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好きこそ物の上手なれ 〜音痴がバンドのボーカルに⁉︎〜  作者: しいらしゆう
第1章 素人バンド
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5話 告白未遂事件

 俺はとうとう、梨沙に告白することを心に決めた。この決断をするのにどれだけの時間がかかったと言うのか。出会ってから18年、好きになって15年、途方もない時間を要してしまった。


「直哉、森。ちょっと出てくる」

「おう。健闘を祈る」


 俺は荷物すらも置いたまま、居酒屋を勢いよく飛び出した。梨沙と別れて5分ほどだ。まだそう遠くへは行っていないはずだ。俺は彼女が向かった駅の方へと走り出した。その時の俺は何も考えていなかった、いや、何も考える余裕なんてなかった。ただこの足を先に進めることだけに集中していた。通りすがりの人や、居酒屋ののぼり、タクシーにも当たりそうになった。でも俺は止まることができない。そんな生半可な愛ではないんだ。


「梨沙!梨沙!」


 駅の改札前、ちょうど改札を通ろうとしていた彼女の腕を掴んだ。


「え、俊ちゃん?ど、どうしたの?」

「いや、あのね、はぁ、はぁ……」


 本気で走る機会なんて、普通の大学生にはほとんどない。久しぶりの猛ダッシュに息が上がって、もはや彼女をまともに見ることさえできない。


「じ、実はね、あの、伝えたいことがあるんだ」

「私に?」

「うん」


 俺は彼女の腕を引っ張り、少し目立たない壁側に彼女を引き寄せた。だが、勢い余って彼女の右耳のイヤホンが落ちてしまった。


「あ、ごめん!俺拾う……」

「触らないで!」


 俺がイヤホンを拾おうと腰をかがめた瞬間、彼女は突然大きな声でそう言った。俺はその声にビックリしてしまい、軽く尻餅をついてしまった。彼女のそんな声を、俺は初めて聞いた。


「大丈夫。大丈夫だから。私が拾う」

「あ、うん……」


 彼女はサッとそれを拾うと、右耳に戻した。どうも彼女の様子がおかしいと感じたのは、この時だった。


「で?なに?」

「……」


 俺は大きく息を吸い込んで、そして最後まで吐いた。なけなしの勇気を振り絞り、梨沙の目を見つめる。やはり彼女への思いは揺るがない。


「梨沙、俺は梨沙のことが……!」

「あ、ちょ、ちょっと待って!ちょっと待って!」


 彼女は大きな声で俺の言葉を無理やり遮った。俺は再び訪れた予想外の出来事に少し慌てて、言葉を詰まらせた。


「え、り、梨沙?ど、どうしたの?」

「そういえば私、用事があるんだった。早く行かなきゃ」

「でも大丈夫。時間は取らせないから。すぐに終わらせる」

「ごめん。本当にごめん。本当に急いでるから。ごめんね俊ちゃん」


 梨沙はそう言うと、そのまま改札へと足を向けた。


「ちょっと待ってよ梨沙!ほんの一瞬だから」


 俺は彼女の腕を掴んだ。


「俊ちゃん、ごめん」


 彼女はそう言って、俺の手を強引に振り払った。そして俺を置いてすぐに改札を通って行ってしまった。俺はその背中を追いかけることも出来ず、ただその場で立ち尽くしているだけだった。俺は梨沙にフラれるどころか、この思いを彼女に伝えることすらできなかったのだ。

 この感情を上手く言葉にすることはできない。彼女への好意は消化不良のまま残ったまま、自分の情けなさや不甲斐なさを噛み締めているのだ。


「……」


 俺はその場を離れた。そのまま直哉と森が待つ居酒屋へと引き返した。電車が線路を踏む音がお腹に刺さる感覚は、しばらく消えることはなかった。

小説を読んでいただいてありがとうございます!!


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