最強は?
……ひ、ひどい目に遭った。
なんで、俺がこんな目に……あのクソ親父めぇぇ。
俺は体力の限界で、噴水広場のど真ん中で大の字になる。
「ゼェ、ゼェ……クソ親父が」
「ほほう? まだ意識があるのか? ……アレクよ、何かあったかのう?」
「な、何が……?」
「いや、お主の剣の腕と体の使い方が劇的に変わった。儂がいない間に、どんだ特訓をしたのだ?」
「そ、そんなの……してねえよ。俺はいつも通りに、ダラダラしてただけだし」
だが、心当たりはある。
前世の俺は、長年剣道をやっていた。
おそらく、その記憶が蘇ったことで体の使い方が変わったのだろう。
剣道の型である五行は、先達の方々のおかげで完成されている。
それを効率的に学んだ俺は、この世界において剣の腕が上がったかもしれない。
「ふむふむ……これは儂の目が曇っていたかのう。まさか、息子の力を量りちがえるとは」
「な、何を言ってるんだ?」
「いや、答えなくとも良い。やれやれ、儂も耄碌したものだ……すまんな、アレクよ」
「だから意味がわからないって……」
「とにかく、今日はこれで勘弁してやる。さあ、可愛い娘が待つ家に帰るぞ」
そう言い、軽快なな動きで俺を置いて歩き出す。
いやいや、どんなバケモンだよ。
国境から帰ってきて、俺と追いかけっこして……まだまだ元気だ。
還暦を迎えたとはいえ、これが英雄シグルドか。
確か、竜人族と獣人族の最強戦士に勝ったとか……そのおかげで戦争を回避できたらしい。
「あの〜ここにも一歩も動けない可愛い息子がいるんですが?」
「知らん。男は自分でなんとかしろ」
「ぐぬぬっ……」
「では、儂は家に帰る。まったく、お前のせいでマリアに会うのが遅くなったわい……マリアよ! お父さんは帰るぞ!」
そう言い、今度こそ俺を置いて歩いていく。
すると、周りの人々が何事もなかったかのように元に戻る。
そんな中、カエラがひょっこり現れる。
「あらー、随分とやられましたね?」
「は、薄情者めぇ……」
「いやいや、アレに立ち入るのは無理ですって。というか、私が助けに入ったら火に油を注ぐようなものですし」
「まあ、そうだけど。おなごに手を借りるとは何事だとか言いそう」
「ふふ、絶対そうですよ。さあ、私達も帰りましょ? 今なら手を貸しますから」
「……へいへい」
カエラに引っ張られ、身体を起き上がらせる。
全身がだるく、絶対に明日は酷いことになりそう。
「いやぁー、相変わらずでしたね」
「全くだ、アレで還暦を過ぎてるっていうのが恐ろしい。一体、いつまで元気なんだか」
「ふふ、良いじゃないですか。旦那様がいると、お嬢様も喜びますから」
「それもあるが……お前もだろ?」
「まあ、そうですねー」
さっきから分かりやすく上機嫌だ。
当然の話で、実際にカエラの命を救ったのは親父だ。
その親父の息子だから、俺に仕えてるに過ぎない。
無論、家族だとは思ってくれてるだろうけど。
「お前は親父が好きだからなー」
「……もう、本当に馬鹿なんですね。それとこれとは話が違うのに」
「はい? 何がだ?」
「いえいえ、何でもないですよー。旦那様には、もっとしごいてもらわないといけませんね」
「なぜそうなった!?」
「ふふ、それは自分の心に聞いてくださいね」
「ぐぬぬ、訳がわからん……」
「いいから帰りましょー」
その後、カエラに肩を貸しもらい帰宅すると……。
そこには、でかい身体を縮こまらせ、ちょこんと正座をした親父がいた。
その目の前には、マリアがいる。
「お父様! 帰ってきて早々何事ですの! お兄様は、昨日頑張ったからお疲れだったのに!」
「し、しかしなぁ……あやつが……」
「メルルさんとは、私が遊んでもらったんです! お兄様は、それに付き合ってくれただけですの」
「そ、そうだったのか……だが、あやつはそんなこと一言も言っとらん」
「いつも、話を聞かないからですわ! どうせ、問答無用で斬りかかったのでしょう?」
「うっ、確かに……す、すまんのう」
はい、目の前にいるのが英雄シグルドさんです。
世界大戦に発展しそうなところを、竜人と獣人の各代表と一騎打ちをして勝ち、戦いを収めた英雄ですねー。
肉体で劣る人族が勝つのは異常で、歴代最強の人族と呼ばれてるいるとか。
ただ、娘の前では……ただの弱々しい親父です。
「へへーん! そうだそうだっ!」
「何をぉぉ! お仕置きが足りないようじゃな!」
「い、妹よ! たすけてぇぇ!」
「貴様! 妹に助けを求めるとは何事かっ!」
すると、俺と親父の間にカエラが割って入る。
その顔は珍しい焦った感じだ。
「カエラ! やはり主人を助けてくれるんだね!」
「むむっ……カエラよ、そこを退くがよい。儂は、こやつに鉄拳制裁をくわえねばならん」
「い、いえ……お二人共、その辺にしといた方がいいかと。その……お嬢様が」
「「ん??」」
その言葉に、俺と親父が同時にマリアを見ると、マリアは下を向いてプルプルしていた。
そして、顔をあげると……怒りに染まっていた。
「お兄様! お父様! 二人共正座ですの!」
「「は、はいっ!!」」
俺と親父は一斉に並んで正座の態勢に入る!
……最強は、どうやら妹らしい——これは世界共通かもね!




