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7.カナタ屋敷

 その日は、僕は屋敷で内職をすることにした。


 僕の住んでいる屋敷は、デルカンデラの村では『カナタ屋敷』と呼ばれている。僕が家主であることから、村の誰かがそう呼び始めたらしい。


 そのカナタ屋敷だけど、ちょっとデルカンデラの村の他の家とは違う収入で生活している。


 村の人たちは、そのほとんどが農家をしている。例外は小さな雑貨屋さんくらいで、その雑貨屋さんも小さな畑は持っている。お店の売り上げとその畑で収穫したものの両方で生計を立てているのだそうだ。他の人たちは、全員が農作物で収入を得ている。

 と言っても、正直収入なんてほとんどない。自分たちが育てた農作物を食べ、麦で税を払い、余ったものを行商人に売って少しの金銭を得ている。そしてその金銭はほとんどが塩などの生活に欠かせないものを買うのに消えていくそうだ。なので、村の農家は金銭をほとんど持っていない。蓄えもないのだ。


 一方カナタ屋敷はといえば、まず畑を持っていない。僕は農家じゃないので当然だが、庭に小さな家庭菜園がある程度でそれでは僕とエリナの二人ですら食べていけない量のものしか採れない。実際、ほぼほぼエリナの趣味だ。

 なので、カナタ屋敷は村の人たちから食料を購入している。それは金銭のことが多いが、ときには僕が狩ってきた獲物と交換でもらうこともある。けど、やっぱりほとんどのやり取りは金銭だ。村の人たちも、いざという時のために蓄えておける金銭のほうが嬉しいみたい。

 最初は、デイブレイク子爵家を出るときにもらった金銭で払っていた。けどそれではすぐになくなるし長い間生活していくのは難しい。そこで僕は、年に二回この村にやってくる行商人に内職をして作ったものを買い取ってもらって収入を得ることにしたのだ。


 最初は村の人たちが冬に作っていた編み物や装飾、保存食なんかを作っていた。

 ところがこれ、想像以上にお金にならない。それはもうびっくりするくらい。半年頑張っても食費の半分に満たないことがざらだった。これではまずいと、僕は慌てて他の仕事を探した。


 そこで思いついたのが筆写だ。文字が書ける人間は実はこの世界ではそう多くない。幼少期から家庭の手伝いをしている子が多く、学校に通う余裕がないからだ。この世界の教育はお金がかかるしね。それに、コピー機なんてものももちろんない。なので、実は本の筆写が優秀な内職になる。

 けどこれにも問題があった。僕の手元に本がないことだ。この世界の本は高い。紙やインクの値段もそうだが、筆写したりしないといけないので自然と高くなる。デイブレイク子爵家を追い出された僕がおいそれと買えるものじゃなかった。なのでどうしても筆写する本を預かって依頼された本を筆写する形でしかできないのだが、それがまた難しい。なにせ村に行商人が来るのは半年に一度。そんなに時間をかけていい仕事なんてめったにない。そこまでするなら、きっと近場で筆写してくれる人を探す依頼者の方が多いだろう。なにせ文字を読めるような人はほとんどが人口の多い都市に住んでいるのだから。そこには同じように筆写の仕事ができる人も多くいるはずで。当然、この仕事は最初の数回のみで失敗に終わった。


 なので、次はちょっと思い切って自分で本を書いてみた。筆写する用に紙とインクは買ってしまっていたので、それを使って一冊だけ書いてみたのだ。内容は、『魔法入門』の内容を噛み砕いて説明したもの。あれはかなり難しく書いてあったので、僕なりに分かりやすい形に書き換えてみたのだ。最後の方にはちょっと気合を入れて、魔力を活性化させることができる術式を自作で書いてみた。

 その自作本だけど、行商人に見せると驚いた様子だったけど買い取ってくれた。値段はなんと銀貨2枚。村で生活するようになってから分かったけど、これはそれなりにまとまったお金だ。筆写の代金の倍以上になって、僕もびっくりしたよ。そして、同じものをまた作ってほしいと頼まれて紙とインクまでもらってしまった。

 

 それから一年。最近になってようやく僕が住むカナタ屋敷の生活は安定するようになった。エリナも家事の合間に手伝ってくれるので、今では半年に5冊ほど作れるようになった。最後の術式はいろいろ試して、ちょっとインクに魔法薬に使われる薬草を混ぜて魔力を込めたら上手く発動するようになったので、自分でもなかなかいい出来になったと自負している。最初の頃よりもいい出来になった。あ、ちなみに魔法薬は魔法の力で作った特殊な薬のことだ。一瞬で傷を癒す『回復薬』や伝説の霊薬『エリクサー』なんかがこれにあたる。僕が使ったのは最下級の回復薬にも使われる薬草で、結構ありふれたものだ。偶然魔の森で見つけた。


 僕は今日も、自室でその内職に励む。エリナに屋敷のことをいろいろやってもらっているので、せめて収入くらいは自分で安定させないと恰好つかないからね。


 ペンにインクを付けて、紙に走らせていく。僕のそれはその日の夕方まで続いた。

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