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弟に包みこまれている

作者: なおい
掲載日:2026/04/08

 高校生になり、溜息ばかりをついている。

『プレッシャー』に押し潰されながら生きる毎日なのだ。正直、死んでも良いとさえ思っている。

 包丁を握って一人になったなら、多分自分は自分の喉を掻っ切れるだろう。

 そんな死に急ぐ心を見透かされたのか、最近弟が良く自分を気にかけてくれていた。


「おにぃ、ぎゅ〜〜」


 元々甘えん坊気質で良く抱き着いて来ていたが、最近はその頻度が二倍にはなった気がする。

 でも別に、鬱陶しいとは思わない。

 むしろ逆だ。こんな自分でも味方で居てくれる彼の存在は心強かった。


「何がそんなに、おにぃを苦しめてるの?」


「······色々だよ。色々」


 その反面。自分は彼の好意にちゃんと向き合ってやれてないなと思っている。

 彼はぎゅっと抱き締めてくれるだけじゃなく、こうやってしっかりと話を聞いてくれようとしている。

 だが、自分は毎回回答を濁してしまう。

 いざ話そうとなると考えが上手くまとまらないのが一つ、きっと他の人からしたらちっぽけな悩みで、「そんなことで?」と否定されたくないのがもう一つ。

 つまるところ、『人の目』を気にして話すのを躊躇っていた。


「······話せる時で良いから、いつか聞かせてね」


 それでも、彼はボクを手放さなかった。独りにさせなかった。

 何度も何度も聞いて、一度濁されたら深追いはせず、それでもボクの心の中を気にかけてくれた。

 本当に、優しくて思いやりがあって、自分と違って良く出来た弟だと思う。

 彼を弟に持って、自分は本当に恵まれていると思う。


「ありがとう······。ありがとう······っ、藍良」


 弟の小さな小さな身体を借りて涙を流す事だって、彼――藍良は許してくれる。


 藍良が居なかったら、自分はもっと早くに死んでいたかもしれない。

 藍良が、ボクの命を長らえさせてくれている。それは確かだ。

 藍良が居ない人生なんて、考えられない。


「いいんだよ。いっぱい泣いても」


 もしかしたら、甘えん坊気質なのは自分だったかもしれない。

 だって、弟の薄い胸を涙で濡らして、弟の柔い手で頭を撫でられて、情けなくわんわんと泣いているのだ。

 ――本当に情けない。お兄ちゃん失格だ。

 ――という考えさえ、藍良は見逃してくれない。

「兄だから」とか、「高校生だから」とか、そんなの関係なしに、「一人の人間」として接してくれている。

 それが、本当にありがたかった。


「よーしよーし」


 申し訳なさは、ある。でもそれ以上に感謝の方が大きくて。


「ありがとうっ、藍良······っ」


 引きつった声で、せめてもの恩返しという気持ちを込めて、なんどもなんども感謝を口にするのだった。

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