奴隷傭兵、焦る
「それ、おまえの両親か?」
問いかけてもやはり無反応だ。俺は構わず話しかける。無言でいるのはなんとなく気まずかった。
「俺は傭兵だ。本来なら敵軍がここに攻めて来る前に叩き潰すつもりだったんだ。遅れて悪かった・・・・・・」
こんなことは俺が謝る筋じゃない、ゴズのせいだ。だが、なぜか俺のせいでこうなったような気がした。
「なぁ、少しここに居てもいいか?敵に追われててよ」
尋ねても身じろぎひとつしない。泣いていた跡はあったが、目の焦点が合ってなかった。戦争孤児がショックのあまり口がきけなくなるなんてのは、よくある話だ。だが、そうなりつつある奴を放っておけるほど非情にもなれず、俺は勝手にいろんな話をした。
聞いた笑い話、バカな話、行ったこともない他の国の話、初陣の話・・・・・・。やがて、陽が暮れ夜が訪れた。外はまだ敵兵がたむろしてるらしく騒がしい。月が中天に昇るころ、兵士たちの足音が近づいて来た。物色するために家を一軒一軒回ってるのか?数人の足音が近づいてくる。
ヤバイな、このままじゃ見つかっちまう。俺はその子を抱き上げると部屋の隅に移動した。ここならひっくり返ったテーブルの死角に入る。兵士たちの声がさらに近づくと、家のなかに入って来るのが足音からわかった。
「・・・ぃ・・た」
その時だ、その子が虚ろな目でぶつぶつ言い始めた。慌てて手で口を塞ぐ。今まで何を話しかけても黙っていたのになんでこんなタイミングで・・・・・・。兵士たちは談笑しながら、俺たちがいるキッチンに入って来た。
ガサゴソと何かを探す音がしてる、恐らく食料の物色だろう。ひとりの兵士が俺たちが隠れているテーブルのすぐ傍まで来る。
「ぉ・・・・た」
ヤバい、ヤバい、ヤバい!手の隙間から声が漏れてる。俺は左手でその子の口を押さえながら、右手に剣を握りしめた。兵士の足音が急に止まる。急に空気がピーンと張り詰めたように感じた。兵士との距離はもう手が届くような距離だ。
剣を握る手に汗が滲み、心臓はバクバクと鳴ってる。その子はまだぶつぶつ俺の手のなかで呟いていた。突如、その子は俺の手を力いっぱい引き剥がして言う。
「全部思い出したぁ!」
その瞬間、俺はテーブルの裏から飛び出して剣を突き出した。兵士のうめき声と共に、剣の先から生暖かい液体の感触が伝って来る。俺はその兵を蹴り飛ばしてキッチンへ突っ込む。残りはふたり。
「くそ、敵だ!隠れてやがった」
そのままの勢いで剣を構えて突っ込む。ふたりめは剣を抜く前に突いた。残りのひとりも袈裟斬りに斬ろうとした刹那、柱に剣が引っ掛かる。部屋が狭いなかでロングソードの不利が出た。
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