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24.魔法学舎

 というわけで。僕はリーシェン先生とステラと一緒に魔法学舎にやってきていた。

 通されたのは応接室――だと思っていたらなんとリーシェン先生の私室らしい。魔法学舎では教室が余っているそうで、この部屋はリーシェン先生が客人対応用に改造したそうだ。…いいのかな。魔法学舎は結構自由なのかもしれない。というか、部屋を更衣室としてしか使っていない騎士学舎といい、この学園は教室の使い方が下手というか自由すぎる。


 「はい、紅茶よ。私が淹れたものだからあまり味には期待しないでね」

 「ありがとうございます」


 こうして普通に紅茶まで出てくるし。ちなみに淹れてくれたのはリーシェン先生だ。…うん。お屋敷でグラーフさんやエリナが淹れてくれるお茶ほどではないけど十分に美味しい。まああそこはあの『お姫様』のお屋敷だから比べちゃだめか。


 「それで、さっそくなんだけど」

 「えっと…魔法の師匠の話でしたっけ」

 「ええ。良ければ教えてもらえるかしら?」


 とか言われてもなぁ。僕に魔法の師匠なんていないし、どう言えばいいんだろう。とりあえず、ありのままを言えばいいかな。


 「僕に魔法の師匠はいませんよ。魔法は全て独学で学びました」

 「「…え?」」


 あれ?リーシェン先生とステラの表情が固まっちゃった。あ、そういえば初めて会ったときにステラが「魔導師は師に魔法を学ぶ」って言ってたっけ。でも、ホントのことだし。


 「で、では、カナタくんはどうやって魔法を身につけたのですか?」

 「どうやってって…基礎知識は伝手を使って入手できた魔法の教本を読んで勉強しました。『魔法入門』っていう本です」

 「『魔法入門』ですか?それなら私も読みました。でもあの本、本当に魔法のさわりしか書かれていないものだったと思いますけど…」

 「ええ。私も知っているわ。魔法に関するすごくざっくりとした説明と、初級魔法の紹介が少しされている程度の本だった。お世辞にも学術書とは呼びにくいレベルの本よ」


 ひ、酷い言われようだ『魔法入門』。


 「あの本を読んだだけでは、とてもじゃないけど魔法なんて使えるようにならないと思うのだけれど」

 「そんなこと言われても…魔法に関する知識は本当にそれだけなんですが」

 「魔力の感知はどうされたのですか?魔法を使うには魔力を感じることが必要不可欠です。あの本には説明にもなっていないような説明しかされていなかったと思うのですが」

 「あ、あの『瞑想しなさい』ってやつ?あれは最初困ったよ。でも、イメージしながらやったらすぐにできた」

 「ぐ、具体的にはどのくらい」

 「一時間くらい?」


 血液循環を思い浮かべたあれだ。懐かしいなぁ。そういえば、エルとアルは教えた魔力の操作練習ちゃんとやったのかな?魔力の感じ方は一回覚えたら忘れないとは思うけど、明日あたり確認しよう。


 「そんな…。私、あれを習得するのに1ヶ月かかったのですが…」

 「大丈夫、ステラはかなり早いほうよ。普通は半年以上かけて身につけるものだから」


 二人がなんか小声で話してるけど、よく聞こえなかった。ステラはなんか落ち込んでる?


 「こほん。で、ではあのクラス分け試験で見せてくれた魔法はどこで覚えたんですか?『魔法入門』にはあのような魔法は載っていません」

 「〈水龍〉〈焔虎〉〈嵐鳥〉のことですか?あれはただ生み出した水・火・風をイメージした形に動かしてるだけです。それらを魔力で生み出すのは『魔法入門』にも載ってましたし、難しいものは使っていません」


 そう。水とか火とかを魔力で発生させるのは魔法の基礎も基礎だ。僕の魔法はそれらをただ動かしているだけ。


 「これを、ほら。こーやって…」


 実際に2人の前でやって見せる。小さな水球を生み出し、それを操作。ぐるぐる動かしたり、棒状に伸ばして蛇みたいにしてみたり。これをもうちょっと大きくしてしっかりとイメージしてやれば〈水龍〉になる。


 「う、動かしてる…?継続発動型の魔法をそんな簡単に…」

 「で、でもリーシェン先生。カナタ様はこうして…!」


 驚く二人。そんなに驚くことかな?使っている魔力はかなり少ないし、やっていることと言えば水を生み出すという魔法においては基礎もいいところなんだけど。もう実演はいいかな。


 「っと。そういうわけで、僕は魔法については独学で師匠もいません。だから知識の方はからきしなんですよね。特に術式なんて、本当に基礎の基礎しか知らないですし」

 「術式…。そう、術式よ!そういえばカナタくん、魔法の術式はどうしているの?試験で見せてくれた魔法の術式はあるのよね?」

 「?ないですよ」

 「ないの!?」


 なんかリーシェン先生がキャラ崩壊してる気がするけど大丈夫?冷静沈着でクールな印象だったのに、慌てる叫ぶ頭を抱えるともうだいぶ錯乱しているように見えるよ。


 「術式なしでどうやって魔法を発動しているというの!?」

 「え、あれってべつに魔法使うのに必須ではないですよね?」

 「そうですけれど…」


 同意を求めてステラを見ても困惑気味に返されるだけだった。えぇー。リーシェン先生はなんかぶつぶつ考え込んでしまうし、ちっとも話が進まない。


 「リーシェン先生!」


 そろそろ説明するのが面倒になってきたとき、突然扉が開かれて一人の生徒が駆けこんできた。青色のローブを身に纏った男子生徒で、がりがりに痩せたいかにも不健康そうな人だ。今まで何をしていたのか知らないけれど、ローブどころか茶色の髪の毛まで何かの粉で白く汚れている。


 「リーシェン先生!」

 「何ですか。今は考えるのに忙しくいので後に……ってレーニットくんではないですか。どうしたのですか?」


 大声で二度も名前を呼ばれて、リーシェン先生はやっと顔を上げた。どうやら突然入ってきた生徒の名前はレーニットというらしい。どうでもいいけどノックとかそういうのはこの魔法学舎には存在しないの?普通に入ってきたよね?


 「ついに完成したんです!あの魔法が!すぐに来てくださいっ!」

 「え、あ、ちょっと…!」


 そしてあっという間にリーシェン先生は連れ去られてしまった。一瞬でレーニットとやらはリーシェン先生の手を掴み、すごい勢いで部屋を飛び出して行ってしまう。あまりの早業、そして予想外すぎる行動に思わず黙って見送ってしまった。あの痩せた体のどこにあんなパワーが隠されているんだろう。


 「…リーシェン先生もいなくなっちゃったし、今日は帰ってもいいかな?」

 「そ、そうおっしゃらないでください。ぜひ、ぜひ見学していきましょう!」


 取り残された僕はそう言うけど、ステラに懸命に止められてしまった。でもさ、リーシェン先生はさっきまで考え込んでたし、戻ってきたかと思えば連れ去られちゃったし。


 「おそらくですが、隣接している魔法実験場に行ったのだと思います。いい機会なのでこのまま見学してみませんか」

 「…わかったよ」

 「ありがとうございます。案内は私に任せてください。施設の場所は昨日のうちに教えていただいてますから」


 そう言って、言葉通り迷いのない足取りで部屋を出て歩き始めるステラ。僕も飲みかけだった紅茶を流し込んで後を追いかけた。


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