はじめまして、愛しの婚約者サマ?
思いつき投稿です!
「こんにちは。王女様。私が誰だか分かりますでしょうか?」
皆様こんにちは。私はここフロリア王国の第1王女、エリザベス・ツィツィエンヌ・フロリアと申します。突然ですが質問です。
学園の校庭で読書をしていたら、名前も知らない黒髪の男子生徒に上記のように話しかけられました。あなたならどうしますか?
1、普通に挨拶。
2、誤魔化して何処かに行ってもらう。
3、とりあえず逃げる。
私の答えは・・・・・・1。
こちとら筋金入りのコミュ障&猫かぶりなんでね。
知らない人・・・しかも異性とか喋れない。
誤魔化すなんてハードルが高すぎる。
ましてや3を選べるような度胸もありゃしない。
「初めまして。あなたのことは存じ上げないのですが・・・その艶のある黒髪は帝国の方でしょうか?」
目の前の男子生徒は黒髪黒目。帝国貴族によく見られる色だ。
これでも学年首席で次期生徒会長最有力候補。これくらいは知っている。
「はい。私は帝国のものです。貴女は、フロリア王国第1王女のエリザベス様ですよね?」
どうやら向こうはこちらのことを知っていたようだ。
私の青みがかった銀の髪とアクアマリンのような瞳は1つ下の学園の1年である妹姫と同じなので、直接私を見たことがない人は間違えやすいのだが、この人とあったことは無いよね?
「はい。エリザベス・フロリアと申します。何故ご存知で?」
ツィツィエンヌというミドルネームは公式の場くらいでしか名乗らない。
「これは失礼致しました。以前に見かけたことがありましたので。」
そう言って男子生徒は好青年のような笑みを浮かべる。ん?裏がありそうなのは気のせいかな?少し同類の匂いがする。美形だが腹黒そうだ。
そういうときは逃げましょう。挨拶も済んだしね。
「あら、すみません。私少し用事がありますので、これで失礼致しますわ。」
そう言ってさっさと退散する。この人の名前は知らないけど・・・帝国の留学生なんかいたかな?まあ名前くらいなら直ぐに分かるだろう。
お辞儀をして早歩きで立ち去る。勿論その間も背筋を伸ばし、淑女らしく振る舞う。
パシッ。と音を立てていきなり左手首を掴まれた。
「逃げるなよ、猫っかぶりの王女サマ」
いきなり口調が変わった。やはりコイツも同類だったようだ。怒り顔に熱が上がって行くのを感じたが、表情には出さない。あくまでも冷静でい続ける。
「なんのことでございましょうか。そんなことより手を離しては下さいませんか?このままだと良からぬ噂を立てられてしまいますわ。」
「噂を立てられると困るのか?」
馬鹿なことを聞いてきた。
「勿論です。私には愛する婚約者がおりますので。貴方もそれは同じでは無いのですか?」
当たり前のことを問い返す。私の婚約者はシルフィード帝国の第2王子だが、会ったことは無い。だから愛も何も有るはずが無いが、こういう時だけはお名前をお借りしている。
「ああ、俺にも面白くて可愛い婚約者がいる。」
と言って黒髪はニヤッと笑った。美形。婚約者様可哀想だな。
きっとコイツに困らされていることだろう。
グイッ。
掴まれた手を引っ張られて、近かった距離が更に近くなる。
「ナア王女サマ、いい加減猫かぶんのはやめろよ。丸わかりなんだよ。バカみたいだぜ?」
耳元で囁かれたことで、更に怒りで顔に熱が集まる。
「本性出すまでは離してやらねえぞ?エリザベス」
耳元で名前を呼ばないで欲しい。また顔が熱くなるから。
「お手を離して下さいませ。婚約者様にも誤解されますよ?」
「誤解して欲しいんだよ。で、嫉妬させたい。」
コイツ性格最悪だな。婚約者様がまじで可哀想だわ。あ〜でもなんだかんだで仲良さそう。
良いな。
「ってどういうことだよ。なんで私が・・・あ。」
ヤバイ。ついパニクってしまった。あんまり大きな声は出してないけど、この距離なら確実に・・・
「ハハッ。おもしれえ。やっぱりか。」
聞こえていたようだ。メチャクチャ楽しそうにニヤニヤしている。
「うるさい。とっとと離しなさいよ。」
コイツと話していると調子が狂う。一刻も早く離れなければ。
「フッ。またな、エリザベス王女サマ。」
と言って心底楽しそうに笑った。あ〜もう!イライラして心拍数が上がってきた。
「さようなら。婚約者サマにもよろしくお伝えくださいませ?」
なんとなくイラッとしたからさようならと言っておいた。
こんなヤツ、二度と会うもんか!ボケ!
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「聞いてる!?マリー?」
「聞いております。はあ・・・・本当にもったいない。」
「あなた主人にもったいないって言い過ぎじゃないかしら?さすがに無礼よ?」
「私の主人は生涯リリアンナ様おひとりと決めております。」
今話しているのは私の専属侍女のマリー。私が猫をかぶらない数少ない人の一人だ。今日のアイツのことを話してやった。
そしてリリアンナというのは、私が2歳のときに病気で亡くなった私の母様のことだ。マリーが言うには、「自分の主人はリリアンナ様であり、エリザベス様は私の娘のようなものです。」との事。
「その方は学園の生徒なのですか?」
さっきマリーに今日のことを話した。
「ええ、多分。だって学園の制服を着ていたもの。」
「高等部のですか?」
「ええ、高等部の方だったら内部の生徒は全員覚えてるから外部の方だと思うの。」
「つまり帝国の高位貴族かと?」
「庶民の特待生とかには見えなかったのよね。」
そう。あの人は巫山戯た感じだったが、所作は綺麗だったし、婚約者もいると言っていた。
「エリザベス様は何故その方を探しておられるのですか?」
「それは・・・相手が自分のことを知っているのに自分は知らないなんて嫌じゃない?」
「会いたくはないのですか?」
「会い・・たくな・・・・くない?」
会いたい?なんで?あんな婚約者のいる危険人物に?
てかなんで私アイツの婚約者が気になってんの?なんで?
なんで私の顔熱くなってんの?
私が考えていると、マリーが「ああっ遂にやりましたリリアンナ様!エリザベス様が遂に・・・・・・」とかブツブツ言っていた。どういうこと?
ああもう、なんかモヤモヤする!全部アイツのせいだ!
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「殿下!何やってたんですか!編入の手続き中に!」
「退屈しのぎに婚約者サマに会ってたよ。」
ったく、俺は1目見て分かったっていうのに、最後までアイツは気づかなかったな・・・。
「婚約者ってこの国の第1王女様ですよね!?あれ、会ったことあるんですか?」
「ねえよ。見たことあるだけ。だからさっきが初対面。」
「うわ。早速殿下の毒牙に・・・」
「言葉には気をつけろよヴィンス。それにあれは猫かぶってるだけだよ。おもしれぇなぁ。な〜んで誰も気ずかないんだか。」
「あの才色兼備と謳われるエリザベス・フロリア王女がですか?前遠くから見たときは儚げな美人でそんな風には見えませんでしたけど?」
「そうだよ。・・・ていうかお前俺のことは全く褒めない癖になんでさっきからアイツのこと褒めまくってんだよ。お前クビにしようか?」
「何を仰っているんですか?文武両道、帝国1の才児と呼ばれるオスカー殿下?」
「オマエなぁ。・・・・・で?終わったのか?手続き。」
「はい。」
ニヤァっと笑みが漏れる。
アイツがいるなら、つまらねえ学園も悪くねえ。
「エリザベス様もお気の毒に・・・」
「何か言ったか、ヴィンス。」
「いえ、なんでもありません。」
これから楽しくなりそうだ。
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そして翌日。
トントントン。
ノックを数回する。
「失礼致します。エリザベス・フロリアです。生徒会長への立候補書類を提出しに来ました。」
「あ〜・・・少し待ちたまえ。」
何故だろう?誰かいるのかな?
学長室とか生徒が最も嫌う場所なんだが。
「・・・・・・・・・・・はい。それでは・・・・・・」
何か話し声が聞こえる。
聞こえないかな〜と思ってドアに近づくと、その途端ガラガラッと音を立ててドアが開いた。
「〜〜〜っ!?」
そして目の前に現れたのは、昨日校庭で会った危険人物。
え、なんでなんで?なんでここに昨日のアイツがいるの?え、ここ学長室だよね!?え、なんで!?
だが心の声は表に出さない。
「失礼しました。初めまして。私は、エリザベス・フロリアと申します。あなたは、帝国貴族の方ですよね?」
昨日少し調べたが、コイツの名前は分からなかった。
でもまあ、会えたなら本人から直接聞くべきだろう。
「ああ、失礼しました。私はオスカー・ダリウス・シルフィードと申します。」
そんな名前だったのか・・・ん?シルフィード?聞いた事ある気がするんだけど?
「シルフィード帝国の第2皇子です。」
目の前のアイツが好青年のようにニコッと笑ってそう言った。
シルフィード帝国の第2皇子?ってまさかコイツが・・・
グラッとよろけて倒れそうになると、目の前の人物に抱きとめられる。そして耳元で、
「はじめまして、愛しの婚約者サマ?」と囁かれたことにより、頭がパンクした。
ああ、もう訳わかんない。このまま寝ちゃおっかな〜。
なんかコイツに抱き締められてると寝やすいし。なんでだろ?
「寝るのはいいが、これから生徒会で一緒にやってくからよろしくな?」
・・・え?生徒会?私が入る予定の?
「では、エリザベス王女。生徒会長として副会長になるオスカー皇子に学園の案内をしてあげてください。」
と学長先生が言う。
え?私が会長に就任するのは決定事項なの?で副会長がコイツなんですか?
「立候補者が他にいないから決定しました。身分的にも最適ですし。それより口から漏れてますよ、エリザベス様。」
ハファッ!?い・・・いつから?
「し、失礼しました。」
慌てて姿勢を正して謝る。ボロが出てしまった。こんなことは初めてだ。
ヤバいヤバい。私学園とか社交界では大人しい王女様で通ってるのに・・・。
「コィ・・・・皇子が副会長というのは?」
「本人の強い希望がありまして。あとは身分の関係です。」
「では、これからよろしくお願いしますね、エリザベス王女・・・は少し長いですね。エリザと呼びますね?あ、僕のことも親しいものはダリウスと呼ぶので、そう呼んでくださいね?」
そう言って人の良さそうな笑みを浮かべるコイツ・・・ダリウスの目が一瞬ニヤッと歪められたのは、私の気の所為だと思いたい。帝国の皇族は家族や婚約者にしかミドルネームを呼ばせないんだが?
っていうかこの人、私の事『愛しの婚約者サマ』とか『可愛い婚約者』って・・・・・・・
そこで私の意識は途絶えた。
「これからイロイロとよろしくな?猫かぶりのエリザ。」
だから最後に聞こえたダリウスの声は、きっと幻聴だったんだろうと、そう思いたい。
これから、エリザとダリウスが生徒会役員達と共に色々学園を改革したり、エリザがダリウスへの恋心に気づいて困らされるのは、また別のお話。