第7話 まさかの邂逅
数日後――
シスターに案内され、クレオとリーベルは街の片隅にある教会にやってきた。
病気や怪我に苦しむ者たちの為の治療院も兼ねたこの教会は、いつも患者で混雑している。
しかしシスターの話では、最近は特に心を病む者が多いそうだ。
「見た目は健康に見えるので、通常の治療院では追い払われることが殆どなようで。
そうして行き場を失った人々が、ここにやってくるというわけです。
ご存じのとおり、ここは数々の呪いから守られた安寧の場所。それゆえ、少し休息をとれば回復するかたも多いですが、中には重大な病を抱えているかたも時々おられます」
「まぁ……こんなにたくさんの方々が」
シスターの言葉通り、聖堂の中でぐったりと倒れ伏している人々。
怪我こそないように見えるものの、どの者も目に生気がまるでない。
しかもそういった人々が聖堂のベンチを埋め尽くし、中には廊下に座りこんでいる者までいる。
リーベルもそんな光景に、渋い顔を隠せなかった。
「これ以上患者が増えれば、教会としても辛いだろう。世話ができるシスターの数とて、そう多くはないだろうに」
「それもありますが――
何より、ここですら救えない患者さんが出てくるのが、私どもには心苦しくて」
そんなシスターに、クレオは顔を上げた。
「それで、私の歌を……?」
「はい。クレオ様の歌は、今や街では大変な評判だとうかがいました。
その歌声を聞き情景を思い浮かべただけで、心が癒されたというお話を多く聞きます。
もしやこれは、心を病んだ方々にも効果があるのでは。そう考え、無礼を承知でクレオ様を頼った次第です。
勿論、それなりの報酬はお支払いさせていただきます。そこまで多くはありませんが」
――自分の歌が、人助けになる。人の命を救う。
ちょっと前までこっそり歌っていた歌が、たくさんの人に好かれるだけでなく、人の心や命を救えるなんて。
クレオは一にも二にもなく、首を縦に振っていた。
「そういうことでしたら、是非協力させてください!
この方々に私の歌が少しでもお役にたつなら、これほど嬉しいことはありません!!」
***
クレオが教会で歌い始めて、1か月。
彼女の歌によって回復する者も多かったが、その歌の評判を聞いたのか、訪れる患者もさらに増えた。
クレオは嬉しさのあまり、教会で患者たちの為に歌を歌い続けた。勿論、リーベルも一緒だ。
夜は自室で歌を書き、昼は人の為に歌う。
非常に忙しい日々となり、下宿屋の仕事は辞めざるをえなかったが、それでもクレオは幸福でいっぱいだった。
そもそも身を削るほど忙しい生活なら、ラオベンの屋敷で嫌というほど味わっている。あの地獄に比べたら、今はまさにこの世の天国だ。
だが、そんなある日のこと。
いつものように教会で歌っていたクレオのもとにやってきたのは――
一人の、みすぼらしい痩せこけた女。
「ど……どなたか、お水を……」
そう呟いて虚空に手を伸ばしながら、女は腹を押さえて聖堂の入り口で倒れこんでしまった。
慌てて駆けつけるクレオとシスターたち。
一瞬老婆かとクレオは思ったが、よくよく見るとまだ若い。肌は手入れもされておらず日に焼けてガサガサ、手も擦り傷だらけで汚れている。着ているものはボロ布に見えたが、元はメイド服だったようだ。
艶を失った髪は殆ど白髪のように見えたが、ほんのり桜色。
そしてその目を見た時、クレオは思わず叫んでしまった。
完全に生気を失っているが、その印象的な大きなエメラルドの瞳は――
「まさか……
フェアリーナ!?」