ジャスター・ジョーは写せない 吸血鬼とは別の意味で
ジョーと言えば?
「エースのジョー」古い映画が好きなシンディーは答えるだろう。主役よりも人気のあった名敵役だ。
「あしたのジョー」実は血の気の多いスピカならこちらだろう。70年代から続く男のバイブルだ。
「クラッシャー・ジョウ」SF好きのステッドは考える。日本産スぺオペ黎明期の名作だ。
おそらくは、どれとも違った斜め上のキャラクターが出てくるのでは?とステッドも察しはつけていた。
“始まりの街”アムレーハルクス。すべての冒険者たちの出発点だ。絶対安全領域の結界に守られた完全初心者対応の明るく安全な街。
しかし、中には例外的に暗く妖しく蠱惑的な裏町も存在していた。
そんな裏通りをシンディー、ステッド、スピカの三人は歩いていく。裏通りに相応しい暗黒街の住人を求めて。
「ここや」
『ジャスターズ・バー』と書かれたド派手なピエロの看板の店に、勝手知ったるとばかりにズカズカと入っていく。何度か来たことのあるスピカは平気な顔で、初めてのステッドは戸惑いながら後についていく。ふっと見つけた、看板の片隅に書かれた一文『ジャスタ~ズ・シンジケート本部 こちらです』に呆れながら。
「ジョーはいるかい?」
カウンターのバーテンダーに短く聞く。無言で奥の席を指す。
「やっぱ、みんな落ち込んでるのかな」
「らしいわね。いつもはもっと下品に騒いでるのに」
「よっ。よぉ。そっちも。久しぶりみんな。親分は奥か?いつもの席ね」
様々な種族が集うこの街で、中でも特に怪しい奴らが集まっているような薄暗い店の中、シンディーだけは陽気に親しげに皆に話しかけていく。対して客たちは力なく面倒くさそうに答えるのみ。
そんな中、一人のイケメンの前に立ち止まる
「ん?ん?、君こんな顔してたの?ブワッハッハッハ、オメデトウ。ウププ」
「おー解るか?相変わらず自分じゃ分からないけどな」
「スーちゃん、あの人は吸血鬼族」
「このゲームでは絶滅したんじゃ?」
「FFFF内であまりに不人気なんでプレイヤーキャラとしては廃止されたんだけど、ごく少数生き残ってた。てかせっかく育てたキャラなんで手放さなかった人が何人かいた」
「なにそれ?」
「つまりね、吸血鬼って色々と特徴と弱点があったやろ?」
「十字架とかニンニクに弱いとか、日光下は歩けないとか?」
「それから、鏡とかカメラに写らないとか、古い設定もあるんだけど」
「そうそう、それでモニターにもVRゴーグルにも写らなかったと(ぷぷぷ)」
「…何やその意味のない拘り」
「ギャグなのか、バグなのか」
「バグにしては大き過ぎ」
「大ブーイング・大ククレームで運営側も平謝りや」
シンディーもスピカも必死で笑いを堪えながら説明してくれる。
「そりゃ不人気にもなるわ!あっ?!前に透明人間に会ったけど、透明人間なんて種族いないし、そんな魔法も思い当たらんし、おかしいなぁって思ってたんや」
「そうかもな。それで、異世界転移でゲームが現実になったからやっとこさ肉眼で顔が見れるようになった…と。しかも、相変わらず鏡には写らないんで、今でも自分の顔が分からないだってさ、彼。ギャハハ」
「せっかくイケメンやのに気の毒ったい。プププ」
「笑いながら言っても気の毒がったへんやろ。てか、異世界転移してやっとこさ回収された伏線って…」
「元々ギャグRPGだったからね」
「??」
「知らんかった?FFFFは元々ギャグものとして企画されてたん。開発もまぁまぁ進んでたけど、親会社だかスポンサーだかの意向で、途中から普通のファンタジーRPGになった訳。
んで、普通のフリしてもそこかしこにギャグだった頃の名残が残ってて、それが狙って出来るものじゃない妙なバランスだって、カルトな人気がでて、今に至る…と」
「まぁね。まさか丸ごと異世界転移なんて夢にも思ってなかっただろうけどね」
「キャラの性別欄に男・女・男の娘ってちゃんとある時点でお察したいw」
そして、一番奥の席、玉座然としたそこにFFFF暗黒街の顔役、複数の冒険者パーティーと統括する冒険者クラン『ジャスターズ・シンジケート』の総帥、道化師ジョーがいた。
吸血鬼族とは違った意味で、写せない人物であった。
「なるほど、ジョーかぁ」