第5章:乖離(1)
――――別れは唐突に訪れた。
「ねえ、起きてる?」
少年の声に、応えが返って来ない。
どれ程大声で叫んでも、元気を分けて貰えるような、あの明瞭な声は全く返って来ない。
初めはふざけているのだろうと思い、拙い知識をフル稼働させて、声を引き出そうと試みた。
しかし結果は変わらなかった。
声が消えたその日から、少年は寝るのが怖くなった。
夢を見るのが怖くなった。
少年の夢。
ストライプ模様の闇を眺める毎日から抜け出し、光の射す白い世界へ旅立つ――――それは、目的へと昇華した筈の、形なき幻想。
それが、日に日に薄れて行く。
怖かった。
まるで、始めてこの場所に来た時のような感覚が、少年の呼吸器を締め付ける。
忘れた筈の苦しみが襲ってくる。
自分を蝕む魔術も徐々に身体と脳に浸透し、日課である激痛との付き合い方も覚え、感覚的ではあるが――――生きる事に可能性を見出せるようになった。
当時より遥かに楽な就寝の筈だった。
しかし、同じ場所で同じ志で頑張ってくれたあの声は、もうない。
重ねた時間が空虚で無意味ではないと実感出来るあの声は、もう届かない。
憧憬は遠くへと消え去った。
「ねえ! ねえっ!」
少年は吼えた。
叫んだ。
力の限り、訴えた。
自分を救ってくれた声の在り処を知る為に。
しかし、奴隷に声などはなかった。
奴隷の発するそれは、唯の音でしかない。
それに耳を傾ける人間も、そこにはいなかった。
少年は、再び独りになった。
皮肉にも、それから暫くして――――少年の夢は、叶った。
何処までも広がる蒼い空は、弱った視力を癒してくれた。
澄んだ空気は、瀕死だった細胞を蘇らせてくれた。
それなのに、誰も祝福してはくれない。
外は戦場だった。
少年は、戦わなくてはならなかった。
敵を粉砕する為の使い捨ての武器として、その身を利用される事になった。
少年は、死ななくてはならなかった。
何処までも広がる紅い空は、血の色を滲ませていた。
淀んだ空気は、夢を腐らせた。
それなのに、誰も勇気付けてはくれない。
外は――――戦場だった。




