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 -本邸ラファールの部屋にて-


「ラファール兄様、お聞きになられましたか?」


「聞いてるぞトリスタン。まさか父上が、本邸にあんな奴隷の子供を連れてくるとは……」


 ラファールは手に持っていたティーカップを握り潰さんがばかりに力を込めた。


「あの野郎……魔力持ちだからって調子のりやがって。あいつのせいで姉様は……」


 その話を隣で聞いていたルーファスは、憎悪が浮かんだ表情を浮かべて呟く。

 ラファールは一旦、深呼吸をしてからこれからのことを思案する。


「カインだけを潰せばいいと思っていたが……。俺自身も出張るしか無さそうだな」


「カインとアルフォンスは仲がいいと聞いたことがあります。組まれると厄介なことになりそうですね」


 トリスタンは集めた情報を、静かな口調で伝える。


「ゴロツキどもがあの野郎を殺してたら、こんなことにならなかったんだ」


 ブツブツ独り言を言っているルーファスに、ラファールは次の一手の要となる姉のことを聞き出す。


「リネイラはまだ部屋に籠っているのか?」


「はい。もう一ヶ月以上……出てきてません」


 両手の拳を握りしめ、俯きながら答える。


「リネイラにも手伝ってもらうことがあるかもしれん。しっかり見ておけルーファス。心配するな俺が後継者になったらリネイラの婚約は解消させてやるさ。もう行っていいぞ」


 ルーファスが出て行き、ラファールとトリスタンの二人だけとなる。


「本当に婚約を解消させられるのですか?」


「父上が決めたことだ。今はどうにもならんよ。でも本当に俺の役に立つと言うのなら、ロベレルカとの約束である、アンリッセル家の者との結婚の縁を持ってやってもいいかもしれないな」


「父上も酷いものですね。この辺境のダグラス領まで悪評が聞こえてくる、バイルッセン伯爵の第8側室とは」


「側室なら殺されることは無いだろうが、壊されるだろうな。……嫁ぐ前に、リネイラにはもう一働きして貰うさ」


 ラファールは手に持っていたティーカップを口に含み、黒い液体を一気に飲み干した。



 暗くジメジメとした部屋で交わされる会話。

 自分が上に上がる為には親、兄弟、親友利用できるものは全て使う。

 これはこの世界の貴族たちの縮図。

 ……いや、この世界の縮図である。


 そんな世界だからこそ、より輝くものがある。

 その輝きに気付いたものはそれを必死に守ろうとする。

 だがこの世界ではそれを許さない。

 力ないものは奪われる。

 権力のないものは理不尽に膝まずかされる。

 金のないものは生きること許されない。

 だから他人の輝きを奪ってでも自らを満たさそうとするのだ。


 守りたいなら力を求めろ。

 自分の正義を貫きたいなら人の上に上がれ。


 誰かの輝きを奪ってでも。




 ーー





 初めて入る部屋をキョロキョロと目線が動く。

 入ってる見ると中々広い部屋のようだ。

 床には大きな絨毯が一枚部屋の中央に置かれており、別邸との格差が感じられた。


「母上、ここが本邸で生活する為の部屋なのですか?」


「その呼び方は慣れないわね。ここはアルだけの部屋よ」


 本邸に行くにあたって、俺は母さんの呼び方を変えたのだ。

 領主を目指すには言葉遣いも重要になると考えている。


「えー、お兄ちゃん一緒の部屋じゃないの?」


 喋る言葉に赤ちゃんっぽさが抜けてきたルナには、『お兄ちゃん』と呼ばせている。

 呼び慣れた『にぃにぃ』も捨て難かったが、憧れが勝った。


「俺も一緒の部屋がいいよ」


 普段、言わないワガママを言ってみる。

 ずっと一緒に暮らしてきたのだ。

 直ぐに会えるからといっても寂しいものがある。


「私も一緒がいいわ。でもアルだって後2年経ったらオースレン学院の寮で生活することになるのよ。今の内に慣れておかないと辛い思いをするのはアルなのよ」



「じゃあルナも一緒に学院に行くから、お兄ちゃん寂しい思いしなくていいよ?」


 首を傾げながらルナが言う。


「ルナは駄目よ。大きくならいと行けないのよ。アルの部屋にたまに泊まりに行くといいわ」


 ルナの無茶振りに母さんは慌てて誤魔化す。


「うん! 毎日泊まるー」


 ルナにとってはいい返事がもらえたようで笑顔だ。


「毎日泊まったらママ寂しいわ」


「じゃあ母上も泊まりに来たらいいよ」


「お兄ちゃんてんさーい」


「それじゃあアルの部屋の意味がないじゃない」


 母さんはクスリと笑った。



 俺が本邸に行くことになった時はそれはもう凄く喜んでくれた。

 本邸に行けばセリカやカインもいるし、ロベレルカの嫌がらせも本邸にいれば中々手が出し難いだろう。

 母さんは、俺たちの前ではいつも通りを装っているが、俺は母さんの子供だ。

 母さんの心が日に日に削られていくのが分かる。

 勿論、母さんが喜んでくれたのはそれが理由ではなく、俺の成長が嬉しかったんだろう。


 これで一歩前進した。

 俺の歩みは止まってなかったんだ。

 間違ってなかったんだ。

 いつもの会話、いつもの笑顔で、シミジミと達成感を感じた。


 チャンスを与えてくれた、ハワード副団長とカイン先生には感謝しかないな。

 でも、俺が結構強いなら一言くらい言ってくれてもいいのに。

 全然駄目だって言われ続けてきたからなぁ。



 次は母さんとルナの部屋を3人で見に行くことにした。


 母とルナの部屋でくつろいでいると、部屋がノックされ人が入ってくる。

 懐かしい顔で、最後に見た時と見た目は全く変わらず美しいまだだ。

 その後ろから見覚えのある子供が入ってくる。

 あの女の子っぽい見た目を残しながらも、伸びた身長とキリリとした瞳が成長の証を窺えさせる。


「久しぶりねクラウディア。アルくんとルナちゃんも大きくなって…」


 そう言って涙を浮かべながらクラウディアに抱きつく。

 2人の抱擁の長さには、その間にあった長い月日を感じさせられた。


「久しぶりねセリカ。1年振りかしら?」


「そうね、エルフの里にカインを連れて帰ってたから。最近帰ってきたのよ。アル君とルナちゃんは覚えてるかなぁ? 昔よく遊んでたのよ」


 セリカは屈みこんで俺とルナに挨拶をする。


「お久し振りですセリカさん」


 俺がそう言って笑顔で返事をするが、横に居たルナは俺の後ろに隠れてしまう。


「アル君はやっぱり覚えてくれてたんだ。嬉しいわね。ルナちゃんは小さかったから流石に覚えてないわよね」


「クラウディアさんお久し振りです。アル、久しぶりだな。お前なら絶対に覚えてるって思ってたよ」


「セリカさん。隣の可愛いお嬢様はどちら様ですか?」


 カインの方を見ながら、昔懐かしいイジリを言ってみる。


「まぁアル君ったら、お世辞が上手いのね」


 セリカの顔から笑みが溢れる。


「おい! アル。分かってて言ってるだろ。それに母上まで酷いじゃないですか。僕が気にしてるの知ってるくせに」


 本気で怒ってる訳でもなく、ツッコミ返してくる。


 やっぱりカインはカインだな安心したよ。


「久しぶりカイン。本邸に行ってからずっと見なかったけど、屋敷の外に出てなかったのか?」


 本邸に入ることが許されていなかった俺は、外に居ればカイン会えるかもしれないという期待を持っていたが、結局会えることはなかった


「そうなんだ。屋敷の中で礼儀作法とか、貴族としての勉強とかで家庭教師が付いてて外に出してくれないんだ。たまに外に出れても貴族のパーティーとかさ」


 心底嫌そうな顔でカインは答える。

 中々ハードな生活を送っていたようだ。


「それは嫌だな……頑張ってくれカイン」


「何言ってるんだよアル。アルだって家庭教師が付いて勉強するんだろ?」


「そんな話聞いてないぞ? それに俺は剣の修行があるからな」


「なんだよ剣の特訓って。アルだけせこいじゃないか」


「俺が上に上がるにはこれしか無かったんだよ」


「上ってなんのこと?」


「それはまだ秘密さ」


 カインにはまだ俺の気持ちは言えないが、いつか言おうと思ってる。

 今の内にライバル候補との差を広げてやるのさ。


 カインと会話をしていると、俺の背中が引っ張られる。

 後ろを見ると頬を膨らましたルナがこっちを睨んでいる。


「ごめんごめんルナ。この人はカイン兄ちゃんだ」


「カイン兄ちゃん?」


「そう。兄ちゃんの兄ちゃんだ」


「久しぶりだねルナ」


「初めましてルナリアです」


 俺の体で全身を隠しながら顔だけひょっこりと出して挨拶する。

 ルナってこんなに人見知りするんだな。

 会う人が決まっているから、人に慣れないんだろうか。

 同じ環境で育った俺の場合、前世の記憶があるからなぁ……。

 でもこれでいい機会ができたな。


「カインにならすぐに慣れるさ」


「相変わらずアルにベッタリだな」


「まあな」


 俺は胸を張って答える。

 これが俺の人生で一番の自慢さ。

 このポジションは絶対に譲らんぞ。


「じゃあ久し振りに三人で遊ぶか」


「今日の授業までまだ時間あるから大丈夫だよ」


「うん。遊ぶ遊ぶ」


「じゃあルナがお姫様で、カインが暴走王オース、俺が破壊王ブーンだ」


「懐かしいなそれ、昔よくやったよな」


「じゃあ始めるぞ」



 ーー



 俺たちの物語も終盤にきた。


「この姫を助けたければ、お前一人で来い」


 カインはルナを抱えながら、役者並みの演技で話す。

 すごい渋い声出せるようになったんだな。

 日本で生まれてたらイケメン俳優で仕事に困らないだろうな。


「お兄ちゃん助けてぇー」


 マジな感じのルナの叫び声である。


「はっは、よく一人でやって来たな。その勇気だけは褒めてやろう」


「時は来た…それだけだ……」


「ふん笑わせてくれる。喰らえスペース・トルネード・オース」


 俺の体は床に叩きつけらる。

 それでも俺は立ち上がるが、起き上がると同時にオースの必殺技を何度も食らってしまう。


「ダメェお兄ちゃん! 立ってお兄ちゃん」


 フラフラになりながらも立とうとするが足にきていて立ち上がれない。

 ーーという演技をする。


「姫様、目を覚ましてください! こいつの力では貴方を幸せにすることは出来ないのです」


「うるさーいオースなんかどっか行っちゃえ」


 カインを突き飛ばして、ついにルナが泣き出してしまった。


「あーちょっと本気でやり過ぎたな」


「久しぶりで熱中しすぎたよ」


 その後、カインはルナから酷く嫌われてしまい、まともに喋ってくれるのに長い時間を有した。

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