弟に包みこまれている
高校生になり、溜息ばかりをついている。
『プレッシャー』に押し潰されながら生きる毎日なのだ。正直、死んでも良いとさえ思っている。
包丁を握って一人になったなら、多分自分は自分の喉を掻っ切れるだろう。
そんな死に急ぐ心を見透かされたのか、最近弟が良く自分を気にかけてくれていた。
「おにぃ、ぎゅ〜〜」
元々甘えん坊気質で良く抱き着いて来ていたが、最近はその頻度が二倍にはなった気がする。
でも別に、鬱陶しいとは思わない。
むしろ逆だ。こんな自分でも味方で居てくれる彼の存在は心強かった。
「何がそんなに、おにぃを苦しめてるの?」
「······色々だよ。色々」
その反面。自分は彼の好意にちゃんと向き合ってやれてないなと思っている。
彼はぎゅっと抱き締めてくれるだけじゃなく、こうやってしっかりと話を聞いてくれようとしている。
だが、自分は毎回回答を濁してしまう。
いざ話そうとなると考えが上手くまとまらないのが一つ、きっと他の人からしたらちっぽけな悩みで、「そんなことで?」と否定されたくないのがもう一つ。
つまるところ、『人の目』を気にして話すのを躊躇っていた。
「······話せる時で良いから、いつか聞かせてね」
それでも、彼はボクを手放さなかった。独りにさせなかった。
何度も何度も聞いて、一度濁されたら深追いはせず、それでもボクの心の中を気にかけてくれた。
本当に、優しくて思いやりがあって、自分と違って良く出来た弟だと思う。
彼を弟に持って、自分は本当に恵まれていると思う。
「ありがとう······。ありがとう······っ、藍良」
弟の小さな小さな身体を借りて涙を流す事だって、彼――藍良は許してくれる。
藍良が居なかったら、自分はもっと早くに死んでいたかもしれない。
藍良が、ボクの命を長らえさせてくれている。それは確かだ。
藍良が居ない人生なんて、考えられない。
「いいんだよ。いっぱい泣いても」
もしかしたら、甘えん坊気質なのは自分だったかもしれない。
だって、弟の薄い胸を涙で濡らして、弟の柔い手で頭を撫でられて、情けなくわんわんと泣いているのだ。
――本当に情けない。お兄ちゃん失格だ。
――という考えさえ、藍良は見逃してくれない。
「兄だから」とか、「高校生だから」とか、そんなの関係なしに、「一人の人間」として接してくれている。
それが、本当にありがたかった。
「よーしよーし」
申し訳なさは、ある。でもそれ以上に感謝の方が大きくて。
「ありがとうっ、藍良······っ」
引きつった声で、せめてもの恩返しという気持ちを込めて、なんどもなんども感謝を口にするのだった。




