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こちら、未来聖地巡礼案内所。  作者: 傘木咲華
第一章 サクラちゃんとツインテ先輩
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1-2 私のパートナー

 物語の概要は、

 小説家志望の大学生・廿楽つづらつづりと、アンドロイド・ミオリの日々を描いた恋物語。メインの舞台は喫茶店(二人ともバイトとして働いている)だが、綴は小説の刺激が欲しくてふらりと旅に出る。「私は人々のお役に立つことができればそれで良いのです」と語るミオリもいつしか綴に興味を持ち、旅に同行するようになって――。

 という感じで、人間×アンドロイドの恋愛ものだった。


 さらりとあらすじを聞いただけなのに、自然と胸が高鳴り始める。

 単純に視聴者として楽しみな気持ちと、こんなにもわくわくする物語に自分も関われるかも知れないという希望。二つの想いが絡み合って、思わず頬が緩んでしまう。


「桜羽さん、何だか楽しそうね?」

「あっ、す、すみません。初めてプロジェクトに参加するので、嬉しくなってしまって」

「ふふっ、気持ちはわかるから安心してね」


 渚に微笑ましい視線を向けられてしまい、乃衣は身体を縮こませる。同時に遣都からも憎たらしい笑みを向けられたような気配がしたが、きっと気のせいだろう。



「さて、次は私達にとって重要なポイント、場所についての説明をします」


 一瞬で表情を引き締め、渚は淡々と説明を続ける。

 アニメ会社から『未来聖地巡礼案内所』に依頼が来る時、アニメの資料以外は丸投げ……という訳ではなく、シーンとして欲しい場所の指定があるのだ。


 モニターにでかでかと映し出されたのは「喫茶店」と「花畑」の文字だった。「喫茶店」は綴とミオリのバイト先であり、作品の顔といっても過言ではない場所。「花畑」は花を通じて心を知っていくミオリが、綴とともに『最後に訪れる場所』なのだという。

 様々な場所を旅して心を通わせた二人が、物語のラストに想いを告げる大事な場所。それが「花畑」になるらしい。

 ちなみに、「花畑」は花のテーマパークでも可能だそうだ。花に囲まれた幻想的なシーンになることが一番のポイントで、夕陽が映える場所だと尚良しとのことだった。


 あとは花屋・商店街・田舎感のある路地裏・遊園地・水族館・動物園・海など。「喫茶店」と「花畑(花のテーマパーク)」は必須として、日常シーン+旅のシーンで使いたい場所が挙げられていた。


(喫茶店と花畑、か……)


 乃衣は早速頭を巡らせる。

 自分は新人だ。だけど乃衣だってこの一ヶ月間、聖地巡礼のための資料を作り続けてきた。意外にも「喫茶店だったらここ」「花畑だったらここ」という場所はすぐに浮かんできて、みるみるやる気がみなぎってくる。


 しかし、その時の乃衣はすっかり忘れてしまっていた。

 聖地を探すのは一人ではなく二人一組で行うということを。



「よろしくね、サクラちゃん」



 ――いったい、何が起こっているのだろう?


 気が付いた時には目の前にギャルが立っていて、乃衣は瞳を瞬かせてしまう。

 高い位置で結ばれたツインテールは、アニメキャラかと見紛うくらいのピンク色。すらりと高い身長に、胸元がはだけたスーツ。猫目で、白い肌で、メイクもばっちりで、指先はゼブラ柄の派手なネイル。

 そして何より、ほぼ初対面にもかかわらず勝手に作ったニックネーム(サクラちゃん)で呼んでくるメンタルの強さ。

 あまりにもビックリしすぎて、乃衣はすぐに身動きを取ることができなかった。


「あれ? おーい、さっきからぼーっとしてるけど大丈夫?」

「……大丈夫、じゃないです……」

「えっ、嘘、マジィ? ちょっとせんぱーい、サクラちゃんが体調悪いみたいで」

「いや、ちがっ、体調が悪いとかじゃなくて」


 必死の形相で彼女を止めると、「あ、そなの?」と小首を傾げる。

 ――いい加減、認めるしかないのだろうか。今はペア決めをしているところで、部長の渚によって一組ずつ発表されている。自分は新人だし、先輩とペアになるのだろうと思っていた。渚とペアなら安心感が半端ではないし、同期だったらやはり遣都が安心できるだろう、なんて。


 高望みが過ぎたのだ。

 だから罰が当たったのだ……なんて思ってしまうほどに、乃衣は今絶望のどん底にいる。


「ええっと……猫塚ねこづか先輩、でしたっけ」

「あー、そこからだった? あたし、サクラちゃんの一つ先輩の猫塚梨那(りな)。よろしくね」

「あ、はい。桜羽乃衣です。よろしくお願いします」

「知ってるよー。あたしにとって初めての後輩だもん。顔も名前もばっちりよ!」


 どや、と言わんばかりに梨那はピースサインを向けてくる。


 猫塚梨那。

 乃衣より一つ年上の十九歳で、入社二年目の先輩。


 彼女のことはもちろん知っていた。

 ピンク色のツインテールなど目立って仕方がないのだ。入社したばかりの頃、「あんなにもアニメオタク感がない人も『アニメ部門』に所属するんだ」と、勝手な偏見で驚いたような覚えがある。


「めっちゃあたしのツインテ見てくるじゃん。これ、ピンクアッシュっていう色なの。可愛いっしょ?」

「え、あ、はい……そうですね」

「あたしのことは気軽にツインテ先輩って呼んでくれれば良いから」

「いや、それはちょっと」


 あまりにもマイペースな梨那の姿に、乃衣は思わず苦笑を浮かべる。

 乃衣の頭に浮かぶのは「大丈夫だろうか」という不安だった。ちらりと遣都の様子を確認すると、自分とは大違いのリラックスした表情をしているのがわかる。

 そりゃあそうだろう。だって、遣都のペアの相手は渚なのだから。


(良いなぁ……。私も夕桐部長とペアが良かったよ)


 まるで本音を零すかのようにため息が漏れる。

 自分だって遣都のように頼れる先輩とペアを組みたかった。渚が言うには「若い意見も大事だから」とのことだったが、だからってたった一年先輩なだけの梨那とペアになるなんて思いもしなかったのだ。

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