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『 六花・幕間・夏 』


見たいのか。見たくないのか。自分でも分からない。


ただわかることは、見てしまえば後は必ず不幸になるしかないということだ。


それ以外の選択肢はない。


なら見なければいいのに。


見なければ不幸にはならない。


だけど、見たい。どうしてもその思いを捨て切れない。


永遠があればいいのに。


そうすれば、私はそれを躊躇無く見れるのに。


永遠なんて無いと分かっているから。


そんなもの幻だとわかっているから。


だから今日も夢を見る。


幸せな夢を、幸せな幻を。遠い幻を。






『 六花・第4章 楽しいピクニック2 』


「お〜い。こっちこっち!明里さん!さあ、こちらに!んで、その他はきびきび歩いて荷物運べ!おい、そこの馬鹿女!特にお前は俺らの3倍は働け。特に理由はないが」

 一人遥か先を行くハイテンションのメトウ君が本日何度目かのメテオを唱えている。

「明里。やっぱ思うんだ。世界にはね、生きていてはいけない人がいるの。でもね、それは決してその人のせいじゃないと思うんだ。うん、私も分かってるの。昇にも言われたんだ。あそこにいる変な生き物はそもそも生まれてきてはいけないものだったって。なのに生まれてきてしまったんだって。だからホントは生きてちゃいけないのに、生きてるから変に感じるんだって。でもそれは決してメトウ君が悪いわけじゃないんだって。メトウ君こそが世界の被害者なんだって。分かってるんだ。けどね?もうそろそろ良くない?生きてちゃいけないのに彼は15年と4ヶ月も生きたんだよ?十分じゃない?もうそろそろじゃない?私の堪忍袋の緒が切れるの。あとメトウ免罪符の有効期限が切れるの」

 メトウ免罪符。これは優花と昇君が付き合いだしてからまだ間もない頃、メトウ君に発行された免罪符である。別名「優花の弱み」ともいう。

 さる事件で優花はメトウ君にとんでもない借りを作ってしまった。

 それ以来優花はメトウ君を見るとき、無表情じゃなくて優しいお母さんの顔になる。優花が言うには、「いたずらっ子なわが子がじゃれ付いてきていると考えると不思議と心が安らぐの」だそうだ。でも今は無表情。今夜あたりがメトウ君の山になると思う。メトウ君の余命がいくらかというのは置いといても確かにメトウ君はやりすぎだと思う。

「優花。メトウ免罪符なんて気にしなくていいよ。大丈夫。考えてみて?優花を怒らせるとまず誰が怒る?もちろん優花の次にだよ。愛しい愛しい昇君?違うよね?じゃあメトウ君?これも違うよね?じゃあ誰?」

「・・・。」

 無言の優花。でもそのくりっとした目には活力が漲ってきている。どうしよう、今考えてる台詞を言うと、メトウ君は今夜を迎えることなくその命を儚く散らせそうなんだけど。

「正解はあなたの親友の私!もしメトウ君があのときのことを今更引っ張ってきて優花を脅すようなら私が一言言ってあげるから。「もし、優花の例の件を昇君に言ったら一生あなたと口を利かないことをここに誓います」って。さあ、行って来ていいよ。優花。よく今まで頑張ったね!昇君と私たちはあっちの富士山っぽい山を見ながらお弁当にしてるから。ちゃっちゃと用事を済ませてきてね?」

 でもまあいいかと思い、そう言って優花の背中をそっと押す。「うん!」と頷き、優花は本当に嬉しそうに軽やかに駆け出す。

 さてと、あと私がすべきことは・・・。

「川島君。もうそろそろお昼にしようよ。優花とメトウ君抜きで。あ、そうそうあの山の形って富士山に似てない?なんだかあっちの山を見ながらお弁当食べたくなっちゃった。よしそうしようよ!」

 そう言ってシートとお弁当を広げ始める。

「おい昇。確かに俺も腹減ったわ。榎本さんが江藤呼びに行ってくれてるらしいからこの辺で飯にしようぜ」

 いきなりすぎる展開。だけどなんとなくこの展開が面白そうな(メトウ君がやられる)方向に進んでいるのを感じ取った川島君と七夜君が素直に協力してくれる。

 昇君は急な展開に驚いた顔をして、かつメトウ君を呼びに駆けてゆく優花の嬉しそうな後姿を見て、

「は〜」

とひとつため息をついて腰を下ろし弁当を広げ始めた。


 4人で仲良くお弁当を食べる。今日のお弁当は私と優花で朝から張り切って作ってきたものだ。これを作ってるときの優花は一生懸命で本当に可愛かった。私が男だったら絶対に優花と付き合ってたと思う。さわやかな風が吹き、夏というのに涼しげな風が頬をなでる。ホントにいい気持ち。目の前に広がる山も、見渡す限りの青々とした草原もわざわざペンションを借りてまで遠出した甲斐があるすばらしいものだ。

 そしてそんな自然がいっぱいの風景にメトウ君の悲鳴が響き渡る。

「おい!貴様分かってるのか!そんなことをすればあ!」

「あちょっと待て!わるかっ!おい!たのむ!があ!あ!」

「おい!貴様分かってるのか!そんなことをすればあ!」

「いや、マジであや!まるっ!ってい!」

「あちょっと待て!わるかっ!おい!たのむ!があ!あ!」

悲惨なメトウ君の懺悔にさわやかじゃない山彦が混じる。

「山彦ってすげーな。こんなはっきりと聞こえるもんなんだ」

「いや、マジであや!まるっ!ってい!」

とお茶をすすりながら川島君。

 自分でも不思議なんだけど、近くで川島君がしゃべっていてもなぜか情けないメトウ君の山彦の方が気になる。

「山彦はすごいが、江藤はゴミだな」

 こっちはおにぎりをほおばりながら七夜君。

「・・・」

江藤君の親友(自他共に認める)であり、その親友を折檻している優花の恋人である昇君は無言。

「・・・」

「・・・」

「・・・」

「・・・。」

場を静寂が満たす。さっきまで悲鳴を上げていたメトウ君の悲鳴が止んだ。もっと続くかと思ったけど、けっこう短かったな。

皆で静かにのんびりと優花を待つ。


「あ、ごめんごめん。何か江藤君ご飯要らないって。張りきって登りすぎちゃったからバテちゃったみたい。でも聞いてよ昇!さっすがあなたの親友ね!そんな状態にもかかわらず、この先私と昇の荷物持ってくれるんだって!ホントにいい親友を持ったね。私も鼻が高いよ!」

帰ってきた優花はそう言って元気に笑う。予想通りメトウ君は帰って来ない。

「・・・」

無言の昇君。

「よっこらしょ!さあ、私も食べよう!おなかペコペコだよ。まったく江藤君も食べればよかったのに。昇はちゃんと食べてね。朝言ったみたいに、頑張って明里と作ったんだから。私的にはそのブタさんウィンナーがお勧め!」

 元気な優花の声が山に響き渡る。だけど山彦にはならない。そうなると、さっきメトウ君はホントに一生懸命謝ってたんだってわかる。

「おいしいね!明里!」

「うん・・・。」

 ごめんね優花。私もまだまだだ。都会育ちだからか山彦があんなにはっきりと聞こえるものだって知らなかった。まあ、山彦はあんまり関係なかったけど・・・。

 だからね、昇君はばっちり聞いちゃってるよ。メトウ君の断末魔を。でも良かったね、優花。昇君はけっこう度量が大きい人みたい。さっきいのやり取りを聞いて繭一つ動かさないんだから。だから大丈夫だよ。きっと!


 衝撃の着メロ事件から早4ヶ月。今日という日にたどり着くまでいろんなことがあった。ホントにいろんなことが。

 高校に入学した当時は絶対にこんなこと予想しなかっただろう。親友の優花が居るとはいえ、男友達と夏休みに1泊2日の避暑旅行。しかも親には内緒で(もちろん適当な言い訳はしたけど)。

 今私たちが居るのは皆でお金を出し合って借りたペンションだ。かなりの高地に建てられているため、夏でも肌寒く感じる。

 さっきやっとこさ山登りが終わり、着いたとこ。ホントはわざわざ自分たちで登ってこなくても良かったんだけどお金ももったいないし、せっかくだからとピクニックがてら皆で登ってきたのだ。

 ペンションの中は思った以上に広かった。高校生の私たちが6人入っても全然窮屈じゃない。しかも値段の割にはお風呂、台所、テレビ、冷蔵庫、そして大きいソファまで完備してある。今言った設備はすべて一階のもので、ここは二階もある。二階にはそれほど広くはないけど大きな両開きの天涯窓がひとつ有り、夜はそこから星を満喫することができる。

「え〜と、女子が二階ね。男子が一階。分かってると思うけど、床に就いてからの両階の移動は禁止。誰に言ってるのか分かってるな?江藤?」

 二階で換気のために窓を開けていると下から川島君の声が聞こえてきた。それに元気(?)に答えるのはメトウ君。

「はあはあ・・・。何言ってんだよ川島。そんなこと言われなくても分かってるって・・・。ちょっとは俺を信用しろよ・・・。はあはあ・・・。まったくお前とも付き合い・・・っ長いのに俺は悲しいよ・・・。俺にだって理性はある。大丈夫だ・・・。まかせろ・・・」

 たぶんこういった状況で男子が女子の部屋(階?)に乱入しないのは常識であって、理性で抑えなきゃいけないイベントじゃないと思う。メトウ君は理性を導入しないと私たちの寝床に乱入してくるらしい。まあ、そうなったら優花の王子様が黙ってなさそうだけど。

「おい昇。食料品とかどうする。思った以上に冷蔵庫が小さくて入らない。野菜類は表に出してても大丈夫だろうから肉とかその辺から入れとくぞ」

 冷蔵庫に食料品を詰め込んでいた七夜君が外の昇君に話しかけている。あいも変わらず七夜君は会話が平坦すぎて質問しているのかどうなのかが分かりずらい。しかも声も小さいし。

「ああ、それでいいよ!こんだけ涼しいから大概大丈夫だと思う!あ、それよりも川島!布団とか人数分あるか確認してくれ!足りないなら管理人にもらい行かないとな!寒くて布団なしじゃ、多分寝れないぞ!」

 それでも玄関でバーベキューセットの確認をしていた昇君は普通に返事を返してる。この辺の連帯感は女子には珍しいものだ。野球で言うところの女房役というものだろうか。

「ねえ、明里?やっぱり昇は頼りになるわ。というより、メトウ君以外の男連中は頼りになるわ。下を見てみて見なよ明里。昇も川島君も七夜君も、皆何かしら仕事してるのにメトウ君だけ横になって何もしてない。ホントにダメだね、彼は。皆に悪いと思わないのかな?」

 優花が本当に遺憾ですなという顔つきで話しかけてきた。でも口元はにやついてる。優花はホントにいつ見ても分かりやすい。

「私が思うにね、優花。メトウ君が寝転んでるのは起き上がれないからだよ。だって良く考えたらあそこの2日分の飲料水は全部メトウ君が持ってたよね。そしてそれだけじゃなくて、今七夜君が詰めてる食料品のほとんどはメトウ君が持ってなかったっけ?最初は優花と昇君の分だけって話だったけどね。いつからだっけ、メトウ君が私と七夜君以外の全員の荷物をもって登山し始めたのは。」

「うん?お弁当食べ終わったあたりくらいからじゃない?よく覚えてないよ。でもメトウ君が運んだのはせいぜい距離にして1キロくらいじゃない?あそこからここってそんなに離れてないよね?そんぐらいの距離でばててちゃ話になんないよ。やっぱりメトウ君はダメだなー。」

と優花は嗤う。時々優花はダーク優花になるけどその辺昇君はどう考えてるんだろう。今度こっそり聞いてみようかな。

「優花!ごめんけど柴田さんと寝具の確認に行ってきてくれ。場所はわかるだろう?頼むよ!」

 下から昇君の声が聞こえる。わざわざ山のふもとから登山したために時刻はすでに夕方の4時だ。確かにそういったものを確認してた方がいいかもしれない。ここに予め用意されている寝具は4人分で(さっき川島君と昇君が話してた)、残りふたり分が足りてない。

「いいよー!こっちも荷物の整理と換気が終わったとこだし!足りない2人分を取りに行けばいいんでしょう?他になんか取ってくるものある?」

「いや、いまんとこそれだけでいいよ!てか、二人で運べるか?かなりかさばるから、持てなかったら持てないで無理すんなよー!」

 ここだけ聞くと彼女思いの良い彼氏に聞こえる。だけど、昇君が言っていることをメトウ君が言うとこうなる。

「いやいや馬鹿女。状況考えろよ。かさばる布団もって来るんだったら他のもの持てるわけないだろ。だいたい俺が頼んだのは確認であって運搬じゃねえよ。でだ、仮に持ってくるにしたって一回じゃ無理だから分けて運べよ?落としたらそれに寝るのはお前だ。それを理解した・・・」

 メトウ君はまだ無意味に優花を挑発しそうだけど、この辺でやめとこう。昇君はこんなふうに言わないけどだいたい言いたいことは同じ。優花はどちらかというと尽くす方だから昇君にはなんでもしてあげたいんだと思う。でも、大概優花は空回りする。これは長年の経験から分かっていることだ。そして、短いながら4ヶ月お付き合いしている昇君もそのことに感づき始めたらしい。ぱっと見ると優花が世話焼きに見えるけど、実際に世話を焼いてるのは昇君の方だ。最近では見慣れたものになったこの光景も未だに新鮮でほほえましい。やっぱりこの二人お似合いだなと思う。

「うん、分かった!無理はしないよ!大丈夫だって!私に任せとけば!よし、じゃあ明里行こう。えっとここの鍵番号を見せなきゃ布団もらえないから鍵も持っていかなきゃね。それと・・・。」

 優花はそういうと必要なものを準備し始めた。その動いて回るさまはさながらハムスターだ。なんかなごむよねー。っと、なんか他人事だった。わたしも速く準備しないとね。


「ふう、台車貸してもらえてよかったね。これ無かったら二人じゃとても運びきれなかったよ。」

 静かな山間の風景にコトンコトンと台車が転がる音と優花の声が響く。

「ねえ、見れると思う?流星群。都会でも見れるくらいすごいのが来るって言ってたから、きっと見れるよね。まあ、天気しだいだけど。山の天気は変わりやすいって言うからなー。最悪、町にそのままいたら見れたのに!ってなるよね。まあでも、大丈夫でしょう。なんたって、晴れ女の私と晴れ男らしいメトウ君がいるんだから。」

 そう言って優花が元気に笑いかけてくる。前回の花見ではメトウ君は砂を連れてきてたことを優花は忘れたんだろうか。確かに天気的には晴れだったけど。

 先ほど優花が言っていた流星群。これの観測が今回の旅行のもうひとつの目的。何十年に一度の規模のものらしい。

 獅子座流星群。それが今回地球にやってくる流れ星たちにつけられた名前だ。

 当初、この星を6人で見ること意外に特別なイベントは無かった。何も最初からこのような山の奥地まで来ようとしていたわけじゃない。最初にこの流れ星の観測地点として私たちが選んだ場所は、かつて花見にも使ったあの公園だった。だけど、そこある人が待ったをかけたんだ。なぜ公園ではダメなのか、なぜ山のキャンプ場ならいいのか、その理由は本人が熱く語ってくれたけど、本音は違うと思う。

「そうだね。きっと見れるよ。そのためにも『遅延型てるてる坊主・逆さ吊りメトウ君』も作ったんだしね。」

 遅延型てるてる坊主。これは優花が編み出した最も新しいタイプのてるてる坊主だ。優花が言うには既存のてるてる坊主が約束してくれる晴れはあくまでも日中に限られるらしい。しかし、今回重要なのはあくまでも夜。いくら従来からあるてるてる坊主を作ったところで夜にはその効果が切れてしまっているため意味を成さないというのだ。

 そこで優花は考えた。どうすればてるてる坊主の効果を夜に持ち込めるかと。

 色々考えぬいて七区八苦の末に優花が編み出したのが、『遅延型てるてる坊主・逆さ吊りメトウ君』だ。別に名前がメトウ君であることに意味は無いらしい。このてるてる坊主が従来の汎用型てるてる坊主と何が違うかというと、単に色が黒い。しかも真っ黒。見ていて気持ちのいいものではない。ちなみに作り方も従来のものとほとんど同じ。

 このてるてる坊主の作り方はとても簡単。まず、新聞紙を適度な大きさに丸めて置いておく。ここまでは普通のと一緒。ただここからが違う。普通は白い木綿の布で、丸めた新聞紙を包んだあとに輪ゴムで止めて完成だが、遅延型てるてる坊主の場合は、この作り方に、白い布を墨汁で真っ黒に染める工程を加えなければならない。

 なぜ優花はこの白い布を墨汁で黒く染めたのか。なぜ黒く染めることでてるてる坊主の効果が夜に発揮されるのか。

 その理屈は簡単だった。

「白いてるてる坊主は昼間を晴れにしてくれるでしょう?じゃあ夜を晴れにして欲しかったら白の反対の色の黒を使えばいいのよ!どうこのインスピレーション!もうこれは晴れるしかないわ。ちなみに私は遅延型も汎用型も両方作るつもりだから。その日は一日晴れる!なんてすごいんだろう私って。これ昇に話しあげたほうがいいかな?意外と使える知識じゃない?」

 もちろん止めておいたほうがいいんじゃないかな、と言って置いた。さすがの昇君もドン引きかもしれないし。

「そうだった。あの理論は完璧だから今夜は晴れしかないんだった。えへへー楽しみだね、明里。今夜はいっぱい楽しもうね!」

 静かな山に優花と台車の音が響く。


 流星群観測開始まであと4時間。





























『 桜花・幕間・夏 』


その願いを叶えるにはどうすればいいか?


・・・。しばらく男は考えて言った。

それは難しいな。


男は神妙な顔をして続ける。


結構僕もいわゆる世界からはみ出したところに居るんだが、君の願いを叶えてやれそうにはないな。


魔法使いを名乗る男は続ける。


結局のところ君にはそもそも願いなんてものがないんだ。



いや、あるにはあるが、君の願いは、はっきり行って情動に近いものだ。君以外の者もそれは当然持っているし、大多数の者はそれを満たすために「願い」を持つ。


君の場合。願いが大きすぎて、それに見合う「願い」が見つからないんだよ。


まあしかし、大丈夫だろう。君の願いはいつか叶う。それはそういう類のものだ。


しかし、そのとき問題となるのは君だ。大きすぎる願いはえてして、物事を不透明にするからね。


もしその願いを叶えたいのなら、そうだね、しっかりと見続けることかな。


何をって、もちろん君の願いさ。君の願い。その大きさを。君の願いに明確な形がない以上あとはもう君の願いを内包する他者の「願い」を当てにするしかない。


そうだな。確かに君のいうとおりだ。確かにそれでは君の願いが叶ったことにはならない。あくまで他者の大きな「願い」の成就、そのおこぼれをもらうようなものだからね。


ただ、それがいやだというのなら、話はかなり難しくなる。はっきり言って、叶う確率はかなり少なくなる。それでもいいのかな?


そうか。またそれも一興だろう。ならば、別の方法を教えよう・・・といっても、やっぱり待つしかないんだがね。もうこうなってくると俗に言う運命とやらに掛けるしかないんだ。形がない以上君の願いが叶うことはない。他者の「願い」を当てにできなければ、君の願いを、それに見合う「願い」へと作り変える必要がある。これは誰しもが本能的に行う行為であるからその方法を聞かれても困るんだ。


君の願いは、君自身が現段階で「願い」に作り変えれていない以上、自らそれを行うことはこれからも無理だろうと思う。だから、待つといいよ。君の願いに形を与えてくれる何かを。君の願いを「願い」に変えてくれるものを。いつになるか分からないがね。


























『 桜花・第4章 宴 』


「よし、ここで一旦確認だ。おい馬鹿女!布団は足りてるのか?」

 江藤がまた優花に喧嘩を吹っかけている。懲りないやつだな、こいつも。

「あ?さっき持ってきたの見てたでしょう。足りてるわよ布団は。足りてないのはあんたのお頭の方よ。」

 優花もそんな言わなくても・・・。まあ、こいつのおつむが足りてないことは全面的に肯定するけど。

「この女・・・。まあいい。よし次はお前だ川島!バーべキューに使う野菜及び肉はスタンバってるか?それがないと俺は確実に今日飢え死にするぞ。」

 そういえばこいつ昼飯食ってなかったな。代わりに優花からえらいもん食わされたみたいだけど。

「準備万端だ。っていうか榎本さんのまねじゃねえけど、お前さっき台所に来て確認してたろ。ちなみに昇担当のバーベキュー用ドラム缶と網もあし、七夜担当の炭火もすでに真っ赤だ。そして後はお前が黙ればすぐにでも飯が食える。状況は理解したか?」

 川島・・・お前分かっててやってるだろ。こいつ仕切ってるの自分を明里さんに見せたいだけだよ。もう少し付き合ってやろうよ。

「どいつもこいつも・・・。まあいい。俺は心がスターオーシャンくらい広い。では始めるとしよう!川島!七夜!俺たちは明里さんに尽くす!昇はもちろんだが馬鹿女担当だ。おい貴様、俺たちが明里さんに焼いた肉を一切れでも食ってみろ。そのときはあのときのこと:」

なにやら江藤が言おうとしたがそれは明里さんに遮られた。

「私はこの場において誓いを立てます。もう一生・・・。」

 さらに明里さんが言おうとしたのを江藤が遮る。

「もちろん冗談です明里さん。さあ、食べましょう食べましょう。何がいいですか?やっぱカルビですよね。これ高いんですよ。多分。」

 そういって肉を焼きだす江藤。何か必死だなお前。しかも優花がここにきて狼優花になってる。なんでだ?ここにきて優花のSっけがにじみ出てるのは?まじでわかんねぇ。

 そうこう考えてるうちに七夜に話しかけられる。

「おい彼氏。なにぼーっとしてんだ。彼女が腹へって仕方ないって顔してるぞ。多分このままだと江藤がやられる。そうなる前になんとかするんだ。それができるのはお前しかいない。」

 いったい人の彼女をなんだと思ってやがるんだ。まあ、確かにそうなんだけど。

「おい優花、適当に焼くぞ。どうせこんなの最初の内だけだろうから。でもなんか食いた いのがあれば言ってくれ。一応俺がお前担当だから。」

 とりあえずそう声をかけておく。でもまあ江藤も適当だからいつまでこのルールが生きてるやら。

「うん?あはは、ありがとう昇。でもいいよ。私自分の分は自分で焼くし。お互い今日はかなり動いたからおなか減ってるでしょ。いちいちそんなみみっちいことし無くてもいいと思う。おいしさが半減しちゃうでしょ。」

 そういって優花が朗らかに笑いかけてくる。ん〜、普段からけっこう世話になってるからこんなときくらいと思うんだけどな。やっぱ頼りになんないかな俺。


 優花と付き合いだしてはや4ヶ月。これだけ付き合うとお互いの立ち位置というのはなんとなく決まってくる。一言で言うと・・・なんだろわかんねぇ。まあ一言で表すのは無理だが分かってはいるのだ。多分・・・。


 優花はかなり世話好きだがいかんせん空回りすることが多い。いろんな場面場面で俺を助けてくれようとするが、大概うまい具合に話がこじれて、終わってみれば当初の話とかなりずれていたということも多々ある。最初のうちは俺もその辺の対応の仕方が分からなかったのであたふたしてたが、最近では対処の仕方もだんだんと身についてきていい感じにサポートできるようになってきていると思う。うんだからこういう関係をなんと言うんだろう。・・・やっぱわかんねぇ。

「おい、昇。そこの焼肉のたれ取ってくれ。黄金の方な。なんかお前の彼女が選んだやつマジで不味い。どういう味覚神経してんだよ。病院言った方がいいんじゃねえのお前。」

 最初は俺を見て、途中から視線を優花に変えてメトウが言い放つ。あ、優花がお母さん優花(明里さん命名)になってる。こらえるんだ優花。今乱闘騒ぎは不味いことになる。火扱ってるから。

「昇。いきなりだが獅子座流星群どうする。皆で外で見るか。それとも二回の天窓から見るか。俺はどっちでもいいんだが。」

 ほんとに突然に豚バラをほおばりばが七夜が聞いてくる。何かこいつのクールなイメージがあるからマジで焼肉は似合わない。

「う〜ん、どっちでもいいんじゃ?二階から見たいやつは二階で。この辺で見たいやつはこの辺でって、おいなんだよお前らのしらけた顔は。あーはいはい、そうですね。せっかく皆で来たのにって感じですよね。スイマセンスイマセン。デリカシー無くて。っというわけで川島に任せる。はいどうぞ。」

 無責任だけどどうすればいいか分からんからな。すまん川島後は頼んだ。

「丸投げかよ。ていうか俺もどっちでもいいからなー。というわけで江藤どうぞ。」

いや、おまえもかよ。

「はあ?俺?じゃあ俺と明里さんが二階でお前らが——。」

「えっと、私は昇君と同じでそれぞれが好きなほうで見ればいい思う。どうせそんなに離れてないから、話そうと思えば話せるし。ね、そう思わない?優花!」

 身の危険を感じた明里さんがえらく強引にまとめようとしている。さあどう出る優花。すべてはお前に託された。

 全員の視線が優花に集中する。その視線の中、優花はニンジンをかじりながらこう答えた。

「メトウ君だけが二階で私たち5人が外。これが一番いいと思う。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

江藤ですら絶句。しかもなんだかそれでいい気がしてくる。


この後、もうその案でいいんじゃ?という雰囲気になったのだが、江藤が半泣きで抗議してきたので一番無難に“各人好きなところで星を眺めること”と相成った。


天体観測開始まであと一時間。






















『 桜花と六花・開幕 奇妙な二人 』


これは天体観測よりもすこしだけ未来の話。


だから、星を眺めようと山に登ったあの時の私と彼はまだ知るべくも無いそんな話。

          ♪

彼らにであったのは秋の真っ赤に染まった公園。文化祭を明日に控えた、そんな浮き足立つ金曜日のことだった。


あれ?めずらしい。こんなことってあるんだ。やっぱり世界は広いね。ほらマイク、見てごらん。あれが重複存在だよ。しかもカップルっぽいし。こんなケースは初めてみるよ。彼らは根っこが同じだからあんまり惹かれあうことはないんだけどね。


文化祭準備の帰り道、たまたま帰りが二人っきりになった私と彼は、いきなり意味不明なことを言いながら指差してくる女性とその子供———っぽくない少年の二人組に出会った。


おい、意味不明なこと言うな。それと指差すな。めっちゃ見られてるぞ。こっち来いって。ほら!


そういって女性を引っ張っていく少年。それに抗議する保護者———には見えないけど、年齢的にはどう考えても保護者の女性。


あれ?いろいろ教えて欲しいつったのはマイクだったよね?珍しいケースだからわざわざ教えてやったのに、何その態度!だいたいねえぇ、姉弟子の私に・・・


そう言い合いながら遠ざかっていく二人組み。なんだったんだろうな。私の知り合いじゃないけど・・・といわけで彼にも聞いてみる。


あの人たち知り合い?・・・じゃないね、その様子だと。でもまあ、優花がいなくて良かったね、昇君。今の会話を優花が聞いてたら確実に意義申し立てをしに、あの人たちのところに走って行ってたよ。彼女は私です!ってね。


夕暮れの公園で二人、わいわいぎゃあぎゃあ騒ぎながら遠ざかって行く二人を見送る。

彼らが完全に私たちの視界からいなくなった後、彼が口を開いた。


いや、江藤がいたほうがメンドくさいことになってたと思う。でも、それはさておき、あの娘が言っていた「根っこが同じ」ってどういうことだろう。何か引っかかるんだよな。


確かに、それは私も引っかってることだ。でもなんだろう。いやな感じがする。それを見てはいけない気が・・・。


うん?あれ?昇君に浮気の傾向ありかな?そんなにあの女性が気になるの?優花に言っちゃおうかなー。昇君が文化祭前日に浮気の気配をかもしだしてましたって。


だからおちゃらけた。まだ時間はあるんだし。別に今しなくても、考えなくてもいいことだろうと思って。


いや、違う!なんでそうなるんだ!気になってるのはあの女性が言ってた言葉であって、あのひと自身じゃない!ってなんだよその顔は!マジで言うなよ!優花のSっけ最近まじで拍車かかってきてるから!明日あたりに江藤と一緒に殺される!


メトウ君全然関係ないのに殺されちゃうんだ・・・。う〜ん、確かに殺されそうだな。何でそう思うんだろう?

            ♪

こうしてこの話は一旦閉じられることになる。この話が再び紐解かれるのは12月の24日。その日がどんな日になるのか。あの夏の日の私たちも、この秋の日の私たちもまだ知らない。

















『 桜花と六花・第1章 天体観測 』


「すっごいよ昇!やっばいよ、これ!まさにシューティングスターって感じ!こんなの初めて見た。ちょっと明里!カメラカメラ!動画で!これは動画で!静止画じゃ意味無いよこの感動は!いやー遅延型てるてる坊主がいい感じに効いたっぽい。明里見てる?え?見てるの?ダメだよ明里、見てちゃ!カメラ持ってこなきゃ!」

 隣でめちゃくちゃ言ってる恋人に説教した方がいいのか、空気を読んでよしといた方がいいのか微妙なラインだ。

「マジですげえな七夜。こんなの見たことあるかお前?」

 川島が七夜に話しかける。

「いや、これは・・・ない。そりゃビデオなんかではあるけど生はない。それにしてもこれは・・・。」

 七夜の言葉が続かない。確かにそうだ。これはホントにすごすぎる。


 バーベキューを食い終わって、あらかた片付けがすんだところで俺たちは皆で花火をしていた。定番といっちゃ定番だったがこれが無いと夏だという気がしないのは何も江藤だけではない。楽しい時間はどんどん過ぎていき、それに伴ってどんどんと花火は消費されていった。残ったのは線香花火。

 その最後に残った線香花火を皆でやっていたのだが、当然のように江藤がまず脱落した

「いや、この線香花火作ったやつセンスねーわ。どう考えてもつまんないだろ、これ。」

そうなにやら自分の忍耐力の無さにぶつぶつ言い訳していた江藤がまずうん?と言って、空を見上げたのこの天体観測の合図だったと思う。

 

 ホントにこの流れ星の始まりは突然だった。始まりがいつだったのかすら今となってはもう分からない。目の前の星空に子供が落書きするみたいに光の線が引かれる。何本も何本も。時には数十本の光の線が夜空に瞬く。俺はただ今唖然と頭上の星空を見上げることしかできない。


             ♪


 ずきりと胸が痛む。なんなんだろうこれ。


 頭上を光の線が覆いつくす。優花は感動のあまり童心に返っちゃてるし、他の皆は空を走る星星の大群に心を奪われていて身動きひとつしない。確かに綺麗だ。こんなもの、生まれて始めて見た。綺麗な星空に気の合う仲間たち。幸せなはず・・・、なのになんなんだろうこの気持ちは。何でこんなにくる・・・。

「優花、私二階に行くね。」

 それだけ言い残し、駆け出す。優花の「お〜い」という声も無視。だって声を出せば自分はきっと泣いてしまう。

 やっとの思いで二階にたどり着いた。やばい、くるしい。なんでこんなに・・・。わけわかんない。なんで・・・。

 だれも追いかけてこない。多分、優花が止めてくれてるんだと思う。変なとこで感がいんだよね、優花は。


 思い出すのはあのときの母の声。

(世界っていうのはね。いつも目まぐるしく移り変わっていくの。)


 まだ知らなかった。心のどこかにそんなことないって思ってた。


(今日が終わればすぐに明日が来るの。だから毎日がてんてこ舞いよ。)


 今日が明日に変わっても、明日が10年後に変わっても、引き継がれるものがあると思ってた。


(ねえ、明里。もし好きな人ができたら、お母さんに一番教えてね。お父さんはダメよ。多分明里にはまだ早いって、怒り出しちゃうはずだから。)


 かつての母と交わした指きり。すぐにでも思い出せる。あのときのお母さんの顔も、そして今のお母さんの顔も。


(うん、秘密の約束だね。お母さん!)

 懐かしい記憶。だけどその約束が果たされることは・・・



 きっと無い。


               ♪


 明里さんが走り去ってしまった。この場にいる全員が混乱している。まったく心当たりが無いからな。

「・・・。」

 江藤ですら無言だ。こいつはいつもは馬鹿だが、肝心なところではそうじゃない。今あのペンションに入っていく資格がある人間は誰もいないことくらいこいつにも分かるらしい。そう、それは優花であっても例外ではない。いや、優花のように親しいものならなおさらかもしれない。

「へえ、あんたは、いの一番で追いかけてくと思ったんだけど・・・。ちょっとはお頭あるみたいね。感心感心。」

 そういって優花がおちゃらける。川島も七夜もそんな優花をじっと見つめている。

「あ?追いかけられるわけないだろ。そりゃあ、追いかけたいのは山々だが、明里に追いついたところで俺は何もできない。そんな俺が行ったって、自己満足にはなれこそすれ明里のためにはならない。だろ?」

 そう、いつもこいつには迷惑をかけられてきた。いつもだ、そしてこれからもそうだろう。だけど、本当にそれだけのやつなら親友になんか選ばない。俺がこいつを親友と呼ぶのはこいつがどこまでも優しいからだ。こいつは自分ではなく他人を思いやる。それはいつも肝心なところでだ。いつもはわがままに振舞っていても、肝心なところでこいつは自分以外の大切な誰かを選ぶ。ならこいつは?こいつは最終的に何かを得ることができるのか?いつも肝心なところで一歩身を引くこの馬鹿野郎は結局なにかを得ることができるのか?・・・・

 そう思った。だから自分がまずは隣に立とうと思った。こいつと対等な位置にいる数少ない人間として。馴れ合いなんかじゃない。ただそう、ただこいつが本当の意味で馬鹿をやらかそうとしたときに、こいつをぶん殴ってやれる人間として、こいつの隣に立ってやろうと思ったんだ。

 そしてそれは今なんじゃないかと思う。

「おい、江藤。別にここで明里さんが戻ってくるのを待ってるってのもひとつの手だ。さいわい、俺らの頭の上にはうん十年に一度の光景が広がってるわけだしな。俺たちは別にいい。俺たちはな。でも明里さんはどうなんだ?お前だって見ただろう。あの顔。今にも泣きそうだったよな。たぶん、泣いてはいないにしても苦しんでると思う。そして、そうやって1人で苦しんでいる以上は多分1人じゃどうにもできないことだと思う。いや、できるかもしれない。でもきっと、今回のそれは・・・」

 かつて誰かに言われた言葉。

(君の願いは、君自身が現段階で「願い」に作り変えれていない以上、自らそれを行うことはこれからも無理だろうと思う。)

 今となっては、遠すぎる記憶。いったい誰に言われたのかすら分からない。でもしっかりとその話の内容は覚えている。

(だから、待つといいよ。君の願いに形を与えてくれる何かを。君の願いを「願い」に変えてくれるものを。いつになるか分からんがね。)

「1人じゃどうにもできないことなんじゃないかと思う。多分だけど。それに例え一人でどうにかできることだったとしても、お前なら関わっていいんじゃないかと思う。お前に何ができるかは別としてもだ。お前なら、少なくとも関わるくらいのことは・・・俺たちとは別の形で、明里さんと向き合うくらいのことはしてもいいと思う。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

 全員無言。・・・。やばい、超恥ずかしい。誰かなんか言えよ。さもなきゃ俺が行くぞ。明里さんとこに。何でこんなに微妙な空気になってんだよ。くそ、だから俺は・・・。

 恒例の無間地獄に放り込まれようとしていた俺を救ってくれたのは川島と七夜だった。

「いやいや、なんで江藤にフラグ立ってんの?俺らは?えらい勝手なこと言ってくれちゃってるけどさ・・・。おい七夜、お前も何とか言ってやれ。」

「江藤はゴミだと思う。が、まあそうだろうな。榎本さんは立ち位置的に柴田さんのところにはいけないだろうし、俺と川島は問題外だ。ならお前しかいないんじゃない?江藤よ。」

 確かに、江藤フラグが立ってるっぽく言っちゃたけど・・・いいじゃんよ。別にこんくらいはさ。

「・・・。」

 無言の江藤。だが分かる。この背筋がぞくぞくする雰囲気は毎回のことながら慣れるものではない。

「くっくっく・・・。」

 エンジンが入ったらしい。しかもダメな方に。ああ、やらかすな、こいつ。まあいいか。こんな日ぐらいやらかしたって。

「はあ・・・。」

 優花もため息をつくだけで、何も言わない。つまるところこれはGOサインなわけだ。

「あははははは!」

 馬鹿が笑う。でもそれは表面上だ。うまくやるだろう。多分だけど・・・。多分だけど・・・。


                ♪


 誰かがペンションに上がってきた。優花だろうな。多分、私ひとりじゃ戻りづらいだろうと思って迎えに来てくれたんだ。そう思ってもなんか気が重い。さすがに場をしらけさせすぎるには十分な威力だったからなー。

 足音が階段に到達した。うー。どうしよう、何か変な発作はおさまったけど、今更恥ずかしくなってきたよ。

「ごめんね。こんな特別な日にしらけさせちゃって。」

 言い訳なんてみっともないと思っても、出てきてしまう。自分の弱い部分も親友になら話してもいいと思うんだ。

「なんかさ、あんま星が綺麗でさ、その・・・なんというか、この時間が終わっちゃうことを考えるとえらく悲しくなっちゃてさ。う〜んと、まさか泣くほどじゃないだろと自分でも思うけど・・・何か悲しくってね。」

 足音が自分の背後で止まる。私の話の続きを待っててくれているのが分かる。

「終わっちゃうのがイヤなんだ。何かが。多分楽しい・・・いや違うな。幸せな時間が。」

 無言の優花。いつもの優花からは想像もできないくらいほどの静けさだけど、今はそれがありがたい。

「だって、ずっと続いて欲しいと思うじゃない?やっぱりそういう時間ってさ。なのにさ、遅かれ早かれ終わっちゃうんだよね。だからそれがいやで、小学生かよと思うかもしれないけど・・・でも・・・。」

 たどたどいいながら自分の心の内を必死で伝えようとしていたが、そこで後ろから優しく抱きしめられた。

「明里・・・。」

と言って優花じゃない誰かが私の名前を呼ぶ。

「・・・。」

 何今の?明らかに優花の声じゃない。そして、優花はこんなにごつくない。というより色々と総合判断すると、これは優花というよりメトウ君?あれ?

 違うよ明里。あはは、なにを馬鹿なことを。そんなことあるわけないじゃない。だってねえ?

 壊れそうになる自尊心が希望をささやく。

 優花が許すはずないよ。こんなの。優花を差し置いてメトウ君が来るなんて・・・それこそあり得・・・。

 そこまで思考したところでとどめの一撃が私の心をえぐった。

「大丈夫だ。またつれてきてやる。これは何十年に一度の夜だ。だからまた連れてきてやる。そのときは、俺たちの子供も一緒だ。だからそんなに気を・・・」

 貞操の危機管理能力及び、自尊心保護能力に従い、優花を喚びます!

「助けて優花————!メトウ君がーーーーー!」

そこまで言ったところでペンションのドアがぶち破られる勢いで開け放たれる。

「川島君!とりあえず、メトウ君を落として!それと昇は明里を保護!七夜君は拘束具をお願い!そこの馬鹿を教育します!」

「チョイ待て川島。俺何もしてなっ!fかjs;fじょあ」

あ、何かデジャブだ。この光景。前にも見た気がする。

「明里さん、どうぞ、ホットコーヒーです。怖かったでしょう。もう大丈夫です。さあ、行きましょう。外に。まだ星は流れてます。多分本格的になるのはこれからじゃないかな?」

「大丈夫だよ明里。これは想定の範囲内だから。」

 明らかに準備が良すぎる昇君と聞き捨てならないことを言う親友に連れられて、私は外に運び出される。

 途中、ロープを持った七夜君とすれ違ったが、顔が嗤ってる。メトウ君・・・大丈夫かな?

そんな私の心配をよそに無情にもペンションの扉が閉められた。扉の向こうから聞こえてくるのはメトウ君の命乞いだけ。そして夜空には満天の星空。

 なんだかとんでもない馬鹿騒ぎをしてる気がして、思わず笑いだしてしまった。ホントにさっきは何であんなに悲しかったのか。もう分からなくなってる。

「ねえ、明里?」

 優花が笑いながら話しかけてくる。

「うん?何?優花?」

 私も笑顔で返す。

「メトウ君どうだった?ちょっとは役に立った?なんだかんだいって、明里のこと一番想ってくれてるのはあの馬鹿だと思うんだけど・・・。明里先生的には何点?もち100点満点で!」

 う〜んと考える。今のこの状況を作ってくれたことには感謝してるけど・・・、あれはないな。何よ子供って、意味わかんないし。

「29点かな。あと少しで赤点じゃなかったんだけどね。」

「くっくっく。」

 となりで昇君も笑ってる。親友が折檻受けてるのにそれでいいのかな?

「29か。明里にしては珍しく高得点だね。今までは無関心の点なし、ばっかだったのに。」

 そう言って、優花が笑いかけてくる。やばい、これはいぢめられる。

「な、そんなことないって、大体こんな話自体今日が初めてでしょう!もう、変なこと言わないで!」

 流れる星空の下で皆で騒ぐ。夜は更けて行き、やっと開放されたメトウ君と折檻していた川島君たちと合流する。メトウ君が怒る。優花が嗤う。ホントに楽しい時間が過ぎていく。

 流れ星の下皆で騒ぎ続ける。


 これが夏の思い出。私と、そして私たちだけでなく、あの場にいた全員にとっての大切な思い出。いつまで残るか分からないけど、とても大切な思い出。そして、少しずつ変わり始めた彼と私の物語の本当の意味での序章の物語。



                                   夏・閉幕

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