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スットクないので更新速度はどうなるか分かりません。
走り出した俺は、塀の前に来ると下半身に力を込めて、一気に跳び越える。
リネイラを抱きかかえていたので、思っていたより跳べなかった。
残り1m程、高さが足りない。
壁にぶつかる前に、足で壁を蹴り、もう一度上に向かって跳ぶ。
勢いを加速させた俺は、壁をなんとか乗り越えることができた。
壁を越えた先には、小さな雑草が生えた平原が目の前に広がっていた。
そして地平線の先に、リーズの森らしきものが見えた。
あそこだ!
リーズの森に入れば騎士団でも簡単には探せないはずだ。
急がないと。
塀を越え、少しずつ冷静になってきた俺は、リーズの森に向かって走りながら考える。
どうして俺はまだ生きてるんだ?
奴隷の首輪は、契約者が死んだ時に、奴隷も一緒に死ぬはずだ。
今も俺の首には、忌々しい感触が存在している。
母さんは俺に嘘を言ったのか?
何故だ?
俺がベンジャミンを殺そうとさせないためか?
心配性な母さんなら、あり得るかもしれない。
だとすれば、俺がベンジャミンを殺しさえすれば、母さんは解放されるのか?
あれこれ考えていると、もう森の前にきていたようだ。
いざ森の前にくると、威圧感に圧倒されそうだ。
風が吹くごとに森がザワザワと音を鳴らす。
森の奥は、この世界の果てまで続いてるのでは、と感じる程深く暗かった。
このままこの森に入れば、もう引き返せないがする。
直感めいたものだったが、何故か信じる気持ちになった。
もう一度冷静に、これから先どうするべきかを考えることにした。
先ずはリネイラをどうしようか。
冷静にか……。
そんなの無理だろ。
「どうしてだよ……。一体、何があったんだよ。なぁリネイラ」
目を閉じるリネイラに問いかけるが答えない。
また、涙が流れてくる。
「この世界はファンタジーの世界だろ? 魔法が有れば何だって出来るんだろ? なのにどうして傷を癒すことさえできない!」
簡単に大切な人が死ぬ、この世界が憎い。
力のない自分が悔しい。
もっと俺に力が有れば!
「ハッ、ハハハッ。そうだよな。力が無いからだよな。俺に力がないから救えないんだ。この世界は単純なんだよ……」
分かってるつもりだった。
努力してるつもりだった。
でも、救えなきゃそんなの何の意味もなかった。
今の俺に、誰かを救えるほど力が有るのか?
足りない。
今のままだと全然足りない。
力が欲しい。
すべての理不尽をねじ伏せる力が。
大切な人を守り通せる力が。
どうすれば手に入る?
この世界で力を得るにはどうすれば……。
魂から溢れ出る渇望を抑えながら、必死で考える。
殺せばいいんじゃないか?
この世界はファンタジーの世界だ。
エルフがいて、魔法がある。
そしてモンスターもいる。
ゲームでいう経験値だ。
俺はこの世界で生まれた当初、そういうゲーム的要素が有るのではーーと考えていた。
だが、この世界のことを本で読むうちに、そういった予想は雲の彼方へ消えていった。
そんなゲームのような話が有れば、冒険者や騎士のような、モンスターを相手にする職業は、英雄のような人間が多くいるはずだ。
だが、この世界での英雄は決まって魔法使いである。
もっともモンスターの相手をする冒険者が、英雄なんて聞いたことがない。
簡単に強くなれるなら、国は騎士たちにモンスターを殺させまくるだろう。
しかし、俺は僅かな可能性に賭けてみたかった。
いや、賭けるしかなかった。
劇的に強くなる方法なんてない。
この世界ではどれだけ頑張っても、人は人だ。
だが俺は人を超えないといけない。
モンスターを殺せば、僅かでも強くなれるなら、殺し尽くしてやるさ。
俺は戻らない。
今の俺は弱過ぎる。
こまま戻ってもまた縛られ、今度こそ何も出来なくなる。
一年だ!
一年で力を手に入れ、また戻ってきて、ベンジャミンを殺してやる。
ラファールもトリスタンも必ず殺ってやる。
俺は森の中に入り、リネイラをそっと地面に寝かせた。
そして素手で地面を掘り続ける。
爪の中に土が入り、やがて爪は剥がれ落ちる。
血と汗と涙が俺の体を伝い、地面に流れる。
魔力は使わない。
俺がリネイラに出来る、唯一の償いだから。
掘り終えた時には頭上に輝く二つの衛星と、燦然と輝く星々のみが辺りを薄い光で照らすだけだった。
血の気を失い、白くなったリネイラの顔を見ながら手を強く握る。
「ごめんなリネイラ。ここらは一緒には行けない。でも魂は一緒に持って行くから」
服を脱いで、血で汚れていない布を2枚分、赤いナイフを使い切り取る。
それから、リネイラの綺麗な紫色の髪を一掴み分ナイフで切り落とす。
髪の束を布で覆い包み、もう一枚の布で縛ってズボンのポケットにしまう。
「ありがとう、リネイラ。………もう会えなくなるって寂しがるなよ。また会えるさ。俺知ってるんだよ。人は肉体が死んでも魂は生きてるんだって。経験者は語る、だな。だから……またなリネイラ」
リネイラの体を優しく抱き上げて、穴の中に入れーー
少しずつ、少しずつ、土を被せていった。
大きめな石に、ナイフでリネイラの名前を削り、墓標とすることにした。
また戻ってくるよ。
もっと強くなって。
今度こそ守れる力を持って。
だから今はゆっくり休んでて。
ここで一章終わりです。
ここまで読んで頂いた方、本当に有難うございます。
こんな拙作ですが、また機会があれば続きも読んで下さい。




