複雑に入り組んだ現代社会に
♪ チャンカチャンカチャンカ
「何これ?」
シンディーたち三人組が日課のラジオ体操を終え、朝食を求めてやって来た冒険者の宿で待ち受けていたのは、ラジオ体操以上に騒がしい音楽だった。
「冒険者たちの公民館…じゃなくて冒険者の宿の今日のカルチャー教室は…『お貴族さまと会うための礼儀作法教室』…ふーん」
だんだん死んだ魚の目になっていく。
「まぁ、お貴族さまと言えばダンス・パーティーだよね」
「ドレミファソラシドのうち『レ』と『ラ』を抜いた音階は珍しいね」
「流石は巨大姉兄さま。ピアノの弾ける理系ジョ」
「向こうに楽団がいるから、それ以外は音を出さないよね」
ピュイアピュイピュイ
「…指笛が鳴ってるけど、お貴族さまは掛け声なんかは…」
イ―ヤ―サーサー
「…出してるけど…あの楽団の人たちはバイオリンかな?」
「バイオリンは四弦だけど、あれは一本足りない三弦だね。蛇の皮で出来てるし、弓じゃなくて水牛の角で弾いてるね。…って事は、あれは違うね」
「流石は巨大姉兄さま。音楽にも詳しい」
全てのセリフが棒読みである。すっとぼけ続けるのにも疲れてきたのか、そろそろ決定的なセリフを吐く。
「ここ、琉球王国だったっけ?」
「いや、中世ヨーロッパ風世界」
「んで、結局どーしてこうなった?だいたい察しはつくけど」
「淑女の礼と沖縄舞踊を間違えてる。ワザと」
「…」
「……」
「………」
「「「 しょーもなー!!! 」」」
三人の声が見事にユニゾンする。
「誰や。しょーもない事始めた奴は」
犯人は、踊りながら三線を弾きまくっている意外な人物であった。
「ハイサイ、シンディー。待ってたさー」
「え?!お前、透明ヴァンパイア!」
※※※※※
「それにしても、何だよこの騒ぎは?まさか【魅了】で操ったのか?」
「そんな事しないさー(ベンベン)みんなノリがいいだけさー(ベンベン)」
異世界転移の条件って、頭の軽さ…シンディーには否定しきれなかった。
「君がお貴族さまだったとはね」
「バーガー伯爵。キャラメイクのガチャが大当たりだっただけさー。(ベンベン)ファーストネームのヌーヤルって呼んでも構わんさー(ベンベン)」
「にしても沖縄人がヴァンパイアとはね。凄い取り合わせよね」
「そんな事ないさー。沖縄人と吸血鬼は共通点があるさー」
「「「 どこがだよ! 」」」
「まず、日光に弱いさー。俺なんか特に肌が弱いから、すぐに真っ赤になって、火ぶくれも起こすさー。沖縄人みんな夏でも半袖着ずに長袖さー。海にも行かず水着も着ないさー。そんなの観光客だけさー」
「そうなん?そんなもんなん?」
「いやー目から鱗ったい」
「それ、日光に弱いんじゃなくて、日光が強過ぎるんじゃ」
「昼寝が多いのも一緒さー(ベンベン)」
「あーごめん。落ち着かないから三線やめて」
「ん?あぁ」
ストラップを外すと脇に置く。
「で、君たちが調査隊を結成したと聞いてね。依頼があるんだ」
「こいつ、三線離したとたん標準語になったぞ」
「久しぶりに三線を弾いたからね。沖縄言葉が戻って来たんだよ」
「調査隊じゃなくて狂茶隊なんだけど…まぁいいか」
「詳しい話は後で、先にマナー教室を済ませてくるよ」
「そっちも本当にやってるんだ」
「少しの間待っていてくれたまえ。おーいそこの君。このテーブルにお茶とお菓子を。請求書はバーガー伯爵家に」
「ついでに朝飯も…」
ガッ!!
シンディーはテーブルの下で思いっきりステッドに蹴られていた。
「…そっちもそのように」




