三人は会議をする ついでに女子力を鍛える
「取っとぉと」
「?」
「え~っと『この席はキープしています』ですか?」
「女の子らしく以前に、標準語を覚えなきゃ…」
福岡県人はやたらと『トット トット』言う。もしくは『タイ タイ』と。
そして、三重県人は魚が大好きである(ん?)。
「腹へったぁ。じゃなくてお腹が空いたぁ…だね。魚食いたい…お魚食べたい鯛食べたい」
人目の多い所では女の子らしくする。そのため重戦士ステッド(中の人は女)の監督の元、特訓が始めていた。
ここは冒険者の宿。入ってすぐの巨大なロビー兼食堂はすでに数百人の冒険者たちで一杯になっていた。情報の収集と交換、とりあえず習慣で来た者、泣く者、笑う者、怒る者で混沌としていた。
とにかく、何とか席に着くと会議を始める。
まずステータス・ボードを見せ合う(許可がないと他人には見えない仕様になっている)。
「現実世界との一番の違いは…フレンドリストの大半が消えてる所かな。それ以外は特に変わった所はないわね」
「そのリストもキャラのレベル的には上だけど、プレーヤーの実力的には微妙な人よね…自分も含めて。まぁ全員を把握してる訳じゃないけど」
「そー言えば、前回のイベント。成績はどうだった?」
「前回?細かい順位は忘れたけどAクラス、つまり上位3%未満20%以上。ここ最近のは全部それくらいやなぁ」
「私は仕事が忙しくてサボり気味で。ここ数回がBクラスキープがやっとたい…です。20未満50以上だっけ?」
「他の人にも聞いてみるか?」
「ん?それなら…(ゴニョゴニョ)」
ステッドはシンディーになにやら耳打ちする。
「えー、そんな事するの?」
「ハイハイ、特訓や特訓。男らしく戦って来ない」
「…戦いかぁ」
シンディーは密かに覚悟を決めた。
人生で最も戦っていたのは、学生時代の現役の剣道部員だったころだ。十分な距離を保ち、徐々に詰めていく。手の動き足の運びに目を配り、竹刀同士を合わせそこから伝わる振動で相手を読む。相手の目の動きから意図を読み、呼吸からタイミングを知る。逆にこちらは目の動きを読ませないよう、一点を見ず、「遠くの山をみるが如く」全体をぼんやりと把握する。これを『遠山の目付』と言う。呼吸は腹式呼吸。肩で息をするのは攻撃のタイミング、つまり隙を教えるも同然だ。
「すいません。すみませーん」
喧噪の中、女だからこそ許される聞こえるか聞こえないかギリギリの声で呼びかける。アリバイをつくって一気に距離をつめる。
「すみませーーん」ツンツン
「は、はい?!」
「お隣のお兄さん達。私たちと情報交換しませんか?」
隣のテーブルの男のみのグループの一人に、不自然ではない形で小さく、しかし確実にボディータッチをする。目の動きから意図を読ませないように目を細めて、呼吸を読ませないよう口角を上げる。微笑んで見えたなら心の壁も低くなるだろう。
『一足一刀の間合い』つまり、もう一歩踏み込めば刀が届く距離、そこから先はどちらかが骸をさらす事となる領域に、元剣道部員に備わった本能的な忌避感を押し殺し入っていく。
しっかりと相手の目を見ると、顔を真っ赤にして目を逸らされた。
「私はシンディー。シンディー・マーチンです。お名前教えてもらっていいですか?」
礼儀として名乗り、明日まで覚えている自信はないけど一応聞いておく。向こうでスピカは同じような表情で手をふり、ステッドは離れ気味にメモをとっていた。
対価はスマイルで拍子抜けするくらい簡単に話は進んだ。中には聞いてもいない個人情報まで教えてくれる者までいる。
いつの間にかスピカも近づいて来て、二人してランチを奢ってもらっていた。ステッドはあくまで後ろに控えてメモをとっている。
「はい、お疲れさん」
「スーちゃんの言う通りやってみたけど、あれで良かったの?」
「OKOK。初めてにしちゃ上出来以上だよ。やっぱ美人は得だね。ヨッ!去年の朝ドラ女優!!」
「うまくいった事より、情けない気分の方が上にいって落ち込んでんだけど」
「ちゃんと情報は交換したでしょ。一方的に情報を搾取した訳じゃなし…個人情報は一切教えなかったけど…」
「…スーちゃんって、俺のいない所でこんな事してるの?」
スーちゃんは笑顔を張り付けたまま、明後日の方向を向いてしまった。
忘れんうちに投稿しとこうって奴がおるで
「おぉ!そらワシや」でした