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12 sideダグラス辺境軍第二騎士団副団長-ハワード-

 団長からの命令で、俺はベンジャミン様の息子であるアルフォンスの、魔力調査の儀式を監視と報告する任務を言い渡された。

 アルフォンスは奴隷との間の子供であり、魔力が無かった場合にどうなるかはここで長く勤めているものならば容易に想像出来るだろう。

 美しいと有名な母親がベンジャミン様のご寵愛を受けてる間はなんとかなるかもしれないが……。


 ただこんな世界ではこんなものは悲劇でもなんでもなく、この世界では当たり前にある出来事なのだ。

 俺の家族、親友だってこの世界に殺された。

 いつだってこの世界では、力と権力と金がものをいう。その全てを兼ね備えている王族や貴族が下にいるもを踏みつけ、奪い、全てを持っていく。

 そんな世界を、俺の大切な物を簡単に奪っていく貴族を俺は許しはしないだろう。

 だが俺に世界を変える知恵、貴族を皆殺しにできる力、人を惹きつける人望、何も持ってなかった。

 世界は俺がどれだけ憎んでも変わらない。

 神は力のあるものにだけに慈悲を与えられる。

 本当にクソったれな世界だ。


 第一印象は驚きだった。

 この歳で強面な知らない大人に囲まれながらも堂々とした雰囲気、自分の将来がここで決まるであろう時に冷静な言動。

 そして黄金色に輝く髪とまだ愛らしさが残るが、将来美丈夫であろう容姿。

 だからこそ余計に残念に思ってしまう。

 もし生まれが違ったなら……と。

 だが結果は俺の予想とは違った結果になった。


 驚きだな。

 魔力持ちと分かってもあくまで冷静なのか、それともただビビっているだけなのか。

 他の子供ならば、目眩や体のだるさがあっても大はしゃぎするというのにな。


 まるで予め結果を知っていたような、そんな風に見える程の落ち着きだった。


 俺はこいつの事が気になっていた。

 奴隷になるはずの運命にいる、この子供らしく無いガキがこの先どうなっていくのかを……。

 だから俺は一度試してみることにした。

 俺の言葉にこのガキは、『申し訳ありません。私の不勉強で貴方様のお名前を存じ上げません。御教え願ってもよろしいでしょうか? 』ーーなんてガキらしくない言葉で返してきやがった。

 やはりこいつは何か違うそう俺は思った。


 その俺の勘は直ぐに正解だと分かることとなる。

 あいつは魔力調査の儀式から3日後に練兵場に来やがった。

 部下が慌てて俺の所にきた。


「アルフォンス様が来られていて、ハワード副団長に呼ばれて来たと仰られています。如何しましょうか?」


 俺は呼んでないがどういう事だ……。

 俺はしばらく考えてから部下に命令する。


「訓練が終わるまで外で待たせておけ」


 それから何事も無かったかのように訓練を再開した。


 アルフォンスが来たのは朝方だったが、今はもう日が落ちかけている。

 あいつはもう帰っているだろうな……。

 そう思いながらも何か期待をしている自分がおり、訓練場の外へと向かって行った。


 あいつは居た。

 寝転んで何か体を動かしているようだ。

 こちらに気づくと直ぐに起き上がり、体の土を払ってから一つ礼をこちらにして、近ずいてきた。


「お忙しいところ申し訳ありません。今日は是非お願いがあってやってきたのですが、お時間宜しいでしょうか?」


 これだけ待たしたのに笑顔で言ってきやがった。

 俺が思っている以上に大物かもしれねぇ。


「そうか待たして悪かったな。で、どんなお願い事だ」


「私に戦闘の訓練を付けて頂けませんか?」


 俺の予想とは違った言葉が飛び出してきた。


「その前に俺がアルフォンスを呼んだという報告を受けたが、俺は呼んだ覚えは無いぞ。どうしてそんな言い方をした」


「そう言えば会ってくれる可能性が高くなると思いまして。ご迷惑お掛けしたなら申し訳ありません」


「そうか……。ではなぜ訓練をしたいのだ?お前はまだ6才だろ、騎士になりたいにしてもまだ訓練は早いと思うぞ」


「私には守りたいものがあります。けれど今の私には力が足りないのです。だからどうしても強くならなければならない。お願いします私を訓練に混ぜてください。お願いします。」


 そう言って膝をつき頭を地面に擦り付けた。

 俺は自分の過去のことを思い出していた。

 俺が守りたかったもの。

 守りきれなかったもの。

 力のなかった自分。

 もし俺がこの歳の時、こいつみたいに我武者羅だったら……。

 何か変わっていたんじゃないんだろうか。

 こいつなら俺が出来なかったことをやれるんじゃないだろうか……。

 俺が守りきれなかったものを、守り通せるんじゃないだろうかと。

 俺は過去の自分をこいつに重ね合わせ、鍛えることに決めた。


 俺は団長に許可を取り、アルフォンスに第二騎士団の一人をアルフォンスの教育係として付ける事にした。

 本当は俺が直に見てやりたかったが、俺が部隊を指揮する立場で他の団員の指導もしなければならない。

「なんでしょう?ハワード副団長」


「すまないがカールには暫くの間、アルフォンス君の指導係について貰いたい」


「アルフォンス君とは……あぁ、あの魔力持ちだった子ですね。しかし何故私なのでしょうか?他にもっと子供を持っている人や、経験が多い人など適任の人がいるのでは?」


 カールはこの話を受けたくないのだろう。こいつは直ぐに顔に出る。


「お前は俺が見た中で間違いなく一番剣の才能がある。お前を手本とすればそれだけ成長も早くなるだろう。それにお前はいずれ人を指揮するようになる時が来る。今の内に人に教えることを学んでおけ」


 午前中だけだというのも付け加えなんとか納得させ、カールは渋々受けることを了承した。


 あいつは天才だ。

 間違いなく天性の剣の才能がある。

 だがそのせいで全力に成らなくても訓練についていくことが出来、最近特に真剣さが足りない。

 なんとなくで終わらせて才能を腐らせちまってる。

 カールにアルフォンスを観させたらいい方向に行くかもしれないなという期待もあった。


「どうだカール。アルフォンスは」


 アルフォンスが訓練を終えた後に聞いた。


「どうもこうもただの素人の子供ですよ。でも……根性はありますね」


「そうか。で、どんな事をしたんだ?」


「ただの真剣の素振りですよ。3時間ずっと」


「お前馬鹿か!子供が真剣なんて振れるわけないだろう」


「いや……俺もそう思ってたんですけど……。最初は剣を持って振ろうにも、フラフラしてどうしようもなかったんですけど、暫くフラフラした後に急にある程度振れるようになったんですよ」


「どういう事だ……。まぁ良い俺は明日非番だからな、直接見てみるか。で、何でいきなり真剣なんか振らしたんだ?」


「いや……アルフォンス君ならなんとなくできるかなと思いまして」


「さっきと言ってること違うぞ! お前アルフォンスを指導するのが嫌だからって、出来ないことさせて諦めさそうとしただろ!」


「副団長はすぐそうやって人を疑うんですから。悪い癖ですよ」


「お前にだけだ! 馬鹿野郎」


 翌日、俺は練兵場でアルフォンスの訓練を直接見ることにした。


「俺はいないものとして指導してやってくれ」


 俺がそう言うとカイル小声で呟いてる。


「暇なら副団長が指導すればいいのに」


 聞こえてるぞカール。


「アルフォンス君、今日は体の調子はどうだい?」


「身体中が痛くて、特に腕が上がらないです」


「そうか……。ということで今日の訓練は休みにしよう」


「いいえ出来ます。お願いします」


「馬鹿野郎、。俺の前でいきなりサボろうとするなんて何考えてやがる」


 俺とアルフォンスの声がかぶる。


「もう副団長、冗談ですよ。でも腕が動かないとどうしようもありませんね」


「身体強化を使えば振れますよ」


 なにぃ!? 身体強化だと!


「アルフォンス、お前身体強化を使えるのか?」


「はい出来ます」


「一体何時から……」


「よく覚えていませんが、5歳になる前位だったと思います」


「凄えじゃねぇか」


 思わず俺の口から言葉が漏れる。


 成る程なあ……だからあの時こいつはあれだけ冷静だったのか。

 だが何故儀式の時まで魔力持ちだと言わなかったんだ?

 母親に言ったけど、母親が誰にも言わなかったのか?

 理由がよくわからんな。


「どうして魔力を持っていることを隠していた?」


「隠していたわけではありません。これが魔力だとは儀式の時まで気付かなかったのです」


 それもそうか……。

  確かに平民が初めて魔力を感じた時も、得体のしれない物が体の中に有ると勘違いして、このことを隠そうとする奴もいるらしいからな。


 にしても5歳で魔力を感じることができるなんて、一体どれだけの魔力を持ってやがるんだ?

 こいつは本気で凄い逸材じゃないのか?

 色々なことが俺の頭を過る。


「お前のその身体強化は誰かを守りたいのなら大きな武器となるはずだ。身体強化を使って真剣を触れたってことは、もうある程度魔力操作を出来るってことだろ?なら積極的に使っていって魔力量を上げるようにしろ。もしかしたらお前なら、普人族一の魔力量になれるかもしれねぇ」


「分かりました。これから精進していきます」


「おう、頑張れよ」


 それから俺はアルフォンスの素振りを見ていが、今日は見学のつもりだったのについ指導してしまう。

 才能が有り、努力を怠らない。

 何より一番大事なもんを持っている。

 こいつは上に上がれる。

 いや、こいつならこのクソったれな世界を変えれるんではないか。

 とうの昔に消え去った、希望の灯火。

 吹けば直ぐに消えてしまうような小さな灯火が、今もう一度灯った気がした。

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