最終話 いつまでも君の歌を
あの運命の日から、1か月後。
ラオベンは婦女暴行、及び不敬罪により逮捕。そして王の厳命により遥か北方の流刑地へと送られ、その一生を強制労働に捧げることとなった。
当然、彼を生み出したストルブルム家も責任を追及された。父親たるストルブルム伯爵の必死の懇願により、取り潰し自体は免れたものの、領地の半分以上をごっそりと削られ――
ストルブルム家は、瞬く間にその権威を失っていった。
それだけではない。
リーベルや騎士団の調査が功を奏し、見えぬところで密かに虐げられていた令嬢たちが続々と救出された。主に家が没落し、政略結婚を強要されていた娘たちである。
クレオとフェアリーナの行動に感化された彼女たちは次々に立ち上がり、貴族の暴虐と傲慢を容赦なく暴き立てていった。
それにより、腐敗が進行していた貴族制も少しずつ改善の兆しを見せるようになった。
一方でフェアリーナは教会で手術を受け、手厚い治療により見事な回復を遂げた。
髪も肌もすっかり元の艶を取り戻し、大きなエメラルドの瞳には再び生気が宿った。
そして――
「フェアリーナ。
貴女は本当に、旅立ってしまうの?」
「えぇ。
クレオ。貴女が好きな歌を歌うように、私も好きなことをやろうと思って」
すっかり元気になったフェアリーナ。
彼女は最低限の荷物だけ持ち、クレオたちの元を去ろうとしていた。
晴れ渡った青空の下、教会の門でその旅立ちを見守るクレオとリーベル。
美しい桜色を取り戻した髪を風になびかせ、フェアリーナは微笑む。
「あの男の屋敷で何もかもを奪われて、初めて気づいたの。
私は華やかなドレスが、本当に好きだった。特にお母さまの着ていた、この空と同じ色の美しいドレスが」
「そう……
よく貴女も着ていたドレスね。本当に綺麗だったのに」
「お母さまの遺品を奪われたのは、今でも本当に悔しい――
だけど、振り返っても仕方ないもの。あのドレスに負けない服を、私も作ってみたいと思った。
いい、クレオ?
貴女の歌に負けないくらい、私の作ったドレスを人気にしてみせるわよ!」
そんな彼女につられるように、クレオも笑った。
互いに固く握手をした後――
「それじゃあね、クレオ。
私の作ったドレスを着た貴女が、素晴らしい歌を歌いあげる。その日を楽しみにしてなさい!」
そんな言葉を残し、フェアリーナは颯爽と旅立っていった。
残されたのは、クレオとリーベル。
クレオはほんの少し声を落としながら、呟く。
「本当に、これで良かったのでしょうか……
フェアリーナはお家に戻ることが許されたとはいえ、あのように一人で旅立ってしまって」
「彼女は君と同じく、今や人気者。腐った貴族に立ち向かった戦乙女だからな。
部下たちに密かに見張ってもらうつもりだし、それでなくとも今の彼女なら何とかするだろう」
リーベルはクレオを見つめつつ、不器用ながらもその細い肩に手を回す。
「それに――クレオ。君が心配するのもおかしな話だ。
何の保障もない状態で一人で旅立ったのは、まず君じゃなかったか」
「あ、あれは……!
そうしなければどうしようもない状況でしたし、それに――
リーベル様がいらっしゃらなければ、私とてどうなっていたか」
いつの間にか頬を赤くしているクレオ。
リーベルの群青の瞳が、まっすぐに自分を見つめているのが分かる。
「クレオ。君があの屋敷を脱出し自立出来たのは――
何より君の決断と、たゆまぬ努力と、夢を諦めなかった意志のおかげだ。
君の強い心で、フェアリーナ嬢も救われた。
私はその手助けをしたにすぎない」
朴訥だが、投げかけられるリーベルの言葉には間違いなく熱さがこめられている。
「……リーベル様。
貴方が騎士だと知った時は、ほんの少し動揺しました。
貴方が私のそばにいてくださった理由が、陛下のご命令によるものだったと知って――
でも、その後すぐ貴方は言って下さった。
私と出会えたことを……その、感謝していただけていると」
その後はクレオ自身、思い出せば思い出すほど顔が熱くなって言葉に出来ない。
心臓が高鳴りすぎてリーベルを直視できず、思わずうつむいてしまうクレオ。
そんな彼女の背中に、リーベルはゆっくりと片手を回した。
「クレオ。
私のあの時の言葉に、一切嘘偽りはない。
例え今の任務が終わろうと――
どうか君の歌を、ずっとそばで聴かせてほしい」
真摯な言葉と共に、クレオとリーベルの距離が縮まっていく。
クレオの頬が武骨な鎧に触れ、その奥の熱い鼓動を感じ取った。
自分だけではない。彼の心音も、跳ね上がっている。
やがて彼の両手はクレオの全身を抱きしめ――
彼女が心から待ち望んでいた言葉が、囁かれた。
「私と――結婚してくれ」
澄み切った青空に響く、鳥の声。
少し強めの風に、舞い散る花吹雪。
それはまるで、二人の門出を祝福するかのようだった。
もう、暗い未来に怯えることもない。
もう、歌を取り上げられることもない。
もう、理不尽に怒鳴られることも、無力さに泣くこともない。
私はこの人と一緒に、ずっと歩いていく。そんな人生を勝ち取ったのだから。
「嬉しいです――リーベル様。
私の歌を、ずっと飽きるまで……
いいえ、飽きてもずっとずっと、一生聴いてくださいね!!」
「勿論だ。
耳を斬り落とされても、私は君の歌を聴き続ける」
幸福のあまり、力いっぱい抱きしめあう二人。
周囲の人々がやんやと囃し立てて喝采する声すら、しばらく二人は気づかなかった。
Fin
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