襲撃?
メルルと遊んだ次の日の朝、今度こそ俺は二度寝して惰眠を貪る。
昨日は早起きしちゃったし、色々とあって疲れた。
外に買い物行ったり、家に帰ってからはマリアがはしゃいだり。
まあ、楽しそうだったから良いんだけどね。
ただ、今日くらいはのんびりしたいところである。
「ふぁ……二度寝最高……お布団の中には幸せが詰まっている」
「ご主人様、まだ寝てるのですか?」
「カエラか……まだお昼の時間には早くない?」
「お昼まで寝るつもりですか? まあ、昨日は頑張りましたからいいでしょう」
「そうそう、たまにはダラダラしないと……ん?」
その時、何やら悪寒を感じた。
次の瞬間、ドタドタと音がする。
「……これは」
「私は失礼します!」
「ま、待て! 主人を置いて逃げるのか!?」
「はい! 私も命は惜しいので!」
「ええいっ! 死ねばもろともよっ!」
窓から逃げようとするカエラの下半身に抱きつき、なんとか引き留めようとする。
犠牲者は二人いた方がマシだっ!
「ちょっ!? ど、どこを触って……というか、どこに顔を埋めているんですか!?」
「イタっ!?」
「も、もう! こんな時に限って! ……あっ、それでは!」
俺をど突いた後、カエラが窓から出て行った。
くそっ、逃げられてしまったか。
しかし、思わずお尻に顔を埋めてしまったが……うむ、中々善き。
「全く、主人を置いて逃げ出すとは何事だ」
「本当に何事じゃろうなぁ……こんな時間まで寝てて、メイドの尻に顔を埋めているとは」
「……そのしがれた声は……」
「誰がしがれた声じゃ。全く、相変わらずだのう」
ギギギと壊れた機械のように俺が振り向くと……。
そこには筋肉隆々とした、逞しい偉丈夫が立っていた。
身長百八十センチ超えで、俺とは正反対の男らしい顔つき。
前の世界でいうと、長髪でロマンスグレーのイケオジって感じだ。
「こ、これは父上、早いお帰りで。どんなに急いでも、予定では夕方とお聞きしてましたが……」
「うむ、その予定じゃった。しかし、可愛い娘に会うために寝ずに走ってきたからのう」
そう言い、自前の豊かな髭を撫でる。
相変わらずの親バカ……いや、娘バカぶりだ。
うちの親父は遅くに結婚したから、もう還暦を迎えている。
故に、愛情もひとしきり強いのだろう……娘には。
「ば、化け物め……」
「むっ? 親に向かって化け物とはなんじゃ! これは久々に鍛錬が必要か!」
「やってられるかっ!」
すぐさま、カエラが出て行った窓から飛び降りる!
脚に気を送り、綺麗に着地したら門の方に向かって駆け出す!
「ほほう! 良い動きじゃ!」
「けげっ!?」
すぐ後ろにいて、俺を追ってきている!
しかも……すでに剣を構えてやがる!
「くははっ! ほれほれ!」
「ず、ずるい! こっちは寝起きで素手なのに!」
「ご主人様! これを!」
すると、先に降りていたカエラが鞘に入った剣をぶん投げてくる。
走りながら、それを空中でキャッチする。
「ありがとう! ただ、できれば助けて欲しいんだけど!?」
「ヨヨヨ、病弱な私にはとても……」
「どこが!? さっき窓から飛び降りたくせに!」
すると、後ろから剣気がほとばしる。
……あっ、まずいこと言っちゃた。
「貴様ぁぁぁ!! か弱気乙女に助けを求めるとは何事だ! そこに居直れい!」
「くっ!?」
後ろを振り返ると剣を抜いた親父がいたので、咄嗟に剣を抜いて合わせる。
そのまま重心を低くして受け流し、そこから思い切り打ち上げ相手を押しのける!
これが身長が低くても、でかい相手に打ち勝つ方法だ。
伊達に記憶は取り戻してねえぜ! ……死んだけど、あの世は見てないけどね!
これがわかったら、貴方は昭和生まれです!
「むっ!? ワシの一撃を押し返しただと?」
「ちっ! やってられるか!」
そのまま飛び上がり、壁の塀を乗り越えて街の中に出る。
当然、その後を親父が追ってくる。
「がははっ! やるではないかっ!」
「もう追ってこないでぇぇ! そもそも、なんで追っかけられてるの!? 俺が何をしたっていうんだ!」
「何をいうか! セレナ様に婚約解消されおって! それならまだしも、その次は留学生であるメルル殿をタラし込んでいるとか! ダラダラするのは良いが、女心を弄ぶのは許さん!」
「なんの話!?」
「都市に入る時に聞いたわ! 昨日の夕方、お主がメルル殿と仲良くデートしていたと!」
「……ご、誤解だっ!」
「問答無用!」
「話を聞けやクソジジイィィ!?」
そのまま都市の中を逃げ回っていると、噴水広場に到着する。
そこには屋台や休憩所があり、人々が談笑していた。
それらが一斉にこちらを向き、ニヤニヤし始める。
「あらあら、久々に見たわ」
「こりゃ、店じまいの準備をするかね」
「おっ! シグルド様だっ!」
「ふぅー! やれやれ!」
みんなが阿吽の呼吸で広場の真ん中に空間を作る。
そして、親父と剣をぶつけ合っているのを楽しそうに眺めている。
これは親父が帰ってくると恒例行事なので、皆がお祭りだとか思ってそう。
「ははっ! 楽しくなってきたわい!」
「楽しくないしっ! みんな! 見てないで止めてよぉ〜!!」
「「「「無理無理」」」」
「薄情者達めえぇぇ!!」
その後、俺は噴水広場にて親父にボコボコにされるのだった。
……どうしてこうなったァァァァ!




