「聞こえてんだよぉ!!」
皆様どうもこんにちは、偽物劇場の館長でございます。
目の前には、あからさまに不機嫌なアレンくん。なに、どうしたの。
「どったのアレンくん。ご機嫌ナナメね」
「いや?あの二人、ご主人の扱いが雑じゃないですか」
「あの二人?…あぁ、ルリとリリ?」
「はい。ご主人はこの劇場の館長、代表者じゃないですか。なんであんな扱いで許すんですか、上司にあんな扱いが許されるのは創作物の中だけですよ」
「ここ創作物の中なんだよなぁ」
私がそう苦笑すると、アレンくんは「そうですけどぉ」とまたしかめっ面。
「そもそも、私は『館長』であるけど『上司』のつもりはないよ。私…最近だとアレンくんにもだけど、そこにしか突っかからないし、ただのキャラ付けだしあれ」
「ただのキャラ付けで許される範囲ですか、あれが?」
「少なくとも夫婦皿を割った君にマシンガンとか大砲とか、戦車とか出さないあたりまだマシ」
「…そういや、過去にここで寝泊まりしてた友人を『大切にしていたコップを割られたから』で蹴り飛ばして追い出してましたね、あなた」
「あれは『綺麗なものって壊したくなりません?』とか言い出して反省の色を見せなかったあの人が悪いから……話が逸れたね、で、えっと…なんだっけ?」
「ルリとリリです」
「あぁうん」
そうだった。なんか、私あれだな、話が逸れていくクセがある気がするな。
「さっきも言ったとおり、あれはあくまでキャラ付けだよ。本人たちの根底に『ずっと子どもでいたかった』ってのがあるから」
「ずっと子どもで…?」
「中身ちゃんと大人だからね、あの二人。しかもカップルとか夫婦にしてはずっとウブで純粋。見てみる?」
「え?」
* * *
「ルリ、お茶が入りましたよ」
「ありがとうございます、リリ」
「お茶請けはお煎餅でよかったですか?」
「はい、ありがとうございます」
「お熱いので気をつけて」
「どうも」
(!!? !!!、!?!?)
(だから言ってんじゃん、素の二人はあんなもんだよ)
指先を震えさせながら、ガクガクと驚愕の表情を見せるアレンくんに思わず声を出して笑いそうになってしまう。いやマジで、じわじわくるからやめてその顔。
(日本の古き良き家屋の縁側が見えるようだわ〜、おしどり夫婦とはこのことだね)
(いやッ、その、え!?あれ同一人物ですか!?)
(言わんとせんことはわかるけど、語弊があるから少し落ち着こうね。それだとルリとリリが同一人物になっちゃうから)
「とても美味しいです、ありがとうございます」
「いいえ、お口にあったなら何よりです」
アレンくんが面白いことになっている奥で、ルリとリリは湯呑みに口をつけて一息。ほう、と息を吐き出して微笑む。
「…本当に、良いところですね、ここは」
「…えぇ、良質な茶葉を遠慮なく使って美味しいお茶を飲めますし、お肉もお魚も、お塩もお砂糖もたくさん食べられる。ふかふかの布団に包まれて、警報に怯えることもなく朝までぐっすりと眠れる日々。戦線に向かっていない私ですら、極楽のように思えます。貴方様なら…きっと余計に」
「そうですね…かつての友もここに来られないかと何度も考えましたが——私がいて、貴女がいる。それだけでも感謝すべき贅沢なのでしょう」
(『私』!??『私』って言ってますよ、あのルリが!!!!)
(だからアレはキャラ付けなんだってば)
一応読者の皆様方に補足しておきますと、普段はルリもリリも一人称は『ボク』です。
「偽物劇場——世界を、物語を創造した者が作り上げた、物語を管理する『偽物』たちの居場所。まさか温情で居座ることを許してくださるとは…」
「俺も貴女も、物語には一切、見向きもしていませんからね」
(え、そうなんですか?)
(うん、そうよ。だから君が物語の世界観とか知らなくてもなんにも言わないの、前例いるから)
(それは…すいません。精進します)
「あぁ、それと——」
そう言ってルリは立ち上がって…え?ん?
あ、まずい。
「聞こえてんだよぉ!!さっきから全部全部!!!!」
「ぶへっ!!?」
あら〜顔面ストレート。
私は屈んで避けたけど、アレンくんはルリが投げたお盆がクリーンヒット。しかも鼻に当たる位置で縦に。あれは痛い。