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「ルナ絵本読んであげるよ。こっちきな」


 そう言って膝を叩くと、トタトタとルナが小走りで近ずいてくる。


「にぃにぃ今日は何読むのぉー?」


 ニコニコと笑いながら、俺の膝へ勢い良く座る。


「今日はかの有名な白炎の貴公子、ローデルの本を読むよ」


「面白そぉ。ぱちぱちぱちぃ」


 そう言いながら手を叩き、眼で早く読んでと訴えてくる。


「昔々とある貴族が旅をしていると………………………」


 中々分厚い本を感情を込めて読んでいく。


「……………………お終い」


 本を読み終わり、ルナの顔を覗き込むと、スヤスヤと寝息を立てている。


「ルナは物語の最初の方でウトウトしていたのよ」


 母さんが笑いながら教えてくれた。

 ちょっとルナには難しくて早かったかな。


 ルナの体を抱っこしてベッドに寝かすと、母さんが真剣な面持ちでこちらを見る。


「アルに大切な話があるの」


 普段見せない母さんの真剣な瞳みに、俺の気持ちがピンと張り詰めた。


「分かったよお母さん」


 母さんの向かいにある木造りの椅子に座る。


「今日は奴隷について話しがしたいの。アルは奴隷についてどんなこと知ってるの?」


 俺はこの世界の本に書かれていたことを答えた。

 その本は騎士とそれに従う奴隷の話があり、奴隷の扱いについても少し載っていた。


「そうあの本を読んだのね。なら、なんとなくだったら分かるわね」


 その後、母さんから奴隷という存在についてやその扱い、そして奴隷を縛る奴隷の首輪という魔法具の話を聞いた。


 奴隷の首輪とは、人間を強制的に従わせる魔法具のことである。

 奴隷の首輪の所有者を契約者、着けられたものは被契約者となる。

 契約の方法はまず被契約者に奴隷の首輪を着け、契約者の血を垂らす。

 次に契約者が奴隷契約の宣誓行い、被契約者が同意の意思を見せれば契約成立となる。

 但し、この宣誓への同意には欠陥が有り、被契約者が一定時間の拒否の意思を発言しない限り契約成立となる。


 そのため奴隷の首輪をつけている者は、気絶させれている内に奴隷にされていたという事が多々あるという。

 国の法に則った方法以外で、奴隷の首輪を着けるのは、処罰の対象になる。


 奴隷の首輪の契約時に、契約者は被契約者に三つの制約を課すことができる。


 奴隷の首輪はガリアス帝国が生産しており、現在出回っている奴隷の首輪はガリアス帝国が持つオリジナル魔導具の模造品である。

 奴隷の首輪はガリアス帝国以外生産できてない為、それなりに希少である為所持している者は貴族や豪商が殆どである。


 被契約者、または契約者が死ぬことでしか、奴隷の首輪は外れない。

 奴隷の首輪は使い捨てで、奴隷の首輪が外れる時、砕け散って灰となる。

 契約者が死ねば被契約者も死ぬ。

 契約者の変更時に契約内容の変更は可能。


 母さんを縛る制約は、契約者に危害を加えないこと。

 契約者の命令を聞く事。

 ダグラス邸の敷地から出ない事という三点だ。


 俺は、契約者の命令を聞くことと制約すれば、他の制約は必要ないんじゃないかと思い母さんに聞いた。

 制約は効果範囲が広がるに連れて強制力が落ちるらしい。

 契約者を傷つけたり殺そうとすると死んでしまうらしいが、命令違反しても強い痛みがくるだけで死ぬことはないらしい。


 母さんの話を自分なりに纏めるとこうなった。

 俺はこの話を聞いて頭を抱えたくなった。


 想像してたよりかなり悪い。


 決して解放されることのない永久奴隷……。


 俺が守りたい人はこれから先、死ぬまで奴隷として生きて行かなくてはならない。

 そして父親が死ねば、母さんも死ぬということ。

 母さんを守りたければ、見たこともない父親を守らなければならない。


 唯一の救いは所有者変更か……。

 母さんの所有者を俺に変えることが出来れば、首輪は外してあげることは出来ないが、制約からは解放することが出来る。


 どうすれば所有権を手に入れることが出来るのか……。

 長期的なやり方では俺がダグラス家の当主となるなり、父親に気に入られるなりして譲って貰うことだろう。

 短期的には父親を脅して所有権を奪い取るというやり方か……それくらいしか思いつかないな。


 母さんは騙されて連れてこられた所を父に助けて貰ったと言っていた。

 恐らく奴隷の首輪はその時、着けられたのだろう。

 じゃあどうして母を縛るような制約をするのだろうか?

 母さんはどう思っているんだろうか?

 母さんの気持ちを聞いてから行動方針を決めようと考えた。


「お母さんは父様を恨んでないの?」


 母さんは俺の問いかけの真意を確かめるように、ジッとこちらの顔を見てから答えた。


「ええ、恨んではないわ」


 俺には母さんが嘘を言ってるようには見えなかった。


「じゃあ、お母さんは今幸せ?」


「勿論よ。この世界に生まれて来て今が一番幸せよ。だってアルとルナが居るもの。二人と一緒に過ごし笑ってる顔を見て、成長する姿を見る事。それが私にとっての幸せなの。」


 母さんは本当に嬉しそうに俺に話してくれた。




 俺も一緒だよ母さん。




 最後に母さんは瞳に涙を溜めて抱き締めてくれた。


「たとえアルが魔力を持ってなくても、お母さんが絶対に奴隷にはさせないから。必ず守ってみせるわ。だから安心して。」


 俺のやるべき事は決まった。

 俺はダグラス家の当主となり家族を守る。

 今度こそ間違えない! 絶対に。


 そして俺は儀式の日を迎えた。




 今日は朝から、母さんがソワソワしている。


 対して俺は結構落ち着いていた。

 今日の結果はある程度分かっているし、やれることはやってきたはずだ。


「お母さんちょっと落ち着いて、結果なんて何したって変わらないんだから」


「そうは言っても、アルの将来がここで決まるかもしれないのよ。なかなか落ち着けないわ」


 何時もは泰然としていて、慌てるような姿を見たことがなかったので凄く新鮮な気分になった。

 そうこうしていると部屋にノック音が響いた。


「失礼します。アルフォンス様をお迎えにあがりました」


 扉の奥から声が聞こえてきた。


「じゃあ、お母さん。ルナ行ってくるよ」


 そう言うとルナがトコトコ近付いて来る。


「ニィニィ早く帰って来てね。何時ものぎゅぅーーやって」


 何時ものようにしゃがみ込んで、ルナを強く抱き締めた


「はい、お終い。次は寝る前にね。じゃあ、お母さんも」


 母さんにもハグをして部屋を出て行った。


 これが執事か……思ってたより歳いってないんだな。

 もっと渋いおじさんをイメージしてたよ。

 どうでもいいことを考えながら、執事の後ろをついていく。

 その俺の後ろからメイドが付いてくる。

 こちらも見たこと無いから本邸のメイドなんだろう。


 別邸を出てしばらく歩くと本邸が見えてくる。

 本邸を超えてから200メートル程離れた所に、40坪ほどの平屋が立っていた。


「こちらで御座います」


 平屋の前で止まった執事は振り返るとそう言い、ゆっくりと扉を開いた。


「中に入られたなら、あちらの席にお座りになり指示に従ってください」


 そう言われ椅子に座ると俺の後ろにメイドが立つ。

 辺りを見回しても、俺が座っている椅子と机以外何もない。

 この広い空間にこれだけしか物が置いてない光景を見るのは、前世の引越し以来だな……。


 あらかじめ母さんからどうやって魔力を調べるかを聞いているので、緊張は全く無い。


 30分くらい待っただろうか、やっと扉が開き人が入ってきた。

 入ってきた人数は3人で、一人は他人の魔力と同調することが出来る魔力審査官、もう一人は国の記録係だろう。

 最後の一人は分からないが父親の部下の可能性が高いな。


「では魔力を調べる前に言っておきますが、まず第一に指示にはしっかりと従うこと第二に、もし貴方に魔力がある場合は私が貴方の魔力を使うことで、頭痛や吐き気、体のダルさが出ると思いますが時間が経つと治りますので安心して下さい。寧ろこの症状はあなたの人生において一生忘れらない素晴らしいものとなるでしょう。第三に魔力がない場合も悲観しないでください。貴族の子供として産まれるということはすでにアテナス神、様に選ばれた存在なのです。今言ったことを理解できましたか?」


「はい出来ました」


「では始めましょう」


 魔力審査官は机に白く透明な宝玉置いた。


「ではこちらの魔石に手を置いてください」


 魔力審査官は淡々とした感じで作業を行う。


 俺が宝玉に手置くと俺の背後に回り、俺のヘソの部分に手を置いた。

 すると俺の魔力のほんの僅か一部が動いていった。

 魔力の一部は心臓を通り手の平へと到達すると、宝玉は黄色い光と共にかすかに輝いた。


「おめでとうございます。あなたは魔力を持っているようだ。これから素晴らしい未来が待ってますよ。ただ残念ながら属性は持ってないようですね。黄色に輝くのは私は初めて見ましたが……。」


 俺が母さんから聞いた話では、属性を持たない魔力持ちは殆どが色のない輝きをするようだが偶に4大属性以外の色も出るようだ。

 ただ色があっても4大属性以外に魔法が使えた者はおらず、ただの魔力持ちと扱われるそうだ。


 属性が無いのは残念だけど、黄色に輝いたという事は、まだ魔法を使える可能性があるな。


 俺は母さんからこの話を聞いた時、4大属性以外にも属性が存在していて、その為魔力調査時に色が出るんじゃないかと考えた。

 俺が読んできた本には、この世界の4大属性属性以外にも、光や闇といったものが大体存在していた。


 黄色ってことはテンプレ通りだと光とか雷あたりか。

 これでもし俺が新しい魔法を開発したら、当主への道は一気に開ける!



 俺の気持ちは沈むよりも、大きな期待の方へと傾いた。


「ありがとうございます。これから期待に応えられように頑張ります」


 笑顔でそう言うと魔力審査官は静かに頷いた。


「ではこの結果はベンジャミン様へと報告させてもらう」


 俺が父の部下では? と考えた人物が言った。


「何か困った事があるのなら私を訪ねるといい。大体は練兵場で訓練をしている」


 更に去り際にそう言って出て行こうとした所を、俺の声で引き留めた。


「申し訳ありません。私の不勉強で貴方様のお名前を存じ上げません。御教え願ってもよろしいでしょうか?」


「そうだったな……。俺はダグラス辺境軍第二騎士団副団長のハワードだ」


「有難うございます。今後ご助力を願う事も有ると思います。その時は宜しくお願いします」


 俺は深々と頭を下げた。

 ハワードはコクリと頷き去って行った。


 今回の魔力調査で、期待していなかった属性持ちの可能性を残すことが出来、100点ではないが満足している。


 部屋の扉を開けると、母さんは心配そうにこちらを見つめてきた。

 その瞳には不安と期待が入り混じっているように感じた。


「母さん、僕あったよ魔力」


 ルナを抱いていた母さんは腰からそのまま崩れ落ち、ルナが腕から転げ落ちてしまった。

 それからは母さんもルナも泣いてしまい、俺も貰い泣きしてしまった。

 それから、ルナを挟んで3人で泣きあった。


「良かったわ。本当に良かった」


 母さんが泣いている姿を見るのはこれが産まれて初めてだった。



 翌日、昨日の執事が部屋に来て、初めての父との面会をすることが決まった。

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