第27話 魔王
今回は長くなってしまいました。ごめんなさい。
海斗たちはその日のうちに第七階層→第八階層→第九階層を攻略しとうとう第十階層へと続く階段にやってきた。
「勢いに任せてたらまさかの第十階層まで行けてしまった」
「結局は第七階層で色々と鍛えられたってことかしら?」
「そうですね。あそこでレベルも相当に上がりましたし動きもよくなった気がします」
「バウバウ」
ジョンも頷きで賛同する。もしかしたらジョンにもレベルがあるのかもしれない。そんなこんなで面々は階段を登り切ろうとしている。
「ちなみに白仮面さん?街ダンジョンの最終階層ってどこなんですかね?」
「さあ?最高級ダンジョンって言っても最終階層はバラバラらしいからな」
「もしかしたら次で終わったりするかもしれないわね」
そうして海斗たちは階段を登り切った。そこに広がっていたのは街中で縦・横・斜めに横断歩道が描かれているスクランブル交差点。
「次はスクラン【ピコン♪】んん?」
海斗がその光景を見てしゃべろうとするとそれを遮るようにアナウンスが流れた。
【最終階層です。出現する魔王を討伐することでダンジョンは攻略されます】
そんなアナウンスが流れた。このアナウンスで言われている魔王とはダンジョンの最終階層に鎮座する魔物たちの中の最強の存在。わかりやすく言えばダンジョンボスのことでありこの魔王を討伐することでダンジョン攻略が成功したことを表している。
そんなアナウンスを受けて海斗・祥子・綺亜蘭はそれまでの日常の雰囲気から急な緊迫感が訪れた。
「……どうやら祥子の言葉が正解だったみたいだな……」
「私…魔王は初めてです。 どんな奴なんだろう……」
「……わかってるのは油断しないほうがいいってことね……」
そんな警戒しながら会話をしているとスクランブル交差点の中央に地面から突如として光が放たれる。そして光がやむとそこにいたのは外見上は子供のような体格をした者だった。
「なに……あれ……」
「これが……魔王……」
ゴクリ
祥子と綺亜蘭はその存在が現れた瞬間に後ずさり汗を流し生唾を飲む。2人はその150㎝ほどの子供のようなそれに気圧されていた。ただ存在するだけで祥子たちですら気圧されるそれこそがこの街ダンジョンの魔王だった。
「俺が行く……2人は後ろにいてくれ。 ジョン。頼んだぞ」
魔王の強さを感じ取った海斗が1人で魔王に対して向かっていく。それに対して2人は止めようと腕を伸ばしかけるがそれは途中で止まる。それは理解したから。魔王の前に自身たちが共に戦ったところで足手纏いになるだけであると。
「ごめんね……海斗。 頑張って」
「無事に帰ってきてくださいね。海斗さん」
「バウバウ!」
声援を受けて海斗は魔王へと向かっていく。歩道にいた海斗はスクランブル交差点の中央に存在する魔王に1歩1歩と近づく。するとある程度のところで魔王と海斗を囲むように光の壁が出現する。
「これは……」
その光に触れる海斗。それはすべてを拒み海斗の後退を不可能にした。そしてそれは魔王の戦闘フィールドでありそれが発動されたということは魔王が動き出す証だった。
ダッ!!
背中を向けている海斗に対して魔王は1歩踏み込み殴りかかる。その速度はジョンさえも超える綺亜蘭のにゃーちゃんを軽く超えていた。
ブン!!
しかしその降りぬかれた拳は空振りに終わった。警戒をMaxにしていた海斗は瞬時に雷人モードを発動し魔王の攻撃を回避。後ろへと回った。
「さて……戦闘開始だ」
そこから行われたのは激戦中の激戦。魔王の攻撃方法はシンプル。超高速で駆け抜けて拳を振るい蹴りを放つ。しかしその破壊力は海斗の四重魔法陣での魔法陣盾さえも破壊する。さらに動きにしても力任せではなく達人のような武術家のそれだった。
「チッ!これのどこが魔物だよ!地獄の業火!」
海斗はレベルが5000を超えたことで新たに使用できるようになった罪人を苦しめる決して消えることのない地獄に存在するような漆黒の炎を放つ。
それに対して魔王は回避するのではなく地面に腕を突っ込む。
「なにを」
その行動に理解不能な海斗。漆黒の炎は魔王のすぐ目の前まで到達する。しかし当然ながらそのまま攻撃が当たることはなかった。地面から腕を抜いた魔王が持っていたのは魔王の身長よりも長い一本の棒だった。
ブン!!!
魔王はそれを一振りすることで炎をかき消した。
「嘘だろ。 マジかよ」
その衝撃につい海斗は脚が止まってしまう。そんな隙を魔王は逃さない。
ダッ!!
海斗に向かって駆け出す魔王。一瞬にて棍の影響で攻撃範囲が広くなった魔王は棍を振るう。
「しまっ!?」
雷人状態でも回避が間に合わず一瞬にて発動できる魔法陣盾すらも不可能。海斗はそのまま攻撃を食らってしまった。
ドゴン!!!!
「ガッ!?」
その棍を腹に食らい海斗は吹き飛ばされる。それは通常の探索者であればそれだけで死亡するほどの威力があり海斗ですらすぐさま立ち上がることができないほどの大ダメージ。海斗はこれほどの大ダメージを受けたのは初めてだった。
「ぐっ…………あっ…………」
あまりの壮絶な痛みに悶え苦しみ表情はゆがみ戦意も揺らぐほど。
「(もう……無理だ……立てない。 こんな痛みをするぐらいなら……もう……)」
海斗はゆっくりと流れる時間の中で思考する。経験したことのない痛みにより心は折れかかり弱気となっていた。そこで考えていた。自身がダンジョンに挑む理由を。
海斗がダンジョンに挑んだ理由は家にできたからと配信で生活費を稼ぐため。それは軽い理由だったしおよそ命を懸けるほどのものではない。それでもここまで半年ほど探索者としてダンジョンに挑めてきたのはその強さからそこまで痛みを受けてこなかったから。
もちろん海斗であってもゼロではないがそれはなんとか耐えることができる程度の痛み。それも1.2回程度で今回の立つことすら不可能なほどの大ダメージは初めて。
「(逃げたい……死にたくない……もう戦いたくない……)」
海斗は完全に戦意が喪失しかけていた。それは当然のことであり海斗は当初からある程度の強さがあるせいで本来なら低級で自然と鍛えられる精神力が成熟しないままここまで来れてしまった。それは精霊との融合の力を受けてからは特に魔物相手に苦戦どころかダメージすらあまり受けないほどに圧勝。
苦難困難を経て様々な痛みを経験してここまでの強さを手に入れたわけではない海斗はそれこそが弱点だった。
しかし人間というものは一瞬で弱気にもなるが逆もまたしかり。
「(あれは……)」
海斗の視界に映ったのは第六階層にて現れた四神を模した魔物。それらが無数に存在し仲間が戦っている姿。その中には当然、年下の女の子の綺亜蘭もいる。
「(……かっこ悪すぎだろ俺。 年下の綺亜蘭ちゃんが戦ってんのになにが立てないだよ。戦いたくないだよ。諦めんのが早すぎんだよ!)」
仲間の存在が海斗を奮い立たせる。魔王は海斗にとどめを刺すために駆ける。吹き飛ばされてからここまで海斗はゼロコンマ一秒にも満たない。
「ごふっ!? はあ……はあ……。 完全治療!」
ピタ
とどめを刺そうとした魔王の足が止まった。それは海斗の怪我が完治した影響かそれとも心に起きた変革によってか?
「方法があんのに諦めんのはバカもやんねえだろ……」
海斗は視線は魔王を捉え続けながらも後ろで戦っているだろう仲間を思う。
「こっからは本気だ」
シュババババ!!
海斗は雷人モードの弓矢で魔王を狙う。しかしそれらはすべて棍で叩き落される。
ダッ!!
矢を放ちすぐ後に接近。しかし魔王はその雷人モードの動きにも当然のように反応が可能。棍の領域に侵入した海斗に魔王は棍をたたきつける。
「絶対零度!」
ピキピキピキ!
それは触れればどんなものも凍り付かせる氷のレーザー。しかしそれを海斗は棍を凍らせて武器の消滅に使用した。しかしならばと魔王は自らの拳で攻撃するため接近。
「氷人モード!」
海斗は雷から水に切り替えた。それは魔王の接近戦に二丁拳銃で対応するために。
パシュン!パシュン!パシュン!
その近接戦は超高速戦闘。海斗はダメージを負いながらもなんとか魔王の身体を凍り付かせていくことに成功する。それにより若干動きが遅くなる。
ダッ!
魔王はたまらず跳躍により後退。しかしそれが魔王の敗北の原因となる。
「ッ!雷霆弩級!!」
バジュン!!!
それは巨大な雷の弩を生み出して相手に放つ魔法陣。それは雷の魔法陣特有の速さも持ち合わせなによりも破壊力が随一。それが空中にいる魔王に向かって放たれた。
魔王は空気を叩くことで自身の軌道をずらし身体が多少抉れる程度で済みそれでの死は免れた。
パン!!
しかしその行動を海斗は読んでいた。海斗は魔王が着地した瞬間にすでに炎人モードに変化していた。
「精霊剣『大炎斬』!!」
ザン!!!
こうして魔王は身体を真っ二つにされ討伐された。
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◇:うおおお!?
◇:ああ!?吹き飛ばされた!?
◇:よし!すぐに立った!
◇:やっちまえ白仮面!
◇:そこだ!いけ!もう少し!
◇:やった勝ったー!!
◇:白仮面様の勝利よー!
◇:すげえ!?なんて戦いだよ!?これが探索者と魔王の戦いか!?
◇:とてもじゃないけどたったの半年の探索者の動きじゃねえよ!?
◇:俺だったらあの一撃を食らって心が折れてるね。
◇:その前に第一階層で死んでんだろ。
◇:白仮面様がそんなことで心が折れたりするわけないでしょ!!
◇:なにはともあれこれで白仮面は日本の探索者の中で最強の1人になったな。
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