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 あれから150日くらい経っただろうか。

 毎日数えているので、ボケてない限り合ってるはずだ。


 これまで俺は魔法の修行において、魔力を感知するという観点からだけではなく色々な面からアプローチしている。

 まずは魔法の詠唱だ。

 言葉を喋ることはできないので、心の中で思いつく限りの魔法の名称を唱えたが勿論何も起こらない。


(我に眠る邪悪な魂の力よ深淵から出でよ、シャドウボルト)


(この身に宿りし精霊の力よ我が外敵になるものを討ち滅ぼせシャイニングアロー)


 色々妄想しつつ自作で呪文を考えて唱えてみるが、言いようのない羞恥心と唱え終わった後の喪失感だけが心に残っただけだった。

 詠唱とは別に想像力から魔法を出すという方法も試してみたが、いうまでもなく失敗だった。


 そんなこんなで魔法に関しては、毎日進歩のない日々を過ごしていた。

 正直もう諦めたらとも思うが、どうしても諦めきれない自分がいる。


 魔法以外のことは順調といっていいと思う。

 言葉に関しては単語を結構な数を覚えてきている。

 意味のわからないものが大半だが、何となくこうじゃないかと推測している。

 俺が寝ている部屋は15畳くらいあり、母も同じ部屋で過ごしている為言葉を覚えるのにはいい環境だ。

 母がよく俺に向けていう言葉。


 アルフォンス。


 それが恐らく俺の名前だと思う。

 中々かっこいい名前で自分では気に入っている。

 言葉も少しなら喋れるようになった。

 3日前に「まんま」と言ったらものすごく抱きしめられて、多分もう一回もう一回と俺に連呼してた。

 ただ俺はまんまを安売りするつもりはないのだ。

 頑なに母からの要求を拒否し続けた。

 母はかなり粘っていたが俺にその気がないことに気づいたのか、頬を膨らましつつその日は諦めたのだが、時折思い出したように「まんま」と自分の顔を指差して笑顔で微笑んでくるのだ。

 さすがの俺も根負けし「まんま」ともう一度言ってあげた。

 母と俺のまんまの戦いは俺の敗北で終わりを告げた。

 それからも発声の練習は毎日続けている。


 俺の人物リストに、新たに二人が追加された。

 1人はエルフさんに連れられた小さな子供だ。

 2歳から4歳ぐらいだろうか。

 凄く可愛い顔をしており、耳が尖っていて、髪の色が緑色だった。

 エルフさんの子供かなと思っていたら案の定、エルフさんのことをママと呼んでいたのでそうなのだろう。

 最初は俺のことを見てはそっぽ向いたりしてて可愛い子だと思っていたが、急に俺の方に近ずいてきて頬っぺた抓りやがった。

 俺は赤ちゃんの必殺技、大泣きで仕返ししてやった。

 その子もエルフさんに怒られて泣き出してしまった。


 ざまぁ。


 その後、顔合わせはお開きとなってしまった。


 もう一人はメイドさんの格好をした人だ。

 毎日ご飯を持ってきてくれるのだ。

 これまで母は別の部屋で食事をしていたようだが、俺が離乳食になってからは一緒に部屋で食べている。

 年は10台半ばかなという感じで、ちょっと田舎娘っぽいがそれも含めて可愛いと思う。

 メイドさんが世話してくれるっていうのはやっぱり、母やエルフさんの首にある物は奴隷の首輪ではないのではと思っている。

 奴隷にメイドってあり得ないと思うし。



 とある日、俺はいつものように魔力の感知の修行を行っていた。

 まぁ体に意識を向けて、ウンウン唸るのが修行かと言われたら俺は修行だとは胸を張れないだろうが、崇高なる目的の為に日々努力していると考えると、修行といっても過言ではないのだろうか。(この生臭坊主が)

 またどこからか心をぐさりと抉るツッコミが聞こえたような気がした。


 そんな修行の日々が実ったのだろうか。

 お腹の中にあるドロッとしたものを感じることができた。

 うん? なんだこれ?

 こんなの今まであったか?

 もしかしてこれが魔力ってやつなのか?

 俺はそのドロドロしたようなものを、なんとか動かせないか試してみることにした。

 おぉ微かに動いているぞ。

 もっと動かせれるようにやってみよう。

 その日から夢中で塊を動かすことに没頭した。


 塊は最初、石のように堅く少ししか動かなかったのだが、なんども動かそうと試みる間に段々と粘土のような柔らかさになり、次第に粘りのある水のようなものに変化していった。

 その粘りのある水を腕に持っていった。

 すると腕が軽くなったのだ。

 なんとなくとかではなく確かな実感を持って現れたのである。

 しばらくその事実を噛み締めながら、粘りのある水を他の場所に移したりしていたのだが、次第に激しい頭痛と眩暈、体のダルさに襲われた。

 これ以上続けたらやばいと思った俺は、そこで魔力操作をやめた。

 魔力操作の後、1時間くらいはグロッキーな状態で体を動かせず、何も考えることが出来なかった。


 その後も体がダルかったので、先ほどの魔力操作について考えていた。

 これはやっぱり魔力操作による身体強化ってヤツかな。

 今はまだ流し込むことができる範囲は狭いけど、もっと慣れたら全身覆うことが出来るようになるのかなぁ。

 これはチート来たで。

 思わずニヤリと顔がほころぶ。

 今の俺の顔は赤ちゃんながらすごく悪い顔をしていたと思う。

 これからの目標は全身に魔力を覆わせることと、魔力量増加だな。

 さっきの頭痛や体のダルさは魔力枯渇なんだろうか?

 あれ以上やるのはかなり危険だと感じる。


 取り敢えず回数を重ねて、魔力を纏わせる時間が増えてるのを確認できたら、どういう行為が魔力量増加に適しているのか検証しなくちゃな。

 効率的なやり方見つけて徹底的に鍛えてやる。

 今のままの魔力維持時間だと使い物にならないし。


 頭痛やダルさも4時間後くらいには消えたので、もう一度魔力操作を行うことにした。

 今度はさっきよりも体感で1/3くらいしか持たなかった。


 夜ご飯を食べさてもらいながら、少し頭痛の残る頭でこの結果を考えていた。

 どうして維持できる時間減ってるんだよ!

 何でだ、考えろ。


「はーい、アル君ご飯でちゅよー」


 うん、これ美味いな。

 お粥に海苔っぽい味がついてるよ、見た目は薄い紫色だが。

 って違う違う。

 何で維持できる時間が減ったかだ!

 やっぱりあれか、魔力量が回復しきってないってことか。

 大体4時間で1/3だと単純計算で12時間か、この世界の時計って一時間単位しか正確な時間解らないから、この検証では苦労しそうだな。

 えーとあれだ、明日検証して……えーなんの検証だ………。


「はい、最後の一口でちゅよー」


 はむはむ、あれ? 今寝てたか。

 ヤバい、眠い。

 色々考えないといけないのに……。

 とりあえずもう寝よう。

 寝て起きてから考えた方が、きっと良い答えが出るだろう……。


「お休みなさい」


 俺の耳にいつもの耳がポカポカするような暖かい声が聞こえたような気がした。

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