奴隷傭兵、怒る
なんとか俺は引き抜こうとするが、深く刺さってしまって抜けない。それを見て兵士は剣を上段に構えて走り出す。まずい、まずい、スゴクまずい!俺は剣を引っこ抜くのを諦め、イチかバチか瞬時に兵士に向かって無手で突っ込んだ。
こんな狭い部屋で剣を上段に構えてる時点で振り回せない、かもしれない。自信はねぇが今経験したばっかりだからな。経験者は語るって奴だ。幸運にも、キッチンの上に色々吊るしてあった調理器具やらなんやらがガシャンガシャンとぶつかって邪魔してくれた。
おかげで剣の切っ先が当たったが傷は浅い。単に鈍らだったのかもしれんが、とにかく助かった。その後は敵兵と取っ組み合いになる。上になり下になりの殴り合いだ。そのうち、敵兵が落ちてたナイフを拾って俺の首筋に振り下ろそうとする。
俺は咄嗟に相手の両手首を右手で掴んで、力づくで切っ先を左に逸らした。左耳をかすめて床に刺さる。相手の顔が近づいたところで思い切り頭突きを入れて、ひるんだ隙にそのナイフで男の胸を貫いた。
はぁはぁはぁ・・・・・・。
そのままそこに寝っ転がる。息が苦しい。身体も痛いが、とりあえずまだ生きてる。息が落ち着いてくると、無性に腹が立ってきた。
あのガキのせいでこんなピンチに陥ったんだ。むくっと起き上がって、剣を引っこ抜くとつかつかとさっき俺たちが隠れていたテーブルに近づく。
「おいっ、おまえどういうつもりだ!?」
「ぁ・・・ご、ごめんなさい」
家のなかで死闘を演じたおかげか、ようやく俺の声にまともに反応した。コイツのせいで危うくふたりとも殺されるところだ。
「さっきの状況で叫ぶとかあり得ないだろ、自殺願望でもあんのか?」
「あ、あの・・・・・・ごめんなさい」
さっきと、同じ答えしか返ってこない。少し落ち着いてきたので、別の質問をしてみることにした。
「おまえ、さっき思い出したとか言ってたよな?」
その質問に対してビクッと反応を見せた。口が開いては閉じを繰り返す。喋るのを躊躇っているようだった。その様子を見て、また少し怒りが湧いてくる。
「なぁ、おまえのせいで俺は死ぬ目にあったんだ。質問ぐらい答えてくれたっていいだろ」
俺の言い方で察したのか観念したようだった。その子は俺の目を見据えると言った。
「わ、僕、未来の世界から来たんです」
「・・・・・・は?」
思わず素っ頓狂な反応になった俺に構わず続ける。
「あの、前世の記憶があるというか。でもなんで死んだのに過去に転生したんでしょうか?」
「そんなこと俺に聞かれても知らねぇよ。てか、そもそもそんなことあり得るのか?」
俺の問いにその子は首を振る。両親を目の前で亡くしておかしくなっちまったのか?
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