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森を歩いて移動する5人組の背後を、一定距離を空けながら付いて行く。
こいつら何処まで行くつもりだ?
もうかれこれ30分は歩いているぞ。
俺が目的地に疑問を抱いていると、斧持ちの男が合図を出して全員その場に止まり出す。
俺もそれに合わせて立ち止まり木の陰に身を潜めて、男たちの様子を伺う。
男たちは座って休憩をしているようだ。
見張りも立てずに皆、思い思いの方法で休憩しているようだ。
幾ら何でも無警戒すぎるだろ。
隙が有り過ぎて、襲ってくれと言ってるようなものだ。
……これは誘われているのか?
男たちは何か会話もしてるみたいだが、俺の所にまではハッキリと聞こえない。
どっちだ?
唯の馬鹿なのか、罠なのか。
このままこいつらに付いて行っていいのか?
この無警戒な行動が俺の心を惑わす。
必死に正解を導こうと考えている所に、突然笑い声が響き渡る。
「ここまでしてやってんのに出てこないなんて、本当にあそこ付いてんのか?」
「ハンスさん女かもしれないっすよ。こんなコソコソついてくるような真似するやつわ」
「こんな下手くそな尾行で、バレてないと思ってんのか?」
「もう分かってんだよ。早く出てきてその女面見せろよ」
「こっちもこの後、お楽しみが待ってんだ。これ以上お前と付き合うのは面倒クセェんだわ」
男たちは俺を誘き出そうとしているのか、嘲笑の言葉を大声で叫び出す。
チッ、バレてたのか。
だが、俺の位置までは気付かれてないのか。
今なら姿を見られずに逃げることも出来る。
でも、この千載一遇のチャンスは逃したくない。
不意打ち無しで、このナイフだけで、あいつらを殺れるのか?
あいつらは中々の手練のようだし、連携されたら厳しいかもしれない。
不意打ちか……。
もし俺がのこのこ出て行ったら、あいつらどんな反応するだろう?
今までの経験上、子供だと思って油断する可能性が高い。
頭の中で色々なストーリーが出来上がっていく。
よしっ、一芝居打ってみるか。
ナイフを見られないようにズボンの後ろに差し込んで、木の陰から体を出してユックリと男たちに近づいて行く。
「おじさんたちごめんなさい」
警戒心を無くすために、出来るだけ子供っぽく男たちに喋り掛ける。
俺の声に反応して全員が一斉にこちらを見る。
男たちの顔は俺を見ると、呆気に取られたような顔を見せた。
だが、それは一瞬だった。
瞬く間に男たちの顔は醜く歪み、こちらを値踏みするような視線に変わる。
そして、リーダーらしき男は斧を下に降ろして俺に向けて言葉を返す。
「おいおい、そこの坊主? ん? 男だよな? 女にも見えるが」
「ハンスさん、今はそこはどうでも良いですって!」
「ん? そうか。おい! お前! 何故、俺たちの後ろを付けてきた」
あの顔を見れば分かる。
あれは、獲物を見つけてどう捌くかを考えている時の人間の顔だ。
そこには、獲物に牙を向けられるなんて考えは微塵もないだろう。
お前らにどちらが狩る側か、思い知らさせてやるさ。
「ごめんなさい。悪い大人に捕まってて、隙をついて逃げたら道に迷って……そしたらおじさんたちが居るのが見えて、付いて行ったら森から出られるかなって」
今にも泣きそうな顔をして男たちに訴えかける。
リーダの男は納得したような顔付きになる。
「お前、運がいいぜぇ。この優しくて、ナイスガイなハンス様に見つけて貰ったんだからな。ヘッヘッヘッ」
こいつチョロ過ぎるだろ。
完全に油断してやがる。
喋り方も馬鹿っぽいし、断じてナイスガイでは無いぞ。
どうせ死ぬんだから名前は覚える必要が無いな。
お前の名前は馬鹿に決定だ。
「おいガキ! お前名前はなんていう?」
馬鹿の部下Aが、こちらに猜疑心を持った目を向けてくる。
こいつはあの馬鹿程油断してないみたいだ。
もう少し待つか。
「大人たちからは、アルって言われてました。お願いです助けて下さい。なんでもしますから」
「先ずは質問に答えろ。そしたら考えてやる」
「分かりました」
「お前、川辺から付けてきたよな? ゴブリンはお前が殺したのか?」
馬鹿の部下Aは、早速核心をついてきた。
「あれは僕のことを追ってきた人が……怖くて、捕まりたくなくて、ずっと木の陰で隠れてたんです」
「そいつらは何人くらい居たんだ?」
「多分、3人くらい居たと思います」
男たちはそれを聞いて静かな声で相談し始めた。
所々馬鹿の声が大きので、物騒な単語が聞こえてくる。
『殺す』だの、『奴隷』だの、『高く売れる』といった子供には聞かせられないものだった。
「ギャッハッハ。お前ら慎重になりすぎだぞ。どんな奴が来ても俺のこの怪力でミンチにしてやる」
「……分かりました。ハンスさんがそういうならアジトに連れて行きましょう」
「俺もそれで良いっす」
「追っ手もこの広い森だし大丈夫だと思います」
「判断はアジトに戻って親分に決めてもらいましょう」
方針は決まったみたいだ。
俺をこいつらのアジトまで連れて行くようだ。
「おいアル、俺たちが森の外まで連れて行ってやる。その前に寄る所が有るがな」
「黙って付いて来るといいっす」
「どうせこの森で一人だと、今日中にモンスターに食われるぞ」
「ありがとうございます。これでやっと安心出来ます」
俺は、ホッとした顔をしてゆっくりと近寄って行った。
男たちの顔からは、俺に対する警戒心は殆どないように見える。
俺を拘束しようとしない所がそれを表している。
いつでも捕まえられと思っているのだろう。
「お前ら行くぞぉ。俺は早く帰って、久し振りに腰振りまくりてぇんだ」
「ハンスさん加減して下さいよ」
4人の男たちが、下衆な会話を繰り広げながら各々歩き出す。
残り1人の男がその場に立って、俺が追い付くの待っている。
「おい、お前アルっていったな」
男との距離が2mを切った所でこちらに話しかけてきた。
魔力を全身に流し込む。
「そうです」
「お前、男だよな?」
「女です。確かめてみますか?」
男と体が触れるくらいの距離まで近づくと、スッと男の背後に回り込み腰にぶら下がった剣を抜き取る。
「まっマジか! ーー ヘ?」
男は間抜けな声を出して一瞬固まる。
その時間があれば俺には十分だった。
魔力を纏わせた剣の切れ味は、前に切った時と比べものにならなかった。
スッと男の太腿に入っていった剣は、何の障害も無くそのまま通り過ぎ、もう一つの足もついでに斬り落としてしまう。
森に舞う鮮血と、背中から崩れ落ちる男を見ながら、止めの一撃を首に向けて放つ。
ドサっという音が二回鳴る。
直ぐに、20メートルほど前にいる集団に目向ける。
話に夢中になってるようで、こちらの惨状に気付いていないようだ。
これで目標は達成だ。
けど、ここで止めるつもりはない。
あいつらは俺の獲物だ。
全て奪い取ってやる。
武器も金も食料もアジトも。
人から奪うことしか考えてない奴らには分からしてやらないとな。
いつでも自分が奪われる側に回るんだってな。
ーー
「イデェエー」
「ムリっす。死ぬっす」
「助けてくれぇー! 何でもするから」
3人の男たちの耳障りな叫び声が、森の中に響き渡る。
「ちょっと黙ってろ。俺には1人居れば十分なんだ。その意味が分かるよな?」
俺の声に、男たちの叫びがピタッと収まる。
「じゃあ、今から質問するからちゃんと答えろよ。適当なこと言ったらこのままゴブリンの餌にしてやるから」
「そっ、その前にいいっすか?」
「何だ?」
「このままじゃ直ぐに死ぬっす。だから足を縛って欲しいっす」
「やりたきゃ自分で勝手にしてろ。それよりお前らのアジトは何処にある?」
「……………」
誰も答えない。
意外と律儀な性格をしているのか?
少し脅してみるか。
「初めに言った通り、俺には1人居れば十分なんだ。そしてお前らの中から助けられるのも一人だけだ。俺が持って歩けるのは一人だけだからな。後の2人は血が無くなって死ぬか、モンスターに生きたまま食われるかだ。俺は一番素直に質問に答えたやつをアジトに連れて帰ってやるつもりだ。もう一回聞くぞ。アジトは何処だ?」
「あっちっす」
「ここから2キロほど離れたところです」
「てってメェら、裏切るつもりか?」
「まず一人」
同時に2人がアジトの場所を言い出すと、馬鹿がそれを咎めようとする。
俺は馬鹿の背後に回り、首めがけて剣を叩きつける。
魔力は節約の為に薄く纏わすだけだ。
「じゃあ今から残り二人で競争だな。確率が上がって良かったな」
それから二人の男は競うようにして、俺の質問に答えていった。
生と死を賭けた二人の戦いが続けられていく。
勝っても負けてもその結果は一緒だというのに。




