第2話 駅前
ブラック会社を辞職した海斗は自宅を探索中にダンジョンの扉を発見した。その中は街のようになっており足を踏み入れたことで海斗は能力を手に入れた。
【能力が発現しました。あなたの能力は魔法陣です】
「魔法陣……これが俺の能力……」
声によって自身が魔法陣の能力を手に入れたことを知った海斗は次の瞬間には魔法陣の使用方法を理解していた。
【ダンジョン内を配信できます。配信いたしますか?】
ダンジョンでは配信が可能となりほとんどの探索者は配信で生活費を稼いでいる。
「配信か……だけど顔バレはしたくないよな。家のこともバレたくないし」
配信をすれば世界中の人たちが海斗やこのダンジョンのことを知ることになる。海斗が危惧しているのは街型のダンジョンなんて聞いたことがないというところ。もし希少だったり世界初だったりすれば素顔を晒すことで家も特定される恐れがある。
「でもせっかくならダンジョンは見たいよな~。配信も生活費を稼ぐためにやってみたいし」
う~んと悩んでいる海斗はひらめいた。
ポン
「そうだ。顔を隠せばいいのか。確か家にピッタリのものがあったはず。よし!ジョン!いったん家に帰るぞ!」
そう言ってともに入ってきたジョンの方向を振り向くとなんとジョンが海斗と同じほどの高さにまで大きくなっていた。
「じょ!?ジョン!?」
「ワン!ワワン!」
ぺろぺろぺろぺろ!
大きくなったジョンに乗っかられ顔を舐められる海斗。それは傍から見れば怪物に食べられそうになっているように見える。
「ぶっ!?ぐわっ!?じょ!?ジョン!?落ち着け!?縮んで!?縮んでくれジョン!?」
「ワフン?」
海斗の願いを聞いたジョンは首をかしげながらもその大きさは普通の犬サイズにまで戻った。
「ふう……ふう……つまりジョンも能力を手に入れたってことか。動物も能力とか手に入るんだな……」
どうやら海斗同様にジョンもまた能力を手に入れたらしい。現状で分かっていることは大きさを変えることができるということ。
「よ、よし。それじゃあジョン!家の中に戻るぞ!」
「ワン!」
そうして海斗は入ってきた扉を戻り目的のものを探しに行く。
「ええっと……確かこの辺りにしまったはず……」
海斗は物置きと化している部屋の中でとあるダンボールを取り出して開く。するとその中には色とりどりの仮面が収納されていた。
「まさかこれが役立つ時が来るとは。酔ってネットショッピングしてみるもんだな」
働いていた時に年に数日のみ存在した休日にその嬉しさに昼間からお酒を飲んだ海斗が酔った勢いでなぜか購入したのが色とりどりの仮面たち。その数は合計で100に近い。
「とりあえずこれをつけて配信してみよう。ジョンも一緒にダンジョンに挑戦するか?」
「ワンワン!ワワン!」
ジョンもやる気のようで海斗は白色の仮面を付けてガラス戸を開けてダンジョンへと再び足を踏み入れた。
【ダンジョン内を配信できます。配信いたしますか?】
早速その声が海斗の脳内に流れる。
「配信する!」
「ワンワン!」
そう宣言した次の瞬間に手のひらサイズの真四角の物体が宙に浮いて出現した。
「これがカメラか?まさかもう配信されてる?」
海斗自体は探索者の配信などは見た事がないためあまりよくわかっていない。
「まあいいか。とりあえず歩いてみよう。散歩の時間だジョン!」
「わふん!わふん!」
尻尾を大きくフリフリするジョン。中々散歩も出来ていなかったためすごく嬉しそう。
「う〜ん……ここは駅前って感じか。それにしても魔物がいないんだけど?こういうもんなのか?」
「わふん?」
海斗の街型ダンジョンの街並みは背後に駅があり前方にはバス停などがある駅前の様相を呈しているダンジョンだった。
しかしそこには車やバスはもちろん人影も全くなくダンジョンならば存在するはずの魔物の姿も見えない。
「確かダンジョンなら次の階層に行く階段がどこかにあるんだよな?」
その階段を探しながら駅前を離れようと歩き出すと1体の魔物が誕生した。
ポン♪
その魔物は頭と両肩に角を生やした3mはありそうな大きな熊だった。
「お?やっと魔物の登場か。そうじゃないとダンジョンじゃないもんな!」
やっとダンジョンらしくなってきたことにテンションの上がる海斗。だがそれはすぐに覆ることになる。
「さて!初っ端はどの魔法陣で……」
ポン♪ポン♪ポン♪ポン♪
連続で様々な魔物が誕生する。それは10を超え20を超えてもまだまだ止まる気配がない。それに対してそれまでの楽しそうな笑顔が消えて無表情となっていく海斗。
「……火炎放射……」
ブオオオオオ!
魔物の集団へと向けた手のひらの前方に赤い魔法陣が展開されるとそこから炎が放たれた。それは一番最初に誕生した熊の魔物に命中するが、
ジュワ
「ガウ?」
まるでダメージが入っている様子がない。逆に今まで注目されていなかった海斗はその行動で数えきれないほどいる魔物たちから認識された。
「放水光線……雷閃弓……」
パシン パシン
「ガウガ?」
それはまるで”え?なにかした?”とでも言っているような熊の魔物。その2つの攻撃も効果はほとんど与えてはいなかった。
「グガガアアアア!!」
ドドドドドドドドド!!
熊の魔物の掛け声によって一斉に数えきれないほどの魔物たちが海斗へと駆け出してくる。
「全然ダメじゃねえかあああああ!!??」
海斗としては増え続ける魔物たちに危機感を覚えて不意打ちをしてみたのだがあまりにも威力の弱い魔法たちに泣き叫びながら全力で逃げる。相手は魔物でありその速さはほとんどが海斗を軽く上回るスピードを持っていた。そのため一気に詰め寄られる海斗。だが海斗には助けてくれる仲間がいた。
「もうだめだー!?」
「バウバウ!」
ぱく ひょい
突如として宙を舞いなにかに着地する海斗。それは大きくなったジョンだった。
「ジョン!」
「バウバウ!」
ジョンの脚は決して魔物たちに負けておらず海斗を乗せて逃げ回る。
「よ~し!これだったら!ジョンはそのまま逃げててくれ!俺がここから魔物たちに攻撃を当て続ける!頑張ってくれよジョン!」
「バウバウバウ!バウバウ!」
こうして海斗はジョンの手を借りて反撃に移る。
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