08
「終わったね、綺麗だった」
「だな、花火ってなんかぼけーっと眺めちゃうよな」
「うん、みんな空を見てね」
できるだけ高くて人のいないところを選んだからそれが近かった。
家族とかと見るのは大変落ち着く、だって言葉はいらないからだ。
「帰るか」
「ううん、まだいたい」
「いたいって……これで終わりだぞ?」
あまり遅くなると鬼の母さんに怒られてしまう。
父さんにはプロレス技をかけられるかもしれない。
俺にも優しいがなにより乙姫を大切にしているために選択は慎重にしなければ。
「いいじゃん、どうせもう遅いんだし」
「いや、瀬戸先輩達を送らないと」
「いいよっ、俊明がいるじゃん」
「……じゃあ連絡してくれよ、さすがになにも言わずにはできない」
「分かったっ」
そんなに必死になって連絡してまで残りたいのか。
確かに余韻を味わっていたいという気持ちは分かる。
帰っている途中に思う、少しだけ寂しいなっていつも。
とはいえ、これ以前に祭りに来たのは小学生の時が最後だが。
「うん、ごめんね、それじゃあ……よし、ちゃんと言っておいたよ」
「で? 残ってどうするんだ?」
「ベンチに座ろうよ、まだいたいだけなんだ」
「そうか、なら座るか」
少しだけ高い場所だからキラキラした街がよく見える。
ここには他に誰もいない、恐らくほとんど来ないような場所。
それこそ過去に来た時、見つけた場所でもあった。
あの時も確かこうして乙姫とふたりきりで話をしていた。
「まさか鞠が俊明のことを好きだとは思わなかったけど」
「俺も驚いた。なにより気になったのはそれでも尚、ふたりが仲がいい兄妹だということだがな」
「兄的には妹が実の兄を好きになるのはおかしいと思う?」
「んー、好きになってしまったのならしょうがないんじゃないのか? ただし、振り向かせるのは普通の恋愛より大変だろうけどな。もちろん、そのあとのことだってそうだろ? 両親を説得しなきゃいけないしな」
仮にもし俺が乙姫のことを好きだとして、あの鬼母と鬼父が納得するだろうか。
その返答がどうであれ、まず間違いなく嫌いな食べ物を沢山食べさせられると思う。
風呂に突撃してきたり、夜遅くまで付き合わされたり、精神的に疲れるのは確かなこと。
ただ、虐待のような絶対にしないと言える。両親は酷い人達なんかじゃないから。
「あたし、もう言うよ。俊明のことそういう目で見られないって」
「鞠のためか?」
「あと俊明のため。だって苦しいでしょ? 夏休み終わりまで待つのなんて」
「だったら直接言ってやれよ? 電話とかはやめてやってくれ」
「分かってるよ、そういうところはちゃんとしておかないとあたしが嫌だから」
昔のことを考えたらかなりの進歩だ。
俺が代弁してやらなきゃ自分ではなんもできなかったのにな。
「兄、紗弥花のことどう思ってるの?」
「瀬戸先輩か? 普通に先輩だと思っているけど」
「でも紗弥花はさ、兄のこと気にしてる……でしょ?」
「仮にそうだとしても、意見は変わらないぞ。あの人は先輩、ただそれだけだ」
もちろんいいところは沢山ある、俺に話しかけてきてくれることとか。
でもこちらからすればそれぐらいしかない、向こうはどうか知らないからこうとしか言えない。
「……あたしが俊明と付き合い始めたって報告した時、どうだった?」
「試すためにしたのか?」
「ち、違うっ、そんなつもりないよ……」
「そうか。そうだな、正直に言って残念だったよ。俺が言いにくくしたのかもしれないけどさ、ちょっとぐらい言ってくれててもいいだろって思った。俺が本当に応援できないみみっちい人間だって乙姫は考えていたってことだろ?」
まあそもそもだったら発言すんなって話だがな。
だけど信用されていないみたいで嫌だった、真面目に本当に。
「違うの……海から帰った後に俊明に頼んだの、付き合ってって。捨てたかった気持ちがあったから……最低なのは分かっていたけどさ」
「その捨てたかった気持ちってなんだ?」
気になるから聞くのはやめない。
言えることなら答えるだろうし、言えないなら答えない、ただそれだけのこと。
「正直に言って……俊明じゃなくても良かったんだ、他の男の子なら誰でも。でも、俊明に言ったらそんなこと絶対に兄の前で言うなよって怖い顔をされた」
「当たり前だ、知ってたら俺は必ず止める。どんな人間かすら分からない奴に任せられるわけがないからな」
これは別の話題で躱そうとしているのか。
本人がそう決めたのなら深追いはしない、同じような話題が今後出たら必ず聞くがな。
「怒らないで聞いてほしいんだけど」
「ああ、ゆっくりでいいぞ」
「うん……」
さあ、なにを言われるのか。
「あたし……兄が好き」
「それは鞠と同じ?」
「うん……だから離れようと思ったんだけど、実行したその日に駄目になっちゃった。会えないと苦しいの、部屋だって別れたくないくらい」
そうきたか、いやまあ距離感がおかしかったからあまり驚かなかった。
嫌悪感を抱かないでいるのは他者からしたらおかしいのかもしれない。
「そうか、乙姫が好きなの俺か」
「うん……駄目ならいま言って」
「んー、とりあえず家に帰ろう。続きは父さんと母さん含めてだな」
「分かった……うん、そうだよね」
子どもだけでは決められない。
おまけに、隠すべきではないと思った。
コソコソするのは嫌いだ、堂々とできないのも嫌なこと。
だって親に遠慮しなければならないのは変だろ? だから言う、ハッキリと。
「――で、大地はどう思っているんだ?」
家に帰ったらちょうど父さんがリビングで酒を飲んでいるところだった。母さんは入浴中。
「嫌じゃない」
「ハッキリしろ」
「まだ分からねえよ。でも、父さんや母さんが許すなら真剣に考えてもいい」
いきなり俺もそういうつもりで好きだったなんて言えるわけがない。
そんなの信じてもらえない、だから許可さえおりればその気で向かい合うつもりでいる。
「そんなの自分で決めろ」
「じゃあ俺が乙姫と付き合うって言ってもいいのかよ?」
「構わん、ちゃんと好きならな」
「兄妹だぞ? しかも血だって繋がってる」
後から文句を言われたら嫌だから全部潰していく。
言質を取っているよいうなものだ、酒を飲んでいるからただ酔っている可能性もあるからな。
覆されたらたまったもんじゃない、乙姫を傷つけるのなら例え親でも許さない。
「嫌なのか? ならハッキリ言ってやればいい、無理だと」
「嫌じゃねえよ……でもよ、普通親としては止めるんじゃないのか?」
「知らん、好きにしろ。ただし、子どもは諦めろよ」
「子どもって……早すぎだろ」
「それだけは禁止にする、分かったな?」
乙姫を見たらこくりと頷いた。
それを諦めてまでこっちを優先するとか、それだけ本気ってことだよな。
「あ、おかえりー!」
「おう、ただいま」
「ん? どうしたのふたりで微妙そうな顔をして」
「乙姫が大地のことを――」
「好き!? 乙姫ちゃん大地が好きなの!?」
またこくりと頷き、今度は顔を真っ赤に染めて俯いてしまった。
母さんは「いいわね~……」なんて言って父さんの酒を奪って飲んでいた。
そこからぺちゃくちゃふたりだけで盛り上がり始めてしまったので、俺は乙姫を連れて2階へ上がる。
「乙姫、もうちょっとだけ待ってくれるか?」
「……それって返事を?」
「いや違う。俺も乙姫のことを好きになってからじゃないと失礼だろ?」
「そ、それって……もう決定ってこと?」
「ああ、まあ行き着く先は結局同じだな。だから不安がるなよ、普通にいてくれればいい」
「うん、うんっ、分かった!」
過去の俺もそれっぽいことを口にしてその気にさせてしまったんだろうか。
基本的に乙姫にためにって考えてずっと行動してきたが、それをいいことだと思うべきか、良くない感情を抱かせてしまったと思うべきか悩んでいた。
だって聞けば人気だと言うし、もしかしたらグッとくる人間が身近にいるかもしれないだろ?
なのに俺って決めたらその可能性を潰すわけだから、勿体ないことをしている気がする。
おまけに、長く続いてそういうまた踏み込んだ関係になった時に子どもだって作れない。
女子って子どもが好きなんじゃないのか? しかも、堂々とできないかもしれないんだぞ――なんていつまでも考えてしまっていた。
「あ、あたしも大地くんって呼んだ方がいい?」
「それは任せる。なあ乙姫」
「なに?」
「……俺でいいのか? 乙姫だったらいくらでも可能性が――」
「……大地くんじゃなきゃ嫌だもん」
「分かった、分かったよ」
ウジウジすんのはやめろ。
彼女にだけ頑張らせるわけにはいかない。
向き合う、そして必ず夏休みが終わるまでにはきっちり言う。
俊明にも、余計なお世話かもしれないが瀬戸先輩にも。
「父さんと母さんに言っておいて良かったな」
「駄目って言われるかと思った」
「俺もだ。でも大丈夫、録音しておいたから後から覆されても問題ない」
「あははっ、大丈夫だよ」
「だな、まあこれは最終兵器ってことで」
時間はまだある、存分に彼女と一緒にいよう。
「ごめん」
と、小さく、けれどきちんと届くように吐いた。
余計な飾りはいらない、どう言ったって結局受け入れないことには変わりはないから。
「まだ最終日じゃないぞ」
「うん、自分勝手な気持ちなのは分かっているよ」
「そうか……無理か。まあ、分かっていたことだけどな、捨てられるわけないよな」
「うん……無理だった」
そうしようと決めたその瞬間に辛い悲しい気持ちが出てきたくらいだ。
兄達が夜に来たのは決してあたしを連れ戻すためではなかったけれど、会った瞬間にもっと駄目になった。
「なあ乙姫、それでも友達ではいてくれ」
「うん、それは大丈夫だよ」
「それと鞠のことなんだけどさ、どうすればいいと思う?」
「って、もしかしてあの時聞いてたの?」
「……まあな、大地の奴が声大きいからさ、聞こえちまったんだよ。それに俺、もう1回告白されてるからな」
どうすればいいって、そんなの自分で出すしかない。
簡単な話だ、受け入れるか、受け入れないか、ただそれだけのこと。
「それは俊明がちゃんと考えてあげなきゃだめ。でも、難しいことじゃないよ」
「そうだよな……ちなみに大地は?」
「まだ変わってないけど、そういうつもりでいてくれてる」
「潔いなあいつ、元から好きだったのか?」
「ううん、この前からそうなれるようにしてくれてるよ」
「あいつは甘いなー」
確かに無理はさせているかもしれない。
お父さんやお母さんに説明するのだって勇気がいることだっただろう。
でも、ちゃんとしてくれた、嫌な顔をせず真剣に受け止めてくれた。
兄の我慢で成り立っているかもしれないから手放しに喜べないけど、でもやっぱり嬉しい。
「つか、乙姫は大地のこと好きすぎだろ」
「しょうがないじゃん……好きなんだもん」
「なんだよ、だもんって。まあいいや、言ってくれてありがとな」
「うん、あ、鞠呼んで」
「了解、ちょっと待ってろ」
ふぅ……最後くらい怒っても良かったのにな。それはまあ鞠に任せるとすればいいか。
「なんですか?」
「ちゃんと言ったよ」
「はい、ありがとうございます」
あたしが彼女に興味を持ったのって同じような雰囲気を感じたからだろうか。
もっとも、お祭りの日までは全然気づけてなかったけど……言ってくれたらあんなことしなかったのに。
「鞠、なんで俊明が好きだって言ってくれなかったの?」
「……引かれると思いました」
「引かないよ、だってあたしは――」
「お兄ちゃんのことが好きなんですよね? いまからお兄ちゃんの妹になってもいいですか?」
それって俊明と普通に付き合いたいということだよね。
それだけじゃなくてもっと踏み込んだ行為だってしたいということ。
ま、まあ、きちんと準備さえすれば兄妹でもできるんだけど……。
子どもの件は残念だけど、そんなことよりももっと大切なことがあるから。
「でも、俊明くんを利用しようとしたことは許せません」
「ごめん……どうすれば許してくれる?」
「罰として……幸せになってください」
「ありがとう! 鞠も頑張ってね」
「もう帰るんですか?」
「ううん、紗弥花に用があるから」
挨拶をして別れる。
兄の頼るのは簡単とはいえ、こればかりは自分で動きたかった。
「紗弥花」
「あれ、どうしたんですか?」
「すぅ、ふぅ――あたし、大地くんのことが好き!」
あ、大声になりすぎてしまった……。
目の前に紗弥花がいるんだからもう少しくらい小さくても良かったのに。
「兄妹、でしたよね? え、もしかして義理でしたか?」
「血の繋がった兄妹です……」
「ふぅん、なのに好きになっちゃったんですか?」
「む、昔からずっとですから……」
「それで、大地君はなんて答えてくれたんですか?」
あれ、いつの間にか名前呼びになってる。
これってやっぱり紗弥花は兄のこと……いやでも勇気出さないと!
「まだ好きとは聞いてないけど、そういうつもりでいてくれるって言ってくれた」
「それって受け入れいることは確定ということですか?」
「うん……ちなみにお父さんとお母さんにも話して納得してもらったよ」
真顔で怖いけど頑張らなければならない。
兄を信じている、必ず夏休みが終わる前に好きだと言ってくれるって。
であるならば紗弥花にこれ以上無駄なことをさせないようにするのも義務であり優しさだ。
「なんで私のところに?」
「え、だって気になっていたよね?」
「なるほど、あなたなりの優しさということですか」
「ごめん、大地くんは譲れないの」
「うーん、じゃあ代わりにしてほしいことがあります」
やっぱり狙っていたんだ……まああからさまだったもんね。
それでなんだろう、代わりにしてほしいことって。
「肩を揉んでください」
「それは……え? 肩を揉めばいいの?」
「はい、最近なんかよく凝るんです。お願いします」
それぐらいなら大助かり。
で、実際にやってみたら確かに硬かった。
なにをどうしたら――なんて考える必要はない。
問題なのはこれ!
「ひゃんっ!? な、なんですかっ?」
「その胸減らしたら?」
「む、無茶言わないでください」
「あと、水着やラインが出る服で大地くんを誘惑しないでください」
「ふふふ、どうしましょうか」
あたしも一応あるつもりだけどこの重量には敵わない。
もしその途中で兄が誘惑されたら? 肉体的接触をされたら?
そんなのは単純に嫌だし、とにかく危うくなるようなことはやめてほしい。
「乙姫さん、大地君を信じてあげてください。それぐらいで意識が変わっているのならとっくの昔にというやつですよ」
「あ、そういえば海に行った時も一緒に行動していたんだよね?」
水着姿の紗弥花とふたりきり――なのに良くない感情を抱かなかった兄は凄い。
「結局最後まで褒めてくれませんでした、なので再戦を申し込みたいと思いますっ」
「えぇ……駄目って言ってるのに」
「まだ大地君は乙姫さんの彼氏ではないですからね」
えぇ……あ、でも、今度は最後まで楽しめるか。
そしてあたしもビキニタイプのものを……そうしたら兄だって褒めてくれるはず。
「水着、買いに行きましょうか」
「え、紗弥花は持ってるでしょ?」
「実はまたちょっとだけ大きくなりまして」
あ、あるのかそんなことが……その人が今度こそ兄に褒めてもらおうとしている。
新しい水着というのはどうしたって新鮮に見えるもの、今度こそ兄が流されてもおかしくない。
「紗弥花はだめ!」
「え、いいじゃないですか、乙姫さんの可愛いやつを選んであげますよ?」
「ぜ、絶対腕を抱いたりしないでよ!?」
「腕を抱く……ふむ、つまりこういうことですか」
な、なんだこの暴力的なまでの柔らかさは!?
こんな感触包まれたらまず間違いなく意識しちゃうよ。
「これを大地君にすればいいんですね?」
「ちっがーう! しちゃだめだって言ってるの!」
「分かっています、私は痴女や変態さんというわけでもないですからしませんよ」
「そ、そうだよね、うん、分かってた」
もうやめよう、このままだと大好きな兄を疑っているようなものだから。
紗弥花だってあんまり傷ついているような感じはないから助かった。
「私、大地君のこと気になっていました」
「うん、だろうね」
「でも、大地君はあなたって決めたんですよね? だったら気にならないです。ただ、仲良くしてください、なんなら結婚だってしちゃってください」
「は、話が飛びすぎだよ……でも、ありがとね」
相手が実の兄だとしても堂々としていようと決めた。
恥ずかしいことじゃない、恥ずかしがってコソコソすることは申し訳ないことだから。
「来週の水曜日にまた行きましょうか。今度は途中で帰るのなしですよ」
「うん、分かった! それじゃあね!」
彼女と別れて帰路に就く。
これで後は兄が自分のことを好きになってくれるよう頑張るだけ。
ただ、不健全なやり方で気を引きたいわけじゃない。
あくまで健全に、普通の男女のように仲良くなりたかった。
「ただいま」
「おかえり、遅かったな」
「うん、鞠と紗弥花のところに行ってきたから。大地くんはなにしてたの?」
「俺か? 適当にゴロゴロしてたぞ、家には誰もいないからつまらなくてな」
いれば賑やかだけどふたりはいつも家にいないから寂しい気持ちは分かる。
けれどあたしの場合は大好きな兄がいてくれるから問題ないわけだが……兄的にはどうなんだろうか。
「乙姫、ちょっと来い」
「分かった」
ちょっと移動すると急に頭を撫でられた。
ばっと押さえたものの、兄は笑うだけでなぜそうしたのかを説明してくれない。
「ただ撫でたかっただけだ」
「……そういう時があるの?」
「いや、なんか乙姫を見たらそうしたくなった。ひとりで寂しかったからなのかもな」
それってあたしが帰ってきて嬉しいってこと?
もしそうだとしたらかなり嬉しいけど、兄は絶対にそんなこと言ってくれはしないだろうな。
「なあ、今日ちゃんと俊明に言ってきたんだろ?」
「うん、怒らなかった」
「ひとりでいたから考えていたんだが……俺、乙姫がいないと寂しいみたいだ」
「そ、そうなんだ」
これは夏休み終了まで待つ必要がなくなるかもしれない。
「乙姫はどうだ?」
「一緒にいれなくて寂しかったからこそあの日帰ってきたんだよ?」
「そうだよな、悪い」
いや、謝られても困る。
とにかくこちらが期待してしまうようなことだけ言って実際はないとかはやめてほしかった。
「つか、なんで俺らは玄関で喋ってるんだろうな」
「あ、確かに……リビングに行こっか」
「おう」
玄関でいちゃつく必要はないと思う。
仮に途中でお母さんかお父さんが帰ってきたら恥ずかしすぎて引きこもるレベルだ。
それにどうしたって暑くて汗をかいてしまう、しまっているので、できるならお風呂に入ってからのんびり付き合ってあげたかった。
「お風呂に入ってくるね」
「そうか、なら適当にテレビでも見て時間つぶしてるわ」
「すぐ出るから待ってて」
夏は暑いしそもそも長風呂派というわけではない。
それでもしっかり臭くないよう洗って、湯船にも浸かって100秒カウント、終わったら豪快に水しぶきを跳ねさせながら出て風邪を引かないようしっかり拭く。
「出たよ」
もちろん服もちゃんと着てから兄の元へ。
――問題なのはここからどうするのかという話。
恐らく可能性としてはなくもないけど、まだまだ現状維持を望むのではないのかということ。
「来週の水曜日また海に行くことになったよ」
「それはふたりきりでか?」
「ううん、みんなで。それで今度こそ途中で帰ったりしないでね」
「なるほどな、まあいいかもな」
水着……まだ時間はあるし兄に選んでもらいたい。
「だ、大地くんに水着選んでほしいの」
「スク水はやめるのか?」
「うん、紗弥花みたいなやつにする」
だからって特別派手なものじゃなかった。
シンプルなのにあそこまで魅力的なのは彼女が魅力的だったから。
もちろん同じくらいすてきな感じになるとは思っていない、でも、どうせなら可愛い姿を大好きな兄に見てほしいから譲れない。
「十分いいと思うけどな」
「やだ、負けちゃうもん」
「負けることはないぞ」
「それってあたしが1番だから?」
「そうだ」
ま、真顔で即答……こういうところがズルい。
というか基本的に兄はあたしに甘い、全然怒らないし、一緒にいてくれる。
好きであってもそれはあくまで家族としてだったと思うけど、ちょっとぐらいはあってくれればいいなと願った。意味ないことだけど。
「あたし、大地くんのことが本当に大好き」
「そうか、ありがとな」
「……言ってくれないの?」
こういう形で引き出してもそれは本物じゃないかもしれない。
でも、自分だけが好きなんて悲しい、偽物でもその場しのぎでも好きだと言ってほしい。
「いや、ここで言うと止められなくなるからやめておくわ」
「いいよ、止めなくても」
「駄目だ、必ず夏休み終わりまでには言うから待っていてくれ」
「はーい……」
ちょっと残念……だけど言ってくれると言ってくれているんだから信じて待とう。
しつこくして嫌われる方が嫌だからね。




