25.錬成魔法
突然さらわれたリーシェン先生を追いかけてたどり着いたのは、ステラの言葉通り魔法学舎に隣接している魔法実験場だった。ここは主に魔法を使った実験をするための場所で、僕やステラがクラス分け試験で魔法の試験をうけた場所でもある。内側の壁に魔法防御用の特殊な加工がされているこの場所は、普段は魔法学舎の生徒が魔法を実際に使って実験やデータ収集をするために利用されているらしい。なんでも、周囲に魔法による被害を出さないためだとか。…魔法学舎の生徒ってそんなに危険な魔法を実験で使うの?と聞いていいのか迷う。
そんな実験場の中心で、今まさに魔法の実験が行われようとしていた。そこには大きな魔法陣のような形に描かれた術式を囲んで、全部で6人の生徒が立っている。そのうちの一人はさっき部屋に乱入してリーシェン先生を連れていったあの青ローブのやせた人だ。たしか、レーニットって名前だったかな?リーシェン先生は少し離れたところにいる。
「あれは?」
「たぶんですが、錬成魔法と呼ばれるものだと思います」
「錬成魔法?」
隣にいるステラに聞くと、そんな答えが返ってきた。錬成魔法…。知らない魔法だ。
「錬成魔法は、一般的には土属性の魔法の一種だとされています。地面などにああして術式を直接書き込み、それによって何かを作り出したり変化させたりします」
ステラの指さす先には、6人の生徒と彼らが囲む地面に描かれた術式。
「クラス分け試験で私の後に実技を行っていた方の魔法を覚えておられますか?男性の方で、〈剣錬成〉の魔法を使っておられたのですが」
ああ、覚えてる。たしか鉄でできた歪な剣をつくってた人だ。白いチョークみたいなので地面に術式を描いてたっけ。言われてみれば目の前の術式も白い線で地面に描かれている。
「あれも錬成魔法の一種で、材料を用意してそれの形を変形させるものでした。材料を用意し、ただそれを魔力を使って変形させるだけのもので、錬成魔法としては初歩に当たります」
「初歩ってことはその先もあるんだよね?」
「はい。〈剣錬成〉の魔法は変形させるだけ。形としては剣でしたが、残念ながら実用に足る性能を備えてはいないのです」
錬成魔法でただ変形させただけのものは、魔力による強制的な変形による負荷でひどく脆く壊れやすくなってしまうのだそうだ。そのうえ、ただ形を変えただけなので刃もなく、ただの剣の形をした鉄の塊にしかならない。
「そして何より、材料です。あの時は事前に処理を行い、魔法による変形をしやすいように処置された鉄を十分な量用意して使っておられました。錬成魔法はまず自由に変形させられるほどに物質に魔力を通わせることが非常に難しいのです。一人前の錬成魔法使いならば事前に処置をしなくても素材を変形できます。その点からもあの時の魔法は錬成魔法としては初歩と言えるのです」
「つまり、実用に足る物をつくれて半人前、それをどんな素材でもその場で行えるようになって一人前ってこと?」
「その通りです。加えてそれにかかる時間なんかも要素に入ってきますね。とはいえ、残念なことに錬成魔法はその性質上複雑な物や高性能な物は作れません。それに、その…言いにくいのですが、錬成魔法は軍事への応用が利きにくく」
「ふーん」
いろいろと難しいんだね。そして軍事利用も出来ないから研究自体されていないマイナーな魔法だ、と。
「じゃあ、目の前の人たちは何をしようとしてるのかな?」
「分かりませんが…あれだけ大きな術式ですから、おそらくは質量的に大きなものを錬成魔法で形成しようとしておられるのかと。元となる素材がないのが気になりますが」
そうだ。たしかに今目の前で立っている人たちの術式にはクラス分け試験のときみたいに素材のようなものがない。たしかステラの説明では、錬成魔法にはもととなる素材が必須のはずだけど。
「ふぅ~…。いきます!」
と、術式を囲んでいた人たちの一人が深呼吸して声を上げた。それにほかの5人が頷き、一斉に詠唱を始める。同時に、それなりの量の魔力が術式が描かれた地面へと流れ込んでいくのが分かった。
「「「「「“大地よ 膨大な其の身より 一欠片の恵みを生み出さん”〈素材錬成〉!」」」」」
どうやら掛け声をかけた人が地面に描いた術式を制御し、残りの5人で詠唱することで魔法を発動させているみたいだ。全員が必死の形相で魔力を注ぎ込み、あるいは制御しようとしている。そんな必死の6人とは裏腹に、術式は弱々しい魔力光を放つばかりで特に変化は見られない。何をしてるんだろう?
その状態がしばらく続いたと思ったら、やがてちょっとずつ小さな黒い塊が土の中から出てきた。あれは…
「砂、かな?」
「砂ですか?でも、黒いですしいったいどこから…?」
ステラがそう呟いたとき、魔法を発動していた6人が一斉に膝をついた。同時に魔法が中断され、魔力が霧散して魔力光が掻き消える。どうやら魔力が底をついたみたい。
「せ、成功…か?」
レーニットさんが息も絶え絶えにそう呟く。ちなみにレーニットさんは術式を制御していた人だった。肩で息をしながら術式を描いていた地面の中心に近づいていく。僕も近づいて見てみる。
「これは…」
そこにあったのは、小さな黒い砂の山だった。量で言えば片手に乗るくらいの少量だ。
「失敗だ…」
そしてそれを見て、レーニットさんはその場に膝をついてうなだれていた。よく分からないけど思い描いていた結果ではなかったらしい。
「し、失敗だったみたいですね」
「みたいだね。残念だけど」
後ろから追いかけてきたステラの言葉にうなずく。
「何の魔法だったか、ステラは分かる?」
「す、すみません。私にもちょっと…。カナタ様でも分かりませんか?」
「僕は術式はさっぱりだから」
さっきの魔法は術式で発動してたから全然わからなかった。
「今のは錬成魔法の一種で〈素材錬成〉の魔法です」
いつの間にか隣にリーシェン先生が来ていた。
「〈素材錬成〉はレーニットくんを中心としたグループが制作した新魔法なのですが、残念ながら今回の実験も失敗のようですね」
「どんな魔法なんですか?」
「文字通り素材の錬成…錬成魔法の素材となるものを大地から作り出そうとしたのです。今回の場合は、成功していれば鉄の塊が作り出せる予定でした」
「大地は鉄鉱山のように鉄を生み出すことが出来る存在です。ならば、そこが鉄鉱山でなくても同じ大地ならば鉄を生み出せる…そう思っていたんですがね」
レーニットさんがうなだれたまま力なく言う。つまりこの魔法は、鉄を作り出す魔法だったってことか。この一見何の変哲もない地面から。でも、それなら
「やはり、無理だったんでしょうか。今回も何かよく分からない黒い砂が集まっただけでしたし…」
「そうですか?もう少しでできそうですけど」
「「「え?」」」
さっきの魔法で生み出された黒い砂を手に取ってみる。うん、やっぱりそうだ。
「これ、砂鉄ですね。普通の土も混ざってて分かりにくいですけど、確かに砂鉄が含まれてます」
つまりこの辺りの土には鉄が含まれてるってことだ。表面には見えないけど、たぶん下の方にはこんな砂鉄の混じった地層があるのだろう。
「えっと…」
地面に手をついて、集中する。イメージは収束だ。そう、地面にごく少量ずつ含まれている鉄を自分の手に引き寄せて集めるイメージ。魔力を地面の出来るだけ広い範囲にいきわたらせて…こう!
「せいっ!」
気合一喝!地面に浸透させた魔力に鉄のみをひっかけて引っ張り上げる!そして、結合!
すると、僕の手には小さいけど確かに銀白色の短剣が握られていた。あー、クラス分け試験のときに見た魔法にイメージが引っ張られちゃったか。鉄を集めた範囲もあまり広くなかったから大きさも小さくなったみたい。でも、とりあえず。
「ほら、できましたよ」
レーニットさんとリーシェン先生、それにステラに短剣を見せる。
数秒後、三人の絶叫が周囲に響き渡った。




