奴隷傭兵、仇討ちする6
「撤退するぞ!おい、おまえ!殿を務めろ」
「は!?俺がっすか!?」
「おまえ以外に誰がいるんだよ!?」
「嫌ですよ、責任は団長にありますよね?」
格下相手にこれだけド派手に惨敗を喫したブノワールの命令を聞く者はもはや誰もいなかった。その場でブノワールと彼のやり取りを聞いていた傭兵連中は我先にと逃げて行き始める。
「逃がすかよっ!」
「あっ、バーン!」
勢いよく飛び出したバーンを追い掛けるようにエルも指示を出す。
「みなさん、バーンのあとを追ってください!決着をつけます!」
「「「「「おおおおおおおおおおおおおう!!!!!」」」」」
中位ランクの『紅蓮の狼』だったが、もはや尊厳も何もかもかなぐり捨ててFランク相手に逃げて行く姿は無様である。最後の最後まで揉めに揉めていたブノワールは結局デカい図体が災いして逃げ遅れて最後方を走っていた。驚異の身体能力で真っ先に追いついたバーンは、ブノワールに並ぶ。
「よおブタ野郎。辛そうだな?」
突然現れたバーンにブノワールは驚愕した。いくらなんでもこの距離で追いつくなどあり得ないと思ったからだ。
「なっ!?てめぇ・・・・・・」
思わず後方を確認したブノワールだったが、バーン以外はかなり後方から追いかけて来ていた。ブノワールをそのことを知るとニヤッと口角を上げて叫ぶ。
「おい、おまえらぁ!コイツだ、この男が傭兵団の団長だ!コイツを殺せ!それで決着だ!」
「おまえは何か勘違いしてんな。多勢に無勢だとか思ってんのか?おまえの隣にゃ誰がいるんだ?」
「はっはっ!アタマおかしいんじゃねぇかおまえ!?てめぇのトロくせあああああああああああ!?」
バーンは団長の足を問答無用で斬り落とした。
「黙ってろゲス野郎」
「お、おまえら!俺を助けろ!」
ブノワールの叫びも虚しく、既に敗北を悟った傭兵団の連中たちは一瞬、振り返ると全力で逃げて行った。
「誰もおまえなんか助けねぇってよ。たいした人望だな、おい?」
「く、くそ、あいつら・・・・・・」
ブノワールは憎々しげに逃げてった連中を目で追っていたが、やがてバーンに向き直ると急に態度を変えた。
「な、なぁ、兄弟。悪かったよ、今回はおまえたちに全て譲ろう。俺たちが建てた功績もおまえたちのもんだ。だから見逃してくんないか?」
ブノワールはそう言いながら足元を手でまさぐり、革靴に仕込んだナイフを握りしめる。
「それとよ、もっと良い話があるんだ。ちょっと耳貸せよ」
「ああ、こうか?」
バーンの顔が近づいた瞬間、ブノワールは思い切りナイフをバーンの顔に突き立てた。
「あーっはっはっはっは!バガめ!ひっががりやがっだ!あ・・・・・・あで?」
「バカはてめぇのほうだ。そんな見え透いた罠に引っかかるバカがどこにいるんだ?」
言われて気付いたブノワールの頬にはナイフが刺さっている。ブノワールは必死に態度を変えて助けを求めたが、バーンは無表情でブノワールの首を落とした。
「てめぇは地獄に落ちろ!」
バーンがブノワールの首を斬り落としたことで、傭兵団同士の抗争に完全に決着がついた。戦場全体としてもローグレーが敗れたことで、圧力がかけれらなくなった西側の前線を大きく後退させることになる。『ブラックシープ』と『田園の騎士』はトラブルに巻き込まれた件やフィルの報告を兼ねて一旦州都へ戻ることにした。
いつも拙書を読んで頂きありがとうございます。
☆、ブックマークして頂けたら喜びます。
今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。