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ロスト=ストーリーは斯く綴れり  作者: 馬面
ウェンブリー編
132/383

第7章:革命児と魔術士の王(1)

 少年は揺蕩う。

 波間に浮かぶ、小舟のように。


 ゆらゆらと。

 ゆらゆらと。


 凪の日も。

 時化の日も。

 希望の朝も。

 嵐の夜も。

 夢は固定され、そこを動かないと言うのに、自分は常に揺れ動く。

 過去と未来の狭間で、ただただ現実に翻弄されながら、少年は日々を過ごしていた。



 戦争終結から、数ヶ月が経ち――――少年は相も変わらず、酒場で働いていた。

 子供とは言え、立派な店員。

 掃除、洗い物、接客、そして用心棒。

 あらゆる仕事を任された。


 そして、あらゆる失敗を経験した。


 奴隷として長らく扱われ、その次に待っていたのは特攻役。

 まともな社会で生活した事のない少年には、常識と日常経験が圧倒的に不足していた。

 それでも、日々それらと触れ合い、寄り添う事で、徐々に補われて行く。

 アウロス=エルガーデンを魔術士にする為には、必要なもの。

 酒場での日々は、少年にその資格を身に付けさせた。 



 そんなある日のこと。

 酒場に、一人の男が現れた。

 常連客とは異なる、初顔のその男は、旅人特有の薄汚れた格好と、伸びきった髪と髭がだらしなく顔を埋め尽くす容姿を携え、客席の一角に腰掛けた。

 それは、酒場である以上、決して珍しくはない情景。


 だから少年は、その男に近付く。


 注文を取る為に。

 いつもの事だった。

「……坊主、魔術士を目指してるのか。良い魔具を持ってるじゃないか」

 にも拘らず。

 男は開口一番、注文以外の言葉を投げかけた。

 石のように無骨な言葉を。

 まだ誰にも話していない、少年の胸に秘められた夢は、その石によって波を打つ。

「だったら、俺の顔を覚えておけ。損はしない筈だ」


 ゆらゆらと。

 ゆらゆらと。


 揺蕩う少年の記憶は、その男の姿を忘却の彼方へと流す事になる。

 一放浪者の、たわいのない戯言。

 当然、この後に起こる様々な出来事に追い出され、消え行く運命。

 それなのに。


 少年は、その影を。


 目でも。

 頭でもなく。

 心ですらなく。


 未来に残した。



「俺は、後に――――」


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