婚約破棄? どうぞしてみなさい?
朝八時。
今日も魔法披露会と社交の場が一日に渡ってあるから、もう起きているべき時間。さらに言えば、髪だってとかしていてもいいころね。
けれど現実は、布団の中にいるのだった。ちなみに、私の婚約者であるイリールも。
寝ぼけている私はイリールをけとばした。
「いたいなあ!」
イリールって欠点がないくせにとてつもない欠点がある。
というのも……寝起きにめちゃくちゃ機嫌が悪い。
そして私は……寝起きになるとめちゃくちゃ強気になる。
で、朝によくケンカするわけね私たち。
「イリール。あなたベッドの半分よりこっちに来てるでしょ。だから蹴飛ばされるのよ」
「おいおい、君が昨日僕を抱き寄せて離さなかったからだろう?」
「は? そんなことしてませんが? あなたがいくら好きでも、お布団の方がいいに決まってるでしょ。そんな筋肉質な体よりも柔らかいしね!」
私はお布団をつかんであおむけになり、目を閉じた。まだお布団の中にいてやるんだから。
「ちょっと待つんだ。なぜ僕から布団を奪う? 全然全身が入れてないぞ」
不機嫌でもお布団に入れずすねてるくらいで済んでるイリールって、普段はかなりの人格者なのよ。だが、今は関係ない!
なぜなら私はギリギリまで快適に寝るから。そうでなくてはならないという強い気持ちと強気で向かっていく姿勢が寝起きの私にはある!
「知らないわね」
「なんだと? 俺の腕は寒い空気にさらされているぞ。睡眠の質が落ちるのだが、どうしてくれるんだ?」
「あなたが筋トレしすぎたのよ、イリール。もっとスリムになりなさい」
「無茶ぶりだ。ああ、もうやってられない」
イリールはなんと、私から布団を奪った! 信じられない図々しさよ!
私は布団を取り返すために、イリールの方へ寄った。そしたらさ、イリールが足で私をぐいぐい押し返すの! まあさっき私もやったけど。
ぐぬぬぬぬ。
「えいっ」
私は布団を強奪しかえした。そしてそのまま、ミノムシに変身。布団の一部を身体で踏んで、奪われないようにする。
「な、何をしている?」
「ふふふ。甘いのよ。そろそろ起きたらどうかしら? 私はギリギリまで寝ますけども」
「もう毎朝この争いをするのはごめんだ。婚約破棄してやる!」
「どうぞしてみなさい?」
「く、くそ、朝方だけ強気だな君は…」
「いい加減に起きてください二人とも!!!」
こ、この声はメイドのミカ……!
「二人とも。今日は予定が詰まっていることをご存じですよね? それなのにどうしてイチャイチャしてるんです?」
「イチャイチャはしてないわよ。それどころか今婚約破棄されそうになってたわよ私」
「はいはい。で? いますぐ準備はするつもりあるんでしょうね?」
ミカは城内一の健康志向な人物で、よりによって私のお世話をしてくれるメイドなのである。
そして、私もイリールも、朝は彼女に絶対に逆らえない。
ミカは朝五時にラジオ体操とやらの謎の動きを行った後、既に多くのことを済ませて、私たちをたたき起こしに来る。
余りにも有能すぎて、非の打ち所がないのだ。
「もちろん今から準備するわよ。イリールもいい加減起きなさい」
「やだ。意地悪するからもっと寝ることにした」
「あんたねえ……私の方から婚約廃棄するわよ?」
「イリール様。強硬手段に出ますがよろしいですね?」
「わ、悪かったよ今起きる」
慌てて体を起こすイリール。ちなみにミカの強硬手段とは、イリールをお姫様抱っこしてベッドの外に連れ出すことだ。ミカ、実はイリールでも敵わないくらいの怪力らしい。
「さて、今日も素晴らしい一日だ」
いざ起きるとまともっぽいことを言い出すイリール。
「今日も本当に美しいね」
と言って、まだ髪がぼさぼさの私をほめるから、ケンカはこれでおしまい。また次の日の朝に持ち越しね。
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