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「お前がアルフォンスか?」


「はい、そうです」


「役に立て、お前がやるべき事はそれだけだ。もう出て行っていいぞ」


 会話はそれだけだった。


 この面会をチャンスだと思っていた。

 貴族の中では当主の力は絶対だ。

 ここで気に入られないにしても、記憶に留めて置かれる程度には存在感を示したいと思っていたが完全に失敗してしまった。


 別に感動の対面を期待していたわけではないし、父親だとかいう感情も無い。

 けれどもう少し興味を持ってくれていると思っていた。

 あの目は俺という存在を見ていない。俺がどれだけ自分にとって役に立つかどうかだけ、物としての価値を測る目。


 想像以上に俺の道は厳しく、そして時間がないということ。そう実感させられた気がした。

 俺に残された時間は約3年と半年。

 それまでに父の役に立つという事を示さないと、ルナが危ない。

 あいつはルナに魔力がないと分かれば平気で奴隷にして売ってしまうだろう。

 たった一度の対面、一度の会話でそう感じさせられたのだ。


 部屋に帰ってくると、ちょうどメイドのノンが食事の用意をしていたところだった。

 テーブルに食器を置いていたノンは笑顔でこちらに振り向いた。


「あ、お帰りなさいアルフォンス様」


「ただいまです。ノンさん」


「にぃにぃお帰りー」


「アルお帰りなさい。その顔は……あんまり良いことが無かったようね」


 あまり顔に出さないようにしていたのだが、母さんにはお見通しのようだ。

 中々ポーカーフェイスというのは難しい。


「そんなことないよ。ただもっと頑張れって言われただけさ」


 少し誤魔化して答える。

 無駄に心配させる必要はないはずだ。


「そう……あの人は自分のことしか考えない人だから……アルはあんまり気にしないで」


「僕は頑張るつもりだよ。今は駄目でも……認めさせてやるさ」


 ルナが遊んでる姿を見ながら、自分自身に言い聞かせるようにして答える。


「アルフォンス様は素晴らしいお方です。他のメイドの話を聞いても、アルフォンス様ほど賢いご兄弟は居ません。ですから、ですから、アルフォンス様なら絶対に認めさせることが出来ます!!」


 ノンの力のこもった力説に、母さんと俺も驚く。

 そんな姿を見たノンは慌てる。


「申し訳有りません。勝手なこと言ってしまいました」


「そんなことないよノンさん。そんな風に思ってくれてるなんて、知らなかったから嬉しいよ」


「あ、その……はい。アルフォンス様のこといつも思ってましゅ」


 さっきより慌てた表情になって答える。


「それじゃあノンさん、僕に告白してるみたいだよ」


「ちが、ちが」


 慌てふためくノンさんに母さんがフォローする。


「こら、アル。あんまりノンを困らせないの。ノン?私ものノンがそう言ってくれて嬉しいわ。これからもアルのこと宜しくね」


「はっはい」


「ルナのことも忘れないで」


 ルナはぷっくりとほっぺたを膨らます。


「ルナ様もアルフォンス様ずっとお世話させてもらいます」


「本当に?ルナ、ノン姉ちゃんのこと大好きだからずっとずっと一緒に入れて嬉しい」


 ルナの愛くるしい笑顔に、場の空気がポカポカとする。


 俺はノンが言ったように、みんなでずっと一緒に居れるために頑張るしか無い。

 この笑顔だけは失ってはならないと心に誓った。




 この面会の日から自分の有用性を示す様に積極的に動いていった。

 とは言ってもやれることはそれ程多くはない。

 漫画や小説のように、いきなり領内を暴れまわっている盗賊団を退治したり、オークの群れを殲滅したりはできない。

 俺の今の力では精々一般市民の大人1人と戦えるかどうかといった所だろうか。

 6歳児の体にいくら身体強化をかけても、それほど効果が出ないのだ。

 1×3 と5×3、子供と大人の身体能力の差と魔力強化の関係を、単純に数字で表すとこんな感じだろう。

 元の値が少ない子供だと、身体強化を使いこなせないのだ。


 とは言っても、俺の身体能力強化と魔力量は大きな武器になるだろう。

 この歳でこれだけの魔力量を持つ子供は殆どいない筈だし、魔力での身体強化をこなせる子も少ないだろう。


 身体強化は今では50分近く持つようになっているので、実戦でも通用するだろう。

 ただ、俺の魔力量は5歳を超えてからほとんど成長していない。


 もう一つの武器は俺の前世での知識。

 俺も赤ん坊の頃から色々考えたが、元々頭は良くなく文系だった俺には、すごい発明だとかは無理そうだ。

 精々リバーシやトランプとか、原理や材料を知らなくても作れるものだけだろう。

 ベンジャミンに直接会えるような段階になったら、売り込もうと思う。

 誰かに頼んで手柄を取られるなんて間抜けだしな。


 一番自分を輝かせることができる場所として、練兵場を選んだ。

 まずは俺が身体能力を既に使え、魔力量が多いという事をより多くの人、特にベンジャミンに意見出来る人間知ってもらう。

 さらに俺自身の強化に繋がって一石二鳥だろうと考えたのだ。


 ただ俺が当主になれる可能性は今の所あまり無いように思える。


 俺が現れるまで後継者候補は、正妻の長男であり魔力持ちのラファール。

 ラファールは既にオースレン王立学院を卒業しており、準騎士の資格を持って去年ダグラス程度邸に帰ってきている。


 二人目は、俺の親友であり兄でもあるカインだ。

 今の所この2人のどちらかだと言われている。

 この2人に比べて俺の価値はかなり劣るだろう。


 ラファールの母はミール=アンリッセルといい、侯爵家の長女で魔力持ちである。

 アンリッセル家は代々魔法省の重鎮であり、今もアンリッセル家の当主が副大臣の地位についていて、アンリッセル家は後継者争いでも間違いなく介入してくるだろう。


 カインはベンジャミンの子供で唯一の属性持ちで、魔法が重視されるこの世界で最も才能に溢れていると言っていいだろう。

 そして俺は奴隷の子供として評価はマイナススタートだろう。

 なので俺にはこの差を埋めるものが必要なのだ。

 やはり儀式の時のあの光の色…… 。

 そこに賭けるしか今は無いのだと思う。

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