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6.魔法の練習

飛ばしていきます。

 「ふぁ~」


 朝日と共に目覚め、僕はベットの上であくびをしながら体を起こす。最初の頃は痛かった体も、もうすっかり慣れて好調そのものだ。窓からの景色も見慣れたものになった。


 僕がデルカンデラの村に来てから、五年の月日がたっていた。僕は10歳になり、もうすっかりこの村での生活にもなじんでいる。体も成長し、多少は背丈も伸びている。


 最初の頃は、とても大変だった。どうやらこの世界の貴族は、僕の想像の何倍も平民からは恐れられているようで、はじめの半年は、僕に話しかけてくれる村人なんていなかった。それでも何とか、必死にこちらから話しかけて馴染むように頑張った。それはもういろいろやった気がする。同年代の子供と遊ぶことから、農業の手伝い、内職を一緒にしたりと本当にいろいろ。でもそのおかげか、一年過ぎる頃には村のほとんどの人が僕を見かけても頭を下げず挨拶してくれるようになった。今では気軽に声をかけてくれる。


 「カナタ様、起きておられますか」


 と、部屋の扉をノックする音とともに、エリナの声がした。「起きてるから入ってきていいよ」と告げると「失礼します」と部屋に入ってくる。


 「おはようございます。カナタ様」

 「おはよう、エリナ」


 優雅に一礼して朝の挨拶をするエリナに、僕はいつも通り返事をする。まだ陽が昇ったばかりなのに、エリナはいつも朝が早い。


 「ちょっといつも通り体を動かしてくるよ」

 「分かりました。では、朝食の準備をしておきますね」

 「うん」


 そう言うと、エリナは部屋を出ていく。僕もパパっと着替えて、庭に木剣を持って出る。準備運動をし、ゆっくりと構える。

 これは僕の毎日の日課で、基本的に雨の日以外は毎日行っている。剣を構え、振る。その簡単な動作を、振り下ろし、横なぎ、切り上げ、斜めといった風に様々な角度で繰り返す。これは剣の練習というよりも体作りのためのものだ。力をつけ、丈夫な体を作るためのもの。前世では剣なんて大っぴらには振れなかったので、実は結構楽しかったりする。特に僕はもっぱら拳専門だったし。最初の頃は息も絶え絶えやっていたが、さすがに五年も続けると慣れたものだ。多少息を乱しながらもきっちり一時間いつも通りやりきる。


 それが終わったら、汗を拭いて朝食だ。エリナが用意してくれていた朝食を食べ、改めて着替える。


 「カナタ様、今日はどうされますか?」

 「今日はちょっと魔の森に行ってくるよ。魔法の練習もしたいし」


 エリナに今日の予定を聞かれ、そう答える。魔の森とは、デルカンデラの村の南方にある大きな森だ。豊かだが危険で、奥に入ると魔物が出ることからそう呼ばれている。正式名称は知らない。


 そして魔物とは、この世界に生息する凶暴で強靭な生き物のことだ。普通の獣より危険で、中には魔法のような不思議な能力を持った魔物もいるらしい。生まれる原因は不明だが、人を襲い喰らうものが多く基本的には人間の敵だ。体内に魔石という魔力が固まってできた石を持つのが特徴らしい。


 「魔の森ですか…。気をつけてくださいね」

 「わかってるよ。奥までは行かないって」


 こうして魔の森に行くのはいつものことだ。魔法の練習に最適な場所だし、豊富な山の幸がある。お土産にも困らないからね。いつも何かしら獲物を狩って帰るのが習慣だった。村には肉屋なんてないから、自分たちで狩って食料を確保するのだ。僕の屋敷は僕が狩りをしているが、村では猟師が狩ってきた獲物を順番に分配するらしい。

 ちなみに、毎日魔の森に行っているわけじゃない。村の手伝いをすることもあれば、エリナの家事を手伝うこともある。最近は村の子供たちに文字や計算を教えることもある。


 「行ってきます」


 僕はいつも通り、ナイフと小さなポーチを持って屋敷を出た。




 魔の森はいつ来てもどこか鬱蒼としている。

 木が多く、その木が付けている葉もまたとても多い。そのせいで陽の光が遮られ、昼間でも森全体が薄暗い状態になる。草の背丈も高く、そこら中に大きな茂みがあるのも理由かもしれない。動物の気配もあちこちに感じられる。


 「さて、と。着いた」


 森に入ってから歩くこと一時間。僕はやっと目的地にたどり着いた。

 そびえ立つ崖の下にある少し開けた小さな草原。まるでミステリーサークルのようにそこだけが円形に木が生えていない。最初は何かの魔物の住処かと思ったけど、どうやら違うようなので見つけて以降僕はここを拠点にして魔の森を探索するようにしていた。 


 「まずは…」


 周囲に獣の気配がないのを確認して、僕は草原の真ん中に腰を下ろした。胡坐をかき、両手を前に突き出す。そして集中。すると魔力がうごめき、僕の体の周りを漂い始める。


 「…“魔力よ”……」


 やがてそれはいくつかに分かれ、それぞれ火、水、風、土、闇、光の球体になる。

 これは名前もないただの魔力球にすぎない。魔法と呼ぶような立派なものじゃなく、ただ魔力に属性を持たせて球体にしているだけだ。


 それを最初は六つ。気の向くままに空中を動かし、やがて十二個、十八個と増やしていく。


 「はぁ…はぁ…」


 一時間もすれば、その数は120個にまで増えている。ただの魔力球を生み出すだけの作業だが、これがなかなか難しくしんどい。そこからさらに増やそうとしたところで、魔力球のいくつかが形を崩して弾けた。


 「ぶはっ…!今日はここまで、か」


 全部の魔力球を消し、草原に転がる。いつの間にか息は乱れ、全身汗まみれだ。

 この練習は僕が三年前に魔力操作の訓練として始めたもので、それから毎日やっている。最初は魔力球を作るのにも苦労していたけど、今は最高で126個まで増やせるようになった。


 「よし、次は魔法の練習だ!」


 そして基礎の魔力操作練習が終われば次は魔法の練習。

 と言っても、僕は残念ながら基本の初級魔法しか術式を知らない。火属性の“火種ファイア”、水属性の“水球ウォーター”、風属性の“微風ウインド”などだ。攻撃力はほぼ皆無といっていいレベルで、ただ小さな火や少量の水を創り出すだけの魔法だ。『魔法入門』にはそれらしか記されていなかったのだ。どうも魔法というのは、簡単に術式が手に入らないように国で規制されているらしい。まあ、魔力のある人が見たら使えるし危ないもんね。

 そこで、僕は術式を使わずに魔法を使うことにした。もともと魔法には術式が必須なわけじゃない。術式とはあくまでも魔法を文字や図形で表したもので、それがないと魔法が発動しないものではないのだ。そこで、強くイメージしながら魔力を動かすことでイメージを形にしようと思いいたった。

 最初の頃は、「空気中の酸素を燃やして…」「炎の形は…」とかぶつぶつ言いながらやっていた。もちろん上手くいかなかったけど、続けるうちにちょっとずつ発動自体は出来るようになっていった。そして一年たったころ、魔力がある程度自由に動かせるようになったことで思ったのと同じように魔法を発動することに成功するようになったのだ。

 今では、


 「“水纏いし龍よ”」


 手を一振り。それだけで、イメージしたとおりに水でできた龍が崖に激突して岩の一部を削り取る。


 「名づけるなら“水龍”かな。まあ、名前はあった方が使いやすいからね」


 そう言いながら、岩をうがった後そのまま僕の周りを滞空している水でできた龍に話しかける。もちろん、僕が魔力を供給して操作している限り消えることはない。僕が操作しているのだから当然意思はないのだけど。生き物の形をしてるとなんとなく話しかけたくなるよね。

 ちなみに他にも“焔虎”、“嵐鳥”なんかもあったりする。これらも全部、感覚とイメージだけで使っているので術式はない。というよりわからない。いや、ほら。術式って魔法使えば出てくるものじゃないしさ。そしてとりあえず唱えている詠唱はあくまでもそれっぽくするためのものだ。別になくても使えるんだけど…ほら、あったほうがそれっぽいし。あと、条件付けされて魔法が使いやすくなってるのもある。


 「“燃ゆる猛虎よ”、“荒ぶる鳳よ”!」


 続けてそれらも発動させてみる。真っ赤に燃え上がる虎と薄緑の風が渦巻く鳥が僕の傍らに出来上がる。うん、ばっちり。動かしてみるけど、イメージ通りに動いた。ちなみに最近は小さくして子供モードにするのが可愛くてお気に入りだったりする。


 結局その日は、その小さくした“水龍”たちと戯れて終わった。一日中発動しておいたけど、魔力がなくなることなく普通に大丈夫だった。僕の魔力も結構増えて、最初の頃に比べてすごく多くなっている。ちなみに最初に魔法を使ったときは、“火種”三回で魔力切れで倒れた。5年前のことだけど。それから毎日練習していたら、こんなに増えてくれたのだからうれしいものだね。


 夕方、屋敷にお土産を持って帰った。今日のお土産は野ウサギ三羽。血抜きしてシチューにしたら美味しいんだよね。

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