表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロスト=ストーリーは斯く綴れり  作者: 馬面
ウェンブリー編
75/417

第5章:乖離(1)

 ――――別れは唐突に訪れた。

「ねえ、起きてる?」

 少年の声に、応えが返って来ない。

 どれ程大声で叫んでも、元気を分けて貰えるような、あの明瞭な声は全く返って来ない。

 初めはふざけているのだろうと思い、拙い知識をフル稼働させて、声を引き出そうと試みた。

 しかし結果は変わらなかった。

 声が消えたその日から、少年は寝るのが怖くなった。

 夢を見るのが怖くなった。

 少年の夢。

 ストライプ模様の闇を眺める毎日から抜け出し、光の射す白い世界へ旅立つ――――それは、目的へと昇華した筈の、形なき幻想。

 それが、日に日に薄れて行く。

 怖かった。

 まるで、始めてこの場所に来た時のような感覚が、少年の呼吸器を締め付ける。

 忘れた筈の苦しみが襲ってくる。

 自分を蝕む魔術も徐々に身体と脳に浸透し、日課である激痛との付き合い方も覚え、感覚的ではあるが――――生きる事に可能性を見出せるようになった。

 当時より遥かに楽な就寝の筈だった。

 しかし、同じ場所で同じ志で頑張ってくれたあの声は、もうない。

 重ねた時間が空虚で無意味ではないと実感出来るあの声は、もう届かない。

 憧憬は遠くへと消え去った。

「ねえ! ねえっ!」

 少年は吼えた。

 叫んだ。

 力の限り、訴えた。

 自分を救ってくれた声の在り処を知る為に。

 しかし、奴隷に声などはなかった。

 奴隷の発するそれは、唯の音でしかない。

 それに耳を傾ける人間も、そこにはいなかった。

 少年は、再び独りになった。

 皮肉にも、それから暫くして――――少年の夢は、叶った。

 何処までも広がる蒼い空は、弱った視力を癒してくれた。

 澄んだ空気は、瀕死だった細胞を蘇らせてくれた。

 それなのに、誰も祝福してはくれない。

 外は戦場だった。

 少年は、戦わなくてはならなかった。

 敵を粉砕する為の使い捨ての武器として、その身を利用される事になった。

 少年は、死ななくてはならなかった。

 何処までも広がる紅い空は、血の色を滲ませていた。

 淀んだ空気は、夢を腐らせた。

 それなのに、誰も勇気付けてはくれない。



 外は――――戦場だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ