀色の髪をした男が俺の呟きを聞いたのか、横から剣を奪い取る。

 元々、俺のものではないから別にいいのだが……。いいのだが……。

 男はその剣を上から下まで見ていくと軽く一振りする。


「……ただのロングソードだ」


「え?」


 まさかそんな?

 じゃあこの亀裂は一体どうして?


 琥珀色の髪をした男は突然険しい顔となり、周囲の人間を威嚇しながら話す。


「そこの監督官と奴隷たちっ! このことは誰にも喋るな。もしこの話が何処からか漏れたなら……全員死んでもらう」


「俺はオーフェン伯爵とも知り合いだし、リッタイト王とも面識がある。つまりはお前らを殺すも生かすも簡単だっていうことだ」


「そんな!? 何故私まで! あの奴隷たちが話せば私まで殺されるなんて理不尽だ」


 監督官は尻餅をつきながら、喚き散らす。

 琥珀色の髪の男は剣を監督官の首筋に持っていくと、肌を針で刺すような殺気を伴い一言発する。


「今死ぬか?」


 その一言で監督官は大人しくなった。

 琥珀色の髪の男の殺気に完全に飲まれてしまったようだ。

 琥珀色の髪の男は、監督官に向けていた剣をゆっくり下ろすと俺の方を見る。


「お前、確かアルっていたな」


「そうです」


 琥珀色の髪の男は俺に右手を差し出した。


「俺の名前はコールマン。『琥珀色の風』のパーティーリーダーだ。明日は頼んだぞ」


「ッッ。よろしくお願いします!!」



『琥珀色の風』と明日、第3坑道に向かうこととなった。



 あの亀裂は俺が行ったものなのか?

 俺自身、未だによく分かっていない。

 だが今日の出来事が俺を前進させてくれたことは確かだ。

 また明日、俺は進んでいかなければならない。

 一歩、一歩だ。

まだ行きます。


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